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入学式前日 2

そこには二人の女の子がいた。


しかし、どちらも瓜二つ、つまり双子だろう。


髪は黒く長く、姫カットのような髪型で、顔もほぼ同じ。唯一の違いは胸の大きさだ。一方は小さく、もう一方は大きい。


だがアリスが驚いたのは…!


(ちょーーーーー、かわいいいいい!姫カットってこんなに似合う人間がいるのか!?しゃべらなければ等身大の人形にしか見えない!まぶしいよ!光ってるよ!)


超美少女だ。


アリスはにやけるのを必死に抑える。


「え、うーんと…あれ?どっち?」


双子の片方が話しかける。


「あなた、本当に龍さんの弟子なの?」

「まだわからないわ。この子が虚言を言っているだけかもしれないし。」

別の片方が答える。どちらも声がほとんど同じで、ますます混乱する。

「ちょっとストップ!」

「「わ!びっくりしたー!」」


今度は二人が同時に、しかも声が似ているため、アリスの頭では一人の声として認識されてしまう。


アリスは頭を抱える。


(うわー、これは無理だ…どちらかが腹話術でもしてるんじゃないのか?)


「ふふふ」

「ふふふ」


双子が楽しそうに笑い出す。


「何!?」

「ははは!ごめん、反応が面白すぎてからかっちゃった!」

「声は作ってるだけだよ。」


すると、片方の声が低くなる。


「へ?ほあ?」

「声だけは似なかったんだよね!性格も体型も似てるけど、声は違うんだ。」


(親としてはどうなんだ…それにしても、両親はどんなイケメンなんだろう?)


「私は霞幸【かすみ さち】。」


声が変わらない方が自己紹介する。


「私は幸【こう】。」


声が低い方。


「「二人とも名前に幸って書くんだよ!」」


また同じ声で、アリスの頭は混乱する。


「気持ち悪い?」


さちが尋ねる。


(正直、ちょっと気持ち悪いかも…でも)


昨日、友里さんに言われたことを思い出す。


『主人公なら困難に立ち向かうものよね?』


(これは友里さんの言う困難ではないけど、見た目は私と同い年…ということは同級生かも?それに美少女姉妹なら友達になって損はない!)


「声が違うなら、別に大丈夫だよ。」


双子の顔がパッと明るくなる。


「本当に!?ごめんね、ただのいたずらだったから、もうしないよ。実は、私たち今年ステア魔法学校に入学するんだ。よければ友達になってくれない?」


(来た!)


「もちろん!私はアリス。よろしくね!」


アリスはさちとこうと熱い握手を交わした。


(やった!同い年の美少女友達ゲット!でも、男だったら姉妹丼とかできるのに…!)


「へえ、没落した名家の忌子と友達になるのか。龍さんの弟子もなかなか物好きだな。」


その時、上から男の子の声がした。


さちとこうの顔色が一気に曇る。どうやらこの言葉に怯えているようだ。


(確定!こいつがマルフォイだ!「忌子」って、没落した名家から生まれたから?それとも双子だから?)


アリスは呆れながら見上げる。


そこには、うすら笑みを浮かべて見下ろす男の子が立っていた。アリスと同じ年齢くらいだろう。


「何か用?」

「いや、2階で龍さんの弟子だって聞いたから、どんな奴か見に来ただけだ。まあ見物客さ。」


(おいおい、こっちが檻の中の動物みたいに扱われてる!)


「そう?じゃあ見学料取るよ?5千円でどう?」


適当な金額を言ったが、この世界の通貨がわからないので適当だ。


「5千円でいいのか?俺は名家の長男だぜ?それくらいなら安いもんだ。」


男の子はアリスが冗談で言ったのだと思ったのか、引き下がる気配はない。


しかしアリスの考えは別だった。


(どうでもいい、この世界の情報が欲しい!少なくとも15歳の日本人が知っている情報はほしい…この世界で通用する知識を手に入れなきゃ!)


