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技術革命 3

 転生者を迎えた次の日、アリスは龍と魔杖の森の入り口で解散し、一人でステアに帰ることを余儀なくされた。最初はアリスも拒否しようとしたが。


『少しは一人で行動することも覚えろ。意外と楽しいかもしれんぞ?一人の方が寄り道が出来るからな』


 この言葉に納得したアリスは一人寂しくステアに帰ったのだ。


 最初こそ卓に早くパソコンの開発が出来ないかとわくわくしていたが、すぐにそれどころでは無くなった。テストがあるのだ。


 ステアに入学してからの初めての中間テストをまじかに控えておりアリスはテストに集中するため卓のことなどすっかり忘れていた。


 そもそも旧日本で中学校はある程度まで通っていたはずなので、セアの日本での義務教育レベルの勉強はこなせると自負していたアリスだったがその自信もある教科では打ち砕かれた……地理歴史だ。


 地理歴史に関しては旧日本の知識は何の役にも立たない、ほぼほぼ暗記するしかないような内容をまた一から勉強し直すのだ、アリスにとっては発狂ものだった。


サチやコウ、香織らと魔法に関する筆記や地理歴史を二週間勉強していたある土曜日の朝のことだ、部屋の扉が叩かれる。


「アリスちゃん……起きてる?」

「……んあ?夏美先輩?」


 扉を叩く音で目を覚まし、小林の声で体を起こすと三人を起こさないように扉に向かう。


「ごめんね、今ちょっと大丈夫?」

「え?ああ、問題ない……です」


(今何時だ)


 アリスがふと、部屋の奥にある時計に目をやると……朝の5時だった。


(まじか……)


「で何の用ですか?」

「用があるのは私じゃないんだ、私は頼まれてきたの。龍さんが談話室で待ってるって。それと伝言で制服に着替えてから降りて来いって」

「……」


(あの野郎、ついに前日どころか当日に言ってくるか)


「分かりました、準備します……あ、香織」

「大丈夫、サチとコウと私で何とかしとくから」

「あ、ありがとうございます」


 ステアの生徒は一部の家から通学してる生徒を除いて、基本寮暮らしだが、学校の外に出る時を除いて私服での生活が許可されている。学校の外に出る場合、特別な許可が出る場合を除いて基本制服の着用が義務化されている、マギーロ学園都市での身分証変わりとなるからだ。


 逆にコスプレの意味を含めてマギーロ内でのステアの生徒以外がステアの制服を着るのを禁止されている。しかもステアの制服自体がマギーロ外の日本国内に出回ること自体が稀なのでステアの制服は結構レアだったりするしステアの制服を着ること自体がステータスになると思っている人間も多い。



 アリスが制服を着て、談話室に向かうと龍が椅子に座って待っていた。


「よう、すまんな朝早くに」

「殴っていいですか」

「今回は却下だ、現にお前をここまで呼んだのは俺だが、俺はお前を連れてこいとしか言われてないからな。文句があるんなら俺に頼んだ奴に言え」

「じゃあその言った人は誰なんです?」

「卓」

「卓は何処に?」

「さあ?」

「さあって……じゃあこれからどこに?」

「俺も知らない、俺が言われたのはお前を連れてこいとだけどこに行くかは知らん」

「私を連れていくのにどこに行くかは知らんと?」

「そうだ」


(大丈夫か?こいつ)


「まあいいや行きましょうか」


(卓君が呼び出したってことはコンピューター開発で何か進展があったってことだろうし、今回の目的は恐らくあたしだ。なら師匠はオブザーバーとしてではなくあたしの師匠だから呼び出すのに適任と思っての人選かな)


 アリスと龍は一緒にステアの校門まで行った、すると三台の黒塗りの車、周りには黒いスーツを着た男たちが待ち構えていた。


「……あたし本当にどこ行くの!?」

「さあ?まあ見る限りSPだな」

「SP?」


(確か、警察の役職で首相とか重要人物を警護するのか仕事の人たちだっけ?なぜわざわざあたしに?)


