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42「固有属性」


 ケネンに襲われ撃退した後、王城に戻り自室へ向かう。

 するとその扉の前で第二王女が待っていた。


「久しぶりだな、シルヴィア」


 この五年間こいつと喋った記憶は数えるほどしかない。

 継承戦の会議や公の場で挨拶を交わす程度だった。


「俺を仲間に引き込むことはもう諦めたと思ってたんだが、今更なんだ?」


 冗談めかしてそう言うが、神妙な顔のシルヴィアは俺の冗談を不快そうに流す。


「少し二人で話せる?」

「悪いが今も別にお前と組む気は……」

「そんなことはどうでもいい。話せる?」


 人当たりのいいこいつには珍しく機嫌が悪そうだ。


「クラウス、俺とシルヴィアが出てくるまで誰も入れるな」

「かしこまりました」

「どうぞ? お姉様」


 扉を開けて俺の部屋へ招くと、全く躊躇せずシルヴィアは俺の部屋に入ってきた。


「失礼します」

「物怖じしねぇなお前」

「えぇ、ここ座るわね」


 シルヴィアは俺のベッドに腰掛け、俺は少し離れたソファへ座った。


「第一王子ダジルの目的は前王の統治を継承すること……」


 開口一番、シルヴィアはそんなことを言い出す。

 そしてそれは続々と語られ始めた。


「第一王女シャルロットの目的は自分を認めること。第二王子ケネンの目的は三人の奥方を守ること。第三王子コーズの目的は科学の進化。第七王子ミラエルの目的は孤独からの解放」


 そして――シルヴィアは続ける。

 最後に残った俺を指した言葉を……


「第十一王子、君の目的は『世界最強』。間違いないわね?」

「急にどうした?」

「私には見えるの、他者の【願望】が」

「そりゃどういう意味だ?」

「言葉通りの意味、ただの魔術よ。属性は少し特別かもしれないけどね」


 効果的に考えれば闇属性の精神干渉系魔術に分類されるだろうが、そんな超越した効果を持つ魔術が可能だろうか?

 無論、俺が理解できないような複雑な術式や大規模な儀式を必要とするような術式なら話は別だが、この女がそんな高等な魔術を行使できるとは考えにくい。


 だがもしもこいつの言っていることが全て本当で、そしてこいつ魔術師としての力量を俺が見誤っているわけではないのなら答えは一つ。


 闇属性よりももっと近い属性によるアプローチ。


「つまり【固有属性】か……」

「流石ね。私の目は生まれつきのものよ。対象の一定範囲内に五時間ほど連続して滞在する必要があるけれど、条件さえクリアすれば一目見るだけでその相手の願望を知ることができる」


 それが、こいつの卓越した人心掌握能力の根源になってるわけか。

 第二王女として生まれたコミュ力の高い奴、という理由だけにしてはこいつの後ろ盾は厚すぎる。


 この国のほぼ全ての貴族の意志を統一しているこいつの手腕は、確かに固有属性と言われた方が納得できるものだ。


「それで今日、ミカグラ商会の総合支店から城へ戻って来たお姉様シャルロットを見たんだけど、自分を認められさえすればそれでよかったはずの姉の目的は【立派になること】に近くなっていた。さりげなく理由を聞けば、君と会って来たそうね?」

