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もう1つのエピローグ アトランティスは『目覚め』の刻《とき》を待っている

 アルシエルが目を覚ますと、そこは暗い森の中だった。




「……ここは?」

「お兄ちゃんっ! よかった、目を覚ました!」

「……やぁアリシア、おはよ――おっと?」




 ガバッ!


 アルシエルが痛む身体に鞭を打ちながらゆっくり起き上がると、傍で控えていたアリシアがギュッ! と身体に抱き着いてきた。


 ボロボロと涙を零し「よかった! よかった!」と子供のようにわんわん泣き喚く。


 そんな妹の背中をアルシエルは優しくポムポムッ! 叩きながら、いつもの軽薄そうな口調でアリシアに声をかけた。




「ゼハハハハハッ! そんなに泣いたらせっかくの可愛いお顔が台無しじゃないか、イテテテテ!?」

「あっ、ダメだよお兄ちゃん! 傷は深いんだから無理しちゃ!?」

「傷? ……あぁそうか」




 心配そうに自分を見下ろす妹を横目に、アルシエルはようやく自分が置かれている状況を正しく理解し始めた。


 そうだ、オレは異世界の勇者から力を奪って、ソレで返り討ちにあったんだった。


 トドメを刺される直前に一瞬の隙を突いて転移魔法で移動したから、おそらくココは帝国から7000キロほど離れたユニヴァース・チャイナ近辺の森の中なのだろう。




「いやぁ、すっかりしてやられたねぇ」

「あの変態勇者め! お兄ちゃんをこんな目に遭わせて……次会ったらアタシがギッタンギッタンにしてやるから!」

「ゼハハハハハッ! 止めておきなさい妹よ。今のアレはオレ達じゃ手も足も出ないよ」




 正直、あの異世界の勇者タマオ・キンジョーを舐めていた。


 何でも出来るチート魔法があるにせよ、1日1回限定という制約がある以上、少し工夫を凝らすだけで簡単に殺せる自信がアルシエルにはあった。


 現に初めて会ったカエル族の森の中でも、その気になれば簡単に殺せた。


 だから利用価値が無くなるまでは泳がせて、その後はアッサリ殺すつもりだった。


 だが、あの男は自分の予想外の力を手に入れてしまった。




 ――赤い巨人の力。




 あれは実に厄介だ。


 おそらく、いや間違いなく自分の持てる魔法を全て使用してもあの赤い巨人には勝てないだろう。


 その確信がアルシエルにはあった。




「本当なら力を奪ったら邪魔にならない内に殺すつもりだったんだけどなぁ……。まったく、厄介な力を手に入れられたモノだよ」

「あっ、そうだお兄ちゃん。はいコレ。落ちていたのを回収しといたよ」




 そう言ってアリシアは懐から血よりも真っ赤な水晶【簒奪の宝玉】を取り出した。




「おっ、でかした妹よ。まぁ勝負には負けたが試合には勝ったし、今回は良しとしておこう」




 アルシエルは玉緒の魔法の力が詰まった【簒奪の宝玉】を受け取りながら、ニンマリと笑みを深めた。


 なぁに、焦ることはない。


 金の玉も宝玉も、すべてオレの手の中にあるのだ。


 多少のイレギュラーはあったが、全てはオレのシナリオ通りに進んでいる。




「残すは金の玉1つとアリア・ウエストウッドの身柄のみ。なら、ここからジックリと事を進めていくだけさ」

「これからどうしようか、お兄ちゃん?」




 飼い主の指示を待つ子犬のようにアルシエルを見つめるアリシア。


 アルシエルは【簒奪の宝玉】を懐にしまい込みながら、いつも通りの軽薄極まりない笑みを顔に張り付けた。




「とりあえず戦力がいるな」

「戦力?」

「そっ、戦力。赤い巨人に負けない戦力♪」




 そう言ってアルシエルは記憶の海馬からある【科学都市】の情報を引き出した。


 多少シナリオが前後するが、仕方がない。


 ヘビ族の悲願達成のためだ。


 アルシエルはチンケなプライドを心のゴミ箱に放り捨てながら、身体を休めるべく再び横になった。




「アリシアも休憩しておきな? お兄ちゃんが回復したらすぐに出発するんだからさ」

「う、うん。でも……えっ? どこへ?」 




 コテン? と小首を傾げるアリシア。


 そんな小動物チックな妹に、アルシエルは新たな舞台の幕開けの言葉を口にした。




「オレ達の次の目標は、かつてカエル族の初代王がそのあまりの危険さ故に封印した幻の科学都市――【海底封印都市】アトランティスさ」

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