競技場から学校の正門を抜けると多くの車が停車するための半円形の停車場が有る、ステアは名家の人間も通っているため俗に言う金持ちの人間が降車するための場所が存在するのだ。
アリスたちがその正門を抜けてマギーロの街へ続く片道二車線の直線道路の上空を飛行しているときに事件は起きた。アリスは道が分からないので四人の後ろから付いて行く形で飛行していた。
「へー、正門前ってこんなことになってたのね」
「お前……ここ通ったんじゃないのか」
「車で来たんですよ!……それに!地面と上空じゃ景色の見え方が違うんすよ」
「……まあそういうもんか……ん?アリス?」
初めてステアに来たことを思い出しながら飛行するアリスは少し違和感を感じた、前に居るはずの五人が居ないのだ。
(……あれ?)
「戻れ!アリス!今すぐに戻れ!」
「へ?」
「ピー!」
町の喧騒を切り裂く笛の音が耳に入ってくる。
「え?何!え!え?」
アリスはパニックを起こし、その場に止まると笛を鳴らした主を探そうとする。しかし図らずも笛を鳴らした人は箒に乗りアリスの元へやってきた。
旧日本とは違ったがアリスはやってくる人物の服装を見た瞬間、本能的にその人物が何者かを理解した……警察官だ。
(……多分つうか……もしかしなくてもこっちに来る人は警察官すかね?)
「あの……私……何かしましたかね?」
この状況でもアリスは何故警官に呼び止められたのか理解できなった、正確に言えば警官がアリスのどの行為に対して笛を鳴らし呼び止めたのかが分からなかったのだ。
(……少し状況を理解しよう……箒に乗るには免許が必要だ、それは車でも一緒……そして免許が必要な車や箒に乗る場合、ルール……つまり車なら道交法、箒なら空交法を守らなきゃいけない……これはまあ分かる。問題は私が何かやらかしたってことだ、飛んでいた位置か?それは問題ないはず……だって皆の後ろを飛んでいたからさすがに柏木先生が正々堂々と法を犯すわけがなかろう。じゃああとなんだ?速度違反?でも箒に速度計付いてないぜ?どうやって速度把握すんのさ……じゃあなんだ?……つーかそういえば笛が鳴る前なんで皆後ろに居たんだ?それに柏木先生戻れって言ったよな?……あれー?つまりこれって……)
「駄目だよ君!信号は守らなきゃ」
「……」
(あははは……そういうことか、信号無視ね。……やかしたー)
「聞いてるのかい?」
「え?あ、はい聞いてます」
「とりあえず切符切るから降りようか」
「え?あー、はい」
アリスと警官が切符処理のために地面に降下しようとしたとき柏木が近くにやってきた。
「ちょっと待ってくれないか?アリス一つ聞いていいか?」
「何です?」
「お前信号無視したこと実感してるか?」
「へ?どういう意味です?」
「あの、あなたは?」
「私はステアの教師で柏木と申します」
「あ、そうなの。あなたの質問の意味が分からないんだけど?さっさと切符切りたいから降りていい?」
「ちょっと待ってください。アリス質問に答えろ」
「えーと、笛鳴らされたときに皆後ろに居たので信号無視か多分一時不停止かなあって」
「じゃあ、お前信号がどこにあるか分かるか?」
(あ、そういえばどこだ?さっきから車用の信号機なら分かるんだけどな)
「あのねえ、先生。この子一応ステアの学生よ?それなら中学生の時に飛行教室で習う……」
「車用なら分かるんですけど飛行用はどこにあるのかわかんないっすね」
「は?君本当にステアの学生!?中学生で習うでしょ!?」
「といわれましても私今月来たばかりの識人ですし」
「へ?識人?君が?」
「ええ、まあ。それに学校に来るのも師匠……龍さんに車で連れてきてもらったので箒で飛行するための標識って言うんですか?見てないです……教本も試験に受かるためだけに叩き込んだだけなんで実際に公道?なんですかね?みたいなところで飛ぶの今日っていうか、今が初めての飛行です」
「そういうわけだ、今回は見逃して……」
「あのね先生!あなた何考えてんの!?」
「ん?」
警官の指導の矛先がアリスから柏木に移った。
「この子あれでしょ?今月転生してきた龍さんの弟子になった子でしょ?結構噂になってるからね!でもねそれでも免許取らせるためだけに勉強させるって何考えてんの?免許ってのは公道で安全に運転、飛行する知識と技能が有る人に許可を与えるという形で取ってもらうの!それをあなたは試験に受かるために勉強させるって駄目だよそんなことしちゃ!」
「いや、本来中学卒業と同時に取るのが普通で……それにステアで箒の免許持ってないのは色々不便なので」
「だったら、あなたが付いて校内だけでなく空路飛ぶために練習すればよかったじゃないの!」
「しかし、こちらにも色々事情がありまして」
「事情があったとしてもそれで法律を破っていい理由にはなりませんよ!」
柏木と警官の口論が激化し、アリスたち四人が上空で放置状態になりながら数分が経過した。
「はあはあはあ」
「ぜえぜえぜえ」
口論のしすぎか、お互い息が絶え絶えになる。
(確か最初はあたしの信号無視から始まったはずが、今ではお互いの職業に対する罵りあいにまでの発展……早く行かんと病院の面会時間終わるのでは?)
