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第9話 さらば、帝国! また会おうロリっ娘!(誰がロリっ娘じゃ!?)

 ソフィアさん達から『世界1周ツアー』のペアチケットを頂いた、翌朝の午前9時。


 しっかりアリアさんと共に朝食をいただき、料理長にお願いしてお弁当を作って貰った俺達はパリス・パーリ城門前でマリーちゃん皇帝陛下とソフィアさんの2人と向き合っていた。


 そう、今日は俺達が臨海都市【コントン】へと出発する日だ。




「すまんのぅ、2人とも。本当は帝国民全員で盛大にお見送りしたい所なのじゃが……」

「復興したてで、そんな余力もなく……私と陛下のみの見送りとなってしまいました」




 しゅん……と肩を落とす、マリーちゃん皇帝陛下とソフィアさん。


 瞬間、俺とアリアさんは揃って首を横に振っていた。




「いやいやっ!? 馬車まで用意して貰っておいて文句なんか無いって! なぁアリアさん?」

「そうですよっ! むしろ旅の軍資金まで頂いて、お2人には感謝しかありません!」

「その程度のことで感謝されるとは、お前たちは欲がないのぅ。……性欲とセクハラは一人前じゃが」

「ちょっと? 最後の一言は余計じゃない陛下?」




 最後の最後まで、マリーちゃん皇帝陛下はマリーちゃん皇帝陛下だった。




「ここから【コントン】まで丸1日かかりますので、一応今日の分の『夕ごはん』と明日の『朝ごはん』を荷馬車の中に用意してあるから、お腹が空いたら食べてちょうだいね?」

「至れる尽くせりだな」

「何かなら何まで、本当にありがとうございます」




 最後まで人妻の色気たっぷりなソフィアさんに感謝の言葉をかけながら、俺はハタッ! と思い出した。




「あっ、そうだ陛下。忘れる所だった」

「ん? なんじゃ勇者殿? もうセクハラはノーセンキューじゃぞ?」




 俺をなんだと思っているのだろうか、このロリっ娘は?


 問い質したいこと山の如しだったが、コレだけ色々用意して貰った手前、グッ! と飲み込む。

代わりに俺は懐から例のペンライトを取り出した。


 そう、巨人化スイッチのペンライトだ。


 俺はペンライトをマリーちゃん皇帝陛下に差し出しながら、「ごめんね?」と謝った。




「あの大穴を塞いでから何やかんやでずっと俺が持ってたわ、コレ。はい、返す」




 どうぞ? とマリーちゃん皇帝陛下に巨人化スイッチを渡そうとするのだが、何故か受け取ろうとしない。


 それどころか『そんなモノいらん!』とでも言いたげに首を横に振っていて……うん?




「それは勇者殿が持っておくといい」

「えっ、いいの?」

「構わぬ。どうせ勇者殿にしかソレは使えぬのじゃから。それに勇者殿ならソレを己の私利私欲のためには使わぬじゃろう?」




 そう言ってグイッ! と巨人化ペンライトを俺の方へ押し返すマリーちゃん皇帝陛下。


 まぁ要らないというのなら、お言葉に甘えて貰っておこう。


 俺は幼女皇帝陛下に「ありがとう」と頭を下げながら、ペンライトを再び懐に仕舞った。




「それではそろそろ行きましょうか、勇者様」

「了解んぽ」

「勇者くんのこのセクハラ発言も聞き納めかと思うと、少々名残惜しいなぁ」

「イ●ポはキサマの方じゃろうに」

「…………」

「あぁっ!? 泣かないで、勇者様!?」

「へ、陛下ッ!? いくら真実でも流石にソレは言い過ぎです!?」

「す、すまぬ!? ついうっかり本音が……ッ!?」




 悪かった勇者殿ッ!? と慌てふためくマリーちゃん皇帝陛下。


 いや、別に泣いてねぇし?


 ただ目から水が流れているだけだし。


 全然へっちゃらだし。


 全然CHA―LA HEAD―CHA―LAだしっ!




「そうだ、泣いてないもん! 俺は泣いてないもんっ!」

「勇者くんが幼児退行している……」

「マリー陛下、ダメじゃないですか? その話題は勇者様にとって今すごくデリケートなんですから……」

「正直、悪かったと思っておるよ……」




 光る雲をぶち抜いて今にもスパーキングしそうな俺を、なんとも言えない瞳で見守る乙女たち。


 や、やめろ!?


 そんな可哀そうな子を見る目で俺を見るな!?




「チクショウ……全てはあの赤髪チャラ男が悪い! 今度会ったら問答無用で巨人化して攻撃してやる!」

「さっそく巨人化を私利私欲で使用しようとしている……」

「あの巨人化スイッチを渡したのは早計だったかもしれぬな……」

「赤髪……あっ! そうだ」




『忘れる所だった』とでも言いたげにポムッ! と両手を叩くソフィアさん。


 そのまま「勇者くん、勇者くん」と俺の名前を呼んだ。


 えぇいっ!? 今は俺に話かけるんじゃ――




「帝国を襲ったヘビ族のあの男なんだけどね? 実は勇者くん達がこれから向かう【コントン】で目撃情報がチラホラ――」

「ほら、ナニをしているんだアリアさん? 早く馬車に乗って! チンタラしないっ! ハリーアップ!」

「コイツ……」

「欲望に忠実じゃのぅ……」




 ソフィアさんの話を聞き終える前に、さっさと馬車の中へ乗り込むナイスガイ俺。


 ほら、早くアリアさんも乗って!


 間に合わなくなっても知らないよ!?


 アリアさんは『しょうがない人だ……』とダメな子どもを見守る母親のような面持ちで馬車へと乗り込む。




「それでは陛下、我々はここで失礼致します」

「また会おう、ロリっ娘!」

「誰がロリじゃ!? えぇい、やっぱりその馬車返せっ!」




 ムガーッ! と怒り狂うマリーちゃん皇帝陛下の声に押されて、俺達を乗せた馬車は発進する。


 臨海都市【コントン】を目指してっ!




「勇者くーんっ! アリア様ァァァ――ッ! お元気でぇぇぇぇぇ~~っ!」

「まったく。全てが終わったら必ず遊びに来る約束、忘れるでないぞぉぉぉ~っ!」




 そう言って俺達の馬車が見えなくなるまで手を振っていたソファアさんとマリーちゃん皇帝陛下の顔には、真夏の太陽にまけないくらいの笑顔のヒマワリが咲いていた。

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