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第四十一話 最大の一撃

「焼き払え!」


 私は右手を前方にかざして叫ぶ。

 ドラゴンの顔を模した砲台の中心部に数多の不思議が凝縮されていき、やがて一筋の細い光線が地上を横一閃に薙ぎ払う。

 光線が接触した箇所を中心に爆発が発生し、視界全てが黒煙と赤い炎に包まれた。


 私が呼び出した砲台は、この一撃を放った直後に姿を消してしまった。

 あれは本当に一撃必殺。

 周囲の不思議の全てを飲み込んで放たれる一撃。

 あれで倒せなかった敵は今までにいない。

 全ては殺せないにしろ、これだけの範囲攻撃であれば相当数削ることができたはずだ。


「凄まじいな」

「切り札だからね」


 シュトラウスは想像を超えていたのか目を丸くする。

 あまりにも無慈悲な破壊に、流石の魔王も固まるしかなかったのだろう。

 私が放った一撃は、四本腕の軍勢の先頭部分を横一閃に焼き払ったかたちだ。

 当然背後にも爆発の余波は及んでいるはずで、そうそう簡単にさっきまでの勢いを取り戻すことはないはずだ。


「いまだに煙が収まらんとはな……」


 マルケスも兵たちも目を丸くしたまま様子を窺っている。

 敵の姿が見えない状態のまま、願わくばそのまま全て消え去ってくれというところだろう。


「まあそう簡単にはいかないわよね」


 煙が風に流され掻き消えていった頃、四本腕の軍勢は再び進軍を開始した。

 見るからに数が減っていて、おそらく半分程度にはなっているだろうか?

 それでもこちらの兵力よりはだいぶ多い。


「力を貸して」


 私はさらなる一撃を放つために、不思議を発生させる。

 周囲に再び満ちた不思議を二体のプレグに食わせ、私は魔法を発動させる。

 私の左右に立ち並ぶ金のライオンと白銀のオオカミが一歩前に出る。

 口を大きく開けて、双方の口から同時に魔法が放たれる。

 白銀のオオカミの放つ紫電が地上を走ったかと思えば、金のライオンが放った業火は四本腕に直撃する。

 ここからは乱戦だ。

 もう戦場を揺るがすほどの攻撃は持っていない。


 正直に言えばここまでで戦いは終わると思っていた。

 しかし私たちの想像の何倍もの四本腕が集結したことにより、戦いはより過酷で恐ろしいものに変化した。

 四本腕の先頭集団が、槍兵たちの間合いに近づいていく。

 私のプレグたちは各々行動を開始した。

 白銀のオオカミと金のライオンは魔法を放ったあとも、私のそばを離れない。

 四本腕の接近戦の能力は、私を軽く凌駕している。

 この二体は護衛だ。

 シュトラウスは血の武具を自身の周囲に発生させ、セリーヌのとなりに移動した。


 槍兵たちの槍先と四本腕が接触した。

 勇敢な兵士たちは、気味の悪い異形の者と対峙していても一歩も引く気配がない。

 それどころか雄叫びをあげて勇敢に立ち向かっていた。

 槍先が四本腕の先頭集団に突き刺さる。

 当然の如く絶命するが、その突き刺さった四本腕の死体を足場にして二列目、三列目の四本腕がよじ登って襲い掛かる。

 槍兵の二列目がそれに対応するため、槍を斜め上に向ける。

 しかしその上をさらに四列目、五列目の四本腕がよじ登り進軍をし続ける。


「下がれ! 殺したら下がるを繰り返せ!」


 部隊長の言葉が響くが、戦況は悪くなるばかり。

 遠距離攻撃で数をかなり削ったとはいえ、多勢に無勢。敵の勢いに押され、戦闘の槍兵に死者が続出し始めた。

 まともにやりあってもあの四本腕の機動力には勝てない。

 数十人が切り刻まれたタイミングで戦いは完全なる乱戦となってしまった。


「こっちまで来るわ」


 私はマルケスより一歩前に出る。

 白い大蛇が地面に潜り地面から大量の白蛇を発生させ、四本腕の機動力を大幅に割いたところで、頭上に飛びあがったカラスが雷を降らす。

 猛攻を掻い潜った数体の四本腕が私に襲いかかるが、私の左右に控えているオオカミとライオンに食い殺される。

 植物のプレグは周囲の足元にツタを大量に生み出し、四本腕たちの機動力を大幅に削ぐことに専念していた。


 セリーヌとシュトラウスのほうに視線を向けると、セリーヌの使役する魔物たちが四本腕たちと同等の戦いを繰り広げ、漏れ出た敵はシュトラウスの血の武具によって木端微塵にされていた。

 そして私が再び兵士たちに視線を向けた時、恐ろしい光景を目の当たりにした。

 一番先頭で戦死した兵士の両腕を、四本腕が引きちぎっていた。

 それだけでもおぞましいのだが、あろうことかこの場でその腕を食べ始めたのだ。


「嘘だろ?」


 マルケスも私と同じ感想だった。

 本当に信じられない光景だ。

 両腕を狙っている以上、ああして食べるのは予想していたがまさか戦闘中に食べ始めるとは思わなかった。


 そして一番の衝撃は食べ終わったときに訪れた。

 四本腕が兵士の両腕を食べ終わった直後、一瞬硬直したかと思うと四本腕の隣に新しい四本腕が出現した。


「そうか、こうやって増えていたのね。きっと相手が人間でも魔物でも、腕を食べれば増殖する」

「あれじゃキリがないぞ? 戦死した兵士たちが餌となって敵の数が戦場で増えるなんて……こんな化物一体どうすれば」


 マルケスは絶望の声を上げる。

 実際、この激戦のあいだにこちら側の布陣はほとんど崩壊していた。

 陣形を崩された槍兵は、小回りの利く四本腕相手に何もできずに殺されていく。

 後方部隊と前線部隊を繋ぐ場所に配属された剣士たちも、四本の剣を一度に相手にした経験などあるはずもなく、次々と敗れ去っていった。

 もちろん踏ん張り耐えている兵士も大勢いるが、乱戦となったことで個体単位の強さで勝る四本腕側が戦いの主導権を握り始めた。 


「そろそろ終わらせないと兵士たちが全員死んでしまうわね」


 私は再び魔眼を発動させ、切り札を呼び出す準備を始めた。

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