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入学式 2

入学式が終わり、広間横の通路に新入生が通される。皆、これから寮生活を送るので両親としばし離れて暮らすことになる、そのための挨拶をする時間のようで皆各々の両親と話していた。


 笑顔で話すもの、離れるのが悲しいのか泣いて両親に抱き着くもの、また両親が来ていないのかこれから送る学校生活のことを同じ同級生同士で話し合うもの…様々だ。


(可愛い女子高生が涙目で両親に抱き着く光景…ぐへへ、良いものですなあ…まあ口に出して言ったらアウト…いや、同じ女子ならいける!?ええんやで?私の胸に泣きついても)


「「アリスちゃーん!」」


 アリスの背後から聞き覚えのある声がした、振り向くと同時に二人の女子生徒が抱き着く。


(おほ!この抱き心地は!覚えがあるぞー!?)


「さち!こう!」


 アリスもお返しとばかりに抱き着き返す。


 二人が顔を上げると、顔が涙でぐしゃぐしゃだ。


「…二人とも、今日入学式だぜ?笑顔で行かないと!これから一緒に暮らすんだからさ!」


 ちょっとイケメン風に言ってみる。


「だって月組に行くと思ってたんだもん!そしたらアリスちゃんのいる花組に決まって、嬉しいを通り越して…もう良く分かんない!」

「まったくもう!ほら二人とも使いな…まあ一枚しかないけど」


二人にハンカチを渡す。残念ながらハンカチを二枚持つ文化の育ちではないので一枚だけだが。しかし、さちとこうはよほど嬉しかったのかアリスの渡したハンカチを起用に半分ずつ使い涙を拭いていた。


(そんなにうれしいんか)


「ところでアリスその子は誰?」

「え?」


アリスが振り向くと、そこには確かに一人いた。しかも銀髪で片目がオッドアイの美少女が。しかも服装を見るにアリスたちと同じ新入生だろう。しかし、アリスはこの世界にやってきてまだ数日だ、そこまでいろんな人間には会ってきていない。逆に言えば、このような特徴を持った少女…もしあったならアリスが忘れるはずがない。


「うーんと…どっかで会ったっけ?」

「…昨日」

「昨日!?マジで?」


少女がうなずく。


(ちょっと待て!?私が!?美少女を限りなく崇拝する私が!?この少女を忘れる?ありえない天と地が入れ替わってもあり得ない!でもやばい!覚えてない。思い出せ!旧日本のことなんざどうでも良い!この子のことを思い出せえええ!)


「ちょっと香織!どこ行くの?私この学校慣れていないから勝手に動かれると…ってあ!」


今度は聞き覚えがあった。


アリスが振り向くと昨日杖を買った帰りに助けた(厳密にいえば助けたのは龍)母親だった。


「ああ、あの時の…ってえ?香織?」


もう一度母親が香織と呼ぶ少女を見ると、少女はわずかに頷いた。


(…えええええ!あの時助けた少女!?でもあの時は真っ黒髪だったじゃん!助けることに夢中であんま覚えてないけど、でもこんな銀髪じゃなかったよ!しかも目の色も違うじゃん!)


「アリス…さんでしたっけ?あの時は本当にありがとうございました」

「いえいえどうも…つかぬことを聞きますけどお母さん」

「…聞きたいことは分かってます。その子は私の子ではありません、厳密にいえば戸籍上は親子ですが血はつながってません」

「ああ、なるほど」


 アリスの納得がいった。


(そりゃあそうか、日本人の両親からこんな子が生まれるとは到底思えん。ハーフもしくは遺伝子の突然変異ぐらいじゃないと起こり得んわな)


「紹介が遅れました、私香織の母西村柚葉と申します」

「どうも、アリスです。で香織はどこの組?」


 聞くと香織はアリスに抱き着く。


(ファ!なんで!?別にこんな美少女に抱き着かれるのを拒否する理由なんてないがそれでもいきなり抱き着かれると…ああ…かわえええ!)


「えーと、香織もアリスさんと同じ花組です」

「え?」


 香りを見ると小さくうなずく。


「ほーう?」


(つまり、寮でも香織を抱きしめてなでなでしてよいと?何その桃源郷、最高じゃん。魔法学校ばんざーい!)


