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技術革命 5

「おおお!」

「お!……お?」


 先民側と識人側で反応が分かれた。それはアリスも同じだ。


(……でかくね?)


 アリスの想像とは少し……いやだいぶ違ったのだろう。布が取られた瞬間、例の三人の外人反応画像のように身を乗り出したが、そこにあったパソコンは識人たちの想像とは違った大きさだった……倍ぐらいにでかいのだ。


「どうかしたのかね?」


 識人たちの困惑した表情を見てニヤニヤしながら西宮が尋ねた。しかし、アリスが識人たちの困惑する原因となった理由を質問として橘に尋ねる。


「橘さん……これ、まあここにあるんだからパソコンなんだろうけどでかくないですか?」


 橘はアリスの顔を見た後、困惑している識人たちの顔を見て少し間を置き答えた。


「識人の皆さま方、勘違いをしていらっしゃいます」

「ほう?どのような勘違いを?」

「これはパソコンではありませんよ?」

「は?」


 識人側全員は驚きの表情になった。


「どういうことだ?」

「ですからこれはパソコンではありません。言いましたよね?これはコンピューターです。個人が使うように開発された小型化したパソコン、パーソナルコンピューターではなく小型化してないいわゆる研究等に使われるコンピューター……電子計算機です。まあそれでも出来る限り小型化しましたが」


 アリス含めた識人全員がハッとしたような顔になった。


 そう、元々コンピューターと言うのは研究達が寝ている間も計算をするように人間では出来ない膨大な計算をするように開発されたのだ(元々は暗号を破るために基礎が作られたが)。


 今、一般的に使われているパソコンはその機能を使って個人が使いやすいように作ったものだ。


「とまあ建前はここまでにしときましょうか」

「は?」

「ここからは卓様の言葉を直接お伝えします」


 そういうと橘は胸元から紙を取り出して、読み始める。


「この度は手紙という形となりましたことをお詫び申し上げます。本来であれば開発した私が直々に出向くのが礼儀だと思いますが現在この日本の科学時術の発展速度を見た結果、会議に参加する時間を研究開発に回すのがこの国のためになると判断しこの形になりました。代わりに秘書を私の代わりに送りましたのでよろしくお願いします。さて今回、転生してコンピューターが無いということに絶望し、また一部の人からの懇願によりコンピューター作りに着手しました。しかし、意外にも驚いたのはこの国の研究者も以外にやることでした。恐らく先に転生した日本人が自分たちが持ちうる限りの情報を伝えた結果なのでしょう、コンピューターの基礎部分はもう開発済みでした」

「はあ!?」


 この言葉にアリスが驚いた。なんと識人の部分的な情報のみで第二日本の研究者はコンピューターに基礎を作ることに成功していたのだ。


(おいおい!すごいじゃない!やっぱり日本の研究者ってやる時はやるんだね!もしかして卓君いらなかった?ていうか、一部の懇願……これ確実にあたしのことじゃねえか!)


「しかし、訳9割の部分が完成していたとは言え、肝心の部分……約一割を占めるがコンピューターを動かすためには必須であるプログラムが作られていなかったのです」

「あ……」


(そうか、コンピューターを動かすためにはプログラムが必須……というよりそれが無いと動かん……しかもプログラムってコンピューターでしか使わないから研究者も気づかなかったのか)


「そして、私が作られたコンピューターの試作機に手を加え機械としてほとんど完成させた後、プログラム……機械語の制作に着手しました。しかし、ここで気づいたのです。秘書より教えられたのですが、この世界に転生する者はユニークと呼ばれる……俗に言うチートがあると。たまたま機械語に変換するためのコンパイラと試しのソースコードを書いていた時です、本来ならコンパイラしたときにしか出ないエラーが書いているときにすでに見えていました。つまりこれが私のユニークだと理解出来ました」

(……プログラム専門のチートか!?それって世に居るプログラマーが喉から手が出るレベルで欲しいチートじゃん!)


