目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

技術革命 1

 『革命』という言葉がある。辞書で調べると『権力体制が組織構造の抜本的な社会変革あるいは技術革新などが、比較的に短期間に行われること』と書かれている。


 しかし、一般的な革命というとフランス革命だったり、クーデターなどの暴力や戦争を伴う行為などの過激なイメージが多いだろう。


 残念ながら歴史を見ても革命と名の付く出来事の大半は政治体制を変える物だったり一つの国が独立するための戦争だったりする。


 それでも中には暴力が伴わない革命も存在する、それも国を豊かにする革命だ。


 有名なのがイギリスの『産業革命』だろう。イギリスは技術開発によりイギリスの織物産業の生産性が大いに飛躍し、結果的にイギリスは国家的に発展するきっかけを掴んだ。(かわりに元々発展してなかった食文化がさらに衰退していったのは言うまでもない)



 魔杖の森、魔法を使うのに必須である杖の原材料の木が生えている森だ。他の国にも生えている場所はあるが第二日本国の場合は領土の中に存在し、魔法の必要性から国が国有地としている。


 魔杖の森はその国有地を有刺鉄線が巻かれたフェンスで囲まれており、入り口は銃を携えた自衛官によって警護されている。その入り口に一台の車がやってきた。


 車が止まると自衛官が運転席の窓に近づいた。運転手が窓を開ける。


「お疲れ様で……え?え!?」


 自衛官が驚く。その車の運転手はアリスを助手席に乗せているオブザーバーである龍だった……が、自衛官が驚いたのは龍の顔の右側が青く腫れていた。誰が見ても数発殴られた後だ。


「落ち着け、俺に関しては問題ない。気にするな。通してくれ」

「は、はあ」


 少し顔を引きつけながらも自衛官は入り口の門を開ける、それを確認した龍は車を前進させて魔杖の森に入っていった。


「なあ、見ただろ?俺の顔を見たやつの顔。学校からここに来るまでに何人の人が俺の顔を見て引いたんだ?」

「そんなの数えてないから知らない」


 龍の顔面を殴ったのはクイズになっても即答されるだろう、アリスだ。というよりこの日本に龍を本気で殴れるのはアリスしかいないだろう、仮に龍に殴れと言われても躊躇してしまうがアリスは遠慮せずに殴れる。


「そもそも、師匠が悪いから殴っただけですけど?私だって何もされてないのに殴るほど野蛮人じゃないもんで」


 アリスが龍を殴った理由、それは前日にあった。


 アリスは前日、学校の授業が終わるとそのまま部活に行こうとした。アリスが教室を出ると入り口には龍が居たのだ。すると開口一番。


『明日、弟子として俺の仕事に付いて来い。柏木には伝えてある。じゃ』


 とだけ伝えた後、即座に来た道を引き返していったのだ。


「別に師匠の仕事について行くのは分かるよ?弟子はまず師匠の仕事ぶりを見て仕事を覚えるってことも分かるよ?でもさ!普通前日に言う?普通は一週間前に言っておくとか、それが無理でも数日前に教えるのが常識では?こっちは学校休んできたんだが?」

「最近忙しくて学校まで行けなかった、それに前日になったのは謝るよ。あの後友里に怒られたよ『仕事なら忙しくても一言でも前日じゃなくてもう少し前に伝えるのが常識でしょうが!』ってな」

「忙しくなかったら連絡したんですか?」

「そりゃあ会いに行ったさ」

「何故わざわざ会いに来たのよ、電話してくれればいいのに」

「基本無線機しか使わんから」

「電話より無線機の方が使う人間のうほうがいないでしょ!なんで無線機より電話が普及してるのか知ってます!?電話回線伸びてれば確実に通じるからでしょ!無線機なんて電波届かないともう通信出来ないんですよ!なのになんで電話使わないんですか」

「確かに無線機は通信範囲に制限がある、しかしな無線機が大きくなれば通信範囲も大きくなる、それにだ重量を軽くする魔法を使えばどんな大きな無線でも持ち運べる。それに電話は持ち運べないし、話す相手ごとに番号変えないといけないだろう?そこが駄目だ」

「ん?……あ」


 アリスは気づいた、この日本にはスマホはおろか携帯電話すらまだ存在しない。アリスはステアで過ごすうちに確認出来た通信端末は何と黒電話だった。


(そういや、この日本にある電話一番新しいの黒電話だっけ?最初びっくりしたなー、使い方も知らなかったし)


「そう言えば、今回の仕事は何?聞かされてないし」

「今日が何の日か知らんのか」

「もう一発ぐらい殴る?」

「おいおい!ここに来たばかりのお前は知らんだろうが識人は結構気にするんだぞ?」

「なんで?」

「次に来る転生者が誰か皆気になるんだ」

「……あー」


 アリスはその時初めて今日が五月一日であると分かった。


(学校忙しすぎて忘れてた)