修羅場の中心にいた人物が一度そこから外れ外側からその修羅場を見るとなんと滑稽に映るのかという気分を味わったアリスだったが、さすがにこれ以上長引かせてはまずいと思い声をかける。
「あのー、柏木先生?」
「あー、なんだ?今職務を全うしている警察官殿に賛辞を送っているんだが」
(どこがだよ)
「私が言うのもなんですが病院に着く時間に遅れるのでは?小林先輩の服も届けに行かないとですし」
「……そうだな、そういうわけなんですよ。私たちこれから病院に行かなければならない……行ってもいいですかね?結構急いでるんで」
(口論してたあんたが言うか)
「……今回だけですよ?といってもそこの駐在所にいるんで次は見逃しませんよ!」
と言って警官が指さす場所はステアから十字路に出たときの右斜め前の角にある場所だった。
「……っち!結構めんどくさい場所にあるんだな」
「何か?」
「いいや!何も!」
「……」
警官が帰っていき、駐在所前で降りると小さくお辞儀をする、それを見たアリスたちも小さくお辞儀をした。
「おい、アリス」
「へ?……は、はい!」
「今日だけだ……今日だけは、余計なことを考えずに私たちの後ろを飛行することだけに集中しろ……分かったな?」
「……はい」
(ちょーこえー)
アリスが冗談を返せそうもないほどに気が立っている柏木の忠告に正直に返答すると、柏木は静かに病院へ行く道を飛行しアリスもその後に続いた。
病院の駐筝場に着き、箒を降りるとアリスは大きな溜息を吐く。
「溜息を出したいのは私なんだがな」
「え?いや、すみません……無事に何事も無く着けたことに安堵したといいますか」
「あれ以上のことがあればどの地点に居ようが今日だけ私はお前だけを学校に戻す気だったがな」
「ほんとにすんませんした」
「まあもういい、良いから行くぞ」
アリスたちが病院に入ると、柏木が慣れたように左手にある受付に向かう。
「面会ですか?」
「はい」
「ではこちらに記入を」
受付の女性は6枚の紙を差し出した、旧日本でもよく見る面会受付の紙だ。ほとんどの所は旧日本の仕様とそっくりだが一部が違う……がアリスは気が付かなかった。
「……ん?先生」
「なんだ?」
「入院してる人ってなんて書けば?私たち順先輩としか知らないし、苗字も書かないといけないんじゃ」
「ん?ああ、柏木だ」
「ああ、どうも……ん?柏木?先生と同じ苗字ですね」
「ああ、弟だからな」
アリスのペンが止まる。
「は?」
「……聞かれてないから言ってないし、自分からは喋らん」
「へー、でも結構歳離れてるんでは……」
「そうだな、義理だし。私も結婚してたからな……まあその後私の方は別れたが色々あって順とはあんまり会ってなかった、あいつがステアに入るまではほとんど接点は無かったよ」
「ああ、なるほど?ああ、後、住所はどうします?」
「ステア魔法学校って書けばいい……それだけか?行くぞ」
柏木は全員書けたのを確認すると病室まで行こうとした。しかし、またしても足止めを食らう。
「……あれ?ええと!アリスさん!ちょっと待ってください」
どうやら書類に不備が見つかったようだ受付の女性が受付から身を乗り出してアリスを呼んでいる。
柏木はまたかという顔でアリスを見る。
「いや、ちゃんと書きましたよ!?」
アリスは受付に戻った。
「あの、何か不備ありました?」
「駄目ですよちゃんと名前書かなきゃ!」
「へ?名前ならちゃんと……」
「苗字も!」
「えーと、あー」
「そういうことか、まったく」
頭を抱えながら柏木が近づいてくる。
「識人の振りしてこういうのを書くのは規則違反なんです、ちゃんと苗字まで書かないと!」
「いや、私……識人です」
(識人の振りすんのそんなにメリットあるの?こっちは変に期待かけられて迷惑なんだが?)
