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第7話 勇者様の『ユウシャ様』が使い物にならなくなった理由《ワケ》(許さんぞ、アルシエェェェェェェルッ!?)

 マリーちゃん皇帝陛下がご乱心して10時間後のパリス・パーリ城の牢屋にて。


 闇夜が支配する暗闇の中、俺は再び部屋の隅っこで膝を抱えながら、1人スンスンと鼻を鳴らしてすすり泣いていた。




「げ、元気だしてくださいよ勇者様?」

「ぐすん……出せねぇよ。だって出すモノがピクリとも動かねぇんだもん……」




 そう言って俺は、いまだ沈黙を貫いている我がムスコへと視線を落とした。


 俺が『赤い巨人』になり、例の大穴を塞いで数時間。


 ひと悶着はあったものの、無事ソフィアさんから帝国一番のお医者さんを紹介して貰い、我がムスコを見て貰った。


 結果は……異常なし。


 我がムスコがすこぶる健康体であるらしく、なにゆえ男性機能が不能に陥ったのかお医者様でも分からないとのこと。




「アリアさんには分からないだろうね……アナログスティックが使いモノにならなくなった男の気持ちなんて……」

「まぁワタクシ、女性ですし……」

「うぅ……俺の羅針盤、死ぬまでずっとこのままなのかなぁ……?」




 心はとうに折れている。


 身体は動かず、足は棒。


 いくたびの戦場を超えて腐敗。


 たた一度の『おっき』もなく、


 この身体は無限の絶望で出来ていた。


 おっと、いけない。


 あまりにも孤独が強すぎて、ついうっかり固有結果を発動しそうになっちゃった♪


 反省、反省☆


 と、心の中で明るく振舞えば振舞うほど、目尻から涙が止まらなくなる。


 そんな俺を見て、流石に可哀そうになったのか、アリアさんが『しょうがない』とでも言いたげに「分かりました!」と声をあげた。




「最終手段です。帰りましょう、勇者様! 我が国に!」

「うぅ……ぐすん。帰るって、リバース・ロンドン王国に?」




 なんで? と俺が視線だけでアリアさんに問いかけると、アリアさんは『むふーっ!』と自慢げにその豊かなボインッ! をバルン♪ と弾ませ、




「金色水晶様に会って、勇者様の勇者様が立たなくなった原因を聞きにいくんです!」

「ッ!? そ、そうかっ! その手があったか!?」




 乳首に張り付けられたローターを突然ONにされたメス豚のように身体に衝撃が走った。


 そうだよっ! あの全てを見通す金色水晶の珠子にかかれば、俺が不能になった原因が分かるかもしれないじゃないか!


 まさかこんな所に解決の糸口があっただなんて!




「流石はアリアさんだぜ! 俺の考えつかないようなことを平然と思いつく、そこに痺れる憧れるぅ~っ!」

「いやぁ、それほどでも」




 テレテレと気恥ずかしそうに頬を赤らめるアリアさん。可愛い。


 アレが復活した暁にはご褒美としてキスしてあげようと心に決めた。




「よっしゃ! そうと決まればさっそく明日、朝一でリバース・ロンドン王国に戻ろう!」

「はいっ! ……っと、その前に。勇者様? さっきからポケットの中に入れているスマホがブルブル震えていますよ?」

「あっ、ほんとだ」




 ナニを復活させる方法を模索するのに夢中でまったく気づかなかった。


 俺はポケットからスマホを取り出し画面に視線を落として「おや?」と小首を傾げた。




「リリアナちゃんからだ」

「リリアナからですか? こんな時間に一体何の用でしょうか?」




 画面にはアリアさんの実妹にして、頭とノリの軽さなら天下一品の金髪美少女リリアナ・ウエストウッドちゃんの名前がデカデカと表示されていた。


 俺が渡したスマホをさっそく有効活用してくれているらしい。


 心の中でちょっぴり嬉しく思いながら、俺はいつも知的でクールなナイスガイボイスを心掛けつつスマホの通話牡丹をタップした。




「リリアナちゃん、おはにょ~。どったの? こんな夜遅くに連絡を寄越して? お兄さんの声が恋しくなったのん?」

『いや~ん♪ 夜に勇者たまのイケメン☆ボイスで珠子、耳が妊娠しちゃ~う♪ ピロートークが始まっちゃ~う♪』




 スピーカーの向こうからリリアナちゃんではなく、予想外の人物(?)の声が俺達の居る牢屋へと木霊した。


 この耳障りなハイテンションの声、間違いない!




