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第6話 手に入れた巨人の力

 マリーちゃん皇帝陛下の許可を貰い、牢屋から脱獄――もとい仮出所させて貰うこと30分。


 俺とアリアさんは、ソフィアさんに導かれるように例の大穴のもとまでやって来ていた。


 そう、あの青い巨人が空けた例の大穴だ。




「おぉ~……改めて見るとデッカイ穴だなぁ。底が見えねぇや」

「ですね。何メートルほどあるのでしょうか?」




 アリアさんと2人してしげしげと穴の中を覗き込む。


 ひゅ~っ! と風が勢いよく地下へと降りていく音が鼓膜を震わせる。


 これは人が落ちたら余裕で死ぬな。


 俺の無いタマがヒュンッ! となるのと同時、ソフィアさんが困ったような声をあげた。




「大体の復興は終わったんだけどね? この穴だけはどうしようもなくてねぇ……」

「人が落ちたら危ないですね?」

「そうなんですよぉ~。注意喚起と立ち入り禁止の札は下げてあるんですけど、好奇心の強い子供たちが近寄る可能性も無きにしもあらずでぇ~」




 本当に困っているんですよぉ~、とおっとりした口調でそう口にするソフィアさん。


 相変わらず仕草と口調が人妻感たっぷりだ。


 俺が『人妻萌え』なら今頃プロポーズしている所だ。




「勇者くんには、この大穴を塞いで貰いたいのぉ~」




 おねがぁ~い♪ と子猫のように甘えた声をだすソフィアさん。


 普段の俺であれば「わかりました!」と返答する代わりに、彼女の唇を奪ってその答えを提示する所なのだが……ここで残念なお知らせがある。




「あぁ~……そう言えばソフィアさんにはまだ言っていませんでしたよね?」

「??? なにをぉ~?」

「実は俺、今……魔法が使えないんですよ」




 そう、俺はこの過酷な世界においての命妻である『1日1回使えるチート魔法』をヘビ族の長、アルシエル・ウエストウッドに奪われてしまっているのだ。


 おかげで今の俺はそこら辺を歩く一般ピープルと同じで、かなり顔が良いだけの普通の男なのだ。

 申し訳ないがソフィアさん達の期待に応えられる能力ちからが、今の俺にはない。




「ごめんなさい。力になりたいのは山々なんですが、俺にはどうする事も出来ません」

「実は帝国から50キロほど離れた岩場に、この穴にジャストフィットしそうな大きな岩を見つけたのぉ~。勇者くんには、その大岩をココまで持って来て貰いたいんだぁ~」

「あ、あの? 人の話を聞いていますか、ソフィアさん? だからですね? 俺にはもう魔法の力がないから無理――」

「いやぁ、ありがとう勇者くん。助かるわぁ~♪ 部下の話だと北山の岩場にその大岩があるらしいから、チャチャッとソレを持って来てねぇ~」

「聞いて!? ソフィアさん、聞いて!? クソ、ダメだ!? この人、まったく俺の話を聞いてくれねぇ!?」




 もはや我々は別次元に存在しているのでは? と疑いたくなるレベルで会話が成立しないっ!


 ほんとに同じ人間か?


 もしかして、俺の存在に気づいていないのか?


 だとしたら、今ならそのお胸のマスク・メロンは揉み放題なのでは!?


 気になったら『試してガッテン!』してみたくなるのが男の子というモノ。


 俺は確認するようにソフィアさんのお胸に指先を向け……パチンッ! と叩かれた。


 どうやら認識はしているらしい。




「もちろん勇者くんが今『魔法が使えない』ことはアリア様から聞いているわぁ~。だからね? 勇者くんには『別の方法』で大穴を塞いで貰うつもりなのぉ~」

「別の方法、ですか?」




 なんです、ソレ? と俺が小首を傾げると、背後の方から「おーいっ!」とロリロリしい声が俺たちの耳朶を叩いた。


 振り返ると、そこには俺達と別行動を取っていた幼女皇帝陛下が駆け足でコチラに駆けてくる姿が目に入った。


 ソフィアさんは「どうやら来たみたいですよ」と意味深な事を口にすると、恭しくマリーちゃん皇帝陛下に頭を下げた。




「ふぅ……少々待たせてしまったかのぅ?」

「いえ陛下、ナイスタイミングです」

「そうか! なら良かった。さて、勇者殿よ? 事情はソフィアからもう聞いておるであろう?」

「聞きましたけど……いや無理ですよ? そんな50キロも離れた岩場から大岩を持ってこいだなんて!? あっ! もしかして軍隊でも貸してくれるんですか? だったら何とか――」

「いや、大岩は勇者殿1人で運んで貰いたい」




 イジメかと思った。


 えっ? 俺、もしかしてマリーちゃん皇帝陛下に嫌われてる?


