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第30話

ダンススタジオの外で煙草を吸っている立花。

 どうやらラインを見て微笑んでいるようだ。


「結構、格好いいとこあんじゃん」

「何してんだ?」

「大島のラインのメッセージ見てるの。あいつの言葉、格好いいなあって。――えっ」

 立っていたのは僕こと大島錆斗だ。

 徐々に立花は顔を真っ赤にさせて、


「もう/// なんでここにいるのよ」

「いや、休憩終わりだから呼びに来たんだよ。で、どこの言葉が格好いいって?」

「そ、そんなのどうでもいいでしょ///」

「どうでもよくないんだが、俺さあ、格好いいとか言われたの、あんまりないからさ」

 するとスン、と立花は静かになって、


「私的には、あんたって格好いいと思うよ」

「変わった奴だな」

「どうとでもいいなさい。じゃあ、スタジオに戻るから」

 ステップを踏みながらあたかも上機嫌に階段を昇り始める。

 はて、あいつ僕のこと好きなのかな。でもどうして。そんな風になるきっかけなんてあったっけな。

 どれほど考えても思い浮かばない。そういえばあいつ、ラインのメッセージ見て格好いいとか言っていたなあ。

 僕は、スマホを開いてメッセージの履歴を確認する。

 そしたらこれじゃないかと思う言葉があった。

 ――立花にぴったりな花があってな。

 ――なにそれ。

 ――ブーゲンビリアっていう花だよ。

 ――それ、告白してんの? その花言葉って君に夢中でしょ。

 ――ああ。結局は綾瀬のことを許してくれたけどお前は盲目的なところもあるだろ。まあそれが可愛いところでもあるんだが。

 ――可愛いって言うな。

 これのことかな?

 僕はしばし黙考してから、

 ――週末、デートに行かないか?

 とメッセージを送った。

 すると勢いよく階段を降りてきた立花。僕の胸ぐらを掴み、


「あんた、浮気とかなに考えてんの。綾瀬に怒られるわよ」

「大丈夫だよ。映画のチケット持ってるからさ。一緒に行こうぜ」

 立花は、うーんと悩んでそれから分かったと述べた。


―――――――――――――――――――――――――――――


「そこ、ステップが違う」

 立花が激昂を相川嶺衣奈に飛ばす。

 頑張って相川は三人に付いていこうとするも、それが出来なかった。


「ねえ、あんたやる気あんの」

「あるに決まってるでしょ」

 ちょっと半ギレ状態で、相川が答える。

 本当だったら振り付け師が、ダンス指導を行うのだが、地下アイドルの事務所ではその人を雇えるほどの資金は無い。

 だからメンバー同士でこうしたほうが良い、ああしたほうが良いと指摘し合うのだが、それで時たま喧嘩になることが多い。

 だからと言ってはなんだが、これぐらいの言い争いでは制止にすら入らなかった。

 だが、立花があの言葉を口にするまでは。


「この人殺し」

 場が凍りついた。

 大和田と紀伊嶋が目を丸くしている。


「あんた、よくも言ったわね!」

 相川は立花の腹を蹴った。

 それからダンススタジオを抜け出した。

 僕は立花に駆け寄って、声をかけた。


「これが大丈夫に見える?」

 そう言っても、心配させないように半笑いを見せている。

 僕は紀伊嶋と大和田に今日は解散だと伝えて、立花の肩に手を回して外に出た。


「痛みが消えたらどっか息抜きに行こう」

「どこに行くのよ」

「・・・・・・ラーメン、食いに行くか」

「それ、いいわね。あんたにしては良い提案じゃないの」

 タクシーを呼んで、一蘭ラーメンへと向かった。

 三十分ほどで目的地に着いて、昼時ということもあり、行列だった。

 まあ、その間ゆっくり話せるか。そう思い最後尾に並ぶ。


「あのなあ。相川に人殺しは言いすぎだ。あいつは誹謗中傷はしたが、でもそれだけだ。人殺し呼ばわりされる筋合いはないと思うぜ」

 すると立花は俯いて、

「分かってるわよ。でも、たとえ誹謗中傷だとしても、綾瀬を苦しめたことには変わりないでしょう」

「とんだ変わりようだな。初めは恋愛をした綾瀬を潰す勢いであることないこと触れ回っていたのに」

 立花が下唇を噛む。

 僕は嘆息をついて、


「悪かった。別に嫌みを言おうと思っているわけじゃないんだ。お前と相川は似た性質を持っていると思ってな」

「・・・・・・」

「頼むから、仲良くしてやってくれ」

 列が動き、店内に入れる。

 二人とも一蘭ラーメンを頼み、届いたそれを無言で啜った。

「ねえ。こんな不謹慎なこと言いたくはないんだけどさ。もし綾瀬が亡くなったら、私と付き合いなさいよ」

「は?」

 立花は麺をずずっと啜る。租借しながら何でもないように。

「私、あんたのこと好きだからさ」

「そりゃあ結構なこったで」

 ぎりっと立花が睨んでくる。

「馬鹿にしてるの?」

 それに僕は肩を竦めた。

「僕も、立花のことは好きだ。じゃあ、僕が綾瀬が死んで廃人になりそうになったら助けてくれよ」

 そしたら、立花は笑みを見せた。

「任せておいてよ」

 全く、頼りにはなりそうにないな。






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