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第16話 赤き巨人は無敵の力

 前回のあらすじ!


 ミヒャエル少年(女)のお股をツンツンしたら、海賊に包囲されていた。


 ……いや、どういう事なん?




「ナニコレぇぇぇぇっ!?」

「気づきませんでした……。いつの間に……」

「クソっ!? 撒いたと思ったのに!」




 ミヒャエルちゃんは悪態を吐きながら、弾丸のように部屋から飛び出そうといて――ちょちょちょっ!?




「ダメだって!? 今外に出たら危ないから!」

「離してください、金城さん! アイツらの狙いは自分ですっ! ここに居たら金城さん達も巻き込まれちゃう!」




 そう言うとミヒャエルちゃんは俺の手を振り切って、廊下へと続く扉を開けた。


 ミヒャエルちゃんは一瞬だけ立ち止まると、悲しみを押し殺したような笑みを浮かべて、




「……こんな自分に優しくしてくれて、ありがとうございました。このご恩は一生忘れません……」




 ソレだけ言い残すと、ミヒャエルちゃんは弾かれたように俺達の居る部屋を後にした。


 数秒後、野太い男たちの「居たぞ、小娘だ!」という声が大気をビリビリと震わせた。


 ……あぁ、分かっている。


 今回の件は完全に俺達とは無関係の事だ。


 わざわざ厄介事に首を突っ込む道理はない。


 ここは空気を読んで大人しくしているのが『賢い選択』なのだろう。


 分かっているよ、そんな事は。


 でも――




「レディーにあんな顔をさせたまま放っておけるほど、俺は大人じゃねぇんだよ!」




 俺はミヒャエルちゃんの後を追うように、廊下へと飛び出した。


 耳を澄ませば甲板の方が騒がしい。


 おそらくあの子はソチラへ逃げたのだろう。


 俺は彼女の後を追うべく、廊下を蹴り上げ――




「まったく。どうして勇者様はそう何度もトラブルを引き起こす事が出来るんですか?」

「いや、今回のは俺関係ない――って、アリアさん!? ナニやってんの!? 危ないから部屋に戻ってなさい!」




 いつの間にか俺と並走していたお転婆プリンセスにギョッ!? と目を剥いてしまう。


 なにやってんの、この娘!?




