「ねえ、あんたらどういう関係なの」
「は?」
ダンススタジオに大和田と一緒に顔を出すと、紀伊嶋がそう追求してきた。
「マネージャーとアイドルが一緒に出勤って、もはや童貞が喜びそうな猥談じゃないの」
その言葉に準備運動のため屈伸していた立花は嗤い、
「大島さんって童貞っぽいよねえ」
そんな言葉に僕は怒ろうとしたが、一瞬綾瀬の裸身とその次にHOTの治療を受けてベッドに縛られている姿がフラッシュバックし、言葉を失う。
「そうかもしれないな」
童貞というか。子供というか。
結局は、自分の願いすら叶えられなかった憐れな男なんだ。
唐突に雰囲気が変わったこの場に、大和田は相応しくない言葉を言った。
「ねえ、あとで一緒にランチ行かない」
「は?」
場が凍りついた。いや、なんでマネージャーがランチ誘われただけで場が凍りつくのかは疑問でしかないが。
大和田は僕の服の袖を握った。近づいたことで香水の匂いが香った。
「ねえ、あんた何してんのよ」
立花が大和田の腕を掴み、僕から離す。
「ランチだったら私と行くもんね。大島さん?」
「そうなの? 大島
立花は大和田を殺す勢いで彼女を睨み付けているし、しかし大和田は余裕綽々だ。
すると大和田は僕の胸に指でハートを書いて、
「ねえ、昨日のラブホ楽しかったね。あんなこと、こんなこと。たくさん求めてくれたね♡」
すると立花の顔面が蒼白になる。相当ショックだったのだろう。そして瞼を固く閉じて、
「アホーーーーーーーー!!///」
僕の顔面に拳を食らわせた。
ふらふらとなって、意識が保てなくなった。
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目を覚ますと、もちもちとした肌触りを感じた。
ごそごそすると「ん。くすぐったい」となにやら厭らしい声が聞こえた。
僕はすぐに起き上がると、相川が座っているのが見下ろせた。もしや・・・・・・。
「あっ、その、床だと頭が痛そうだったから膝枕を」
僕は照れてしまって、
「お、おう」
としか言えなかった。それでも言葉を続けるしか羞恥心から逃れられないと分かっているので、
「みんなはどこに行ったんだ?」
と訊ねてみる。立花や大和田などのメンバーがダンススタジオから消えている。
「ああ。みんなで回転寿司に行くって」
「――あいつら、仲が良いのか悪いのかわかんねえな」
そして相川も立ち上がり、
「私たちもご飯を食べましょう。私の家に来て」
「いいけど・・・・・・・、ってえ?」
「綾瀬のことを一緒に話しましょう。それと最近のSWORDのみんなのあなたへの態度の話とか」
「わ、分かった」
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SWORD事務所の社宅にて。
相川の部屋は片付いていた。観葉植物が窓際に飾られていて、テーブルの上には名前の知らない花が彩りを見せていた。
そして驚いたのは本棚にゼクシィがあったことだ。こいつ、この歳で結婚願望とかあるのかよ。
そんなことを思っていると、相川は適当にTVでも見ててと言ってコンロの火を付ける。
TVでは昼ドラが流れていた。
この昼の三時、その時間帯には似つかわしくない、セックスシーン。僕は嘆息を吐いて、チャンネルを変えた。
「ねえ、私がこんなこと言うのっておかしいかもしれないけど、綾瀬を日本武道館に出すのはやめた方がいい」
「どうして?」
「公衆の面前に、もう自分のオムツすら変えられないALSの患者を晒し出すことは本人の望んでいることなの?」
「ッ――!!」
「それと、SWORDのメンバーはみんな、あんたのことを心配している。その態度の示し方は人それぞれだけどね。なにを心配してるって綾瀬が亡くなったとき、あんたが自分の原動力を失うんじゃないかって。みんな、あんたのことが好きだからさ」
「だからなんだよ」
「AKは金儲けのためにしか綾瀬を見ていない。まるで私が綾瀬を殺すために『青い薔薇』を運営していた時のようにね」
「経験者は語るってか」
そう嫌みを言ってやるとそうねという答えが返ってきた。
「ねえ、綾瀬が亡くなったときのことは考えているの?」
「さあな。野となれ山となれだわ」
「・・・・・・私はあんたのことが好き。この気持ちは変わらない。だから待ってる。もしあんたが別の人を選んでも、構わない」
出来たよ。そう言って皿に盛られていたのはオムライスだった。
「綾瀬の好物を一緒に食べましょう」
「・・・・・・ああ」
黄色い卵の上に、『blue rose』と真っ赤に書かれていた」
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一緒にダンススタジオに戻ろうか、という時に相川は僕に青い薔薇を
「これ、私から
僕は簡単に礼を言った。この、花の意味さえ知らずに。