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二〇一七年七月二十四日

 二〇一七年七月二十四日。

 疲れた。

 試合前、樋口に会った。

 中学の頃と変わらず、面倒。

 俺のこと、大好き過ぎる。

 そしてあの日、樋口を助けたことを思い出した。

 髪型が違ったから、気が付かなかった。

 試合中、思考が過去へ戻る。

 搬送後、治療室で信二に言われた言葉が残っていた。

「お前が生きなきゃ、千紗を取るぞ」

 それに対し、「頼む」と答えた。

 無意識だった。

 死後のフォローを任せるつもりだった。

 支えてやって欲しいという意味。

 でも、結果的にそれ以上の関係になっていた。

 信二は、俺の想定よりも千紗先輩を幸せにしていた。

 支えていた。

 寄り添っていた。

 そのことに気づいた。

 気づいたことで、投球にかかっていた負荷が軽くなった。

 試合は勝利した。

 古橋さん、えぐい相変わらず。

 でも、勝った。

 果たすべき責任を果たした。

 スタンドに手を振った。

 皆喜んでいた。

 そして。

 千紗先輩がいた。

 笑顔で手を振ってきた。

 その笑顔を受け入れると、また工藤光として生きる意味を見失う。

 俺は、もう輿水大気ではない。

 工藤光だ。

 そのため、逃げた。

 逃げ出した。

 でも、信二に捕まった。

 体力的にも、精神的にも、限界だった。

 疲れた。

 神様との約束を守ることは困難。

 疲れていた。

 だから全て告白した。


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