「珠子!? なんで珠子がリリアナちゃんのスマホを!?」

『ちょっと貸して貰ったの~ん♪』




 遠くから『貸しちゃった~っ! ごめ~ん、タマちゃ~んっ!』とリリアナちゃんの元気いっぱいの声がスピーカーから聞こえてくる。


 いや、それはいいんだけどさ?


 何で珠子が俺に電話を?


 とスマホ片手に小首を傾げる俺に、珠子は全てを見透かしたように、




『そろそろ珠子のことが必要になるかと思ってぇ~ん♪ 勇者たま、今【アレ】がおっきしないでしょ~?』

「ッ!? な、何故ソレを!?」

『珠子は全てを見通す水晶おんなよ~ん♪ それくらい朝飯前、いや夕飯前♪ も・ち・ろ・ん、その原因についても……ね♪』

「や、やっぱり珠子には原因が分かるのか!?」

『モロチン♪ あっ、間違えた――もちろん♪』




 そう言って、この世における最低の言い間違いを口にしながら、コチラの状況を全て理解しているらしい様子をみせる珠子。


 なんて頼もしいんだ!


 気がつくと俺は、縋りつくように珠子に懇願していた。




「お、教えてくれ珠子!? どうして俺のログポースは機能しなくなったんだ!?」

『OK牧場♪』




 珠子はまさしく今欲しいと思っていた情報をペラペラと口にし始めた。




『まず勇者たまのアレがたなくなった原因はぁ~、ヘビ族の長のせいだよ~ん♪』

「あのチャラ男の? どういう意味だ?」

『勇者たま、魔王の息子に【力】を奪われたでしょ~?』

「【1日1回使えるチート魔法】の事か? あぁ、奪われた。……けど、それが?」

『あちゃ~、やっちんちん♪』

「あれ? もしかして、ヤバかった?」




 もう激ヤバよ~ん♪ と緊張感の欠片もない口調で、珠子は続けた。




『あの【力】は勇者たまの下半身に宿った力なのよ~♪ 当然、男性機能とも密接な関わりがあるわ~ん♪ あの【力】があったからこそ、勇者たまはタマタマを失っても『おっき』する事が出来たワケ~♪』




 でも、と珠子は言った。




『その【力】をヘビ族の長に奪われた、当然の帰結として導き出される答えは1つ♪ ここまで言えば、勇者たまにも分かるでしょ?』

「ま、まさか……ッ!?」




 最悪のシナリオが俺の脳裏に浮かび上がる。


 そんな俺の考えすら見通しているのか、珠子は「その通り!」と言わんばかりに上機嫌に口を開いた。




『そっ♪ 勇者たまは魔法の力と共に、男性機能をヘビ族の長に奪われたのぉ~♪』

「アルシエぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――ルッッ!?!?」




 気が付くと、喉から血を吹き出さんばかりに俺は叫んでいた。


 静かに珠子の声を隣で聞いていたアリアさんが「うわっ!」と驚いた声をあげるが、もはや俺は止まらない。


 憎しみに突き動かされる、俺はギリギリと拳を握りしめた。




「許さんっ! 絶対に許さんぞぉぉぉぉっ! そのスカした顔面に手ぇ突っ込んで、奥歯ガタガタ言わせるだけじゃ物足りぬ! 皆殺しじゃぁぁぁぁぁっ! ヘビ族は全員皆殺しじゃぁぁぁぁっ! 一族郎党、皆殺しじゃぁぁぁぁぁぁっ!」

「お、落ち着いてください勇者様!? ら、らしくありませんよ!?」

「うるせぇぇぇぇぇぇっ!? あの野郎、次に会ったら問答無用でぶっ殺してやる!」




 いやぶっ殺すなど生ぬるいっ!


 奴の魂を八つ裂きにし、その股にぶら下がっている元気玉を粉々にしてようやく我らは対等になれるのだ!




「覚悟しろよ、アルシエル……必ずお前に生まれてきた事を後悔させてやる!」




 俺はこの日『悪・即・斬』の名の下に、必ずあの悪い魔法使いをぶっ殺す覚悟を決めた。

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