 アリスは龍と共に車に乗り込む、そして運転手に行先を聞こうとしたが朝五時という慣れない時間に起きたことと、SPが警護する車の乗り心地にやられてそのまま二度寝に入ってしまった。



「おい、アリス!起きろ!」

「うえ?はい?おお!」


 訳一時間後、龍の声で目が覚めたアリスは車が目的地に着いたことに気づき、また一時間きっちりと寝たおかげかちゃんと目が覚めて寝ぼけていたわけではないと悟った。


「夢じゃなかった」

「何の話だ」

「いや、寝ぼけて車に乗ったのかなって思ったけどそうじゃなかった」

「まあ朝早かったからな、それより着いたから降りろ」


 アリスはドアを開けてもらい外に出る。


「あ、どうも……お?」


 アリスの目の前にある建物はマギーロにあるどの建物よりも現代的な……日本の建物だった。その時点でアリスはここがマギーロではないと気づく。


「ここどこ?」

「なんだ、首相官邸じゃねーか」

「シュショウカンテイ?」


(首相官邸ってあれだよね、首相が居るところだよね?ていうか、あたし首相官邸は首相が居るってことくらいしか事前情報ねえな)


 首相官邸……正確には内閣総理大臣官邸、総理大臣が執務……総理としての仕事を行う場所である。


「アリス様」

「ひゃい!」


 唐突に男性に話しかけられる。同時に龍が噴き出す。


「なんだ、ひゃいって……ひゃいって」

「うるさいな!慣れてないからでしょうが」


 アリスは龍をどつきたかったがさすがに場所が場所なので控えた。


「私、総理秘書官の宮島と申します。さっそくですが小会議室ご案内いたしますね」


 そういうと奥に向かって歩き出す。



 アリスと龍、そして宮島が首相官邸の4階まで上がり、ある部屋の入り口にたどりつく。そして宮島がドアを開けると、そこには小会議室とは名ばかりな広い空間の中央にたいそう立派な長机が置いてある。


(小会議室とは……)


 また、アリスが気になったのは部屋の奥の壁にプロジェクター用であろうか投影するための白いシートがかけられその手前には布が被せられた何かがあった。そして、部屋に入って右側には三穂や衣笠、他にもアリスの歓迎会で見た転生者が多くいた。


「アリスちゃーん!」

「……三穂さーん!」


 アリスに気づいた三穂がアリスに抱き着く、お返しと言わんばかりにアリスも抱き着き返した。


「アリス君、どうだい?学校暮らしは?楽しんでるかい?」

「え?衣笠さん!楽しんでますよ?ただ、もうすぐ中間テストなので必死に勉強中です」

「そうかならいい勉学も学生に必要だからね。今は学校を楽しみなさい」

「やっぱステアの制服可愛くてかっこいいなあ」


 三穂がアリスの制服を見てニヤニヤしていた。


「珍しいんですか?」

「ステアの生徒は基本休日でも学校の外に出るときには制服着用が義務だがステア以外の人間が制服をマギーロの外に持ち出す行為が禁じられているんだ。ステアの制服は魔法を使うので特殊繊維で作られているからね、技術流失を防ぐための措置だ。だから、マギーロ以外でその制服にお目にかかるのは着ているステアの生徒が外に出るときぐらいしか見れないんだよ」

「それにデザインも良いからね。ステアを受験する学生にはその制服目当ての子もいるくらいだし。ある種のステータスかな?」

「へー」

「それより龍、お前は何故来たんだ。国の重要な催事でもないのに」

「今日はアリスのお守りだ」

「そうか」

「あの、皆さんは今日呼ばれた理由って知ってます?」

「いや、皆新しく転生した卓に呼ばれた。国の今後を左右する重要な話し合いがあると」

「だったら、ここでなくとも良いんじゃないですか」

「恐らくだが、転生者以外にもこの国の国会議員にも知らせた方が良いと考えたんだろうが良く分からん」

「まあ、それにしてもよくここを抑えたよね。ここに呼ばれるってことは。あたしたち以外に来るのは必然的に彼らでしょ?」

「彼ら?」

「国会議員でも内閣のトップ……総理大臣だね」

「ああ」

「そもそも総理大臣との面会じゃなきゃ官邸に呼びつけるなんてしないしね。でも今の内閣忙しいはずなんだけどね」

「それって、先月の選挙が関係してます?」

「お!よく知ってるね。そうだよ、先月の選挙で前まで野党だった民政党が政権を取ってね。アリスちゃん国政に詳しんだ?」

「あ、いいえ、学校で結構話題になってましたから」

「なんで?」

「新しく総理になった人の娘が月組の同級生なんです」

「ああ、なるほど」


 4月、アリスが入学して3週間ほどが経った頃、普段は大人しい月組の生徒たちが妙に浮いていたのだ。噂によると当時最大野党だった民政党が初めて政権を奪い、その代表だった五大名家の一つ西宮輝義が総理に指名された。