「俺は言いたいことを言っただけだ」

「それでも私の勝率は下がった」


 眉間に皺を寄せてシルヴィアは俺を睨む。

 いつもの闘争を嫌う穏和な雰囲気とは違う。

 相当イラついてるらしい。


「……いいなその顔。それで? 態々自分の能力をバラしたんだ。なんか狙いがあるんだろ?」

「君はミラエルも覚醒させた。それに今度はシャルロットお姉様も……ケネンと魔術協会が君の暗殺に動いていたはず。どうしたの?」

「ボコった。そろそろ起きた頃じゃねぇか?」

「じゃあすぐに戻って。君の全速なら監視は振り切れるでしょう?」

「は? なんで?」

「魔術協会の最高位権力者――【魔術帝】ガルシア・ファスク・メリジアスがケネンを殺しに向かっているから」

「魔術協会はケネンの後ろ盾だろ? ケネンを殺してなんの得がある?」

「殺人の罪を君に着せるつもりよ。王子と言えど同じ王子を殺せば流石に罪に問われる。魔術協会も貴方を糾弾するでしょうしね」


 ッチ、めんどくせぇ。

 けど、こいつの言ってることは筋が通ってる。

 俺を殺るにしては数が少なすぎると思ってた。


「ガルシアって奴の願望も見えてるのか?」

「えぇ、この国の主要人物の願望は全て把握しているわ」

「結構細かく分かるんだな」


 最終的な目標だけが分かる能力なら、ガルシアがケネンを殺しに行くなんてことまでは分からないはずだ。

 だがこいつはガルシアの行動に確信を持っているように思える。


「私に見えている願望は一人に付き三つ。最終目標、中期目標、短期目標。君の場合は『世界最強』、『魔術と剣術の強化』、『禁書庫に入る』ね」


 生まれ付きそこまで詳細に人の心が分かったってわけか。

 そりゃ鑑識眼も鋭くなるだろうし、人当たりが良くなるのも必然か。

 全く憧れない能力だが便利は便利だな。


「けど、俺が邪魔なら黙ってりゃ良かったんじゃねぇのか?」

「私は兄も、姉も、弟も妹も……殺したいとは思わないから」

「そういや聞いてなかったな? お前の目的はなんなんだよ? そもそもお前は本当に王になりたいのか?」


 こいつやこいつの指示された誰かがが第六階層に向かおうとしてるところを、この五年間俺は一度も見たことがない。


「馬鹿みたいだと思ったから」

「何が?」

「私も、君も、他の王子や王女も。兄弟で競って、殺し合いにまで発展する可能性がある。そんな王位継承権争いなんて馬鹿なことを辞めさせる。私は国民より家族の方が大事だから」


 国王おやじが俺に語った王道とは違う。

 こいつは自分のために生きている。

 こいつだけじゃない、ダジル以外の王子や王女は皆自分のために王様になろうとしていた。


 やっぱり間違ってるのは王様あんただ。

 人は国のためにも民のためにも生きられない。


「いいだろう、パシられてやるよ王女サマ」

「ありがとう。こんなくだらないことで家族を殺させないで」



 ◆



 そして俺は酒場の地下室に戻って来た。


 そうしたらどうしたことか、ぶっ飛ばされていたのは『魔術帝』なんて大層な称号を持つ爺さんの方だった。


 しかもケネンの身体が淡い朱色の魔力に纏われている。

 あれは確実に魔術ではあるが、その規模や効果は基本的な属性術式とはかなり乖離している。


「ネル……何故戻って来たんだ? お前も私の邪魔をするのか?」

「あ? あぁ……だったらどうする?」

「殺してやる、私の大切なものを奪おうとするものは全て――」


 傷が多いな。

 この爺さんに魔術で付けられた傷か?

 それに精神的にもかなり不安定に見える。

 言動が普段のこいつとはかけ離れてる。


 暴走してる。


 会話で止める?

 俺が?