「は?嘘は良いから」
「本当です」
「だから……」
「本当にこの子は識人です。アリス免許証出せ。この子今月来たばっかりでこっちの知識とかルール等に非常に弱いんですよ」
アリスが免許証を出し受付に出す、それを見た受付の女性は免許証に書いてある名前、写真、そして識人という字を見て驚く。
「え?あ!本当にそうなんですね!すみません!最近識人を騙って病院に来る人がたまにいるんですよ。識人なら医療費無料なので」
「ははは、そうなんですか困ったもんですね」
(それ絶対無料じゃないぞ?後で請求来るパターンですって!)
「あと、面会の紙の所に識人用にチェック入れるところあるのでそこもお願いします」
「あ、本当だ」
「今まで書くこと無いからいるのかと思ってたが意外といるんだな」
面会の紙を修正し今度こそ、病室に向かとなる時、アリスは気づいた、大部屋がほとんどないのだ。
本来であれば敷地の広さは限定されるのでいかに一部屋に病人を詰め込むのかが優先されるが建物内の空間が自由に拡張できるならその心配はない。
「ほとんど個室ですね」
「そうだな、病院内が魔素にもよるが自由に拡張できるから大部屋作る理由が無い。それに外傷負っても魔法ですぐ直るし、入院するのは大抵魔法等による呪いによる傷か、病気だからな個室で足りるらしい」
「へー」
「さてここだ」
柏木がある病室の前で立ち止まる、病室の扉の横にある名前を入れるボードには『柏木 順』と書いてあった。
(本当に柏木だ……マジで兄弟なのかな。これはそそるなー)
柏木が病室の扉の取っ手を握ろうとするが……止まる。
「……」
「どうしたんです?」
「しー」
アリス達が疑問に思っていると、柏木がニヤリとしながら静かに扉を数ミリだけ開ける。
「……でね!アリスちゃんがねー」
「!?」
病室の中から小林の元気そうな声が聞こえてくる。
「さっきから同じ話しかしてないな夏美」
そして、同じ病室から男性と思える声も聞こえる。順の声だ。
「これ……盗み聞きでは」
「構わん、あとで何とでもなる」
「えー」
本来生徒の見本にならねばいけないはずの教師が身内のイベントで職務を放棄するという事態にあきれるアリスだ。
しかも病室の前で六人の女性陣が扉の前で聞き耳を立てているという異様な状況でもあるが本人たちは構わずに聞くことに集中することにした。
「そんなに嬉しいか?」
「当たり前でしょ!順君が入院してから一度も勝ててなかったのにアリスちゃんや成田ちゃんのおかげでやっと勝てたんだよ!?嬉しすぎて暴れたい気分だよ!」
「ここ病院」
「わかってる!」
(「ほほえましい会話ですね」)
(「私が望んでいるのはこういう会話ではない」)
(「はい?」)
「じゃあ俺はもう必要ないかな」
「何言ってんの!」
「だってその新入部員二人が居ればいい勝負が出来るってことだろう?なら俺はいらないじゃん」
(それはどうだ?今回の試合だって、あたしの奇策が奇跡的にうまくいっただけだぞ?二度は通用せんと思うし……それにあたしはオブザーバーの弟子としての仕事があるだろうからいつも部活が出来るとはいえんし)
「駄目!」
何かをたたく音が聞こえた。恐らく机を叩いたのだろう。
「どうしたんだよ夏美」
「いい?確かに識人で旧日本ていう私たちの知らない知識を持つアリスちゃんは大事な戦力だよ?でもさアリスちゃんはズトューパをほとんど知らないんだ、確かに他のスポーツをやってた人が違うスポーツに転向するのはよくある話だけどそれは体が出来てるだけだよ。戦術や動き方は全くの素人でまた一から学びなおすことになるんだ、だからズトューパの戦術を知ってかつ人を動かす能力に長けてる順君が花組には必要なの!分かる?確かにアリスちゃんも成田ちゃんも良い戦力になるだろうけど、それだけじゃダメ。花組には個性豊かな選手を上手くコントロールできる選手が必要……それが順なんだよ!」
(「……」)
アリスは遠回しに自分は貴重な戦力だと言われたような気分がして少し嬉しくなった。
「冗談だよ。それに長期間夏美に部長代理を任せるわけにはいかないからね」
「それどういう意味?」
「知らなくてもいい、いつか分かる」
「……そ!そういう言えばさ約束覚えてる?」
その時、柏木の体が大きく動いたかのようにアリスは感じた、まるでこの時を待っていたかのように。
(「先生、気づかれるって!」)
(「すまん」)
「約束?なんだっけ?」
「順君が入院するとき、部長代理を私に指名したとき、言ったよね?『もし、お前が部長代理の時に試合に勝ったら』って」
「なんか言ったっけ?」
「……本当に覚えてない?」
しばしの沈黙が流れる、アリスは小林が何を言いたいかはもう分かっていた。告白だ。
(行け!先輩!言ってまえ!)
