翌朝、俺が牢屋の隅っこで体育座りをしながら虚空を眺めていると「ふぁぁ~……」と女の子の甘い声が耳朶を舐めた。
見ると、長い眠りから目が覚めたアリアさんがムクリッ! と身体を起こし、その豊満なボディーをグググッ! と軽く逸らしながら、小さく背伸びをしていた。
「んん~っ! よく寝た。今日も朝日が心地よいですね」
「…………」
「今朝の朝ごはんは何でしょうか? 楽しみです」
「…………」
「あっ、勇者様。もう起きていたんですね? おはようございま――ぎゃっ!?」
「……おはよう」
笑顔で俺の方へと振り返ったアリアさんがギョッ!? と目を見開いた。
その顔は幽霊に遭遇したかのように驚きに満ちていて……どうしたのだろうか?
こんな玉無しを見ても面白くもなんともないだろうに……。
「ど、どうしたんですか勇者様!? 顔が真っ青、というより生気がありませんよ!? 朝から何があったんですか!?」
「……ナニが立たないの」
「……はい?」
意味が分からん? と言わんばかりに可愛く小首を傾げるアリアさん。
普段の俺ならその愛らしい姿に狂喜乱舞し、我がムスコも立ち上がリーヨしている所なのだが……やはりピクリとも動いてくれない。
それが余計に俺の心をどんよりさせた。
「ごめんなさい、勇者様。もう1度言って貰っていいですか?」
「……ナニがね? 立たないの……」
「立たない? 何がですか?」
「だからナニが、だよ」
「ナニが……ナニ……ハッ!?」
瞬間、犯人が分かったときの某少年探偵のように『そういう事か!?』といった顔を浮かべるアリアさん。
理解が早くてマジあらいぐまタスカル。
「た、
「わかんない……」
俺は涙を
アリアさんは「ワタクシが眠っている横でナニをしているんですか!?」と乙女の嗜みとして怒ってはいたが、瞳は好奇心とスケベでいっぱいになっていた。
これは相談する相手を間違えたか?
「異世界に飛ばされるは、キャン玉がどこか飛び散るは、魔法の力は全て奪われるは、挙句の果てにはナニが
「な、泣かないでくださいよ勇者様ぁ~? 元からそんな感じだったとか、何かの勘違いって事はないんですか?」
「勘違いなワケあるか! 俺は6歳の頃から『媚薬でも使われたんじゃないか?』って疑うレベルで毎朝ビンビンのギンギンで――」
「そ、そこら辺の説明は結構です」
ちょっと生々し過ぎます……と頬を染め、俺から目を逸らすアリアさん。
普段の俺なら追撃のセカンドブリッドとしてセクハラのジャイロボールをぶっこむ所なのだが、残念ながら今はその元気がない。
「チクショウ……ッ!? 神よ!? 一体なぜ!? 何故俺にだけこんな試練をお与えになるのですか!?」
「あのぅ、勇者様? ちょっとした疑問なんですけどね?」
神に祈りを捧げるように天を仰ぐ俺に、アリアさんは言葉を選ぶようにその果実のような唇を震わせた。
「女性であるワタクシには分からないのですが、そのぅ……ソレは動かないとイケないモノなのでしょうか?」
「??? というと?」
「いえ、その……ソレが立たなくなっても別に日常生活にはそんなに影響はありませんよね? ならそんなに悲観しなくてもよろしいのではないでしょうか?」
チラチラと俺の股間をヒット&アウェイ戦術でチラ見しながら、そう口にするロイヤル☆ムッツリ。
やれやれ……どうやら彼女はナニも分かっていないらしい。
「いいかい、アリアさん? よくお聞き?」
俺は彼女と向かい合うように座り直しながら、我が股間を指さしつつ、優しい微笑みを浮かべてハッキリと言ってやった。
「コレは翼だ」
「翼?」
「そう。妄想という大空を羽ばたくための大切な翼だ。この翼があったから、俺がどこまでも自由に飛んで……あれ? おかしいな? 涙が止まらないや」
「勇者様……」
痛ましいモノでも見るかのようにアリアさんが俺を見てくる。
こんな玉無しの能無しを見ても何も面白くなんかないだろうに。
俺を見ている暇があるなら、ミジンコを眺めている方がよっぽど有意義な時間を過ごせるだろう。
なんて事を考えていると、アリアさんが酷く神妙な面持ちで口を開いた。
「正直、勇者様がナニを言っているのか1ミリも理解出来ませんでしたが、苦しんでいるのだけはよく分かりました。そのぅ……
「ぐすん……新しい刺激?」
「はい。人間、同じネタばかりだと飽きるように、ここは一旦趣味嗜好を変えて味変してみるのも1つの手かと」
「な、なるほど! 流石はアリアさんだ! 伊達にエロいことばかり考えているだけの事はあるぜ!」
「言い方ァ!? 言い方に悪意を感じますよ!?」
エロくないもん! と耳朶まで真っ赤にして頬をぷっくり膨らませるロイヤル☆ムッツリ。
実に脳内ドピンクの淫乱プリンセスらしい素晴らしい指摘だった。
なるほど、オカズの変更か。それは盲点だった。
さっそく新しいオカズでレッツチャレンジ――ハッ!?
