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33「才能」


 ダンジョンは大まかに三つの種類に分類される。


 一つは魔術型迷宮。

 リアと潜っていたダンジョンで魔術師が術式によって魔力の流れを意図的に歪めて発生させたものだ。


 次に自然型迷宮。

 誰かが意図した訳ではなく、自然の成り行きで魔力の流れが乱れ発生したダンジョン。魔術型と違って管理者が居ないため消滅させるのが難しい。

 ストレ大迷宮などはこれに当たるとされているが、ビステリアが作ったものだとすると魔術型に分類されるかもしれない。


 上記二つは人為的かどうかの差異こそあれ、発生の要因は根本的に『魔力の乱れ』という同一のものだ。


 そして最後に古代型迷宮。

 これは誰が作ったのかも、どうやって建造されたものなのかも全く不明な、しかし知性を持つものの介入が無ければ発生しないであろう特殊なダンジョンを指す。

 魔道具とは違う特殊な宝が出土することでも知られるこれは、人類の発展の礎になってきた。

 惑星外から来た誰かが造ったとか、古代に滅びた超文明が造ったとか、神が造ったなんて言われてる。


 このレイサム王国を支えてきた【銀庫】と名付けられたダンジョンは、古代型迷宮に分類される金属の迷宮だ。


 王都近郊に存在するその迷宮は何十年か前まで国の最重要施設として王城に付設していたが、それだと冒険者の出入りが円滑ではないという理由で王城が移築された。

 今は冒険者組合の管理となり、旧王城を改築した冒険者組合本部の中庭にそれは存在している。


「で、こいつがその入り口か」

「そうでございます」


 扉というよりは『輪』と言った方が正しいだろう。

 円形の金属の輪の内部を極光が渦巻いている。

 通ることで転移でもしたかのようにダンジョン内へ立ち入ることができるらしい。


 ミラエルとの戦いの翌日、俺は早速ダンジョンへやってきていた。

 昨日は不完全燃焼すぎたからな。

 すぐにでも実戦がしたい。

 最近はストレスの溜まることが多い。


「つうかクラウス、お前は着いて来なくてもいいんだぞ?」

「いえ、坊ちゃまの警護もわたくしの仕事でございますゆえ」


 騎士らしいというべきなのか、クラウスは梃子でも動かなさそうな目をしていた。

 別にクラウスが居て問題がある訳じゃないし、見られて困る力なんかが転生以外にある訳でもない。


「じゃあ行くか」

「はい」


 俺とクラウスはゲートの内部へ足を踏み――


「ちょっと待ちなよ、はぁ……はぁ……」


 声に反応して後ろを振り向くと、そこには見知った顔が二つあった。

 息を荒げているところを見るに急いで来たんだろう。


「昨日の今日でもう迷宮へ行くなんてせっかちだね。良かったら僕が案内してあげようか?」

「貴方はまだこのダンジョンのことは詳しくないでしょ?」


 第七王子ミラエル。

 そして、第二王女シルヴィア。

 その二人が息を切らして俺の前に現れた。


「ミラエル、何を焦っているのかと思ったらまたこの少年ですか……」


 彼らの後ろを追従するのは二人の護衛。

 剣聖『マミヤ・カエデ』。

 それに昨日もシルヴィアに付き添っていた執事服の青年だ。


「クラウス殿、昨日は緊迫状態で挨拶もできずに申し訳ありませんでした」

「知り合いか?」

「はい。わたくしが坊ちゃまにお仕えする前、騎士団の指南役をやっていた際に教えていた者で腕は確かです。フスト、気にするな。あの状況でわたくしとの会話に興じようとするような馬鹿では王女の護衛など務まる訳もない」

