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第5話 アレ勃ちぬ……(行くぞフニャチン、仕事の時間じゃ!)

 知的でクールな俺らしくなく牢屋の中で発狂すること30分。


『どうやらこの世界は夢ではないらしいぞ?』と認識を改め、何故か痛む股間を両手で押さえながら、いつの間にか俺達に会いに来てくれていたマリーちゃん皇帝陛下とソフィアさんに事の事情を説明していた。




「なるほど。つまり勇者くんのパオーンがぴえんな状態になったから、なんとか再びスタンドアップさせようとアリア様と2人で試行錯誤していたと、そういう事ですね?」

「こ、これソフィアよ! お、乙女がパオーンなんぞ言うではないわ。はしたない……」




 困ったわねぇ……と倦怠期の人妻のような微笑みを浮かべるソフィアさんの隣で、マリーちゃん皇帝陛下が気まずそうに俺から視線を逸らした。


 こんな玉無しの能無しなんて、視界にも入れたくないってか?




「ぐすん……どうしてこんな事に?」

「勇者殿。いつからそのぅ……あ、アレがたなくなったとか分かるか?」

「分からない……全然分からない……」

「何が原因かも心当たりはないのかえ?」

「原因……」




 マリーちゃん皇帝陛下に言われて過去をさかのぼるも、残念ながらまったくと言っていいほど心当たりがない。


 俺は力なくフルフルと首を横に振った。


 そんな俺を見て、ソフィアさんが確認するように口を開いた。




「ちなみになんだけど勇者くん、最後にエクストリームしたのは『いつ』だった?」

「ちょっ、待てソフィアよ!? 流石にソレは生々しすぎるぞ!?」

「えっと、最後にファイナルモードになったのはアリシアちゃんをローションでヌルヌルのネタネタにした日だから……あの帝国の命運を賭けて青い巨人と殴り合いをした日かな」

「大事な作戦決行中に何をしとるんじゃ、キサマは!?」




 何故か『ありえない』モノでも見るような目つきで俺から距離を取るマリーちゃん皇帝陛下。


 一体どうしたのだろうか?




「マリーちゃん皇帝陛下? どうしたんです? そんな道端に落ちているゴミでも見るような目をして? 反抗期ですか?」

「いやドン引きですよ。陛下は今、勇者様にドン引きしていますよ?」

「えっ、なんで!?」

「……自分の胸に聞いてください」




 そう言ってアリアさんも導かれるまま、自分の胸に手を当て、問いかけた。


 おい、俺の胸?


 なんでマリーちゃん皇帝陛下はドン引きしているんだ?


 ……返事がない、ただの屍のようだ。


 おぉ勇者よ、死んでしまうとは情けない!


 ……いや死んでねぇよ?




「う~ん? つまり勇者くんが赤い巨人に変身してから2週間の間にナニかあったって事よね?」

「何かいつもと違う事はありませんでしたか、勇者様?」

「いや、特には……あっ」

「おっ! 何か気づいたのかえ?」




 そう言って身を乗り出すマリーちゃん皇帝陛下。


 いや、気がついたって程ではないんだけどさ?


 いつもと違う点が1つだけあったっけ。




「そう言えば、赤い巨人に変身してから1週間ほど寝込んだけど……えっ? アレが原因なの?」

「う、う~ん? ど、どうでしょうか?」

「眠り続けている間に身体に何か変化でも起きたのかしら?」

「ふむ……確かに人間があんな巨人に変身するんじゃ。なにかデメリットもあるハズ。もしかしたら、そのデメリットが――」

「アレがたなくなるって事!? マジで!?」

「落ち着け勇者殿。その可能性もあるってだけの話じゃ」




 そう気を荒げるな、と俺を窘めるマリーちゃん皇帝陛下。


 いや、無理だって! 落ち着けねぇよ!?


 こちとら大事なムスコが瀕死の状態なんだぞ!?


 とナイスガイな俺らしくなく幼女皇帝陛下に八つ当たり気味に声を荒げようとして、




「ふむ、もう1度勇者殿の身体を医者に診てもらうか。もしかたらアレがアレしなくなった原因が分かるかもしれぬしな」




 と言った。


 惚れてしまうかと思った。




「い、いいんですかマリーちゃん皇帝陛下ッ!?」

「うむ、勇者殿は我が国を救ってくれた英雄じゃからな。これくらい構わぬ」

「あ、ありがとうございます! お礼に今度クソダセェおちゃまパンツではなく色気のある大人パンツを進呈しますねっ!」

「……気が変わった。やはり1つ妾の願いを聞け。ソレに成功すれば帝国一の医者を紹介してやる」




 もう手首がドリル回転しているじゃないか? と疑うレベルの熱い手のひら返しだった。


 な、何故ですか大将ッ!?


