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第18話 破滅の光、海底都市アトランティス!(もうカエル族が黒幕だろ、コレ?)

「アトランティスの鍵?」




 ミヒャエルちゃんは俺の言葉に「はい」と頷きながら、魔法のネックレスを再び首に下げると、神妙な面持ちでその【アトランティス】とやらの詳細を口にし始めた。




「かつて古代カエル族がそのあまりの危険さ故に封印した幻の科学都市――【海底封印都市】アトランティス。科学が発展し過ぎた結果、手にすれば世界を支配することも、滅ぼすことも可能としてしまった恐ろしい都市です」

「あぁ~はいはい。また世界を滅ぼす系ね? おいおい? カエル族、そんなんばっかじゃん……」




 12年前の【魔王】の件といい【グレード・ブリテンの秘宝】といい、どうして世界の危機にはカエル族が関わっているんだよ?


 もはやカエル族が黒幕説あるぞ?


 ……そう言えば、アルシエルのクソ野郎も元を正せばカエル族なんだよな?


 ヤッベ!? カエル族、諸悪の根源じゃん!?




「な、なんですか勇者様? そんな目でワタクシを見つめて?」

「いや……本当にカエル族ってトラブルを起こす天才なんだなぁって思って」

「おっ? なんだテメェ? ワタクシの名誉を棄損する気か?」

「言葉遣いが乱暴ですわよ、姫?」




 もはや一国の姫君とは思えない乱暴の口調を前に、空条さん家の承太郎くんのように『やれやれだぜ』と肩をすくめるナイスガイ俺。


 拳で会話しようとその場でシャドーボクシングを始めるプリンセスを横目に、俺は改めてミヒャエルちゃんと向き直った。




「それで? なんで海賊たちはその【海底封印都市】を目指しているワケ? まさか世界を滅ぼしたいの、アイツら?」

「あの人たちにそこまでの野望はありません。アトランティスには世界を滅ぼす恐ろしい逸話の他にも、もう1つ伝説があるんです」

「もう1つの伝説?」




 スパパパパパパーンッ! と俺の肩に「シュッシュッ!」と拳を打ち付けるアリアさんを尻目に、ミヒャエルちゃんは頷いた。




「その名も【黄金伝説】……」

「黄金伝説ぅ~」




 ナニソレ?


 いきなり1カ月1万円で生活する感じのアレかな?


 と怪訝けげんそうな顔をする俺に、ミヒャエルちゃんはその薄いピンク色の唇を動かした。




「船乗りの間では有名は伝説です。この海の底には黄金で出来た海底都市……アトランティスがあり、手に入れることが出来ればこの世の王になれる――という言い伝えです」

「なるほどな。つまり奴らはその伝説を信じて、海賊王になろうとしているワケね」




 おいおい、マジかよ?


 ということは、そのアトランティスの鍵を持っているミヒャエルちゃんが今、一番海賊王に近いって事だろう?


 ヤッベ、媚び売っといた方がいいかな?




「ねぇ、アリアさん? 本当にそのアトランティスは黄金で出来ているの? というか、いつまで俺の肩を殴っているの? 地味に痛いんだけど?」

「う~ん? 正直アトランティスに関しては文献が少ないんで、本当に黄金で出来た都市なのかはワタクシにも分からないです。ただ……」

「ただ?」

「そのぅ……文献の最後は必ず【ある一言いちごん】で締めくくられているんですよ。その一言というのが――」

「――アトランティスを蘇らせてはいけない」




 ボソリッと呟いたミヒャエルちゃんの言葉に、アリアさんが驚いたように目を見開き反応した。




「ど、どうしてソレを?」

「父がよく言っていたんです。我が家に伝わる【言い伝え】だからって」




 アトランティスを蘇らせてはならない。


 アレは夢の詰まった黄金の国ではない。


 アトランティスが蘇れば、この世界は一瞬で人の住めない星になるだろう。




「だからこそ、父さん達の一族はアトランティスがこの世に蘇らないように、この封印の石を代々守り続けているんだよ――と。夢物語のように父はそう自分に語ってくれました」




 そう言ってミヒャエルちゃんはお父さんの形見のネックレスであるアトランティスの鍵を指先で優しく撫でた。




「もちろん自分も最初は夢物語と思って信じてはいませんでした。でも……」

「夢物語じゃなかったワケだ……」




 コクンッとミヒャエルちゃんは弱々しく頷いた。




「1週間前、突然ヘビ族を名乗る男と海賊が我が家へ押しかけてきて、アトランティスの鍵を渡せと言ってきたんです」




 父は咄嗟とっさに世界を守るために、このアトランティスの鍵を自分に渡して、裏口から逃げるように指示しました。


 怖かったけど、父の言いつけを守るべく、自分は家を後にしました。




「そして最後に見た父の姿は、ヘビ族の男に魔法で心臓を貫かれる姿でした……」




 グッ! と前歯で下唇を嚙みながら、そう応えるミヒャエルちゃん。


 喉元まで出かかった『ナニカ』を堪えるように身体を震わせる彼女を前に、俺は改めてアルシエルをブチ殺す覚悟を決めた。


 あのクソ野郎……一体どれだけの人間の運命をもてあそべば気が済むんだ?




「許せませんね……」




 隣でアリアさんもボソリと呟いた。


 その整った眉根は不愉快そうに逆八の字になっていて、なるほど。


 どうやら俺達の気持ちは一緒らしい。


 アルシエルのクソ野郎め……次に会った時がテメェの最後だ。


 もう容赦はしねぇ。情けもかねねぇ。


 徹底的に血も涙もなく、あの野郎をブチのめしてやる!