「光栄です!」


 クラウスが腕があるって言うなら最低限は使い物になるだろう。

 無駄に同行者が増えたが、まぁ問題はない。

 そもそも今日だけで六階層まで行けるとは思ってないしな。


「にしても、よく俺がここに来たのが分かったな?」

「当たり前だよ。僕の後ろ盾は冒険者組合、つまりは全冒険者だ。そしてここは?」


 ミラエルは周囲へ視線を誘導するように手を広げる。


「冒険者組合の本部だな」

「そういうこと」

「私の後ろ盾は貴族の皆様。王子の動向は隠されない限りは直ぐに耳に入ってくるわ」

「ミラエルはともかくとして、お前は強くないだろ。なのに自分でダンジョンに入るのか?」

「大事な交渉は自分でする主義なの」


 妖艶な上目遣いでシルヴィアは俺の顔を……


「腰が痛いわ……」

「身長の差がありすぎて覗き込めてねぇぞ。つうか十歳相手に色気出すな」

「貴族の方ならこれで簡単なのに……」

「姉さんって基本才女なのに、たまに抜けてるところあるよね」

「そうかしら、なんだか恥ずかしいわね」


 そう言ったシルヴィアは手で顔を仰いでいる。


 こいつには戦う力がない。

 だが、面がいい。

 それに相手と敵対しないように話を運ぶのも上手い。

 今もこいつが間抜けな態度を取ったから、全体の空気が緩んだ。


 それがこいつの能力で、それは王位継承まで手を掛けてるんだから侮るべきじゃない。


「分かった、お前らとパーティーを組んでやる」

「よろしく、ネル」

「よろしくね、弟くん」


 俺、クラウス、ミラエル、シルヴィア、カエデ、フスト。

 計六人か、ダンジョン探索なら普通の人数だな。


 けど一人は戦闘経験皆無のお荷物。

 そして俺以外に真面に魔術が使えそうな奴がいない。

 ミラエルとカエデもクラウスも接近戦闘メインだからな。


 バランスがいいとは言えない構成だが……どうなることかね……



 ◆



 古代型迷宮【銀庫】。

 第一階層――通称【森林】。


 名の通り数十メートルの木々が並ぶ巨大な森を一つの階層とするこの場所には、多数の魔獣が出現する。


「お下がりください。お嬢様」

「えぇ、分かったわフスト」

「僕が行くよ。皆手を出さないでね」

「当然です。私の弟子ならこの程度は退けなさい」

「譲ってやる」

「構いませんよ」


 現れたのはレッドウルフという低位の魔獣だ。

 しかし狼系の魔獣は指揮系統に優れる。

 こいつらも例にもれず、連携の取れた陣形をしていた。


 現れた数は三十匹ほど、しかも俺たちを囲むのを待って姿を現した。

 ゴブリン程ではないだろうが、中々賢そうだ。


 だが、その程度ではあいつは止められない。


「【疾風ハヤテ】【迅雷イナズマ】!」


 風と雷がミラエルの身体を包む。


 低位の魔獣が追い付けるはずもない超速軌道。

 副次効果として発生する電流は、身体強化すら使えない魔獣の動きを触れるだけで麻痺させる。


「余裕だね」


 十秒と掛からず全てのレッドウルフをしたミラエルがこっちを振り返った。


「やっぱり昨日と同じで何にも見えないから退屈。フストには見えているの?」

「いえ、残像を追うのがやっとです」

「クラウス、お前は?」

「移動した軌道は分かりますが、目の前に立って対応するのは不可能ですね」


 とは言え、ミラエルにはやはり弱点もある。

 術式の発動と制御に神経を使い過ぎている。

