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第20話 ちょっ!? この船、沈没するんですけど!?(ミツケタ! 王サマ、ミツケタ!!)

「アリアさんは意外と肉食系だからミート中心で持ってきたけど、ミヒャエルちゃんは何が好きなんだろう? とりあえずヨーグルトっぽいデザートを中心に持ってきたけど……大丈夫かな?」




 アリアさんとミヒャエルちゃんが夢の世界へ旅立ってから1時間後の客室にて。


 お腹いっぱいになった俺が、2人の朝食を持って部屋に戻って来ると、やっぱり2人はまだ夢の世界へ出航したまま現実世界へは帰って来ていなかった。




「あっ、そうだ。オレイカルコスの腕輪を外しとかないと」




 備え付けられた机の上に2人の直食を置きながら、静かに寝息を立てるアリアさんの元まで近づく。


 そのまま彼女の腕を取り、オレイカルコスの腕輪を外して……うっわ!?


 ほっそっ!? 腕、ほっそ!?


 ほんと華奢な身体だよなぁ……。


 この細腕で世界を狙えるパンチを放てるんだから、人体って摩訶不思議アドベンチャーだよなぁ。


 どこにそんな力が隠されているんだ、コレ?


 そんな事を考えながら、俺は彼女が起きないように慎重に手首から腕輪を脱いで――




「よし、外れたっ! え~と、コイツの1日の使用限界時間が確か6時間だから……あと2時間か」




 流石に今日はもうトラブルはないだろうけど、2時間しかないのは心許ないなぁ……。


 あっ、でも使用した分だけ休憩を入れれば元に戻るんだっけか?


 だとしたら4時間後にはフルで使えるのか?


 う~ん? イマイチこの腕輪の原理が分からない。




「まぁ魔法関係は専門外だし、アリアさんに任せればいいや。それよりも今は他に大事なことがある」




 そうだ、今はそんな事よりも大事な事が目の前にある。


 今、元気いっぱいの俺の目の前でうるわしのレディー2人が無防備に眠っているという事実。


 それらを踏まえた上で、今俺はナニをするべきかソレを考えるべきだ。


 そうっ! 密室に意識のない2人のレディーが居るこの状況において、タマオ・キンジョーはナニをするべきなのか!?


 それを考えるべきだっ!




「落ち着け? 焦るな、タマオ・キンジョー。お前は真のジャズマン、誠の男。どんな状況に置かれても己を見失わないナイスガイ」




 アリアさんが夢の世界へ出航してから高鳴り出した鼓動を意識しながら、俺は1人静かに深呼吸を……ムッ!?


 な、なんだこのフローラルな香りは!?


 トイレの芳香剤とは違う、押しつけがましくない春の午後風のような爽やかな香り。


 今まで密室でアリアさんと2人っきりになったことは多々あったが、こんなフローラルで力強い匂いは嗅いだことが――ハッ!?




「そうかっ! 今、この部屋には雌が2匹いる! それ故にレディーの匂いが濃く部屋に充満しているんだ!」




 いかんな。


 俺のような鋼の精神力を持つ紳士ならともかく、女性経験のないチェリーボーイがこの匂いを嗅いだら、その時点で絶頂を迎えかねない。


 なんて危ないフレグランスなんだ!?




「ふぅ~……落ち着けタマオ? 己を見失うな? どんな状況でも華麗なセッションをかなでるのが真のジャズマンだろう?」




 俺は部屋に備え付けられた椅子に一旦腰を下ろしながら、改めて状況を整理し始めた。


 船の中。海の上。密室。ぐったりとベッドで眠る少女とお姫様。


 そんな状況に俺は酷くこうふ――困惑していた。


 だってさ、よく考えてみてくれよ?


 この密室の中、俺以外意識のある奴が誰も居ないんだぜ!?


 俺を邪魔するヤツが誰も居ないんだぜ!?


 言うなれば、今の俺は神だぜ!?


 そうだ、神だ。今の俺は神なのだ!


 今、この瞬間において、俺は彼女たちに何だって出来るし、何だってやれる!


 あの死神的なノートがなくても俺は新世界の神になっている!


 生唾を飲み込むと共に椅子から腰を上げる。




「さぁ、ショータイムだ」




 そう言って俺はゆっくりと2人に近づいた。


 ここで俺が何をしようか分かるかどうかによって、凡人と天才に分かれるだろう。


 おそらく凡人は『眠っている2人の衣服を脱がしてスケベな事をするんだろうな』と考えるだろう。まったく……思考回路がお子ちゃまである。紳士の俺がそんな女性の尊厳を踏みにじるようなマネ、するワケがないだろう?


 凡人は稚拙ちせつなエロを求めるだろうが、真の天才は違う。




 ――真の天才は脱がすんじゃない、脱ぐんだっ!




 そう、アリアさん達を脱がすんじゃない……俺が脱ぐのだっ!


 さぁみんな、想像してごらん?


 ミヒャエルちゃんやアリアさんを脱がしたら、一体どれだけ彼女たちが傷つくか?


 もはやその心の傷の深さは想像するだけで恐ろしい。


 だがっ! 代わりに俺が脱げば?