「アリス君、言っている意味が分からんのだが」


 大多数のパソコンの大まかな使い方を知っているがプログラミング自体は出来ない識人代表の衣笠がアリスに助言を求めた。


「えーと、まずコンピューターを動かすにはCPU……つまり人間でいう頭ですね、ここに命令を与えなければなりません。この命令文がプログラムです。しかし、コンピューターというのは人間とは違い一つの言語の命令文でしか動きません、その言語が機械語です」

「なるほど、ではさっき出たコンパイルとはなんだ?」


 アリスは感じた、衣笠は自分に説明するように促すとともにコンピューターを始めて見る先民に説明させるように質問したのだ。


「機械語と言うのは0と1という数列で作られる文章です、まあ普通の人から見たら下手すればただの模様にしか見えませんがコンピューターはその0と1で作られた数列の文章でしか動けません。しかし、一般的なプログラマー……プログラムを書く人間でも機械語だけでプログラムは作れません。ですから人間が読める言語でのプログラムが必要です、それが英語等で書かれるプログラミング言語です。色々ありますけど、有名なのがC言語ですかね?しかし、このプログラムは機械語ではありません、だから英語等で書いたプログラムを機械語に変換することが必要になります、この作業がコンパイルです」

「なるほど、ではこれは個人的な質問なんだが彼のユニークのエラーが見えるというのはどういうことだい?」

「プログラミング作業の訳1割はまずプログラムのフローチャートを書いてプログラムの構成を大まかに決めること、訳1割から2割がプログラムを書く作業です。残りが何かというとコンパイルしたときに出てくるエラーをただひたすら見直して書き直すことです、これをデバッグと言いますが、これが大変なんです。何故なら長文のプログラムを書けば必ずと言っていいほどエラーを吐き出します、これは99パーセント出ます、むしろ出なかったら奇跡です。しかもこれはプログラムを書き終えてコンパイルしたときにしか出ないのでプログラマーからしたらかなりイラつく作業でしょうね」

「なるほど、つまり彼のユニークはプログラミングに適したものなんだね?」

「それどころか、プログラミングに限定すればチート中のチートです。旧日本のプログラマーからしたらいくらつぎ込んでも欲しい能力でしょうね」

「よろしいでしょうか。続きを読みたいのですが」

「あ、はいすみません」


 プログラムの重要性の説明を終えたと認識した橘が会話に入る。


「なので、コンパイラーの作成と基本的なOSを作成する作業や最低限この会議に必要なソフト等の開発が以外にも早く出来たためにこの会議を開催するに至りました」

「ちょっと待ってくれOSとはなんだ」


 今度は先民側から質問が出た。


「えーとまず……」

「少し良いでしょうか」


 割って入ったのは橘だ。


「何だね?」

「識人の方々も議員の方々も貴重な時間を割いてこの会議に参加してくださいました。ですが新しく出てくる単語についていちいち質問されては時間が足りません。なので聞きたいことがあれば会議終了後、技術者が来ていますのでそちらの方に質問をお願いいたします」

「ならば最初から技術者に説明を任せればよいのではないか」

「いえ、今回の会議の趣旨は技術の詳細説明ではなく新しく開発された技術で何が出来るかを披露する場でございます。それはこの国の技術者では無く旧日本でこの技術に慣れているアリス様の方が適任だと思われるからです。それに私はあくまで卓様の代理ですので」

「そうか……分かった続けたまえ」

「ありがとうございます。ではアリス様スイッチを入れてください」

「え?ああ、はい」


 アリスは少し目の前にあるコンピューターを観察した。


(コンピューターねえ、本当にスイッチ一つあるだけだな。USBを挿す穴すらない、本体もでかいし……あたしの知ってるデスクトップの2倍くらいあんぞ?ていうか、なんか足りなくね?)