 だから、注意力が……


「……火きゅ」

「【雷切】」


 俺の術式発動よりも早く、隣に居た剣聖が刃を振るう。

 昨日、俺の龍太刀を弾いたほどの威力ではないが、刀身から発生した雷がミラエルの後方から飛び掛かろうとしていた最後のレッドウルフに命中する。


 一際デカい個体が雷によって焦げ、大地に伏した。

 こいつが群れの長だろう。

 味方を使って油断を誘い、自分が留めをかっさらう。

 姑息で賢い戦術だ。


「ミラエル、油断大敵ですよ」

「ごめんなさい師匠……」

「術式と相性が悪いんじゃないのか?」


 横からそう言うと、カエデが殺気の籠った目で俺を睨んだ。


「黙りなさい。ミラエルの修練の方針を決めるのは私です」

「そりゃあいつも運が悪い」

「貴様……」

「なんだよ?」

「坊ちゃま、おやめください」

「師匠もやめてよ」

「「ッチ」」


 俺とカエデは互いに視線を外す。


「はいはい。喧嘩してないで先に進みましょう? 付いてきているのはミラエルと剣聖様なんですからあまり輪を乱すようなことは控えて。それにネルも、他人のことへ過度に口を出すのは褒められたことじゃないでしょ?」

「はい」

「分かってるよ」


 シルヴィアが話を強制的に終わらせて、俺たちは再び進み始めた。


 ここに出る魔獣は基本的にミラエル一人で片付けられる。

 俺たちの課題はシルヴィアを守ることくらいだが、そんなのに四人も要らない。


 執事二人に護衛を任せた結果、手が空いている俺と剣聖が前線のミラエルと後衛の執事二人の間という同じラインに立つことが増え……


「ミラエル、二つの術式を同時に制御しようとするな。雷属性の方は無しで考えろ。そうすれば視野は広がる」

「また勝手なことを……ミラエル、聞く耳を持つ必要はない。貴方の才能を一番知っているのは私です」


 やることがミラエルの戦いの見物しかなくなった俺はアドバイスを送り、剣聖カエデはそれを否定する。

 そんなことが三度ほどあった後……


 本日五十体目の魔獣を倒し終えたミラエルは、俺に近寄って来て質問をしてきた。


「ネル、どうやったら僕はもっと強くなれる?」

「なっ、ミラエル!? 貴方の師匠は私だ!」 

「分かってるよ師匠。でもさ、僕にはまだ分からないことが沢山ある。昨日の戦いでネルが何をしていたのかもまるで分からないし。だから今は色んなことを知るべきだと思うんだ」

「だとよ?」


 そう言ってみるが、俺の煽りも聞こえないほどカエデは狼狽えていた。

 大切な何かを失ったように唖然として……顔を下げる。


「勝手にしろ、馬鹿弟子……」

「ごめんね師匠」


 困ったような笑みを浮かべながらミラエルは、カエデの頭を撫でる。

 性格からしてキレられそうなものだが、意外にカエデは黙ってそれを受け入れていた。


「ネル、教えてくれ」


 七つも離れた弟に、ミラエルは頭を下げた。


「何度も言うようにお前の弱点は視野の狭さだ。さっきのレッドウルフの時もそうだが同時に別の術式を、しかも別属性のものを使いながら高速戦闘に身を置いているせいで回りが見えてないし、魔力感知の精度も悪い」

「確かにね……だから同時に使う術式の数を絞れってこと?」

「あぁ、お前の才能は破格だ。動体視力や魔力感知の範囲に関しても他者よりずっと優れたものを持っている。だが入力した通りにしか動けなくなる雷属性の身体強化は、お前のその才能を奪ってる」

