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第15話 男の子だと思った? ざんね~ん! 女の子でした♪(まさに外道)

「うぅ……ぐすん……」

「勇者様には失望しました」




 ミヒャエル少年が実は『ミヒャエルちゃん』だった事が判明して5分後の客室にて。


 ベッドの縁に腰を下ろし、ぐすぐすと鼻を鳴らして泣き続けるミヒャエルちゃんの背中を子猫のように抱きしめながら、アリアさんが冷たくそう言い放つ。


 その瞳は国を救った英雄を向ける目ではなく、やべぇロリコンと遭遇した時のように冷え切っていた。


 あっ、俺? もちろん2人の足元に余裕で正座中っすよ?




「弁明させてください」




 額を床に擦りつけながら、謝罪体勢をキープするナイスガイ俺。


 アリアさんは女王として貫禄を身体中から発散させながら『許す』と言わんばかりに大きく頷いた。




「いいでしょう。話しなさい」

「ありがたき幸せ」




 お言葉に甘えて、と俺は全力で彼女にへりくだりながら我らがロイヤル☆ムッツリを言い含めるべく、慎重に言葉を選びながら口を開いた。




「ミヒャエルしょうね……ちゃんが『女の子』だなんて分からなかったんです。だから一緒にお風呂に誘ったワケで……そこにエロい気持ちは一切なかったんです! ホントですっ! 信じてください!? お願いしますっ!?」

「まぁ確かに。ワタクシも美少年だと勘違いしたワケですし、そこは信じましょう」

「でしょっ!? 間違えるでしょ、普通!?」




 ここだっ!


 チャンスはここしかないっ!


 畳みかけろ、俺!


 俺はパンチラが如き一瞬の隙を見逃すことなく、全力全開でアリアさんに食って掛かった。




「俺は親切心で一緒にお風呂に入ろうとしただけなんです! 男同士、裸の付き合いで親睦を深めようとしただけなんですっ! そしたらまさかのサプライズで……むしろ俺は被害者だと思います!」

「ほほぅ? 自分は無実だと?」

「はいっ! だって想像できますか? 北海道産【夕張メロン】の箱から岡山県産【足守あしもりメロン】が出て来るだなんて!? 俺には出来ないっ!」

「なるほど。勇者様の言い分はよく分かりました」




 アリアさんは慈愛に満ちた瞳で俺を見下ろしてくる。


 良かった、どうやら俺の気持ちが天に届いたらしい。


 俺は心の底から安堵の吐息を溢しつつ、正座を崩し――




「ではミヒャエルさんの言い分を聞きましょうか。ミヒャエルさん、先ほど脱衣所で勇者様に何をされましたか?」

「ぐすん……き、金城さんに衣服を全部かれた挙句あげく、お股を指先でツンツンされました……」

「…………」




 えぇっ、もう余裕で正座続行っすよ。




「なるほど。お股を指先でツンツンと……勇者様?」

「……はい」

「死ねばいいと思いますよ?」

「言い訳を聞いてください」




 さも当然の死刑宣告に、全力で『待った』をかける午前3時。


 どうやらココが金城玉緒の分水嶺らしい。




「聞きません。ロリコンは死刑、これは世界の常識です」

「違うんですっ! 俺はただミヒャエルちゃんが本当に女の子なのか確認しようとしただけで!? エロい気持ちは一切なかったんです」

「嘘ですね」

「嘘じゃない! 本当なんだ!?」

「じゃあ何でお股をツンツンしたんですか? 確認方法なら他にいくらでもありますよね?」

「それは……気が動転していたからで……」

「ほほぅ? つまり勇者様は気が動転すると少女のお股をツンツンするワケですね? なるほど。変態ですね?」

「くぅぅっ!?」




 俺は子猫を守る母猫のようにミヒャエルちゃんを抱きしめながら、天才検事さながらの尋問で俺を追い詰めていくアリアさん。


 だ、ダメだ!? 勝てねぇ!?


 誰か成歩堂弁護士を連れてきてくれ!?




「もうこれ以上の議論は必要ありませんね。では勇者様、歯を食いしばってください。ワタクシの最弱さいきょうは、ちっとばっか響きますよ?」




 神を浄化するトウマさんみたい事を口走りながら、拳を握りしめるムッツリ☆プリンセス。


 そのままミヒャエルちゃんをベッドの上に置いて、俺に音も無く近づくと、グイッ! と我が襟首を握ってきて――ヤバいヤバい!?




「待って!? アリアさん待って!?」

「待ちません。衝撃のファーストブリット、いきますよ?」

「撃滅のセカンドブリッドさんも勘弁してください!?」 




 コォォォォォォォッ! とアリアさんも右拳は青白く輝き始める。


 ちょっ、アレはヤバイって!?


 喰らったら多分、顔が消し飛ぶタイプのパンチじゃないのアレ!?




「見ていてください、ミヒャエルさんっ! これはっ! この光はっ! ワタクシとっ! アナタのっ! 輝きだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「キミ●マぁぁぁぁっ!?」




 あっ、死んだわ。


 俺が死を覚悟した、その瞬間。



 ――ドゴォォォォォンッ!



 爆音と共に船体が大きく揺れた。




「うぉぉっ!? なんだ、なんだ!?」

「今度は一体ナニをしたんですか、勇者様っ!?」

「冤罪だ! 俺はナニもしていない!?」




 それでも俺はやってない! と痴漢冤罪を訴える心清らかな男性のように声を張り上げる。


 が、そんな俺の凛々しい声を打ち消すように廊下側から乗客たちの悲鳴が聞こえてきた。




『な、何事だ!?』

『か、海賊だっ! 海賊が攻めてきたぞぉぉぉぉっ!?』


「「か、海賊ぅ~……?」」

「ま、まさかっ!?」




 廊下に耳を澄ませていた俺とアリアさんが顔を見合わせる。


 そんな俺達の横をミヒャエルちゃんは颯爽と通り抜けながら、窓の外へと視線を落とした。


 釣られて俺達も彼女の後ろをついて行き、窓の外を眺める。




 ――そこにはドクロの海賊旗かいぞくきを掲げた何隻もの船が、俺達を乗せているこの豪華客船を取り囲むように包囲していた。

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