 そうっ! 傷つく者が


 みんな幸せっ! オールハッピーッ! オッパッピーッ!


 ……ん?『それは犯罪だよ? 公然わいせつ罪だよ?』だと?


 おいおい、セニョリータ? ここは異世界だぜ?


 日本国憲法なんぞ、この世界ではゴミにも等しいんよっ!


 大体ここは屋内、公共の場ではない。


 仮に日本国憲法が適用されようとも、俺を裁く法はこの世には存在しないっ!




「まったく、期待で心臓と股間がはち切れそうだ」




 誠のジャズマンである俺とセッションを奏でようと、心臓が解放のドラムを奏で始める。


 このテンションならアレが出来るか?


 俺が敬愛してやまない荒木飛呂彦センセイが生み出した日本が世界に誇る伝説の作品の表紙を飾る、あの最高にイカすポージング達を……そう【ジョジョ立ち】を!


【ジョジョ立ち】が何か分からない人のために簡単に説明すると、【ジョジョ立ち】とは人体の神秘を極限まで表現した荒木飛呂彦センセイ考案の美しいポーズ達のことだ。


 それを踏まえた上で、皆には想像して欲しい。


 この場で全裸になり、彼女たちの眠っている真横で華麗に【ジョジョ立ち】を披露するキンジョー・タマオの姿を。


 あぁ……もはや完全に神話に名を連ねるレベルの偉業だ。


 あの神話製造機の江頭2:50さんに並んだと言ってもいいだろう。




「さぁ、ホットでタフなパーティーの始まりだっ!」




 ズボンのジッパーと共に今、伝説の幕が開け――




 ――ドォォォォォンッ!




「うぉっ!?」

「ふぁっ!? あ、あれ? 自分、もしかして寝てましたか?」




 俺がズボンのジッパーと伝説の幕を開けるよりもはやく、轟音と共に俺達を乗せた豪華客船の船体が左右に激しく揺れた。


 その衝撃で気持ち良さそうに眠っていたミヒャエルちゃんがベッドから跳ね起きる。


 あぁ、俺のゴッドタイムが……。




「クッソ! なんだったんだよ、今の揺れは!?」




 ついホットでタフなナイスガイな俺らしくなく、八つ当たり気味に声を荒げてしまう。


 そんな俺の気持ちに呼応するかのように、




 ――ドォォォォォォンッ! ドォォォォォォンッ!




 と轟音をあげながら、再び船体が左右に激しく揺れた。


 それも1度だけではない。


 2度3度と断続的に揺れる、揺れるぅ!?




「ちょっ!? この揺れはヤバイだろ!? 下手したら横転するぞ!?」

「き、キンジョーさん!? い、一体何が起きているんですが!?」

「分からん! とりあえず俺の身体に捕まれ!」




 はいっ! と間髪入れずミヒャエルちゃんが俺の身体に抱き着く。


 発展途上の少女の身体にしては皮と骨だけのように硬く……これが落ち着いたら腹いっぱい食べさせてやるからな!


 そう1人固く決心しながら、いまだに寝こけているアリアさんを「カモンッ!」の呪文で呼び寄せる。


 そのまま身体を壁際へと固定し、なんとか揺れから逃れようと全身に力をこめる。




「ふぎぎぎぎっ!? アリアさん起きて! はやくっ!」

「う~ん? もう食べられませんよぉ~♪」

「ナニ古典的な寝惚けカマしてんだ!? はやく起きろメス豚!? 非常事態なんだよ!」

「だ、ダメですキンジョーさん! 船体の揺れが収まりません!?」




 気持ち良さそうにスヤスヤ眠るアリアさんの真横で、悲鳴のような声をあげるミヒャエルちゃん。


 そんな彼女の不安を煽るように、船体はさらに大きく左右に揺れて!?




「くそったれめ!? また海賊共が攻めてきたのか!?」




 なんて悪態を吐いていると、廊下から船員らしき男達の狼狽えた声が部屋へと響き渡った。




『おいっ、なんだこの揺れは!? どうなっている!? また海賊が攻めてきたのか!?』

『いえ、それが巨大な渦潮に船体が突っ込んでしまったらしくて! 船長が舵取りで何とか脱出しようと試みていますが――うわわっ!?』

『渦潮だとっ!? テスト走行した際はそんなモノはなかったハズだぞ!? ど、どういう事だ!?』

『わ、分かりません!?』


「渦潮? おいおい? なんでそんな所に突っ込んでんだ? 船長、仕事してんのか!?」

「あっつ!?」

「ミヒャエルちゃん? どうしたの? って、うわ!? ナニソレ!?」




 俺の身体に抱き着いていたミヒャエルちゃんが、急に変な声をあげる。


 釣られて彼女の方へと視線を向けると……なんだアレは!?