 苦手分野過ぎて泣けてくるわ。


「頭が冷えるまで相手してやる」

「ッ!」


 超加速によってケネンの姿が掻き消える。

 こいつの術式のベースは『身体強化』だ。

 だがどういう理屈か強化係数がとんでもないことになってやがる。


 それは俺の【燃身】の強化量を容易に越えていた。


「けどな、」


 ――【燃身】。

 ――【炎螺玉えんらぎょく】。


「肉弾戦は初めてか?」


 直線的な軌道。

 動体視力が追い付かない加速でも、魔力感知で追えている。

 燃身は俺の細胞そのものを加速させる。

 それは一時的な反射神経の強化も担う。


「膂力と強さは違う」


 首を逸らして真正面から大振りで撃ち込まれた拳を避ける。

 すると俺の後ろの壁が抉れた。

 拳圧でこの威力、直撃したら顔面ぐちゃぐちゃになってたかもな……


 カウンターとして腹に【炎螺玉えんらぎょく】を打ち込むが、手応えがおかしい。

 防御力、魔力に対する耐性もとんでもなく上がってるな。


 しかし俺の術式が無意味ってわけじゃない。

 加減はしたが、それでも腹に突き刺さったその一撃はケネンの身体を大きく弾き飛ばした。


 拳を掠め、腹に触れた感触から、ケネンの身体を覆う術式を解析する。

 解析の方を優先したからあまり威力の高い反撃はしてない。

 吹っ飛んだケネンも空中で体勢を立て直して普通に着地してるし。


 だが、そのお陰で理解できた。


 理解できたが……


「マジか……そんなギャグみたいな効果、ありえるのかよ……」


 俺が言えたことじゃないが、固有属性ってのはなんでもありだな……


「どういう意味だ……ネル……?」

「お前の術式を鑑定した。結果を伝える。お前の属性は【愛】だ。そしてお前が今纏っているその身体強化術式の効果は、お前の近くに居る愛する者との間に存在する愛情に比例した身体能力の強化だ」


 要するにこいつがバレッタを想う気持ちと、バレッタがこいつを想う気持ちの合計量だけ身体強化術式の倍率が強化される術式。

 そして、その本懐は愛情が強まれば魔力効率とは無関係に身体能力を【無限】に増加させることができる術式であるということ。


 ふざけた話だ。

 最大値が不確定、もしくは存在しない……ということを考えれば、俺が見てきたどんな術式よりも強い術式と言えるかもしれない。


 愛なんてモンが術式効果を延長し、強化する。

 それは魔術師の理外の思考回路でなければ辿り着けない、超術式だ。


「……愛?」

「そうだ。よかったな色男、少なくとも魔術の世界に置いてはお前の愛は本物だったらしい。お前はよくやった、後は任せろ」


 俺がそう言うと、


「そうか……」


 満足したような表情でケネンはうつぶせに倒れた。

 心配するようにバレッタがケネンに駆け寄る。


「あんた!」

「心配すんな、ただの魔力切れだ」


 魔力以外の力を使ってる分効率はかなり良いが、それでも魔力消費は途轍もなく多い。

 ケネンの魔力が万全な状態でも五、六分の発動が限界だろう。

 それでも破格の術式だけどな。


「そのまま寝かせとけ」

「分かった。悪かったね、助けに来てくれたんだろ?」

「まぁ……」

「起きたらちゃんと説明しておくから」


 別に俺はケネンを腹パンしただけなのに、感謝なんかされると身体が痒くなる。


「くくっ、ははっ……」


 それより俺はこっちの方が興味がある。

 魔術帝なんて大層な名前を持つその老人は、ケネンによって付けられたであろう損傷を治癒術式で回復させながら笑っていた。


「で? その感じからするとお前は何か知ってるんだよな? 固有属性は想いの丈なんてモンだけで覚醒するような都合の良い力じゃない」


 魔術に対する高い理解と長大な知識。

 自己を見つめる理性と自我を崩壊させるほどの本能が混ざり合うことで初めて生まれる道外れの魔術だ。


 ケネンの愛情がどれほどか知らない。

 ケネンの絶望がどれほどか知らない。


 だが、そういう問題じゃない。

 ケネンには固有属性を開発させるだけの魔術の練度が足りていない。

 それでは発生のしようがない。

 それが固有属性のはずだ。


 そしてそれは、シルヴィアにも当てはまる不可解。


「これこそ儂が求めた王家の血だ」

「王家の血だ?」

「先代も先々代もそうだった。代々この国を担ってきたのは固有属性魔術の使い手だった。だがその効果はどれも違い、そんなものが代を重ねて発現するなどあり得ない。ならば答えは一つ、王家の血には固有属性の覚醒を誘発させる力があるということだ」


 遺伝的な固有属性の発現確率の向上?

 そんなことがあり得るのか?

 いや、ケネンやシルヴィアが条件を無視して固有属性に覚醒しているのは事実だ。

 代を重ねても継続されるなんらかの魔術的な効果が王家の人間には常に発生し続けている?