「……夏美……耳貸して?」
「へ?……うん」
アリスは見えなかったが、順のお願いに対して小林が顔を近づけていると直感的に分かった。
「……ん!?」
小林が少し悲鳴に近い声を上げた、しかしその後には何も声は聞こえない。だがアリスには小林の悲鳴が少しこもって聞こえたのだ……まるで口をふさがれた状態で悲鳴を上げたかのように。
(ん?何が起こった?見えん!音声しか分からん!どうなってるんだ!ていうか今の声の出し方……まさかか!?順先輩いきなりやったか!?映像が無いからもやもやするううう)
アリスの考えは周囲とも同じだったようで柏木以外全員病室で恐らく今起こっているだろうことを妄想し、顔を赤めていた。
「え?え!え!?どういう……」
「……そんなに俺がヘタレな男に見えるか?安心してくれ、ちゃんと覚えているよ。『もし、お前が部長代理の時に試合に勝ったら……付き合ってやる』ってな。これが返答だ」
「……」
アリス達には見えなかったが、だが、分かった。小林は突然のことで体が硬直し脳みそは必死に今起きたことを処理するので精一杯なのだろう。そして、小林の顔が少しづつ赤くなっているだろうとも。
「じょ、じょ、冗談じゃないよね!?買い物に付き合うとかじゃらいよね??男女がお付き合いすりゅって意味らよね?結婚の一歩手前の状態でいいんらよね!?」
「落ち着け、興奮しすぎて呂律回ってないぞ?後、結婚の一歩手前は恐らく婚約だ。安心しろ俺はいろんな冗談を言うことはあるが……これだけは本気だ……付き合おう」
「……ヒック」
「ん?夏美?どうした」
「うえええええん!うわあああああん!やっらああああ!」
「ちょっ、夏美!ここ病室!さすがに抑えてくれ!」
病室の外まで聞こえるかのような大号泣だ。しかし、それをとがめる者は居ない。病室の外にいるアリスたちでさえこの状況で軽く涙を流していた。しかし、約一名衝動を抑えられないものが居た……姉である柏木だ。病室の扉を思い切り開けると開口一番。
「よくやったあ!小林いいいい!」
涙で顔面ぐしゃぐしゃの小林の元へ駆け寄り強く抱きしめる。
「ふえ?柏木先生?なんで?」
「ずっと見ていた!やっとこの愚弟にふさわしい人がくっ付いた!ありがとう!こいつに似合うのはお前だけだ」
「姉さん……いつから?」
「約束の話の下りの時にはもう居た」
「ああ、そう……でそこにいる人たちは?」
この状況でアリスたちは完全に病室に入るタイミングを失って入り口で呆然としていた。
「落ち着いた?姉さん」
「私は落ち着いているよ。少しだけ気分が上がったが、一番落ち着かなければならないのは小林だ」
「それはそうか」
「……」
小林は皆に囲まれている中でふてくされていた。
「どうした小林」
「いつから居たんですか!もしかして……私のこくは……も見ていたんですか!」
「一つだけ言っておこう、男性女性どちらでも構わんが一世一代の告白というのは関係者だろうが他人だろうが見ているものだ。そしてそれが成就すれば盛大に賛辞を贈るのが一般的だ。隠れて告白など不可能だと思え」
「そうだね、結果的にこうして皆に見られていたというのが証拠か……それで?彼女たちが今年の新入部員?」
「ああ、人数は少ないが、識人のアリス、霞サチとコウ、西村香織、そして成田優だ」
「霞?ってあの?名家じゃなかったっけ?月組に行くはずなんじゃないの?」
「色々あってな月から花に移動した」