「でも皆なんでそんな気になんの?」

「男が来るのか女が来るのか。どんな年齢の人間が来るのかどんな能力を持ってるのかが分からないからだろ?友里も言ってたけど毎月転校生を待ってる気分だって。他にも毎月無料で出来るガチャ?をやってる気分で楽しいんだと」

「あー、なるほど」


(なるほど、確かに同じ日本人で誰が来るかも分からないドキドキ感は同じか、しかもどんな知識を持っているかとかどんな特殊な能力を持っているかとか確かにガチャか……ガチャで例えた人頭いいな)


「でも同じ転生者としては悲しいですけどね」

「なんで?」

「だってその人も何か理由があって死んでこっちに来てるわけだし、絶対悲しんでると思うんですよ転生者の親族?的な人は」

「だろうな、だから記憶が無いのかもしれん」

「どういう意味?」

「お前にもし、生前の記憶があって家族の顔が思い浮かんで死んだときのことを覚えていたらどうする?」

「うーん。わかんないかな。今でだって記憶ないし」

「全員ではないと思うが、大抵の人間は残してきた人を思って絶望して死んだことを後悔して再起不能になると思うんだよ。記憶が無くても自分が死んだことが分かった瞬間にそのことを後悔して目の前で自殺する人間も少なからずいるからな」

「……」


 アリスはもし、目覚めた転生者が目の前で自殺したときのことを想像して身震いした。


「そういう時師匠はどう思うんですか?」

「悲しいとは思わない。単純に転生したことよりも一度死んだことに気持ちが耐え切れなかった……なら今度こそ安らかに眠ってもらうだけだ。どんな死に方でもな」

「師匠は優しいっすね」

「毎回悲しんでたら身が持たん」

「あれ?ここって……」


 アリスはここで運転席側の窓から見覚えのある家を見た。そう訳一か月前、ウィビシに襲われた男性を助けた家だ。


「ああ、桜木の家だ。お前が助けた桜木裕也の家だよ」

「あの後、どうなりました?あの後気絶しちゃって覚えてないんだよね」

「ちゃんと助かったよ。今日転生者を保護したら、一晩泊まるからな。桜木一家からお礼をしたいと言われたから今回は仕事に連れてくんだ」

「なるほど」


(里香ちゃん元気かな)


「そういえば師匠、一つ聞いていい?」

「ん?なんだ」


 桜木家通過後転の儀場まで数分の所だ。


「この前神法をちょっと読んだんだけど。転生者を保護するところ……オブザーバーじゃなくて神報者って書いてあった」

 憲法やその下に位置する法律は旧日本にも存在するが第二日本にしか存在しない法律がある、それが『神法』だ。法律は国民を律するもの、憲法は法律立案や国家予算を編成する政治家を律するものだが、神法は違う。


 旧日本では天皇陛下はあくまで象徴でしかなく総理大臣などが有する権力が移ることはあり得ない。しかし、第二日本国ではある条件を満たすと一時的にすべての権力が天皇陛下に移る。神法はその状態での天皇陛下を律する法なのである。


 だが、神法にも二種類ある。天皇陛下が一時的に権力を握っている状態でしか効力を持たないものと、逆にいつでも効力を持っているものだ。アリスはその神法の中でも常に効力を持っている龍の役職である神報者について読んだのだ。


「ああ、当たり前だ。そもそも、神法自体最低でも400年前にはある法だぞ?オブザーバーなんて単語あるわけないだろ?あれは周りが勝ってに決めた俗称だ」

「ええ、神報者の方がかっこいいのに」

「堅苦しくて近寄りがたいイメージだから、横文字すればいいだろと。それで本来の仕事は神に報告するための報告書を書くのが仕事だが、それ以外は基本見てるだけ、しかも神報者の規則として政治や軍事に関して口出しが出来ない。例外として帝に対してのみ助言が出来る。だから日本を観察するしか出来ない……だから観察者、英語でオブザーバーらしい」

「神聖な職業のイメージから一気に馬鹿らしくなった」

「それで良いんだよ、俺の仕事に肝になる部分は基本人が見れない場所でやるから」

「ふーん」

「さあ、着いたぞ」


 車は看板も何もない、ただ木でできた階段のそばに停車した。


「階段しかない……」

「当たり前だ、観光で来る場所ではないし、何より俺しか来れないから綺麗にする理由が無い」

「今更だけど、なんで軍用車?」

「お前が居るし、これからは後部座席に転生者載せられるし。それに山道走るならこれにしとけと」

「今までどうしてきた!?」

「桜木の所まで俺が担いで運んだ。そこからは転生協会の奴らが迎えに来てたが、お前が直ぐに起きる事案が出来てから車で運ぶという選択になった」

「マジかよ」


(皆、師匠に担がれてあの家まで言ったんだ……かわいそう)