「ケネンには新たな属性を覚醒させる器があった。残った問題は一つ」

「覚醒の引き金になるような感情の爆発か……」

「然り。故に儂はケネンに試練を与え続けた。それでも覚醒せぬから見限ろうと思っておったが最後の最後で期待に応えてくれた」


 気持ちの悪ぃ下卑た笑みを浮かべて、ガルシアはケネンを見ながら言った。


「ほんとぉにぃ、自慢の息子だのぅ~」


 魔術師は基本属性をベースに魔術を構築する。

 無属性魔術だけじゃ威力が限定され過ぎるから当然だ。


 固有属性の発現なんてただの運だ。

 それに頼ることを努力とは呼ばない。

 だから基本属性を極める。


 だがこいつは、そこに限界を感じたのだろう。

 基本属性魔術だけで為せぬことも固有属性なら成し遂げられる。

 固有属性とはつまり、魔術師の新たな可能性なのだから。


「儂は百三十年の時間をかけて魔術を極めた。だが探求は終わらない。研究対象がそこにあるのだから」


 魔術の修練を一通り終えた俺が【剣術】を求めたように、この爺さんは固有属性にその先を求めたってわけだ。


「ケネンは儂のものだ。誰にも渡さぬ。探求し研究し解剖し固有属性を紐解く。王位などどうでもいい、全ては儂が新たな属性を得て魔術の深淵へ至るため。儂がケネンに魔術を教えたのは最初からそのためだ」

「そうか。だけどそりゃ無理だな」

「抜かせ、傷は癒えた。ケネンの力は理解した。対処の方法も捕らえる方法も幾らでもある。そして貴様では儂を止めることはできん」


 ガルシアが立ち上がり、同時に魔力が一気に昂った。

 その総量は俺など比べものにならいほどに多い。

 百三十年、同じ身体で修練を積んだ結果なんだろう。


「ケネンは儂の研究対象モルモットだ。今なら見逃してやるぞ、小僧?」

「黙れクソガキ、魔術を極めただ? たかが百三十年でイキってんじゃねぇよ」


 お前と俺じゃ足踏んだ回数も、乗り越えた回数も、根本的な努力の質が違う。


「バレッタ、ケネンを連れて上に行ってろ」

「あ、あぁ分かった!」

「逃がすか! 見るがいい、我が魔――」


 ケネンを支えたバレッタが俺の後ろの階段を上がって行こうとするのを見て、ガルシアは術式を構築し始める。


「おせェ」


 ――身体強化【燃身】。

 ――【蒼爆】。


 強化した肉体と爆発による加速は、刹那の時間で俺を魔術師ガルシアの懐まで導いた。


 握った鉄剣から人体を突き刺した感触が伝わってくる。

 鉄の刃が生えた老骨の身体から赤黒い血がしたたり落ちていく。


「ぐふっ……」

「そこら辺の魔術師や剣士相手ならテメェの発動速度でも間に合うのかもしれねぇがな……」


 実際、ヤミよりはこいつの方が魔術の発動速度は速い。

 けど、俺よりはずっと遅い。

 そもそも発動しようとしていた魔術の規模に差があり過ぎる。


「こういう白兵戦じゃお前が今使おうとしたような高威力の魔術は、相手に隙があるか距離が離れてなければ使えない。俺の間合いも分からねぇお前に、戦場で魔術を使う権利はねぇよ」


 剣を引き抜くと、呻き声を上げながらガルシアは倒れ込む。


「貴様……第十一王子ではないのか? その歳でここまでの魔力操作技術を得ることなど不可能だ。貴様、一体何者だ……?」

「お前と同じ、年齢かさまししてるただの魔術師だ」

「寿命を延ばし若返ったということか? いや……それならば何故王子など……」

「さぁ、どうだろうな」


 こいつ自身もおそらくそうだが、こいつの言うように魔術によって多少寿命を延ばしてる奴は少ないが存在する。

 だが、その方法えんめいは俺の方法てんせいの劣化互換だ。


「けどこれだけは教えてやる。俺は四百年以上を生きている」

「ありえない……不可能だ……人の脳にはそれほどの記憶容量はない……」


 それは俺の固有属性【情報】が解決した問題だ。

 記憶は情報。それは魔術によって圧縮され、この脳に全て収まっている。


「お前は中々頑張った老人だと思うぜ、固有属性なんてものを研究しようとして、まだ自分を高めようとしてるんだから」


 だがこいつはケネンを切ろうとした。

 そして俺の前にも自分からは一度も姿を現さなかった。


 ケネンの属性の覚醒を促すため?