「よし、決めた! ミヒャエルちゃん」

「は、はい?」

「俺達と一緒に旅をしよう」

「はい? はいっ!?」

「アリアさんも構わねぇよな?」

「そうですね。ちょうど勇者様との2人旅にも飽きてきたところですし、ワタクシは構いませんよ?」

「う~んっ! なんか引っかかる物言いだけど、ヨシッ! そんじゃま決まり! これからよろしく、ミヒャエルちゃん!」

「ちょっ!? ちょっと待ってください!?」




 スッ! と握手を求めに行った俺の手を拒むように、シュババッ! と両手をバリアーの要領で前に出すミヒャエルちゃん。


 そんなに焦ってどうしたのだろうか?


『あの日』かな?


 始まったのかな?




「きゅ、急に旅だなんて!? ど、どうして!?」

「だってミヒャエルちゃん、海賊とヘビ族に狙われているんでしょ? 一か所に留まっていたら危ないじゃん? なら俺達と一緒に旅をしていた方が相手をかく乱できると思わないかい?」

「た、確かに……。で、でもっ!? 相手は腕っぷしの強い海賊とヘビ族ですよ!? 危険です!?」

「それは大丈夫。ねぇアリアさん?」

「そうですね。ワタクシも勇者様も腕っぷしには自信がありますし、あの程度の海賊なら簡単に撃退できますね。自分で言うのも何ですが、護衛としてこれほど最適な人材は居ないかと思いますよ?」




 そう言われて我らがムッツリ☆プリンセスが魔法で海賊を撃破していく姿を思い出したのか、ミヒャエルちゃんは『あぁ~、確かに』と納得した顔を浮かべた。


 が、すぐさま焦ったように「で、でもでもっ!?」と二の句を継ごうとするが、それをアリアさんが制するように先に言葉をつむいだ。




「ミヒャエルさん、何もワタクシたちも無償でアナタを守るとは言ってはいませんよ。コチラにもそれ相応のメリットがありますからね」

「め、メリットですか……?」

「はい。ワタクシ達はそのアトランティスの鍵を狙っているヘビ族の男、アルシエルに用があるんですよ。なのでミヒャエルさんと一緒に居るほうが何かと都合がいいんですよ」




 そう言ってニッコリと微笑むアリアさん。


 う、上手い言い方だ。


 キチンとコチラのメリットを提示しつつ『あくまでギブ&テイクの関係ですよ♪』とミヒャエルちゃんの罪悪感を打ち消す言い回しに、少々恐怖を覚える。


 流石はアリアさんだ。


 女王か変態にしかなれない女は、頭だけではなく口も回るようだ!




「あ、あの? でも、自分……」

「ミヒャエルちゃん、そう小難しく考えなくていいよ。要は俺もアリアさんもミヒャエルちゃんと一緒に居たいって事。だからさ? 一緒に居ようよ?」

「い、一緒に……?」

「そう、一緒に」




 ミヒャエルちゃんの瞳が大きく揺れた。


 おそらく責任感と自分の気持ちの間で激しく葛藤しているのだろう。


 俺達はそんな彼女を急かすようなマネはせず、安心して考えられるように黙ってミヒャエルちゃんを見守った。


 やがて彼女の中で結論が出来たのか、ミヒャエルちゃんはおずおずと言った様子で、




「ほ、本当に? 自分、一緒に居ていいんですか……?」

「もちろん。いいよね、アリアさん?」

「断る理由がありませんよ。これからよろしくお願いしますね、ミヒャエルさん?」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~ッ!?」

「おっと?」




 ――ガバッ! 


 瞬間、張り詰めていた糸が千切ちぎれたかのように、ミヒャエルちゃんは身体を震わせながらアリアさんに抱き着いた。


 ポロポロと瞳から大粒の涙を零し、「あ、ありがっ!? ありがとうございま、ひっぐ!?」と嗚咽おえつ塗れの声で感謝の言葉を口にする。


 その姿は先ほどまでの凛とした姿とは打って変わっていて……そりゃそうか。


 大人っぽく見えても、まだ13歳の子供なのだ。


 これから楽しいこと、幸せなことがたくさんあったハズなのに、それを理不尽にも奪われて、あまつさえ目の前で父親が亡くなったんだ。


 本当はずっと泣きたかったハズだ。


 でも『世界を守らなければいけない』という責任感がソレを許さなかった。


 なんともまぁ酷な話である。


 こんな小っちゃな身体に【世界の命運】が乗っかっていようとは……。


 まったく、どの世界でも優しい人間は生きづらくて大変だ。




「ご、ごめっ!? ごめんなざっ!? す、すぐ泣き止む、ので……ひっぐ!?」

い良い。泣け泣け。気にすんな。子供は泣くのが仕事なんだ、職務放棄はイカンぞ?」

「言い方ですよ……。ミヒャエルさん、いいんですよ? 泣きたい時には泣けばいいんです。泣いて泣いて泣き疲れて、涙も枯れ果てたなら……その時はまた立ち上がって頑張ればいいんです。だから、今は泣いてもいいんですよ?」

「あぁ……あぁぁぁっ!? ああああァァァァァァ~~~~~っ!?」




 わんわんっ! とアリアさんの背中を強く握りしめながら、ボロボロと大粒の涙を零すミヒャエルちゃん。


 そんな彼女が安心して泣けるように、その小さな身体に不釣り合いな大きな荷物を少しでも軽く出来るように、アリアさんは静かに彼女の背中を撫でた。


 そんな2人の横顔を窓から差し込む朝日だけが優しく照らし続ける。


 ふと窓の外から見えた太陽は、ふてぶてしいくらい『いつも通り』世界を平等に照らしていた。

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