「【使い魔契約】の縛りを忘れたんですか? ワタクシは勇者様と1メートル以上離れられないのですから、勇者様が移動する以上ワタクシもついて行かないとダメでしょう?」

「いや、オレイカルコスの腕輪をしているから制約は無視できるよね!?」




 俺がミヒャエルちゃんとお風呂に入る際に付けて貰っていたオレイカルコスの腕輪は、まだアリアさんの手首に巻き付いている。


 だからアリアさんまで付いてくる必要はないんだけど……アリアさんは『野暮な事は聞くな』とでも言いたげに唇を動かした。




「いいから。はやくミヒャエルさんを見つけますよ、勇者様」




 そう言って俺を追い抜き先行し始めるアリアさん。




「居たか、小娘!?」

「いや、いない。……んっ? なんだ、あの女――ぶべら!?」

「ゲルググッ!? このクソ女――でぶらっ!?」

「邪魔です! 風魔法シルフ・バレット!」




 すれ違う海賊と思われるオッサンたちを魔法で瞬殺しながら、甲板めざして突き進む。


 た、頼もしい……。


 惚れてしまいそうだ。


 少女漫画のヒロインのようにトゥンク☆ と胸を高鳴らせつつ、俺はアリアさんに導かれるまま甲板へと身を踊り出した。




「着いた、甲板です!」

「アリアさん、アッチ! 船頭の方からミヒャエルちゃんの声がする!」




 行こう! と彼女を手を取ろうとした、その刹那。




「――ダメダメ。ここから先が通行禁止だよぉ~♪」

「「ッ!?」」




 酷く聞き慣れた軽薄な声が海の向こうから聞こえて来た。


 瞬間、俺達は海賊船が包囲する海へと視線を寄越した。


 そこには気持ち良さそうに空中にプカプカ♪ と浮かんで、コチラを見下ろす赤髪の男がいた。


 俺は、いや俺達はこの男を知っている。


 ヘビ族の長にしてリバース・ロンドン王国を襲い、あまつさえパリス・パーリ帝国を混乱の渦に叩き落とした諸悪の根源。


 そして俺の大秘宝ワンピースと勃起能力を奪った、その名も――




「まさかあんちゃん達が一緒に居るとはねぇ~。流石にこれは予想外――」

「変身ッ!」




 瞬間、俺は間髪入れずに懐に仕舞っていた巨人化スイッチを押した。


 途端に俺の周りに赤い光が迸り、俺は20メートル級の『赤い巨人』へと姿を変えた。




URAAA死ね、アルシエルッ!」

「ちょっ、いきなり!?」




 問答無用で殴りかかって来た俺に、アルシエルは慌ててお得意の空間移動を展開。


 そのまま紙一重で俺の拳を躱し、数十メートル離れた海上に姿を現した。




「待て待て!? 別に今日は兄ちゃんと事を構えるつもりはなくて――」

URAA喰らえ、AAAAAAAクリムゾン光輪ッ!」




 ――キュルキュルキュルキュルキュル!


 と手のひらに高速回転する光の円盤を出現させる俺。


 そのままアルシエルのクソ野郎めがけて全力で投擲とうてきッ!


 八つ裂きになれ~♪




「あぶなっ!? ソレは洒落にならないって!?」




 放たれた光の円盤をこれまた紙一重で躱しながら、「ちょっと待てって!? 人の話を聞けって!」と余裕のない表情で声を荒げるアルシエル。


 そんなヘビ族のチャラ男めがけて、



 ――キュルキュルキュルキュルキュルッ!



 高度は両手で輪状の円盤を形成する俺。


 次は外さない!




URAA細切れAAAAAAAになれぇぇぇぇッ!」




 秘儀、クリムゾンスラッシュ!


 心の中で盛大に技名を叫びながら、クソ野郎を海の藻屑とするべくリング状になったエネルギーの塊を手裏剣のように放り投げた。


 瞬間、空中で無数のリング状のエネルギーに分裂すると、高速回転しながらアルシエルへと一斉に襲い掛かった。


 それはまさに殺意の具現化。


 我が魂の咆哮ほうこうッ!


 喰らえ、アルシエルっ!


 全部まとめて――




URAAチ●チンAAAAAAAの分だぁぁぁぁッ!」

「人の話は最後まで聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」




 ――ドォォォォォォンッ!


 盛大な爆発音と共に、アルシエルの身体が爆発する。


 ったか!?


 と、俺が勝利のガッツポーズを決めようとした刹那、明後日の方向から『ハァ、ハァ……』と不愉快な呼吸音が聞こえてきた。


 見ると、そこには俺から奪った魔力を封印している【簒奪の宝玉】を握りしめたアルシエルがボロボロの姿で空中を漂っていた。




「あ、危なかった……。兄ちゃんから奪った魔力がなかったら死んでたわ……」




 クソっ、仕留め損なったか!?


 今度は逃がさない!


 俺は身体中に残ったエネルギ―を両腕に集中させ、例の青い巨人をほふった熱線を射出する準備へ突入する。


 そんな俺の姿を前に今度こそ『ヤバイ!?』と感じたのか、アルシエルは焦ったように豪華客船に取りついている海賊たちに怒声をあげた。




「総員、撤退っ! 一時てったぁぁぁぁぁぁぁぁい! 急げぇぇぇぇぇぇぇっ!」




 アルシエルは【簒奪の宝玉】を懐に仕舞うと、今度は金色の輝く黄金の玉を取り出してみせた。


 そうっ! 俺の失われた半身にして、世界に2つしかない大秘宝!


 我がゴールデンボールだっ!