 なんで!?


 彼女に嫌われるような事をした覚えなんて……星の数ほどあるわ、ヤッベ☆




「ムリムリムリムリかたつムリ!? こんな大穴を塞ぐ岩を1人で持ってこれるワケないでしょう!? あっ、そうだ! あ、アリアさん!? アリアさんの魔法でこの大穴を塞げないの?」

「ごめんなさい、勇者様……。実はもう1度試してはいるんですよ。結果はまぁ……ご覧の通りです」

「マジかよ……アリアさんでも無理なら、絶対ムリじゃん? 俺に出来るワケないじゃん?」

「いいや、勇者殿なら出来る」

「なにその圧倒的信頼? 怖いっ!」




 マリーちゃん皇帝陛下は俺になら『必ず出来る!』と確信しているようで、えっ?


 なんでマリーちゃん皇帝陛下の仲で俺の株価が激上がりしているの?


 俺、なんかしたっけ?


 思い出そうにも、彼女にセクハラした記憶しか海馬から引きずり出せない。


 ……よくあんだけセクハラしておいて不敬罪で首が飛ばないな、俺?


 なんやかんや言いながらもマリーちゃん皇帝陛下、懐が深すぎだろ?


 アリアさんの谷間のごとき深い幼女陛下の懐に、俺が戦々恐々としていると、マリーちゃん皇帝陛下はあっけらかんとした様子で笑った。




「大丈夫、勇者殿なら出来る!」

「いや、無理ですって!? だってこの大穴を塞ぐサイズの大岩を1人で持って来るですよ? 俺の身長が20メートルくらいなくちゃ不可能ですって!?」

「確かに、勇者殿の言う通りじゃ。こんな大穴を塞ぐサイズの大岩を持って来るには、勇者殿が巨人化しなければ不可能じゃ。――なら、巨人化してしまえばいい」

「えっ?」




 それってどういう……? と、困惑する俺を尻目に、マリーちゃん皇帝陛下が自分の懐をまさぐり出した。


 そのまま懐から15センチほどの棒状の『ナニカ』を取り出し、




「コレを使え、勇者殿」




 そう言って、俺にその棒状の『ナニカ』を差し出した。


 俺はコレをよく知っていた。


 2週間前、超古代文明【グレート・ブリテン】の神殿に隠されていた、カエル族の最終兵器。


【グレート・ブリテンの秘宝】に対抗するべく用意された、最後の光。


 使用者を『赤い巨人』へと姿を変えさせる魔法の力。


 そう、ペンライト型の――




「巨人化スイッチ!? マリーちゃん皇帝陛下が持っていたのか!?」

「うむ。眠っていた勇者殿からコッソリ拝借した」




 悪びれもなくそう口にする幼女皇帝陛下。


 そうか、マリーちゃん皇帝陛下が持っていたのか、この変身スイッチ。


 目が覚めたら無くなっていたから、てっきりあの騒ぎでどこかへ消えたのだとばかり思っていたわ……。




「というか、スイッチを持っているなら俺じゃなくてマリーちゃん皇帝陛下が『赤い巨人』になればよろしいのでは?」

「それは妾も考えた。しかしのぅ……」




 マリーちゃん皇帝陛下はバツが悪そうな顔をしながら、ペンライトのスイッチを押した。


 瞬間、陛下を中心に例の赤い光が迸る……こともなく、静寂が俺達を支配した。




「ソフィアも押してみよ」

「はい、陛下。よいしょっ!」




 マリーちゃん皇帝陛下から巨人化ペンライトを受け取ったソフィアさんが、何ら躊躇ためらうことなくスイッチを押す。


 が、やはり何も起こらない。


 こ、これはぁ~?