「またお前は良く分からんことをしてるな」


アリスはびっくりして振り向く、そこに居たのは龍だった。皆がそれに気づくとさちとこう…香織や柚葉さんまでも距離と取ろうとし、周りに居た生徒や保護者全員までもの視線を集める。


「師匠なんでここに?」

「一応保護者だから」

「あー、なるほど」


すると龍はさちとこう、香織の方へ顔を向ける。


「あー、さち、こう、香織だったかな?これはオブザーバーではなくこの馬鹿…アリスの保護者としてのお願いだ。同じ寮で暮らすものとして、いろいろ教えてやってくれ。こいつは識人としてこの世界に来たばっかりだ、何かと無知でね。よろしく頼むよ」


普段見慣れないどころか話しかけられることもないだろうオブザーバーに話しかけられた三人は驚きつつも静かに頭を下げ了承した。


「それにしても少しうるさいな、ここでは普通なのか?」

「多分だけど師匠が来たからじゃないっすかね、普段こんなところに居ないでしょ」

「いや、それもあるが。そうじゃない…どうやらあっちの方だ」


 龍が指さす方向は広間と通路をつなぐ扉の前、確かに何人かの生徒と教師陣が何かを話し合っているようだった。しかし、そのうちの一人がこちらに気づくと、教師と話し合っていた生徒に何かを話す。するとその生徒はこちらへ何人かの生徒を連れて歩いてくる。しかもその生徒の中には先ほど壇上で話していた生徒会長も混じっていた。


「えーと…こっちに来るんじゃ」

「そのようだ」


 そして、一人の女子生徒がアリスと龍の前に来る。腰まで伸びた漆黒に似た髪、清廉…と言う言葉が似合う品がある、立ち振る舞いが俗に言うお嬢様という言葉が似合う生徒だった。


「ごきげんよう、龍様」

「お前は…」

「あら、私としたことが申し訳ありません。西宮家が二女、西宮雪と申します。これから一年としてステアに入りました以後お見知りおきを」

「そうか」

「私は…」


アリスが挨拶しようとする。


「貴方に興味はありませんわ。識人なのだから、私のことは知らなくて当然、そこの没落にでも聞いてみたらどうでしょう?」

「あ?」


一瞬殴ろうかと思ったが、状況的にまずいと判断したアリスは後ろに隠れているさちとこうに静かに聞いた。


「で?誰?この絵にかいたようなくっそうざいお嬢様は」

「彼女は五大名家の一つ、西宮家の二女。西宮家は代々代議士。それに父親西宮輝義は日本の第一野党民政党の党代表なの」

「…まじか」


(つーか、与党じゃなくて野党かよ。政権交代してからどれくらい経つのよ。まあここじゃどうでも良いけど。てか偉そうにあたしと同じ一年じゃねえか)


「龍様一つお伺いしても?」

「答えられるものだったら」

「何故そちらの霞家の二人を花組に入れたのでしょう?本来であれば名家の人間は月組に入れるのが普通のはず。それがなぜ?納得がいく説明を求めますわ」


(旧日本でもこんな野党いなかったか?)


「何故俺に聞くんだ?俺はこの学校の関係者じゃない、設立にいくらかは関わったがそれ以降は代々の校長に一任しているが?」

「それでもある程度の発言力は持っているでしょう?名家の人間としてはこのような前代未聞の措置に対しては断固抗議いたします。納得のいく説明を」

「…」


龍は黙ってしまった。アリス的に見れば龍が何も言えずに黙ったように見えたがそうではなかった。


「師匠?」

「それにその子もですわ」

「は?あたし?」

「はい、確かに神報者を継ぐものに関しては明確な法律はありません。神法には神報者の跡継ぎは神報者が決めるとなっています。それでも神報者の存在的に国会や五大名家の意見無しにいきなり弟子を作るなど、あってはならないことです。それなのにいきなりあなたはこの少女をいきなり弟子にしたそれに対する説明もお願いします。国民…もとい前の件に関しては生徒が納得しませんわ」


(少女ってなあおい、こちとらお嬢様と同じ学年ですけども!?)