「いや、ここ異世界だし……。そもそも牢屋だし、そう簡単に新しいオカズなんかゲット出来るワケないじゃん……」
「あぁ~……そうだっ! マリー皇帝陛下に進言してみるのはいかがでしょうか? 仮にも勇者様は帝国を救った英雄なのですから、お願いすればスケベなイラストの1枚や2枚進呈してくれるかもしれませんよ?」
「ナニそれ? 罰ゲームかな? なんで幼女に『ちょっとシコるからオカズちょ~だい♪』ってお願いしなきゃいけないの? イジメ?」
「勇者様、みみっちいプライドは捨てることこそプライドですよ?」
「うるせぇ! そもそもの話、皇帝陛下にそんな事を聞いても大丈夫なワケ? セクハラで絞首刑にならない?」
俺の脳裏に笑顔で我が首を斬首するソフィアさんの姿がありありと浮かび上がる。
タマタマだけではなく
神様、俺のこと嫌いすぎじゃね?
「背に腹は代えられません。そうでもしないと新しいネタなんて手に入りませんよ?」
「チクショウ!? どっかに爆乳ボインのエロい姉ちゃんでも居ねぇかなぁ! ……あっ」
「そんな都合よくドスケベな身体をした女性なんて居ませんよ。……ん? な、なんですか勇者様? 急にマジマジとコチラを見て?」
俺の視線に気づいたアリアさんがコテンと首を傾げる。
それだけで衣服の上からだというのに、彼女の爆乳がバルン♪ と揺れた。
瞬間、先ほどまでトチ狂っていたのが嘘のように穏やかな笑顔で俺は彼女に声をかけた。
「アリアさん」
「な、なんですか?」
「例えばね? ここに余命
アリアさんは『いきなりナニを言い出したんだコイツ?』みたいな目で俺を見てきたが、構わず続けた。
「もはや助かる見込みは1%もない、医者も匙を投げている状態だ」
「はい」
「そんな少年は死の間際、担当の看護婦に『死ぬ前に最後、おっぱいが見たい』と言った」
「…………」
「この場合、武士の情けとしてこの看護婦は少年におっぱいを見せるべきだとは思わないかい? 人道的に考えて」
アリアさんは俺がナニを言いたいのかよく分からないのか、頭の上に「???」を乱舞させながらも、小さくコクリと頷いた。
「まぁ、そうですね。最後の頼みというのであれば、見せてあげてもいいんじゃないでしょうか」
「ならっ! 仮にっ! 仮にだよ? 仮にこの看護婦がアリアさんだったとして、心優しきアリアさんは少年におっぱいを見せてあげる!? あげない!? どっち!?」
「え~と、そうですね……? まぁ気の毒な少年の末期のお願いですし……こ、コッソリと見せてあげます、かね?」
若干頬を赤らめながら恥ずかしそうにそう口にするアリアさん。
瞬間、俺は間髪入れずにギュッ! と彼女の両手を握りしめた。
「ありがとう! アリアさんなら必ずそう言ってくれると信じていたよ!」
「はぁ? それはどうも?」
「じゃあ、
「はい?」
アリアさんが固まった。