「とまぁ、このように。一応帝国の兵士たちにも使用してみたが、誰1人として例の『赤い巨人』になる事が出来なんだのじゃ」

「あ、アリアさんは? アリアさんは試したの?」

「もちろん試しましたよ。結果は……まぁ陛下たちと同じです」




 と俺から1メートル以上離れられない【使い魔契約】の縛りを破棄する『オレイカルコスの腕輪』を装着しながら、いつでも俺から離れられる準備を進めるアリアさんが大きく頷いた。


 マジかよ……誰も巨人になれないの?




「もしかして、その巨人化スイッチ……壊れちゃった?」

「分からん。じゃが念の為に勇者殿もスイッチを押して欲しい」

「これでもし勇者くんが『赤い巨人』になったら、その力でこの大穴を塞いで頂戴ね?」

「うむ。なれなかったら、まぁ諦めよう。その時は帝国一の医者の紹介も諦めて貰うがな」




 そう言って俺に再び巨人化ペンライトを差し出すマリーちゃん皇帝陛下。


 責任重大である。


 コッチは帝国を救った英雄なんだがら、お医者様くらい紹介してくれてもいいじゃないかなぁ~?


 と心の中で幼女皇帝陛下に愚痴を溢しつつ、俺は陛下からペンライトを受け取った。




「……これさ、もう1度『赤い巨人』になったら今度こそ衰弱死しないかな、俺? 大丈夫? 保険適用される? というかこの瞬間に入れる保険ある?」

「大丈夫ですよ、勇者様。気楽にいきましょう!」

「アリアさん」

「幼馴染みが非処女だったくらいの感覚で気楽にいっちゃってください!」

「アリアさん……」




 ナニそれ?


 この世の地獄かよ?


 全然気楽にイケないんだけど?


『純愛こそジャスティス!』をキャッチコピーにする俺になんて事を言うんだ、この娘は!?


 人の心とかないのだろうか?


 流石は『可哀そうじゃないとヌケない!』と豪語する猛者だけの事はある。


 本当に趣味の合わない女だ。




「えぇいっ、男は度胸! やってやんよ、オルァァァァァァっ!」

「流石は勇者くん!」

「その言葉を待っておったぞ!」

「よっ! 哺乳類界の面汚つらよごしっ!」

「誰ぇ? 今、悪口言ったのぉ~?」




 とりあえず俺の悪口を言った奴はロイヤル☆ディープキスの刑に処すとして、今は……。


 俺は受け取った巨人化ペンライトへと視線を落とした。


 正直、恐怖はある。


 それでもムスコ復活のために、俺は悪魔と相乗りする覚悟を決め、ペンライトのスイッチを押した。




「タマオ、イッキまぁぁぁぁぁぁすッ! ――変・身ッ!」




 瞬間、俺を中心に赤い光が辺り一面を包み込んだ。




「こ、これはっ!? ソフィアッ!」

「はい、間違いありません。この光は……『あの日』に見た【赤い光】ッ!」

「……やっぱり勇者様は初代王の……」




 驚く女性陣達を尻目に、赤い光が俺の身体へと収束していく。


 それと同時に、俺の身体がグングンッ! と成長し――




URAAA変身、出来ちゃったよ……」




 気がつくと、俺は再び赤い巨人に変身していた。




「し、信じてなかったワケではないが、目の前で変身されると……本当に勇者殿が『赤い巨人』だったのだな」

「信じていなかったのですか、陛下?」

「い、いや!? も、もちろん信じておったぞ、アリアよ! うむっ!」




 自分の目の前で俺が『赤い巨人』になったのがそんなに意外なのか、マリーちゃん皇帝陛下が目を丸くして俺を見ていた。


 えぇ~? ナニそのリアクション?


 マリーちゃん皇帝陛下が変身しろって言ったんでしょ?


 もしかして、マジで変身出来るとは思ってなかった感じですか?




「では勇者くんっ! 大穴の件をお願いしまーすっ!」

URA分かった




 巨人の超聴覚能力を知らないのか、大きな声で俺にそう指示を飛ばすソフィアさん。


 俺は『了解!』という意味を込めて小さく頷くと、北に向けて――文字通り飛んだ。




「うぉっ!? ゆ、勇者殿が跳ね、いや飛んだ!?」

「アレが巨人化能力の1つ『浮遊』です!」




 驚く幼女皇帝陛下にアリアさんがそう説明するのを超聴覚で捉えながら、俺は北に向けて飛んだ。


 30秒ほどして、おそらく目的地と思われる岩場を発見する。




URAAAコレかな?」




 地面へと着陸し、そのまま例の大穴を塞げるサイズの大岩の前へと移動する。


 大岩は巨人化した俺の身体くらいサイズがあって……いやいや?