 首からぶら下げた父親の形見である琥珀色の魔法のネックレスが、燃えるように真っ赤に染まっていた。




「あ、アトランティスの鍵が!?」

「ちょっ!? どうしたのさ、その形見のネックレス!? 色が変わってるけど!?」




 血よりも濃い真紅の輝きを放ちながら、琥珀色だったネックレスが紅蓮ぐれんのネックレスへと変貌していた。




「アリアさん、起きて!? 君にしか分からない怪奇現象が起きたよ! おい、目を覚ませメス豚ぁっ!? 肝心なところで役に立たねぇな、おい!?」

「――【赤き石】現れるとき、アトランティスの扉が開かれるなり」

「えっ?」

「我が家に伝わる言い伝えの1つです」




 そう言ってミヒャエルちゃんは真っ赤に発熱する魔法のネックレスへと視線を落とした。




「このネックレスが赤く染まる時、それはアトランティスが近くにある証だって父が……父さんが言っていました!」

「マジか!? えっ? でもソレらしきモノは見当たらないけど!?」




 揺れる視界から必死に窓の外を覗くも、都市っぽいモノは見つからない。


 どこまでも続く海原と地平線しか目に入らない。


 アトランティスの【ア】の字も見つからない。


 お父さん、ボケていたんじゃないの?


 と俺はツッコムよりもはやく、ミヒャエルちゃんは「この話には続きがあります」と口にした。




「続き?」

「はい。父さんが言うには、アトランティスは海の竜巻の中から現れるって」

「海の竜巻……?」




 なんじゃそりゃ?


 海の竜巻なんてそんなモノ――あっ!?




「もしかして渦潮か!? この渦潮の中にアトランティスはあるのか!?」




 コクリと小さく、されど力強く首肯するミヒャエルちゃん。


 その間にも渦潮に揺られた乗客たちの悲鳴が船の中を木霊していく。


 お、落ち着け俺ぇ~?


 落ち着いて状況を整理するんだっ!




「えっと、つまりだ? その形見のネックレスが赤く染まっているから、アトランティスの封印はもう解けていると?」

「お、おそらく」

「んで、俺達が現在進行形で巻き込まれているこの強烈な渦潮の中に、アトランティスはあると?」

「い、言い伝え通りなら間違いなく」

「ほほぅ?」




 なるほど、なるほど。


 よく分かったよ。


 つまりアレかな?


 俺達は今、世界を滅ぼしかねない幻の都へとレリゴーしようとしているワケかな?


 なるほど、なるほど。


 ……冗談じゃないっ!




「起きてっ!? アリアさん超起きて!? 脱出するから魔法をかけて! 俺達に空を飛ぶ魔法をかけて! 今すぐにっ! ハリーアップ!?」

「んん~? えへへ~♪ かりんとうは間違いなく18禁ですよぉ~❤ 黒光りが犯罪的です☆」

「ねぇ、さっきからどんな夢を見ているのアリアさん? 逆に気になってきたんだけど!?」




 この世のモノとは思えない、というかレディーの寝言とは思えない台詞を口にするロイヤル☆プリンセス。


 果たして彼女は今どんな素晴らしい光景を目撃しているのか、すごく気になるところだ。




「ダメです、キンジョーさん! アリア姫、起きる気配が微塵もありません!?」

「チクショウ、仕方がねぇ。短時間の連続変身は身体の負担がデケェからやりたくないんだけど、背に腹は代えられねぇ!」




 俺が例の赤い巨人【キンタマン(仮)】へ変身するべく、懐に忍ばせていた巨人化スイッチへと手を伸ばし、



 ――バゴンッ!



 突然、俺達の居る部屋の扉に『ナニカ』のぶつかる音がした。




「??? なんの音だ?」




 その不自然な音に気を取られ、一瞬動きを止めてしまう。


 その瞬間、




 ――バゴォォォォォンッ! ざっぱ~~~~ん!




 部屋の扉を吹き飛ばし、物凄い勢いで大量の海水が部屋へと浸水してきた――ってぇ!?




「どぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~っ!?」

「き、キンジョーさぁぁぁぁぁぁぁ~~んッッ!?!?」




 突然の海水にパニックになる俺とミヒャエルちゃん。


 海水は一瞬で部屋の中を浸食すると、激しい海流を発生させ、俺達をアッサリと部屋の外へと引きずり出した。


 ヤバイッ!? 俺、泳げないんだけど!?


 恐怖とパニックで身体が硬直する中、僅かに捉えた視界の端では、俺達と同じように船の乗客たちが激しい海流によって部屋の外へと放り出されていた。


 全員、俺と同じようにパニックを起こしていて……あっ、ヤバい。


 もう息が続かないかも……。




「ガボボボボボボボボボッ!?」


『ミツケタ。王サマ。ボクたちの王サマ』

『帰ってキタ。王サマ、帰ってキタ』

『デモ、鍵は女の子が持ってル。謎、謎』

『ドッチ? 王サマ、ドッチ?』

『とりあえズ、2人トモ、連れて帰ろウ』

『『『『帰ろウ、帰ろウ。連れて帰ろウ』』』』


「~~~~ッ!? ~~~~ッ!!」




 ゆっくりと遠ざかっていく意識の中、俺が最後に見た景色は、どこからともなく現れた人型のロボット達が、ミヒャエルちゃんを抱きしめて海水の中へと消えていく姿だった。

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