「今日のところは退いてあげるよっ! でも近い将来、必ず【アトランティスへの鍵】はいただくよ!」




 アルシエルは例の机り笑顔を顔に張り付けてそう言った。


 アトランティスの鍵ぃ~?


 そんなモノ知るか!


 それよりも宝玉と元気玉を置いていけっ!


 と俺が妖怪『玉おいてけ』になりかけていると、アルシエルが持っていた俺の元気玉が光り輝き始めた。




「召喚魔法デーモン・デモンッ! 出でよ、海の支配者キング・クラーケンッ!」

『アイ アム オクトパァァァァァァァァァァ――スッ!』




 ――ドッポォォォォォォンッ!


 と突然海中から純白の巨大なイカが姿を現した。


 その大きさは目算でおおよそ30メートルで……で、デケェ!?




「キング・クラーケンよ! あの客船を破壊するのだ!」

『オクトパァァァァァァァ――スッ!』




 自分はタコです! と自己主張する巨大なイカが、するするとアリアさん達が乗っている客船にその触手を巻き付け始める。


 途端に海賊船たちが我先にとばかりに戦闘海域から離脱していく。


 その一瞬の隙を縫うように、アルシエルも空間移動魔法を展開し始める。


 この野郎っ!?


 逃がすか!




「それじゃ兄ちゃん、またいづれ会おう」

URAA待てッ!」

「おっとぉ? オレ様にばっかり集中していていいのかにゃ~?」




 ほらっ! とアルシエルがタコだがイカだが分からない巨大生物を指さした。


 おそらくイカと思われる巨大生物は、その巨大な触手で客船をギチギチと締め上げていて……クッ!?




「はやく助けに行ってあげないと、せっかくの豪華客船が海の藻屑になっちゃうよぉ~?」

「……URAAAクソったれAAAAがぁぁぁッ!」




 俺は悪態を吐きながら、アルシエルをその場に残して客船の方へと舞い戻った。


 客船の船頭では、アリアさんが合流出来たらしいミヒャエルちゃんを守るように抱きしめながら、触手に向かって魔法を打ち込んでいた。




「くぅぅっ!? なんですか、この巨大生物は!?」

「アリア姫、危ない!?」




 ミヒャエルちゃんの絶叫と共に、アリアさんの魔法攻撃をくぐった触手が彼女たちめがけて振り下ろされる。


 アリアさんはミヒャエルちゃんを庇うようにガバッ! と彼女の小さな身体を抱きしめた。


 が、触手が振り下ろされるよりもはやく、



 ――ザシュッ!



 俺の手刀がイカの触手を切り落としていた。




URAAA大丈夫か、AAAA2人ともッ?」

「うわぁぁぁぁっ!? 新しい化け物だぁぁぁぁぁっ!? もうダメだぁぁぁぁぁっ!?」

「大丈夫ですよミヒャエルさん。あの化け物はワタクシ達の味方ですから」

URAAバケモノ……」




 へっ? と涙で顔をグシャグシャにしていたミヒャエルちゃんが間抜けな声をあげる。


 そんな彼女を尻目に、アリアさんは『ほっ』と安堵の表情を浮かばせながら「遅いです」とその愛らしい唇を尖らせた。




「今日は頑張りすぎたので疲れました。さっさと終わらせてください、勇者様」

URAA了解ッ!」




 俺様を【化け物】呼ばわりした件はあとでキッチリ問い詰めるとして、今は目の前のイカだ。


 俺はアリアさん達から少し離れると、三度右手のひらにリング状に高速回転するエネルギーの塊を出現させた。


 もちろん狙いは、船体に巻き付いているあの巨大なイカ野郎だ。




URAAAAAAA刺身にしてやんぜっ!」




 喰らえっ! と心の中で雄叫びをあげながら、巨大なイカめがけてエネルギー弾を投げつける。


 瞬間、投擲されたリング状のエネルギーがまるで意思を持っているかのように船体に巻き付く触手を八つ裂きにし始めた。




『お、オクトパァァァァァァァ――スッ!?』




 スパスパッ! と細切れにされていく自分の触手を前に、巨大なイカが謎の悲鳴をあげる。


 どうでもいいんだけどさ? 泣き声は『オクトパス』でいいの?