 流石に巨人と言えば、コレを1人で持ちあげる事は出来ないだろ?


 そんな事を心の中で呟きつつ、とりあえず物は試しとばかりに大岩を両手で掴み――




「……URAAA持ち上げちゃったよ




 アッサリと大岩を持ち上げることに成功する。


 あ、改めて見るとスゲェパワーだ。


 俺は『赤い巨人』の能力に戦々恐々しながらも、任務を遂行するべく、大岩をかついで帝国へと再び飛んだ。


 飛行に慣れたのか、今度は20秒もかからす帰ることが出来た。




「あっ、勇者様が戻ってきました!」

「なにっ!? まだ1分ほどしか経っていないぞぇ!? まさかあの男、諦めたのか!?」

「いえ、陛下。見てください、勇者くんを。キチンと大岩を担いでいます」

「と言う事はあの男……この一瞬で50キロ離れた岩場へ移動して、あんな大岩を担いで戻って来たというワケか!?」

「ニワカには信じれませんが、おそらく……」




 ば、化け物か、アイツは……? と戦々恐々としたマリーちゃん皇帝陛下の声が超強化された耳朶を叩く。


 誰が化け物だ、誰が?


 と心の中でツッコミつつ、持ってきた大岩をゆっくり慎重に例の大穴へと下ろす。



 ――スポっ!



 と心地よい擬音が聞こえてきそうなくらい、大岩は例の大穴にジャストフィットした。




「おぉっ! やはり見立て通りじゃったか! よくやった勇者殿!」

「ありがとう勇者く~んっ! もう元のサイズに戻っていいよぉ~?」




 歓喜の声をあげるマリーちゃん皇帝陛下とソフィアさん。


 コレで俺のお仕事は終了なのだが……なんだろう?


 少し不格好だよな、この大岩?


 ……よし、ちょっとアレンジするか!




「勇者様? もういいですよ? 早く元のサイズに戻ってくださ~い!」

「もしかして勇者くん、元に戻る方法が分からないんじゃ?」

「なにっ!? そうなのか、勇者殿ぉ~っ!?」




 明後日の方向から好き勝手ピーチクパーチク騒ぐ乙女達の声を無視して、俺は右手に力をこめた。


 その瞬間、



 ――ブゥンッ!



 右手のひらにリング状の青白いエネルギーが現れた。




「うぉっ!? 赤い巨人が何かを出したぞ!? なんじゃアレは!?」

「ちょっと勇者様ぁ~っ!? 何をする気ですかぁ~っ!?」




 アリアさんの声に背中を押される形で、右手のひらに現れたリング状のエネルギーはその場で高速回転し始める。


 まさに俺が想像した通りの形だ。


 どうやらこの巨人化も俺の【1日1回のチート魔法】と同じく、ある程度は融通が利くらしい。


 そんな事を考えながら、俺は高速回転するリング状のエネルギーを大岩へと近づけた。



 ――ギャリギャリギャリギャリギャリッ!




「マジか、あの巨人……。大岩を切っとるぞ……」

「すごいですね、陛下……」

「あっ、見てください2人ともっ! 大岩が形を変えて、マリー陛下の石像に!?」




 プリンのように大岩を削り、巨大なマリーちゃん皇帝陛下の石像が完成する。


 うむ、我ながらいい出来だ。




「うわっ!? すごいですよ、この陛下の石像! ローアングルから見たら、ちゃんと下着まで再現されてる!?」

「ホントですね。陛下の大好きなお星さまパンツです。流石は勇者くん、陛下の事をよく分かっているわね」

「何も分かっとらんわ、バカ者!? どこをリアルに再現しておるのじゃ!?」




 どうやら俺の渾身の一策がお気に召したのか、マリーちゃん皇帝陛下が歓喜の怒声をあげていた。


 なぁに、例はいらないですよ。


 紳士として当然の事をしたまでです。


 俺はリング状のエネルギーを右てのひらから霧散させた。


 それと同時、俺の身体からも赤い光が大気に溶けるように霧散していく。


 赤い光が俺の身体から抜けていく度に、20メートルはあった巨体がみるみる縮んでいく。




「あっ、コラバカ!? まだじゃ! まだ元に戻るでないっ! 責任を持ってあのハレンチ像をぶっ壊せ!」




 マリーちゃん皇帝陛下の心地よい賞賛の声と共に、俺の身体から赤い光が全て抜けきった。


 そして俺は……『赤い巨人』から元の知的でクールなナイスガイ、金城玉緒の姿へと戻った。


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁっ!?」と何故か膝から崩れ落ちるマリーちゃん皇帝陛下を尻目に、俺は自分の身体に起きた変化に戸惑っていた。