「なるほど、分かった。説明しよう、まず前の件に関してだが、学校の判断だ以上」


龍の答えが単純すぎてアリスは何言ってんだこいつと思った。


「は?それだけでは納得できません」

「先ほどから思ったが、納得納得と言ったが、それは誰が納得すればいいんだ?」

「は?言わなければわかりませんの?全校生徒です」

「ほう?俺はてっきり俺は名家出身連中だと思ったが」

「な!?なんですって?」

「別に霞家の二人が花組に入ったからって花組の生徒が困るわけではない。他の鳥組、風組も同じくだ。何かが大きく変わるわけでもない、俺が見るに二人が移動して困るのはおもちゃが無くなった月組だと思うがね。名家の生徒が困るからその意見に反対か…ずいぶん自己中なんだな名家連中は」


龍が意見を述べ終えると。西宮雪は顔を赤くした、まあ単純に怒ったのだろう。


「それに神報者の件もだ。どうせ名家の人間から後継者をだして、神報者を名家に取り込もうという算段か?は!だから名家はいやなんだ。それに神報者に関してはちゃんと神法に書いてある通り神報者が弟子を自分で選び養成し引き継ぐ。名家様の意見を聞けなんてどこにも書いてない。だから俺の好きにやる。それにもし、名家どもが今後神報者の候補を出してきても俺は採用しない、理由がいるとしたらそうだな、ふさわしくない、だ。神報者ってのはなこういう旧日本の知識を持って転生したいかれた奴がふさわしい」


龍がアリスの頭をなでる。が褒められたにも関わらずアリスの表情は暗い。


「どうしたアリス」

「どうせ私はいかれてますよー!美少女美女好きの変態ですよ!」

「何を言ってるんだお前」

「…」


 龍とアリスが西宮の顔を見るとさっきよりも赤くなっていた。もう爆発寸前である。


「雪様」


すると生徒会長が西宮のそばに寄る。だが、アリスから見ても学年が上のはずの生徒会長が何故西宮に対して下手に出てるのかが分からなかった。その疑問の顔をこうが悟ったのかすかさずアリスに言う。


「あの人は甲賀隼人、甲賀家は代々西宮家お付の名家で年齢関係なく甲賀家の人間は西宮家の人間に逆らえないの。だから今は生徒会長だけど、次の生徒会長は西宮雪になると思う」

「ああ、なるほど」


(そりゃあ、お付なら敬語か。てか甲賀?あの忍者の?代々忍者の家系なの?)


西宮の令嬢が顔を真っ赤にして場が何とも言えない空気に包まれる。しかしそれを破ったのは意外な人物だった。柏木先生だ。


「貴様ら、もう別れの挨拶の時間はとっくに過ぎてるぞ。さっさと自分の教室に…どうなっている」

「いいタイミングだな。アリス、さち、こう、そして香織。君たちは速やかに教室に行くといい。それと三人、これからアリスをよろしく頼む。私は仕事があるから帰る」

「あの師匠、西宮さんは放っておいていいんですか?」

「あ?あんなもん同じ月の連中かお付の奴が何とかするだろう?俺は仕事があるんでな帰る…アリス」

「なんです?」

「学校の生徒でもたまには神報者の仕事で連れ出すことがあるかもしれん、おぼえておけ。あとは、勉強頑張れ」


必死に言葉を探した挙句にそれしか言えんのかとあきれたアリスだったが、弟子を育てたことが無い師匠が友里さんに言われたわけでもなく自分で考えた言葉だなと思ったアリスは少し嬉しくなった、母性的な意味で。


(師匠は師匠として、あたしは弟子として成長かー、うん、あたしはあたしでまずは学校で頑張りますか!)