「あの……」

「何でしょう」

「マウスないんですけど」


 旧日本でパソコン扱うならマウスはもう必然だが、アリスの前にあるコンピューターにはマウスが無かった。


「ああ、卓様曰く、『パソコンが普及し始めた頃はマウスは開発されたが普及はしなかった、キーボードだけでパソコン使ってたので、そのころの気分を味わって』だそうです。まあ正直に言いますと基本最低限だけを作ったのでマウス作るまでに至らなかったそうです」

「ええ!」


 アリスは衣笠や三穂に視線を送り、助けを求めた。


「確かにパソコンと言えるものがが普及しだした当時はマウスが無かった。Windowsが出来てからだったか?というよりそれまではキーボードだけで事足りたからな」

「マウス無しじゃあ私やり方知りませんよ!?」

「大丈夫でしょ!作ったの卓君だし、最初にアリスちゃんが使うことを想定してると思うよ?」

「……分かりました」


 改めてアリスはコンピューターに視線を移す。


(もう引けない……か。ならやるしかない)


「南無さん!」


 アリスは目の前にあるスイッチを押した。すると橘は隣にある機械のボタンも同時に押した。


 するとけたたましい起動音を鳴らしながら機械が動き出す。それと同時にアリスの前にあるモニターが光った。同時に識人側から歓声が聞こえてくる。


 しかし、識人側は別の歓声も上げていた、しかしそれはまさかというような声の上げ方だった。


「どうかしました?」

「アリスちゃん後ろ」

「へ?……うお!」


 アリスが振り向くと後ろの壁に掛けられていた白いプロジェクター用のスクリーンにアリスがモニターで見ているものと同じものが映し出されていた。


「え!?なんでって……これか!」


 先ほどアリスがコンピューターのスイッチを入れると同時に橘が起動したのは卓が同時に作ったプロジェクターだった。


「これも作ったのか!」

「作るだけなら他の他の人間に設計図渡すだけでしたので楽だったと」

「ならマウス作っても良かったじゃん!」

「他に作るものもありましたのでそこまで人が足りませんでした」

「ええ……ん?」


 アリスはスクリーンに映し出されているものに気づくが近すぎて見えなかったため、ミニターを見る……そこに映し出されていたのは。


『Sea550』という文字だった。


「……シー?海?550?なんの数字?」

「ああ、セアのことだね。そうかアルファベットにすると海になるね……この国に海は無いけど。550は年の数え方だね。ほら西暦とかいうじゃん?」

「ああ、そうですね」

「でもあれってキリスト教じゃん?この世界無いし、まあクリスマスとかの行事は日本人だからあるけどね。だから旧日本にあやかって皇歴にしたんだって」

「旧日本でも使ってたんですか?聞いたことないけど」

「使ってるよ、ただ日本独自だからあまり知らない人も多いからね。……あ、画面変わった」


 モニターには一つの入力画面が表示されていた。


(多分パスワードだよね……知らないけど!?今日初めて触ったコンピューターやぞ!?パスなんて知るわけないじゃん!)


「えっと、パスワード知らないんですけど」

「え?アリスちゃん知らないの!?」

「知るわけないじゃないですか!今日初めて触るんですよ!?今日初めて触るPCになんでロックかけてあるんですか!」

「まあそうか」

「アリス様卓様よりパスワードについてのヒントです。『初めてのプログラミング』だそうです」

「は、はあ」


 アリスは与えられたヒントで思考し始める。その時間は他の者にとって歯がゆい時間だ。


(考えろ……初めてのプログラミングだろ?ていうかさ、これあたしがプログラム関係の単語だけ知っててプログラム自体やった事なかった実質詰みじゃね?まあ卓君があたしの知識量を見込んでの問題だお姉さんとしてはきちんと答えねば。初めてのプログラミングって何やるんだっけ?確か文字を表示させるプログラムだっけか?なら打ち込むのはその表示させる文字だ……だけどその文字って普通個人に左右されない?……いや、確かプログラミングの本には最初に表示する文字は指定されてた……あ、あれか)


 静かに手をキーボードに乗せてゆっくりとタイプし始めるアリス。その打ち込まれる文字をスクリーンを見ながら両陣営が見守る。


 そして打ち込んだ文字はこれだった。


『hello world』と。


 この文字はプログラミングを勉強する者であれば確実に見る文字であり確実に打ち込む文字である。直訳すれば『こんにちは世界』だがこの言葉の意味は『hello world』と打ち込むプログラムが出来ればプログラミング……引いてはネットの世界に足を踏み入れたということ。