「なんか最初に変身した時よりも疲れなかったんだけど……なんで?」

「おそらく勇者様の身体が巨人化に適応したからだと思います」

「いやぁ、凄かったね~? 勇者くんの巨人化? もう神様が降臨したのかと思ったよぉ~」

「おい待て!? 世間話を始めるでない! まだ妾のパンツ丸出しセクハラ像が残っておるのじゃぞ!?」




 ムキーッ! とその場で地団駄を踏む幼女皇帝陛下。


 荒れてるなぁ……。


 もしかして『あの日』なのかな?




「壊せぇぇぇぇぇっ!? あの像を壊せぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

「さてマリーちゃん皇帝陛下? 約束通り帝国一のお医者様を紹介して貰いましょうか?」

「凄いわね、勇者くん? この状態の陛下を前にして、その笑顔……流石はこの帝国を救った英雄だわ」

「勇者様、一旦引きましょう? このままだと本当に処刑されかねないです」




 オレイカルコスの腕輪を外しながら、何故か俺とマリーちゃん皇帝陛下を引き離すアリアさん。


 おっ? なんだ、なんだぁ?


 嫉妬かぁ?


 俺がアリアさん以外の女の子と仲良くしていたから、嫉妬しているのかぁ?


 おいおい? 可愛い所もあるじゃないか!




「もう1度じゃっ! もう1度変身せよっ! 変身してあの虚像をぶっ壊せぇぇぇぇぇっ!」

「陛下、落ち着いてください!? 陛下ッ!?」

「どうしたのさ、マリーちゃん皇帝陛下? やっぱりパンツはお星さまじゃなくて、縞々模様ストライプが良かった?」

「ころしゅっ!? お前、絶対ころしゅっ!? 焼き払えぇぇぇぇぇっ!?」

「ストップです、勇者様ッ!? これ以上マリー陛下を煽らないで!? 地獄に一番乗りする気マンマンですか!?」




 どうやらパンツの柄が気に入らなかったらしい幼女皇帝陛下が、発狂しながら俺を殴ろうと襲い掛かる。


 その拳はまっすぐ俺の大秘宝ワ●ピースをロックオンしていて、ひぇっ!?




「ちょっ、マリーちゃん皇帝陛下!? そ、ソレはシャレにならない!? ソレはシャレにならない!?」

「うるせぇぇぇぇぇっ!? キサマ諸共、息の根を止めてやるわぁぁぁぁっ!」

「へ、陛下がご乱心だぁぁぁぁぁっ!? 助けて、ソフィアさん!? アリアさん!?」

「陛下ッ! 気持ちは分かりますが、仮にも彼は帝国を救った英雄です! どうか気を確かにっ!」

「……もう国に帰りたい……」




 遠い瞳でお空を見上げながら、目尻から一筋の涙を流すアリアさん。


 おい、ナニ勝手に諦めてんだ!?


 泣きたいのはコッチの方だわ――おわっ!?


 ドンッ! と下腹部にちっちゃな衝撃が走り、俺は成す術なく背後へ倒れた。


 瞬間、間髪入れずに、



 ――ドスッ!



 とマリーちゃん皇帝陛下の小っちゃいお尻が俺の身体の上に乗っかった。


 ヤバイ!?


 マウントを奪われた、ヤバい!?


 見上げると、マリーちゃん皇帝陛下が耳まで裂けんばかりに口角を邪悪に吊り上げると、ニッチャリ♪ と粘着質に微笑み、




「さぁ、ショータイムじゃ。キサマの罪を数えろ?」

「助けて!? 誰か助けて!? いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「陛下ッ!? ステイッ! ステイです、陛下!?」

「あぁもうっ!? 勇者様と出会ってから、こんなんばっか!?」




 俺たちはマリーちゃん皇帝陛下像が見ている真下で、本物のマリーちゃん皇帝陛下の蛮行を止めるべく、必死に彼女の身体に抱き着いた。

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