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入学式前日 3

数分後、アリスは店主から教科書を受け取り、二人と本屋から少し離れた歩道のベンチに座っていた。


二人を落ち着かせるためだ。


外に出てベンチに座ったことで、泣きたい気持ちも落ち着いたのか、二人は次第に平静を取り戻していた。


「ごめんね、急に泣き出して」

「ごめんなさい」

「いや、それは気にしてないよ。まあ、急に泣き出して抱きつかれたときは正直焦ったけど、いい匂いもしたし…。それにしても…あんなに泣くって何か事情があるんでしょう?良ければ話してくれないかな?」


龍のことも気になるが、それは龍に直接聞けば良いことだ。


でも、名家の話は今しか聞けないだろう。


(とりあえず、この国には名家ってものがあるんだな……旧日本でいう財閥みたいなものだろうか?でも、財閥がいくつも存在しているのはどうなんだろう。それに冬香さんが私が弟子だと知った時の反応…名家には何か問題があるはず。それが知りたい)


「私たちも詳しくは知らないけど…」

「知っていることだけで大丈夫だよ」

「霞家は一応名家とされてるんだけど、他の名家と違って、うちは除籍もできない状況で、力もほとんどないんだって。お母さんが言うには、見せしめで残されているだけだとか。後から名家に追加された家にこうなりたくなければ、5大名家に従えって言われてるんだって。だから、名家としての扱いもひどくて、忌家のように扱われてるんだよ」

「うわー」


予想以上に深刻な状況だった。


「霞家が犯した禁忌って、具体的には何?」

「それが分からないんだよね。400年前のことだから記録がほとんど残ってないらしいし」

「へー。あと、忌子って何?まさか双子は呪われてるみたいな迷信があるわけじゃないよね?」

「え?そんな古い迷信あるわけないでしょ!名家にとっての忌子って、つまり跡継ぎ問題だよ」

「はい?」

「名家では、跡継ぎを決めなきゃいけないじゃない?兄弟なら長男とか長女が継ぐんだけど、双子だとどっちを継がせるか迷うんだって。だから、名家にとって双子は忌子って扱いになる」

「ああ、なるほど、そういうことか」


金持ちの家に生まれる宿命とも言えるだろう。


長男や一人っ子なら可愛がられるけど、兄弟がいれば必ず家督争いに巻き込まれる。


そして、逆に言えば自由もない。


そのことを想像したアリスは身震いした。


「でも、なんで泣いてたの?」

「うん、さっきも言った通り、霞家は他の名家から差別されてるんだけど、それは私たちも例外じゃなくて…。幼稚園、小学校、中学校ではずっと他の名家の子に変な目で見られて、友達もできなかった。でも幸い、それ以上のいじめはなかったかな。だから、アリスちゃんがあの人たちの話を聞いて離れたくなると思ってたけど、実際は違ってて、友達でいてくれるって聞いて…ああ、生まれて初めての友達ができたって思ったら涙が止まらなくて」


アリスはその瞬間、二人を強く抱きしめた。


「大丈夫!私も学校に入ったら何か言われるかもしれないけど、私は絶対にさちとこうの友達でいるよ!」

「ありがとう!」

「ありがとう!」


涙を流しながら抱き合う三人の姿は、外から見ると不思議な光景かもしれないが、アリスはあることに気づいた。


「あ!やっべー!思い出した!」

「どうしたの?」

「買うものまだあったわ!今思い出した!」

「あ、そうなんだ!じゃあ一緒に買いに行こうか?」

「ダメだよ、さち!そろそろ帰らないと…明日の準備もあるし」

「ちょっと待って!帰るのは仕方ないけど…一つだけお願いがあるんだけど…」

「なに?初めての友達だもん!なんでも言って!」

「そうだよ、なんでも言って」


頼られるのが初めての二人は、期待に満ちた目でアリスを見つめる。


(君たち、本当に今まで友達がいなかったんだね)


「えっと、杖を買いに行くんだけど、師匠が店の名前と場所をメモに書いてくれたんだ。でも、さっきの店員の反応からして、読めない可能性が高いから解読をお願いしたい。できれば案内も…」

「任せてよ!そのメモを見せて!」


二人は龍が書いたメモを見て困惑し始める…コウを除いて。


「うわー…確かにこれは読めないわ…日本語だよね?」

「うーん、多分?でも本屋の店主は読めてたから、日本語なんだろうけど」

「読める」

「「はい?」」


アリスとさちは驚きの視線をコウに向ける。


「なんで!?なんで読めるの、こう!」

「だって家に残ってる古い本とか似たような文字をよく読んでたし」

「あんたが、いつも読んでるやつ?それでか」

「驚くのは後でいいから、まずは何て書いてあるのか教えてよ」

「えっとね、『杖を買う場所 オリバンダーの杖』とだけ。ああ、オリバンダーの杖…有名な店だね、私たちもそこで杖買ったし」

「ああ!オリバンダーか!そこならかなり近いよ!ってか、ここから店見えるじゃん」


二人が店の場所を指さす。しかし、アリスは別の意味で納得していた。


(オリバンダーか…誰が命名したんだろう?識人以外あり得ないよね。識人が運営してるのか?それとも改名したのか…)


アリスはそのお店に案内してもらうことになった。



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