「…えっ?」
火球は木に当たると、先ほどの魔素球のように形を崩し……燃焼しだした。
球体からただの火になると当たった木を少しずつ燃やしていく。
アリスは今起きた現象をただただ茫然と見ていることしか出来なかった。
「はい?え?なんか燃えてますけど?」
アリスは一瞬呆然としたが、すぐに状況を理解した。
「燃えてますけどおおお!」
「ああ燃えてるな……明るくて……温かい」
アリスが振り向くと龍は燃えていく木を眺めながら煙管で一服とっていた。さながら優雅に暖を取りながらくつろぐキャンパーである。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうが!燃えてるって!結構燃えてるって!しかも木の間隔が狭いからすぐに延焼しますよ!?水!水!あ、魔素球!」
アリスは直ぐに杖みてイメージした。
「……ゴルフボールじゃダメ……もっと大きな……サッカーボールぐらい……」
イメージすると、杖の先にサッカーボールの大きさをした魔素球が出来上がる。
「ッシャア!行けえ!」
それを燃えている木に向かって放つ。
放たれた魔素球は木に当たって先ほどの魔素球に比べて少し大きい音で破裂した。
「おし!いったか?ん?」
木は今もなおメラメラと燃えていた!魔素球の爆発では消せなかったようだ。
「やっぱり水か…、だけどこの状況で水なんて…、…!」
アリスは自分の体の下の方に視線を送った。
そうこの状況で真水ではないが自分の体から出せる唯一時によっては大量であり少量水分が出る場所がある!
それは大抵の人間が生理現象によって出さなければならないもの…尿である。
「……よ、寄りにもよってここでしろと?いやいや、男なら竿があるから簡単でしょうけど!狙いが…………あああ!くっそ!後で……あいつを殺す!絶対に殺す!」
最期は小声になりつつもアリスは涙目になりながら意を決し、ズボンを下ろそうとした。
その時だった。
カーッン!
乾いた木の音が龍がいた方向からした。
アリスがその方向を見ると、龍は木の箱に煙管の灰を落とすと、すくっと立ち上がる。
そしておもむろに杖を握り燃えている木に向けた。
「だから!その魔素球じゃ消えないんだって!私の見てたでしょう!」
涙目どころか半べそになりながら少しだけ脱がした服を握りしめ龍に訴える。
「そりゃあ、魔素球と火球しか知らないんだから当然だ。だが少なくとも俺は人としてこの世界に一番長く住んでる魔法使いだ。お前より使える魔法の数もお前とは比にならん」
(覚えてるかどうか、別として)
そういうと燃えている木に向かって唱えた。
「ネロクステ《水球よ飛べ》」
龍の杖から出たのは魔素球でも火球でもない、透明度を増した球体である。
その球体は燃えている木に飛び当たる。
そして崩れるとともにバッシャーンという音とともに消火が始まる。
しかし完全には消えず、木の上の方の火はまだ燃えていた。
「…もう一発」
今度は何も唱えずに木に向かって杖を振る。
再び水球が飛ぶと、火を消し去った。
鎮火完了である。
「ふう、鎮火だな、どうだ、魔法を覚えるとこんなこともできるんだ。ちなみに今のは水球…、水の玉だな!魔法はすごいだろ?…ん?」
龍がアリスを見る。
アリスはズボンを戻すと、満面の笑みでファイティングポーズを取っていた。
……その顔は涙で濡れていたが。
「あ……え……ん?」
「ふふふ」
「あ…、あはははは」
(どこかで……同じようなものを見た気が……)
そう思うや刹那、アリスの右手から龍の腹へのボディーブローが炸裂した。
「ちょっ!うぐふぉ!」
強烈なパンチは龍の腹をえぐり、強烈な痛みを脳に伝達する。
龍はお腹を押さえてその場でうずくまりながら、右手でグッジョブのサインを上げる。
「い、いいパンチだ、まあさっきの金的に比べれば楽なもんだが」
「そうですかーそれはよかったですねー!」
アリスはガンガン、龍を足の裏で蹴りまくる。
「ちょっ!ま、ま」
「私が!どんな!思いで!下を脱ごうとしたかわかりますかー!」
「え?なんで?」
「とぼけるんじゃないわー!」
アリスの最後のけりをなんとか手で受け止める。そしてなんとか立ち上がると、服の泥をはたき落した。
「落ち着け、なんでお前が脱ごうとしたのかは知らないが、ある意味テストのつもりだったんだ。お前の適応能力のな」
「は?何のテスト?」
「簡単だ、いいか?お前は『転生者』だ。生きる上で最低限の知識を持ってる。その上で魔法という新たな知識を得たお前がどう行動するかを見たかった。合格だ」
アリスは腑に落ちないという顔だったが、納得?はしたように見えた。
(まあ、嘘なんだがな。金的の仕返しだし、こんなテスト、他の転生者にしたことないし)
ちなみに龍は下を脱ぐという行為の意味もちゃんと理解していた。
(もし本気で来られたら……死にはせんでも痛いし)
「そ、そう!だったら最初に言ってくれない!言ってくれたらこんなに焦らなかったのに!」
「それだと、適応試験にならないだろ?抜き打ちでしないと…。こういう試験は抜き打ちでやるもんだ」
「……この野郎」
やはりまだ腑に落ちない様子のアリス。
だが、聞きたいこともあったので怒りを飲み込んだ。
「それとさっきから言ってる『転生者』だっけ?どういう意味?転生って生まれ変わるとかそういう意味でしょ?説明しなさいよ。私のキャラ設定がそういう立場ってこと?」
(やっとか、結構時間かかったな…、まあ半分が俺のせいか)
「ああ、今からそれを話す。だからそこの椅子に座れ」