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第20話

 研子に殺意を覚えていた馬場は、研子の居場所を知るために探偵に捜索依頼を出した。

 そして見つかったのは上野のとある集合住宅。

 自宅から三十キロ以上離れていて、小学一年生が徒歩で目指せるほどの距離じゃない。

 誰かに誘拐されたのだろうか。だったら都合が良い。その犯人に殺されれば。そう馬場は楽観的に考えていた。

 しかし――。


「誘拐という線はなさそうですね」

 目元を鋭くしてそう言った探偵は、煙草をふかした。

「どうしてそう言えるんですか?」

「私は警察関係の人と裏で繋がっていてね。安藤研子ってやつが殺されたっていう事実はないんだよ。あなたの元恋人も捜索依頼は出されていないみたいだしね」

 もくもくと副流煙が天井付近に溜まる。


「というか、この小学生に固執する理由はなんですか? まさかゲイもあってロリコンもあるとか?」

 嘲笑を見せる探偵を馬場は殴った。

「な、なにするんすか」

「俺はな、こいつを、こいつを・・・・・・・」

 そしたら探偵は嘆息ひとつ溢し、

「私はもうこれで。あとは全て自分でやってください。面倒事はごめんだ」


―――――――――――――――――――――――――


 地下鉄にて。電車が揺れながら駆け抜けて行く。

 馬場はぼんやりと宙を見つめていた。

 人の優しさってなんだろう。

 養子だった自分を、義父と義母は冷たく当たった。殴られたことだってある。

 家庭というのは狭い牢獄のようなものだ。束縛され、決まりルールがあり、本当の意味での自由などないものだ。

 高校卒業後、逃げるようにして上京し、大学の放送学科に入学した。


 そのとき、初めて出来たのが恋人だった。

 性別は女性。おおらかで、関西から上京してきたという、しかしながら関西弁などほとんど喋らないミステリアスな女性。

 名前は峰木藤子。


「私さ、将来は芸能事務所を開きたいんだよね」

 大学の学食で、カツ丼を頬張りながらそう宣言した彼女。

 馬場は笑って、

「お前も放送学科だろ。それは将来、映画監督とかプロデューサとかを目指す人が入る学科なのに」


「その、もっと恥ずかしいこと言うと、その芸能事務所はアイドル専門でやりたいんだよね」

 峰木が少し照れながら言った。


「ジャニーズみたいなもの、ってわけか? 自分で社長業をやりながらプロデュースもするという」

 スプーンで馬場を差しながら峰木は首肯した。

「そうそう。私にぴったりでしょ」

 茶目っ気たっぷりに微笑んだあと、それを無視した馬場のことを睨んで、困ったように唇を尖らせた。



 そんな彼女との破局は唐突に訪れた。

 いつも通り、ラブホで一夜を過ごし帰宅途中、携帯電話の電子音が鳴った。

『ごめん。もう別れない?』

 峰木からのそんな単刀直入な言葉に、動揺を隠せなかった。

『どうして? 俺のなにがいけなかったの?』

 その返信は、結局返ってこなかった。

 馬場はこのとき初めて、女性から男性へと恋愛対象を変えたのだ。女性は信用できないから。元々そっちの気があったので困ることはなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――


 現在、彼女はSWORDというアイドルをプロデュースしているらしい。所詮は地下アイドルの分際だ。人気なんて無いに等しい。

 結局は全員、身勝手で傲慢で、我が儘な奴ばかりなんだ。

 自分が一掃しないと。


 上野に着いた。探偵から渡された住所が記されたメモ帳を見ながら向かう。

 そして、とあるマンションに着いた。エレベーターで十階まで昇り、それから109号室のインターホンを鳴らした。

 ガチャ、と誰かが扉を開けた。光が差し込みその主が露わになる。

 研子だった。そいつは恐怖で破顔する。

 頭を掴み、心臓にナイフを一刺しした。

 吐血し地面に転がる。


「きゃああああ!!」


 たまたま家から出てきた隣人が悲鳴をあげる。

 馬場は、罪悪感のせいで動悸がするなか、家に侵入した。

 ある部屋を開けると、ベッドに横になっている女性がいた。

 自分の嫌いな女性だ。研子はこの人に匿ってもらっていたのか。

 金品を強奪するためにも家に侵入したが、こいつも殺そう。そう思い、女性の肺の部分めがけてナイフを刺した。


 それから棚の中の通帳や印鑑を拝借し、ここから去っていった。



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