 イカの矜持きょうじをまるで感じない泣き声に小首を傾げつつも、船体に巻き付いていた触手を全て断ち切ることに成功する。




『オクトパァァァァァァァ――ッ!』

URAAAAAAAさせるか、イカ野郎ッ!」




 おそらくブチ切れたのか、身体を真っ赤にして船体に体当たりしようとするイカ。


 そうはさせるか! と俺はイカと船体の間に身を滑り込ませ、その巨体をガッチリと受け止めた。




「な、なんだあの赤い巨人は!? 敵なのか!?」

「いや、違う。あの巨大なクラーケンと戦っているんだ!」

「もしかしてこの船を守ろうとしてくれているの?」

「よく分からんがガンバレ巨人ッ!」




 客船の中にいた乗客たちが「負けるな巨人ッ!」「ぶっ倒せぇぇぇぇっ!」とまるでプロレスでも見に来たかのように、俺とイカ野郎の戦いを間近で見ようと客室から甲板へと飛び出してくる。


 ちょっ、危ないから部屋戻ってろ!?




URAAAAAAAやりづれぇな、もうっ!」




 俺は少しでも客船とイカの距離を離そうと、イカ野郎の巨体を抱きしめ


 ――ザッパァァァァァン!


 その巨体を持ち上げた。


「すげぇパワーだっ!」「いいそ、巨人っ!」「よし、あの巨人は【クララ】と命名しよう」と無責任に沸くギャラリーを無視して、俺はイカと共に空へと飛びあがった。


 瞬間、客船がドワッ!? と揺れた。




「クララが立っ――飛んだぁぁぁぁぁっ!?」

「ナニソレ!? すっげぇぇぇぇぇっ!?」

「アンビリーバボーッ!?」




 ワーッ!? と歓声をあげる乗客たちを尻目に、俺はイカの巨体を持ち上げたままグングンと高度を上げていく。


 光る雲どころか大気圏すらブチ抜いて宇宙空間へと到達するなり、その巨体を無造作に投げ捨てた。


 宇宙空間で上手く身動きが出来ないのか、芋虫のように身体をモゴモゴ動かすイカ野郎


 自慢の触手も八つ裂きにされ、その巨体を生かした体当たりすら出来ない。


 まさにまな板の上のたい、いやイカだ。


 あとは煮るなり焼くなり好き放題だ。




URAAAAこれで終いだ




 ここなら派手にぶっ倒しても被害は出ないだろう。


 そう判断した俺は、赤く光り輝く両腕を胸の前でクロスさせた。


 そのまま出口を求めて身体の中を駆け巡るエネルギーを両腕へと集中させ、




「URAAAAAAAッ!」




 気合一閃。


 雄叫びと共に両腕から放たれた熱線が、身動きの出来ないイカ野郎の身体を貫いた。


 刹那、



 ――ドッゴォォォォォォォォンッ!



 巨大な爆炎と共にイカの巨体が大きくぜた。


 汚い花火と化した巨大なイカの肉片が大気圏に突入し消滅していく。


 おそらく地上ではさぞファンタスティックでロマンティックな光景が見えていることだろう。




URAAAAハァ、疲れた……」




 あの熱線、威力はあるけど撃つと疲れるんだよなぁ。


 なんて思いながら後頭部をポリポリとこうとして気づく。




URAAAAAあっ、手が白い




 あんなに赤かった俺の腕が、いまでは肘の先まで真っ白に染まっていた。


 やっぱりあの熱線、エネルギー効率が悪いんだなぁ……。


 まだ少し余裕はあるが、このままこの場所に長居すると宇宙空間で元の姿に戻ってしまいそうだ。


 流石にソレは洒落にならん。




URAAAA急いで帰るか




 俺は体内に残ったエネルギー残量を気にしながら、急いでアリアさん達のいる地上へと飛んで戻ったのであった。

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