 アリスが龍と共に階段を上ること、数分。木々が生い茂った階段を登りきるとアリスも見覚えがある。石で出来た殺風景な場所に出る……転の儀場だ。


「覚えてるか?アリス」

「その質問をする意味を理解してるなら言葉で言った方が良いですか?それとも拳の方が良いですか?」


 アリスは笑顔で顔の前で拳を作り質問で返した。


「……すまん、忘れてくれ」


(忘れるわけないだろう。あたしの裸見られたんだし、師匠の股間を蹴った時の感触も何故か覚えてるよ)


「てか、転生者っていつ来るのさ。決まった時間とかあんの?」

「んー?」


 龍は時計を取り出し、時刻を確認する。アリスも真似するように龍からもらった懐中時計を確認する。時刻はちょうど午後5時を回った所だ。


(げ、もうこんな時間なんか。学校を9時ぐらいに出たはずだから、最低でも7時間は経ってる……そりゃあ疲れるわけですよ)


「恐らくもう……だな」

「時間にピッタリ来るわけじゃないのね。どんな感じで来るの?」

「説明するより見た方が早いだろ……ほら」


 アリスは突如周辺の風が石で出来てる地面の中央に渦を巻くように吹くのを感じた。


「……は?ナニコレ?なにこれ!?どうなってんの!?」

「さあ?」


 アリスは転生してきてから一番の声を上げた。


「それよりアリス、上を見な」


 アリスは上を見た。すると上空には光り輝く球があった。なおそれは少しずつ膨張しているように見える。


「……」


 さすがに説明できない状況にただ唖然とし、見つめることしかできないアリスだが龍は持ってきたカバンから布を取り出していた。


 ちょうど人が入る大きさまで膨らんだ球は形状を変えて花の蕾のような形になり降りた。


 そして少しずつ蕾が開き始める……アリスも知っている、菊の花だ。


 菊の中心には一人の人間が横たわって寝ていた。


「さてと」


 龍が手に持っていた、布を新たに来た転生者に被せようとする。


「ま、まてえ!」

「あ?なんだよ」

「その人が女性だったらどうすんの!裸を見ることになるじゃん!」

「まてまて、転生者が女性だと決まったわけじゃないだろう?それに俺は400年間ずっと転生者を見てきたんだぞ?男だろう女だろうが裸見て思うことはないわ!」

「そ、それでも今日はあたしが居るんだからとりあえず転生者の性別確認と布をかけるのはあたしがやる!」

「あ、そ。ならよろしく」


 アリスは龍から布を受け取ると、菊の中に眠る転生者を観察する。


(よし、まず年齢から……ていうか体格から見て小学生?いや、中学生か。でも髪の色おかしくねえ?これどう見ても……)


「師匠、もし死んだときに髪染めてた場合ってどうなんの?地毛の状態で来る?」

「知らねえよ、誰一人死んだときの事覚えてねえんだから」

「そりゃあ、そうか。でも」


 アリスは困惑した。何故なら菊で寝ている少年の髪色は香織によく似た銀髪だったからだ。


「師匠もう一つ、今まで日本人以外が転生してきたことは?」

「俺が知る限り無い、名前が日本人じゃないお前みたいな奴は何人か来てるがな。だが話す日本語が少し違うことを感じるときはあった」


(じゃあ、仮に地毛だと仮定すると……この子ハーフ?転生者始まって以来初めてのハーフ!?どっちだ!?女の子ならかなりの美少女、男の子なら美少年ってことに……ん?)


 アリスは寝ている転生者の下半身に女であればついてあるはずがないものが付いていた。


「……ううおおあああああ!」


 アリスは布だけ少年に被せると、目を覆い膝から崩れる。


「だから、言っただろ。女性確定じゃねえって、男だったらそりゃあ一物ついとるし全裸なんだから見えるわな。将来、俺から神報者引き継いだら毎月見るんだから慣れとけ」

「無理無理無理!美少年のアレならって思ったけど無理!」

「お前なあ……まだ子供だから良いけど、いい歳の大人が転生してきたときどうすんだ?俺が言うのもなんだがあれだぞ?」

「その時は他の人に代わってもらいます!」

「神法でそれが出来ねえから俺がこうやってんだろうが!もしできるならとっくにやってるよ!早く行くぞ!もう暗くなるからまた前回みたく襲われるぞ!」

「……ういっす」


 そそくさと少年を抱えた龍は階段を降りていく、アリスも少々納得できなといった顔をしたが前回ライオンに襲われたときを思い出し、速足で車に戻って行った。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?