 違う。こいつはただビビっただけだ。

 自分が負けて、築いたものを失うことを。


 だから貴重なケネンを簡単に殺そうとした。


 結局、固有属性の探求よりも今の地位を守ることに固執したってことだ。


「挑戦より保守が勝ったお前の負けだ」


 それは賢者の思考回路かもしれないが、それは進化を諦めた思考回路だ。


 だからこそ、俺は【転生】を選ぶ。


 人の脳神経は成長する。

 経験によって形を変える。

 だがその機能は二十代後半から減衰し、歳を取るほど脳が固まっていく。

 そうして可能と不可能が固定化される。


 だがそれでは最強には至れない。

 愚考と知りながらそれでも前に進む勇気だけが、進化をもたらす必須の思考だ。


 俺は転生を繰り返すことで脳神経の成長を何度も繰り返すことができる。

 既存の概念、既存の物理、既存の術式、既存の思考――【常識】に囚われることなく、俺は俺を開拓してきた。


 だから俺はお前に負けない。


「馬鹿め、態々儂に治癒魔術を使わせる時間を与えるとは。治癒魔術を使いながら貴様に気づかれずに術式を構築することなど儂にとっては造作もないわ!」

「え? 気付いてるけど」

「ッ!? 【嵐衝荒波らんしょうあらなみ】!」


 大量の水がガルシアの足下から一気に放出される。

 それは敵を圧し潰す津波の魔術。


 だが、


「それはもう克服したんだ。【紫熱連環しねつれんかん】」


 全身を覆う球体状の結界には炎は付加され、触れる水分を蒸発させる。

 相手が単純な水ならこの魔術で完封できる。

 そして俺の魔術はこいつの魔術に後出しで追い付ける。

 魔力量に差があろうが、発動速度に致命的な差があるのなら負ける道理は存在しない。


「俺とお前は同類だ」


 こいつが魔術の深淵を探求しようとする欲求と、俺の最強へ至りたいという欲求はきっと大差のない感情だ。


「だけど世界最強になれるのは一人だけで、お前が俺の邪魔をするのならこうするしかない」


 ゆっくりと俺はガルシアへ近付いて行く。

 ガルシアは杖を下ろし、見下すように笑った。


「世界最強だと? まるで子供の戯言だな」


 剣を構え結界術と共に歩いて迫る俺にガルシアが迎撃の姿勢も逃走の姿勢も示さない。

 杖を下ろし、魔力を潜めたその姿は完全な諦めだ。


「だが同類というのは認めよう。貴様は所詮儂と同じ、狂気に憑りつかれた畜生だ」

「知ってるよ」


 その老人に既に抵抗の意志はい。

 今の攻防だけで理解したのだろう。

 この魔術師ガルシアが何をしようとも、俺を殺すことはできないと。


 最期まで、こいつは賢者で居たいらしい。


「あぁ、やっと終われるのだな儂は……」


 その満足そうな表情に異常に腹が立った。

 こいつがやりたくないことをやっていたとか、そういうことはないだろう。

 こいつの狂気は全てこいつの意志によって実行された。


 それでも、俺にはこいつの表情の意味がなんとなく分かる。


 こいつはきっと、終わる理由を探していたのだ。

 どこに行けばいいのかも分からない。

 どれだけ進めば終わるのかも分からない。

 その苦難と恐怖に満ちた道を、途中で諦める理由をこいつは得たのだ。


「そうか……貴様も同じか……。果たせたとしても、果たせぬとしても、あの世で飲み屋にでも誘ってやる」


 その顔が、ほんの少しだけ――羨ましかった。


「じゃあな」


 その言葉と同時に、俺はガルシアの首をね飛ばした。


「俺はお前ほど賢くない。お前ほど諦めが良くもない。だから随分先になるけど、それでいいならいい店見つけて待っとけよ」



 ◆



 その一件は俺とケネンによって国王へ報告され、ガルシアの殺害は正当なものとして俺は断罪されることはなかった。


 魔術協会は上層部の一部が解体され、その権利の殆どはケネンに預けられる形となった。


 全てはガルシアの独断であり、ケネンには非はない。

 それを示すような証拠がガルシアの住まいや別荘から次々と発見されたからだ。



 そのあと一週間ほど事情聴取のために身動きの取れない期間が続いたが、やっと解放された。


 これでやっと挑むことができる。

 古代型迷宮【銀庫】の最前線、第五階層に。


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