「アリスちゃーん教室いこー!」


三人が待っている着くと、香織が抱き着いてきた。離れたくないのかぎゅっとアリスの服を握りしめている。


「ふふふ、かわええ」

「もう、早くしないと先生に怒られるよ?」

「担任の先生って誰なんだろうね」

「え?ああ、アリスちゃんは知らないのか」

「へ?何が?」


アリスは香織をなでながら尋ねた。


「ステアに担任は居ないよ?担当科目ごとに先生が変わるから。私たちは寮生活だから…えーと花組の寮長が担任扱いになるのかな?」

「へー、じゃあ寮長さんて誰になるのかな。友里さんみたいな人が良いなあ」


 二人が顔を見合わせる、友里は寮の管理ではあるが基本表に出てこないのでステアの生徒で面識がある人間は少ないのだ。


「その友里さんが誰かは分からないけど、花組の寮長はね柏木さんて人」

「うん?…はあ…おお?ええっとそれってまさか…」


 アリスの顔から冷や汗が流れる。入学式の時から女性に似つかわしくない軍人のような言葉使いを使いものすごい威圧感がある女性の教師だ。アリスは別に一時的に科目で会うなら良いと持っていたが、寮も一緒になるなら話は別だ。


「もしかしなくても、入学式の時に初めにいろいろ指示していた人?」


さちとこうが頷く。アリスがその場で崩れ落ちる。それに合わせて香織もしゃがみ込む。


「ああ、あははは!私の楽しい学校生活…いろんな意味で終わったー」

「何が終わったって?アリス君」


アリスは背後の声にびくついた。くしくもそれは入学式の時…それに西宮と話していた時に場を解散させていた人間の声にそっくりだったからだ。そしてアリスは恐る恐る声の方向に振り向く。そこに居たのは紛れもなく柏木先生だった。


「えーと、柏木先生でしたっけ?何故ここに?」

「その前に私の質問に答えてないぞ。で?何が終わったって?」

「…」


 柏木先生の表情は面白いかもを見つけたといわんばかりにニヤニヤしていた。アリスの返答次第ではどうなるか分からない。


「え、えーと」

「なんだ」

「ちゅ、中学生が終わってこれから高校生だなって話をしていたんです!」


コウがここでフォローを入れるかのように答えた。しかし、どう見ても苦し紛れの言い訳である。何故なら…


「ほう?しかしアリス君は識人…つい先日転生したばかりだぞ?転生前なら確かに中学生をしていたかもしれんが残念ながらアリス君にその記憶は無い。どうしてそんな会話ができるんだろうなあ」

「簡単ですよ先生」


柏木先生の静かな論破に対して、アリスが食って掛かる、まるで楽しむかのようにその顔は笑顔だ。しかし、その顔を見た柏木先生も顔をニヤつかせる。


「ん?どういうことだい?アリス君」

「確かに私には中学校の記憶はありません、でも話のタネにならできます。みんなが中学生を経てこの学校に来たように、私も一度人生を経てここに来てるんです。そういう意味での人生が終わったーってことです。その後に続く私の言葉はでもこれからこの美少女たちとくんずほぐれつの学校生活ができると思うとわくわくでいっぱいだなー!って!」


アリスができる精一杯の嘘八百による言い訳だ、ただ実際問題通じるかどうかはアリスの問題では無かった。


(私はただの生徒じゃない。オブザーバーの弟子でこの世界の主人公アリス様だぞ!?こういう状況ぐらい切り抜けてみせる…切り抜けるってこの先生に見せつける!)


「ふふふ、ははは!そうかそうか本当にたわいもない会話だったな!あははは!」


 しかし、アリスの思いとは裏腹に柏木先生は突如腹を抱えて笑い出した。


「え?」


 この嘘八百に乗ってくると思っていたアリスからしてみれば拍子抜けである。


「まあいい、そういうことなら良しとしよう。さて四人とも、そろそろ教室に行かないと怖い先生に怒られるぞ?さてその怖い先生は一体どんな罰を与えるんだろうかねえ」


 柏木先生はアリス含め、四人全員を順に見る。


「怖い先生って…柏木先生じゃん」

「だから早く教室に行けって言ってるんだ、馬鹿ども」

「へいへーい」


アリスたちは柏木先生に急かされるように教室に向かった。


「アリス…その程度じゃあ名家…他の権力者のえさになってしまうかもしれんぞ?精進しな」

「え?何か言いました?」

「ん?いや、なんでもない」


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