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第4話 ネルドフィッシュ

『う……』


 イテテテテ……何だったんだ今の? 何で突然あんな砂埃が?


 そう思った俺は無理矢理に頭を振り、意識を覚醒させた後に周囲を見渡した。

 辺りはただただ暗かった。上を見上げれば、永遠と思えるほど長く薄暗い空が続いている。


『やっぱ、落ちたか……』


 俺は海溝の上から落ちたのだと理解した。

 そこは上から見た時よりも大分暗く、周りは白い砂が薄く舞っていて視界が悪い場所だった。


『一先ず上に行こう』


 此処では敵を認識する事が出来ない。俺が今出来るのは逃げる事だけ。生き延びる為には早めの敵の認識が大事になって来る訳で……此処に居るのはずっと危険な状況が続いているに他ならない。


 俺はすぐ様上を目指して泳ぎ出す。

 そして、泳ぎ出して10分が過ぎた頃。ようやく上まで迫ったその時だった。


『う"ッ!!』


 強い海流に、雪崩の様な砂がまた俺を襲った。




『………またか』


 これは定期的に起きるのか? と、先ほどよりも壁が遠く見える場所を見上げながら思う。

 それなら、此処から出るのは難しい。全てを逃さないと言わんばかりのあの海流に、有無を言わさない量の砂、アレでは壁際まで行くのが積の山だろう。


 そして、さっきよりも離れたってのが問題だ。もし、アレが定期的に行われるとしたら、俺の速さじゃ崖上まで登り切る事は出来ないし、時間が経てば経つほどに、俺は上へと登れなくなるという事だ。


『…………手探りで安全な所を探るしか無いな』


 此処で安全な所があるかと言われれば、不安な所ではあるが他に方法はない。


 俺は先程の事がもうない事を願いながらも、壁の方向に向かって泳ぎ、周囲を確認する。見える範囲は大体2メートル弱ぐらい。なるべく速さ重視で行かないと、何か見つけることすら出来ないだろう。




 そしてまた10分程泳いだ頃。空が暗くなった事に気付く。


『……くそっ。やっぱダメか』


また流されるのかと諦めて上を見上げていると、ふと頭の中に何かのステータスが思い浮かび、俺は急いでそこから距離を取った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 名前:

 種族:ネルドフィッシュ

 スキル:暗視 気配遮断Lv1

 称号:


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




『っ!!』



 ガキンッ



 硬質な音。俺は間一髪でそれを避け、振り返る。

 そこにはチョウチンアンコウをもっと老けさせた様な魚がいた。チョウチンが付いてない代わりに、硬そうな角が頭から生えており、俺よりも数倍デカい。


 よし。隙を見て逃げよう。

 速攻で意思を固め、様子を伺っているとネルドフィッシュはノロノロと体制を立て直す。


『もしかしてコイツ……動きが遅いのか?』


 俺は小魚にさえ、負ける速さだ。

 それなのにさっきの攻撃は避けれた。ってことは、もしかして俺よりもコイツの方が遅いんじゃないか?


 そう思い、少し距離を置きつつも相手の様子を伺う。


『……やっぱり遅いな』


 ゆったりと尾を動かしており、俺が少し速い動きを見せたとしても、ゆっくりと体勢を変えて来る。


 ここは戦うべきか?

 コイツのスキルはハッキリ言って今の俺に必要な物ばかりだ。もし、もしだが『悪食EX』でスキルを取る事が出来れば、この先俺は此処でも上手く生きて行けるだろう。


 今以上の強敵に出会う前にこのスキルは手に入れておきたい!


 俺は決断すると、素早い動き(俺なりの)でネルドフィッシュを翻弄する。


『皮も柔らかそうで助かったぜ!』


 相手が俺を見失ったのを見計らい、俺はネルドフィッシュの背中辺りを齧り付いた。

 肉はふやけた餃子の皮の様な食感で、味はイカみたいな味がする。美味い。


 だけどスキルは得られなかったので、俺はネルドフィッシュの背中を食べ進めて行く。


 それから暫くすると固い赤い球体の様な物に、歯が当たった。当たると同時にネルドフィッシュは呼応するかの様に動きを強める。つまりーー


『これが弱点か』


 自然と上がる口角。俺は上がった口角のままガキィィッ とそれを噛み砕いた。

 すると、ネルドフィッシュは事切れたかの様に横たわる。



『暗視』『気配遮断Lv1』を取得しました。



 よし!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 暗視:暗い場所でもよく見える様になる。


 気配遮断Lv1:気配を消す事が出来る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 暗視を発動させるぞ! 発動条件はよく分からないから、魔力操作と同じ容量でやってみよう……暗い所が見える様にイメージ。


『これは……』


 目を開くと、ネルドフィッシュの背中に居た所為なのか、俺が居る場所はさっき居た場所ではなかった。


 自分が落ちた崖はもう既に見えず、目の前には砂の坂の途中にボロボロになった海賊船が怪しげに佇んでいた。

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