 つまり、パソコンはネット繋ぐことで遠くにいる誰とでもつながることが出来る……そのネットの世界に向けての挨拶なのだ(挨拶は大事)。


 アリスが『hello world』打ち込みエンターキーを押した。


 しかし、映ったのは黒の画面に白い枠が現れ左上に縦に短い棒が点滅してるだけだった。


「ん?……これだけ?」


 試しに何か打ってみる……aを。


 するとちゃんと画面上にaの文字が入る。


「一応使えてはいるか」

「アリス君!」

「ひゃあ!なんですか!」


 この時点でアリスは気づいた両陣営が今まで見たことが無いほどにテンションが上がっていることに。


 しかも、陣営ごとに反応が違う。


 識人はついに文字を打ち込めるパソコンがこの世界に実現したことによる歓喜。


 先民側は見た事がない機械が動き出しスクリーンに文字が表示されていることに驚きを含めたうえでの歓喜だ。


「平仮名は!?漢字変換は!?」

「え?ああ」


 左上にある半角/全角・漢字を押して、文字を入力する。『日本』と。


 するとちゃんと『にほん』と表示されてから『日本』に変換された。


「「「おおお!」」」


 またもや歓声が上がる。今度は議員たちも混ざりお祭り騒ぎだ。


「たった二週間でここまでやったか!凄いな卓君は!」

「だが、疑問だ、ここに表示されているのは分かるが文字を消すのはどうするんだ?消せないようじゃタイプライターと変わらんだろ?表示が紙から画面になっただけだ」


 この西宮の質問に対して識人たちはニヤニヤしていた。『パソコンを舐めるなよ』と。


「説明するのはめんどいので見てもらえればわかります」


 そういうとBackSpaceを連続で押す。すると画面に表示されていた文字が消えていく。


「な?こんなに簡単に?」

「アリスちゃん!コピペできる!?」

「ああ、やってみますか……マウス無しで範囲指定ってどうするんですか?」

「ああ、えっとね。とりあえず文字打ち込んでそしたらシフト押しながら矢印で選択できるよ、出来ればだけど」


 試しにもう一度日本と入力し操作する、するとちゃんと範囲選択された日本の文字だけが白くなった。


(確かコピーってコントロール押しながらCでペーストはコントロール押しながらVだったっけ?PC壊す危険があるけどあれやりたいな……まあ卓君のことだしあたしがこれをやることも想定してるでしょ)


 アリスはまず、Ctrlを押しながらCを押してそのままVを押す準備をした。


「いいですか?ちょっと連続でやってみます」

「へ?連続?」


 今度はモニターではなく皆が見ているスクリーンを見ながらVを五回連打する。


 するとスクリーンに映っている日本の文字は瞬時に6個になった。


「おおお!コピペも出来るんか!やるなあ!」

「これは……凄いな革命が起きるんじゃないか?」

「なるほどこれを見せるために我々も呼んだのですね」


 議員を含め、一緒に来ていたコーセイ電機の役員も感嘆の声を上げていた。


「ここで識人の皆さまには技術者含め卓様より情報提供の感謝としてプレゼントがあります。アリス様Ctrlを押しながらTを押してください」

「分かりました」


 言われた通り押すと先ほど打ち込んだ文字が消えていき代わりに新たな文字が浮かび上がる……その文字自体にアリスは覚えがあるが世代では無かった、しかし他の識人には刺さるものだった……『テトリス』だ。


「お?おおお!マジで!懐かしい!」

「うっそ!テトリス出来んの!?最高じゃん!今までテレビゲーム無かったからなー」


 識人の各々がこの世界に初めて出来たテレビゲームの存在に感動しつつあったが、それもすぐに戻される。


「ではアリスさん戻してください」

「え!もう?」

「はい、存在だけお知らせするだけです。まだ、やることがありますので」


 他の識人のブーイングこそあったがアリスは橘の指示に従い大人しく画面を戻した。


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