「分かった。次は風属性の身体強化だけで戦って見るよ」

「いきなり上手くはいかないだろうが、フォローはしてやるから好きにやってみろ」

「うん!」


 相手はすぐに現れた。

 今度の相手は上からだ。


「あれは、今までより上位の魔獣ですな」

「あぁ、そうだな……」


 逃襲の大梟サプライズ・オウル

 巨大なフクロウのような形の魔獣。主な攻撃手段は嘴と爪の刺突、翼による殴打。

 体毛は黒で覆われ、それは闇夜で姿を隠す役割を熟す。

 本来は夜行性の魔獣のはずだが、昼でも稀に活動している個体は居る。


 こいつはレッドウルフや今まで出て来た低位の魔獣とは違う。

 単体で白銀級冒険者と同等の戦力として扱われる魔獣だ。


 そして、その最大の能力は『回避性能』にある。

 猛禽類の目と卓越した魔力感知精度を持ち、それは予知にも見紛う危険察知を可能とする。


 そんな、ミラエルの術式の天敵のような魔獣だ。



 ◆



 ――僕は独りだった。


 子供の時から力が強くて、足が速くて、誰に教わらずとも簡単な魔術が使えた。


 皆僕に同じことを言う。


 ――天才。怪物。


 生まれながらに天から与えられた才能。

 一体誰がそんな物を望んだというのだろう。


 それでも得てしまった物は仕方がない。

 その性質を含めて僕なのだから。

 だから負けるまでやってみようと思った。


 魔獣と戦い、騎士や冒険者と戦い、剣客や武人と武器を交えた。

 世界には強い奴は沢山いるんだと期待していた。


 だけど今にして思えば、僕は自分が独りじゃないことを確かめたかったのかもしれない。


 でも僕の期待に応えてくれる存在は多くは無かった。

 どれだけ凄いことをしてくる相手でも見れば簡単に真似できた。

 武術でも剣術でも魔術でも、それ以外でも……


 ――つまんな。


 そんな風に思っていた時だった。

 東方の剣聖『マミヤ・カエデ』は僕の前に現れた。

 僕は何もできずに彼女に負けた。


 やっと現れてくれたって思った。

 僕の希望。

 脅えられることのない相手。

 期待されるんじゃなく、期待してもいい相手。


「貴方の才能は天賦の物です。よければ私の弟子になりませんか?」

「期待してもいい? 僕を独りにしないって……」

「えぇ、私なら貴方と一緒に居てあげられます」


 その言葉は僕を救ってくれた。

 僕は『独り』じゃなくなった。

 僕は『怪物』じゃなくなった。


 師匠は僕を救ってくれた。




 でもごめんなさい。

 貴方は確かに僕の期待に応えてくれたけれど。

 だからこそ、僕は貴方の期待に応えたい。


 強くなりたい。

 師匠よりも、他の誰よりも……


「【疾風はやて】」


 それは風を纏い、動作を加速させる強化魔術。

 確かに発動する術式を一つに絞ったことで余裕が生まれた。

 前よりも周りがよく見えるし、魔力がハッキリ感じ取れる。


 だけどこれだけじゃダメだ。

 これだけじゃあの梟の回避性能は捉えられない。


 風、雷、今まで僕が使える属性はこの二つだけだった。

 師匠からもそれしか教わらなかったし、それでいいんだと何も考えずに思ってた。


 でもきっと才能はあるだけじゃだめなんだ。

 その上に何を重ねることができるのか、その掛け算が強さを表す。


 ネルという異才に僕は負けた。

 君の剣術、君の読みの能力、圧倒的だった。

 今の僕には無いものばかりだった。


 でも君に負けた時に一つだけ、思ったことがあるんだ。


 最後に放った意味不明な斬撃は無理だけど、それ以外なら……



 ――僕にもできるくね?



 魔力がどこにあるっていう『点』じゃなく、魔力がどう動いているのかっていう『流れ』を見ればいい。


 ――魔力感知Lv2。


 まだだ。これで終わりじゃない。


 思い出せ、あの魔術を……

 術式構造は憶えてるし、注入する魔力量は感覚で分かる。


 属性は炎。系統は付与。

 効果は筋肉の温度を上げることによる身体強化。


 あ、行けるわこれ。


「火属性身体強化術式【燃身】」


 そして――


 両手で二つの付与術式を同時起動し、それを混ぜて刀身へ宿す。

 効果は燃焼+衝撃力強化。


「付与――【蒼炎】」


 蒼い炎が僕の刀身に纏われた。


 身体能力は速度以外は過去最高。

 魔力感知や反射神経、動体視力の精度は落ちてない。


 これで対等。

 その上で身体の魔力を操ってフェイントを入れて……


「クル?」


 付与術式に身体強化術式もあるから力を込める必要はない。

 斬撃は軽く、必要以上に力み過ぎず、魔力を込め過ぎず、静かに――


「よっ、と」


 魔獣の身体を纏った炎で焼き切る。

 回避性能以外は並みの力しかない『逃襲の大梟サプライズ・オウル』は、進化した僕にとっては雑魚だった。


「なんだ、簡単じゃん」



 ◆



 なんだ、こいつ……?