 愕然がくぜんとする俺に『余計な事を言うから……』呆れた瞳を向けてくるアリアさん。


 マリーちゃん皇帝陛下は、そんな俺達をニッチャリ♪ と粘着質な笑みで見つめながら、ハッキリとこう言った。




「――皇帝の名において命ずる。勇者殿……穴を塞ぐのじゃ」

「えっ、そんな……っ !? み、皆の見ている前でですか!? 無理ですよ、俺にはっ!?」

「いいや、勇者殿になら出来る」




 まっすぐ力強い瞳で俺を射抜くマリーちゃん皇帝陛下。


 その瞳は俺に全幅の信頼をおいていて……正直、男として彼女の期待には応えたい。


 それでも、俺の答えは変わらなかった。




「ごめんなさい陛下、それだけは無理なんです……」

「……どうしても無理か?」

「はい。無理です……」




 マリーちゃん皇帝陛下の気持ちは嬉しいが、こればっかりは頷けない。


 そもそも、物理的に不可能だ。


 だって、そんな……そんな――




「そんな、皆の前で陛下とセクロスだなんて……俺には出来ませんっ! というかちませんっ! ごめんなさいっ!」

「何を気持ちの悪い勘違いをしとるんじゃ、キサマは!?」

「えっ? だってマリーちゃん皇帝陛下が『穴を塞ぐ』って言うから……」

「勇者様。ここで言う陛下の『穴を塞ぐ』は、別に隠語ではありませんよ」

「えっ、そうなの!? 俺はてっきりマリーちゃん皇帝陛下が俺のたくましいソーセージを下のお口でモグモグしたいと言っているんだとばかり……は、恥ずかしい!?」

「本当に恥ずかしいですよ、勇者様?」




 アリアさんの特に理由のない冷めた声が俺を襲う!


 うぅ~……だってつい直前までソーセージの話をしていたから、流れ的にアワビの話かと思うじゃん?


 チクショウ、要らぬ恥をかいたぜ。


 俺が勘違いに『ポッ』と恋する乙女のように頬を赤らめていると、マリーちゃん皇帝陛下がウガーッ! と犬歯剥き出しで俺に噛みついてきた。




「人を淫乱みたいに言うな! この愚か者め! そもそもそんな立派なソーセージでもないクセに! このポークビッツめ!」

「言った!? 言っちゃいけないこと言った、この幼女っ!」

「誰が幼女がっ!? この不能っ! ED野郎っ!」

「あぁ~っ! ソレを言ったらもう戦争だろうがっ!?」

「上等じゃっ! 表へ出ろ、フチャチン野郎っ!」

「はいはい、そこまでにしてくださいねぇ~?」

「勇者様も落ち着いてください。もういい大人なんですから」




 今にもキスせんばかりに超至近距離でメンチを切り合っていた俺とマリーちゃん皇帝陛下の間に、さらりと割り込むソフィアさんとアリアさん。


 2人は喧嘩した子供を仲裁する保母さんのような鮮やかな手つきで、俺とマリーちゃん皇帝陛下を引き離す。


 む、むぅ……確かに今のは知的でクールなナイスガイな俺らしくなかった。反省……。


 マリーちゃん皇帝陛下も気まずそうに「うぐぅ……」と小さく唸りながら、場の空気をリセットするように「こほんっ!」と小さく空咳をした。




「ちゃ、茶番はここまでにして本題に入るかのぅ」

「そ、そうですね! マリーちゃん皇帝陛下の言う通りですっ!」

「茶番も何も本気で喧嘩をしていたクセに……」




 アリアさんがボソッと小声で何かを言った気がするが、何も聞こえない♪


 俺はいつも通りの知的でクールなナイスガイボイスで、マリーちゃん皇帝陛下に話の続きを促した。




「それで? 俺はどの『穴』を塞げばいいですか? ……あっ! い、今のはエロい意味の方じゃなくてですね!?」

「分かっておる!」




 それ以上は言うな! と言わんばかりに、マリーちゃん皇帝陛下はさっさと本題を口にした。




「勇者殿に塞いで欲しい穴は、我がパリス・パーリ城の横に空いた大穴じゃよ」

「そ、それって……」




 俺が確認するように尋ねると、幼女皇帝陛下は「うむ」と大きく頷いた。




「超古代文明【グレート・ブリテン】へと続く、大穴じゃよ」

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