「ふーん、まあいいか。あ、自己紹介が遅れたね、一から話は聞いてたけど顔を合わせるのは初めてか、花組ズトューパ本来の部長、柏木順です。もうそろそろ退院だから選手として入った人は練習でかなりしごくから覚悟しててね」
(わー、雰囲気が柏木先生とそっくりだー、目が本気だー、こえー)
柏木とは血がつながってないとはいえ、それでも育てられた家によって性格も雰囲気も作られるのだろう、アリスには柏木も順も顔こそ似てはいないが雰囲気や口調がやはり兄弟なのだなと感じさせられた。
(柏木先生も美人だけど、順先輩もイケメンだ……さわやかイケメンって感じ?確かに義理だから似てないか……でも喋り方とかはどことなくそっくりだ……育つ家が同じだとこうなるんだ……まあ全ての家がそうだと言えんか……逆に血がつながっているのにどうしてこうなったっていうパターンもあるしな)
この後、新入部員であるアリスたちが自己紹介し、皆で告白をした小林をいじりながら談笑し、面会時間時間終了まで過ごした、一時柏木が居なくなったがアリスたちは気にも留めず話していた。
「ありがとう今日は楽しかったよ、恐らくもう退院できるから、そしたら今度は学校でもよろしくね」
「はい!ありがとうござい……」
「なに、良い感じで終わらそうとしてるんだ」
「へ?」
「順今から学校に行くぞ、祝勝会をやる」
「いやー、でも俺試合に参加してないけど?」
「関係ない、部長代理が居ようが、乾杯の音頭は部長がやるべきだ。外出の許可は先程とってきた、お前の選択肢はハイか行くかだ」
「それって、実質選択できないじゃん」
「そうだ、お前には行くという選択肢しか残されていない、練習試合だろうが勝ちは勝ちだ。この勝利の宴に部長が居なくてどうするんだ」
「ははは、分かったよ。でもどうやって?残念ながら箒には乗れないよ?」
「小林が連れてけ、タクシーで構わん。タクシー代は私が出す」
「ああ、それなら私も……」
箒に乗らずに済むと思いアリスもタクシーに便乗しようとする……が。
「そうだアリス、お前は一刻も早く公道を一人で飛行できるようにならないとなあ?今日も学校まで付きっ切りで見てやるから嬉しく思え?」
「……わーい、嬉しいなあ」
小林は順が準備している間に柏木が持ってきた服に着替え、アリスたちが見送る中順と一緒にタクシーに乗り、ステアに向けて出発した。
アリス達は病院の駐筝場からアリスを真ん中に前に柏木、成田。後ろに霞姉妹と香織というはたから見たら良く分からん布陣でステアに向かって飛行する形となった。
(……やっべー。これちょーはずいんですけど)
この後、無事花組寮内で祝勝会が行われたが、アリスが参加したのは最初の乾杯だけだった。
「今日覚えたことの復習及び、教本の読み直し!それにテストでお前、社会……特に地理歴史の点数やばかったからな、今日だけ私は付きっ切りで面倒見てやる」
「え!?ちょっと!識人だからこの国の歴史とか分かるわけないじゃん!あたし、今日の試合のMVP!勝利の立役者ですよ!この場にいる権利が!」
「その権利は顧問及び寮監督権限で剥奪する!私も本当はこの場に居たいが教師としての職務も全うしなければな!それに分からないなら覚えれば、勉強すればいいだけだ!」
「そんなー!横暴だ!」
柏木がアリスを寮の部屋まで強制送還し、勉強タイムに突入した。サチやコウも最初は祝勝会に参加してたがアリスが居ない感覚に慣れなかったのかすぐにアリスの勉強の補佐に回った。香織に関してはアリスが部屋に連れ戻される際に一緒について行った。