「ふーん、冗談だよ!本気にしないでね。ところで、龍さんってそんなに有名人なの?私、識人なんだけど、あまり知らないんだ。」


アリスは龍の情報を欲していた。


「お前、龍さんの弟子なのにそれも知らないのか?まあ識人なら仕方ないな…日本人なら幼稚園で習うことだぜ。天皇と龍さんはこの国で一番尊敬されてるんだよ。」


(あ、やっぱ日本だ!幼稚園があるんだな…)


「…はい、有名なのは知ってる。でも知りたいのはその内容。何をしたらそんなに有名になれるの?」

「うーん、それは知らねえよ。学校で習ったのは、400年前に大きな戦争を終わらせたとか、日本と他国の戦争を回避したとか。」


(意外と情報が出てこないな。師匠の功績、もう少し詳しく載ってると思ったけど。もしかして機密情報だから載せられないのかも。)


その時、アリスはさちとこうが震えているのに気づく。


二人は「忌子」という言葉におびえているようだ。


アリスは二人を守る決意を固め、男の子に言った。

「ちょっと気になったんだけど、『忌子』って何?友人が怖がってるんだ。謝ってくれない?」

予想外の返答が返ってきた。

「は?謝るわけないだろ。あいつら、霞家の人間だからな。うちの東條家とは敵対してるんだ。」


アリスは二人を見るが、二人は怯えている様子。


その時、別の声が聞こえた。階段の下から二人の男の子が現れた。


「真一郎くん……」


(こいつが真一郎か…)


「なんだよ、こっちは識人と話してんだ。貴重な話を聞いてるんだぜ?」

「いいえ、帰る時間です、真一郎。」


真一郎は突然青ざめ、女性の声を聞いて顔色を変えた。


「は、母上!」


(母上って…いつの時代だよ。名家オーラがすごいな。)


真一郎の母が歩いてくると、アリスとさち、こうを見た。


「真一郎、失礼していないかしら?」

「母上!あの二人は霞家の人間です。謝ることはないはずです!」

「それは知っています。でもこのお嬢さんは違うでしょう?」


アリスは少しにやけてしまう。


「お嬢さんだなんて。」

「でも、彼女は識人です。」

「識人だからどうだというのです?あなたは何か勘違いしているのでは?私たち東條家が敵対しているのは霞家だけ。識人たちが持ってきた知識はむしろありがたいものです。」


真一郎は完全に論破され、下を向いて言葉を失った。


「ごめんなさい、お名前は何というのかしら?」

「あ、アリスです。4日前にこの世界に来ました。明日からステア魔法学校に入学します。」

「そう、アリスさんですね。明日から真一郎と同じ学年になるのね。できれば仲良くしてあげてくださいね。」


その時、アリスはさちとこうが真一以上に委縮するのを見る。


「ねえアリスさん、真一郎から聞いたかもしれないけど、この二人、霞家は昔禁忌を犯した罪人の家系なの。そして、数ある名家の中で破門されて没落したのは霞家だけ。今や名家の中には政治家もいるし、あなたも識人なら政府関係者と会うことがあるでしょう。でも霞家と関わっていると何かと不便かもしれませんよ。今からでも私たちと仲良くしておいたほうがあなたのためだと思うわ。よく考えなさいね?」

「………」


アリスは今すぐにでもこの人を殴りたかった。でも、脳と体が全力でそれを阻止した。


サチとコウは今にも泣きそうだ。まるで飼い主に捨てられそうな犬のようだった。そして、お母さんの顔を見る。変わらず自分が正しいと信じ切っているようだ。恐らく、彼女の言葉は善意から来ているのだろう。


(確かに、私はこの世界に来たばかりで、事情もよくわからない。たぶん、東条家と霞家には何か因縁があるのだろう。でも、そんなの私には関係ない。それに、今さっき友達になったばかりだよ?大人の事情で縁を切れって?そんな選択肢、私にはない。それに、暴力はダメだ。殴られても、言葉で返せばいいだけ。)


アリスはサチとコウの顔を見て、満面の笑顔を向けた。


二人はその笑顔に疑問を抱き、恐怖で「安心して」と「さようなら」が混ざったような表情をしている。


アリスは真面目な顔に戻し、お母さんに向かって敬語で答える。


「お誘いは嬉しいですが、私は二人と別れることはありません。二人はこの世界で初めてできた友人です。そんな理由で縁を切る選択肢は私にはありません。」

「でも、ついさっき友達になったばかりじゃないの?お互いをよく知らないのに、どうして友達だと言えるのかしら?おかしな話ね。」

「違います、お母さん。友達ってのは、たとえ一緒に過ごした時間が短くても、お互いが友達だと認め合えば友達なんです。お互いのこと?これから知っていけばいいだけです。それに、二人と別れる理由なんて絶対にありません。」