 名家出身の者が総理になるのは歴史上初めてで名家にとってもその娘の西宮雪にとっても名誉あることだった。


「そうか学校でもそこまでの話題になったか。まあ名家出身で政治家になるものは珍しくないが五大名家で総理になった者はいなかったからな」

「そうなんですか?」

「もともと五大名家が議長を務める名家の集団が名家会議と言われるんだが、その会議に出席に出来るのは各名家の当主だけだ。しかし、名家会議にも規則があってな名家の当主になると政治家として出馬できないんだ。まあ建前は当主と政治家では両立が難しいというのがあるが、本来は当主と政治家としての権力分散が大きいだろう。だから西宮家の場合、日本においては珍しい女系当主で政治家が嫁いで来るのが一般的らしい、聞いたところによると西宮家に入り婿した政治家は出世するとか」

「へー」

「しかし、今回の選挙も眉唾な噂が絶えないんだがな」

「なんで?」

「基本的に総理大臣を新たに指名する選挙は基本総理大臣が衆議院の議員で、内閣を解散するにあたり衆議院も解散するから選挙をする。つまり衆議院の議員を国民が選び直すのが選挙だが、今回は事情が違ったんだ。本来総理大臣が内閣及び衆議院を解散するのは、衆議院の任期である4年を過ぎたらだが、旧日本でもこの日本でも満期で解散したことなどほとんどない、ほとんどが大きな法案を採択するときに国民に判断を委ねるという理由で解散する。また、首相やほかの閣僚……大臣のスキャンダルが公になって総辞職に追い込まれるのが一般的だが。今回は異常だ」

「そうだねえ」

「うーん、何が?」

「タイミングよく、ほとんどの大臣、総理含め内閣のスキャンダルが公になったんだ。それでほぼ強制的に内閣と衆議院は解散、国会会期中だが選挙が行われた。結果最大野党だった民政党が与党だった自政党を破って初めての与党になった……のは良いんだが」

「何かあるんですか?」

「おかしいとは思わないか?いつの時代もスキャンダルなんていくらでもあるさ、でも現職大臣のほぼすべてのスキャンダルが一斉に公になったんだ誰かが裏で何かしたとしか思えん」

「民政党が政権を取るために大臣の弱みを握ったとか?」

「そこまで行くと陰謀論になってしまうがそうとしか思えないほどだ」

「私たちは何もしておりませんよ?」

「っ!」


 その場にいた転生者全員が部屋の入り口に振り向く。そこには議員バッチを胸に付けた人たちがいた、もちろんバッチを着けていない人間もいたがそれよりアリスが気になったのはアリスと同じ年齢と思われる女子高生が居たのだ。


 アリスはその子の顔を見て驚く。


「西宮さん」


 雪はアリスを見るとアリスではなくアリスの周りにいる転生者たちに一瞥するとそのまま席に移動する。


「……」

「アリスちゃん、あの子に嫌われてる?」

「嫌われるようなことしたことないんですけどね。でも前に、オブザーバーの弟子だって伝えたら中々いい顔をしましたけど」

「ああ、なるほどねえ」

「それより三穂さん、色々な人が来てますけど胸にバッチ着けてない人もいます」

「ああ、秘書の人だったりだとか後椅子に座る人は大手の電機メーカーの人だね。確かコーセイ電機だったかな」


 全員が部屋に入るのを確認すると最後部屋に入った女性が口を開く。


「では皆さま揃いましたのでただいまより会議を始めます。皆さまご着席ください」

「あ、師匠。忘れてた、今日暇でしょ?ならこれ読んどいて」

「ん?なんだこれ」

「これから先転生者に接するときのマニュアル……説明書……昔の言い方で指南書?みたいなもんだよ。私が思う現代の転生者はこれ通りにすればある程度はこの世界で順応すると思うから」

「なるほど、参考にする。すまないな」


 全員が席に座るとスーツを着た女性が長机の前に立つ。


「それでは皆様これより会議を始めたいと思います」


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