 俺の燃身と蒼炎を真似た?

 いや、問題はそこじゃない。


 俺は動体視力と魔力感知の精度が改善されれば、逃襲の大梟サプライズ・オウルと『対等』になると思って提案したんだ。

 なのに突然、魔力感知の精度が予想を超えて跳ね上がった。

 それに身体の使い方や魔力の動かし方も、何段階も向上した。


 何より、魔力の流れを隠すような魔力操作……いやそれ以上の、魔力の動きを誤認させる魔力操作を使っていた。

 横を見ればカエデも驚愕に目を見開いている。


 ってことは元から備わっていた能力じゃない……今覚醒したってのか?


 昨日とはまるで別人の動きだ。


 天才? いや、こんなの怪物だろ……


「ミラエルは才能は並みではない。だからその才能には蓋が必要だった。あの子自身が壊れてしまわないように」

「だがあの術式は……」

「あの術式はまだ完成してなかった。ミラエルの才能を持ってしても完成には時間の掛かる私の人生の集大成とも言える超高難度の術式だった。だからこそ抑え込めていた」

「……」

「だけどあの子の中に意志が宿ってしまった。負けたままでは居られないという渇望が宿ってしまった……」


 責めるように俺を見ながらカエデは静かに言った。


「貴方のせいで、天才が飢えてしまった」


 魔獣を討ち取った怪物てんさいが俺たちの元へ戻って来る。


「ネルの言う通りやってみたらいい感じだったよ。ていうかさっきまで喧嘩してたのに、なんの話してるの?」

「……なんでもねぇよ」

「ミラエル、よくやりました」

「ごめんね、勝手なことしちゃって」

「いえ、貴方が私の言葉を無視してまでやりたいというのならそれは時期が来たということです。好きなようにやってみなさい」

「ありが……」


 ミラエルの身体がふら付いた。

 そのまま足がもつれ、倒れ込む。


「あれ……?」

「大丈夫、よくやりました」


 カエデがミラエルを抱きとめる。

 発汗に眩暈、焦点が合ってない。

 目に見えて疲労している。


「すぅ……」


 そのままミラエルは眠ってしまった。


「短時間に経験を積み過ぎて脳が整理する時間を欲しているのでしょう」

「クラウス、おぶってやれ」

「かしこまりました」

「お願いします」


 ミラエルをクラウスへ預け、カエデはもう一度俺を向き直る。


「悪かったな、勝手にアドバイスして」

「いえ、今となってはむしろ感謝しています。あの子をやる気にさせてくれてありがとうございます。あの子はきっと今、退屈でも孤独でもない」

「そらどうも」

「しかし良いのですか? 継承戦では敵同士でしょう?」

「構わねぇよ。相手は強い方が燃える」

「……どうやら、貴方もミラエルに負けない異才を持っているようですね」


 そんな話をしていると大地が揺れた。

 断続的に揺れは続き、徐々に大きくなっていく。


「やっと本命らしいな」


 古代型迷宮【銀庫】。

 そこを守る守護者は通常の魔獣だけではない。

 ミラエルが倒していた魔獣など前座にも足りえない。


 この迷宮を巡回する番人。

 巨大な体躯と人型の構造。

 金属で覆われた皮膚。

 そして生物としての意識を持っていないかのような無感情。


 現代魔獣学では『ゴーレム』に分類されるが、その形状や性質があまりに通常種と異なるため、冒険者たちは別名でこう呼んでいるそうだ。


 いわく――鋼鉄巨兵ガーディアン


「そうですね。ここからは私もお手伝いをいたしましょう」

「剣聖に手伝ってもらえるとは光栄の極みだなぁ」

「全く感情の籠っていない感謝をどうも。貴方の誤解を解くためにも見せておきましょう。ミラエルに私が教えた術式の、完成形を……」


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