「なぜ?」


アリスは二人の後ろに回り、肩を掴んで言った。


「こんなに可愛い二人の友達をやめるなんてありえません!見てください、この髪!すべすべで長くて綺麗!前髪は姫様カット!姫様カットって、顔の形が合わないと微妙になることもあります。でも、彼女たちは完璧に似合っています!こんな最高の姉妹、友達をやめるなんて絶対に選べません!」


思いっきり言い切ると、息切れしそうになった。


(あー、公開で性癖暴露しちゃった…でも後悔はしていない。もし二人がこれで友達をやめたら、さすがに自殺ものだわ。)


数十秒の沈黙の後、真一郎が意外にも口を開いた。


「さ、さすがだな。物好きだな、やっぱり変わり者って言われる龍さんの弟子になるだけのことはある。」

「っ!」

「え?マジ?」

「マジで?」


驚いたのは、後から入ってきた母親とその取り巻きたちだ。入ってきたばかりだから仕方ない。


「アリスさん、本当なの?」

「本当です。詳しくは言えませんが、龍に弟子になれと言われて、ほぼ強制的に弟子になりました。東條家は名家ですよね?なら、政治家などとコネがあるでしょうから、調べてみてはどうですか?」


少し挑発的に返すと、お母さんの表情が無表情から驚き、そしてどこか悔しそうな顔に変わった。


「話が違うわね。真一郎、すぐに帰るわ。確認しなければならないことがあるから。」

「え?あ、はい。」


母親は真一郎を連れて急いで店を出て行った。


「あ、ちょっと待ってください!二つだけ聞きたいことがあります!」


母親は立ち止まり振り返った。


「二つだけよ?」

「お名前を教えてください。」

冬香とうかよ。覚えておきなさい。また会うかもしれないから。」

「はい…あと、もう一つ、簡単でいいので、師匠、龍さんが英雄になった経緯を知りたいのです。」

「弟子なのにそんなことも知らないのかしら?」


(すみません!転生して師匠と会ってまだ4日しか経ってないんです!この世界の情報を集めることに必死で、師匠のことは後回しだったんですよ!)


「師匠はあまり話さない方なので…それに、この世界に来てまだ4日目です。」

「そう。私もあまり詳しくはないけれど、教えてあげるわ。これは有名な話よ。およそ400年前、この世界で初めて大きな戦争が起きたの。闇の魔法使いの軍勢と、当時の日本や諸外国との連合軍との大規模な戦争だったわ。戦争が始まった時期は少し前のことらしいけど、文献には残ってないからわからないらしい。でも、戦争が終結した時に関する記録はある。その時に、闇の軍勢のトップ、闇の女王『ファナカス』を単独で撃退したのが龍様よ。そして、その時に闇の女王の呪いを受けて、不老不死になったらしいわ。あとは自分で調べるか、本人に聞いてちょうだい。」


そう言うと、冬香は真一郎や取り巻きを連れて店を出て行った。


「……」


新たに得た情報があまりにも重要すぎて、アリスは脳をフル回転させていた。


(闇の女王?ヴォルデモートじゃなくてファナカス?誰だそれ?この世界でヴォルデモートの立ち位置なのか?それに、闇の女王の呪いで不老不死になった?ということは、撃退したということは生きているということ?でも、戦争は終結したって言ってたし…情報が少なすぎて、まだよくわからない…。でも、死んだなら師匠の呪いは解けているはず…いや、駄目だ。情報が足りない。)


「あ、アリス?」

「あ、ごめん。」


コウが話しかけてきた。急に黙り込んだので心配したのだろう。


振り向くと、二人が突然抱き着いてきた。よく見ると、二人とも泣いている。


「ど、どうしたの?」

「ありがとうーーーーー!」

「………」

「ごめんね…でも本当に嬉しくて…」

「わかった、わかった。とりあえず落ち着こうか。」



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