僕はスマホで今回視聴する映画の、豆知識を検索していた。
「お待たせ」
目線を上げると立花がくっきりメイクを施して、Yシャツにカーディガン、ネクタイにミニスカートというまるで学生デートのような格好をして立っていた。
はっきり言って可愛かった。僕は目を丸くして思わず、
「最高だな」
と漏れた。それを聞いていた立花はキモい、と容赦のないことを述べて、それから僕の手を取って歩きだした。
「まずさ、腹ごしらえしない?」
「おう、どこでもいいぜ」
「じゃあ近くの十円パンでも食べに行きましょうか」
「おっ、いいね」
渋谷区のとある一角にその店はある。二人分購入して、ベンチに座る。
十円パンを割ると中からチーズが伸びてくる。
僕はそれを食べて租借する。なんだろうホットケーキのような生地に濃いチーズが相性ぴったりだ。たぶんこれ腹持ちもいいんじゃないのかな。
「で、今回観に行く映画はなんなのよ」
「峨朗の男っていうヤクザ映画。お前にぴったりだろ――いっ!?」
立花が僕の足を踏んでくる。容赦がないな。
「嘘だって。青春には君しか必要ない、っていう恋愛映画だよ――うっ」
再び足を踏んでくる。理不尽だ。
「あんた、ほんとバッカなの。なに恋人でもない女とデートするのに恋愛映画をチョイスすんのよ」
「おかしいか? そんなに文句を言うんだったら
じゃあアニメ映画でもいいぜ。前売り券買ったらいいんだからな」
「別に、恋愛映画でもいいけど・・・・・・。勘違いしないでよね」
立花は唇を尖らせている。
「いや、勘違いする要素がゼロなんだが」
また足を踏んづけてくる。
「あんたはいっつもいっつも一言余計なんだから」
「痛いんだよ。もうやめろって」
それから僕たちはなぜか笑いが込み上げてきた。こんな日常、僕が送れるなんて。
その日常の一欠片に、綾瀬がいることを僕はすっかり忘れていた。
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映画を見終わった後、立花は喫煙室で煙草を吸っていた。
僕はというと遊歩道に立ってタクシーを捕まえていた。
数十分前。僕は立花に夕食の話をしていた。僕的にはフレンチ料理店などの静かな店で、映画の感想を言い合いたいと思っていたのだが、なぜか彼女はファミレスに行きたいと強く要望した。
タクシーが僕の前に停まり、それに乗り込んで、
「すみません。○○町のクストまで。あと、もうしばらくしたらもう一人来るんで」
「分かりました」
タクシーはハザードランプが付く。その数分後、立花が座席に乗り込む。
では、もう行って下さい。そう言ってタクシーの運転手に指示を出すとゆっくりと発進した。
クストはものの十分ほどで着いた。
料金を支払って、車から降りた。
店内に入ると、少し混雑していて待ち時間があるらしい。
待合の座席に座る。すると立花が僕の手を握ってきた。
僕は立花の顔を見る。
「この時間だけ、あんたを占領させて。もう少ししたらあんたは綾瀬の彼氏として、家での介護が待っているんだから」
僕は強く握り返して、立花の肌の温度を感じ取った。