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北条家事件 龍編 2

 識人は本来、直接国を運営することは無い。


 あくまで知識を持つ旧日本人として転生した第二日本を支えるだけの存在である。


 それゆえ、識人と呼ばれる転生者たちが就く職業は基本民間でない限り、各関係省庁のトップに設けられた識人補佐というものになる。


 しかしこの世界の外国からの攻撃ではなく、第二日本国に住む日本人による日本破壊工作によるものでは話が違う。


 日本政府による対処で済めば問題ないが……その日本国を運営する側が謀反を犯す危険が無いとも言えない……そうなれば政府は機能しない。


 そのために設けられたのが『識人会議だ』。


 龍はその役職上どのような国家機密にも触れられるがあくまで国家機密だ。


 政治家やほかの重要な役職に就いている先民の行動や思考までは知ることは出来ない。


 なので各ポストに就いた人間に識人として助言をすると共にその動向も監視するのも識人補佐の役目なのである。


 そしてその識人補佐より国内部で国家反逆と同等の行為が行われると察知された場合、即座に識人会議が招集されるのだ。


 まず以上を察知した識人補佐が識人会議の議長である龍に報告する。


 そして識人として直接行動が必要ならば必要な役職の識人補佐についている識人を招集し裏から問題を解決するために密かに動くのである。



 翌日、転保協会の地下の一室……本来、識人会議が招集される以外では使われない部屋だ。


 龍の趣味によるものか、そこは和室になっている。


 今ここに集まっているのは第二日本国の警察庁長官識人補佐、警視総監識人補佐、また各識人補佐を継ぐ予定である識人補佐の副官である。


 そして本来議長の席に座る龍は会議の招集者であるため議長代理として会議進行役の衣笠がその場にいた。


「それで?今回の招集理由は何です?」


 口を開いたのは警察庁長官識人補佐の斎藤博人だ。


「申し訳ないが知りません」

「はあ……普段であれば少し猶予があるんだが……今回はいきなりだな。我々も忙しいのに」

「それほど急ぎなのでしょう。電話口でもかなり口調にいら立ちを感じましたし」

「待たせたな」


 そこに現れたのは口調だけは冷静な龍だった。しかし、その顔は誰が見ても怒りに満ちているのが分かった。


「龍、妙にイラついているな何があった?」

「これを見れば分かる」


 龍は机に紙を置いた、神報殿で写したものだ。


 全員がそれを手に取り読み始める……が直ぐに顔が険しくなる。


「これは……もしこれが事実なら何故霞家は何故存続出来ている?400年前の事件だ、今ならまだしも我々の世界の400年前……江戸時代くらいか……一族打ち首でも文句は言えない」

「その理由はここに書いてある」


 神報書では無いが龍の師匠が書いた紙を出す。


「これは?」

「俺の師匠が書いたものだ」

「ほう」


 全員が紙を読む。


「なるほど、この師匠が言うには天皇陛下……いや当時は帝か、それを殺そうとしたのは霞家では無く他の人間……この入れ墨?を入れたものだということか……何故師匠は調べなかったんだ?」

「簡単だ。この後すぐにファナカスとの戦争になったからだよ」

「ああ、調べようにも戦争でうやむやになったのか」

「ではこの入れ墨は……覚えはあるのかい?」

「俺が神報殿に入る前に入ろうとした人間が居た。そいつの首にこの入れ墨があった」

「誰だ?皇宮警察か?」

「いや、もしそうなら皇居にいる間は制服のはずだ。あそこに入れるのは皇宮警察か皇族、そして皇族守護の北条家だ」

「……なあ龍一つ聞いていいか?」

「なんだ?」

「何故会議を招集したんだ?」

「どういう意味だ」

「普段のお前なら頼まれもしない限り、神報殿の書物を写してはこないしお前から会議を招集することは無いはずだ。なら何故だ?」

「……」

「まさかとは思うが、アリス君のためか!」


 龍は目線をそらす


「いいか龍!確かに弟子のお願いを聞くのも師匠の役目だとは思うぞ?だがなそれだけの為に識人会議を開くのはやりすぎだ」

「良いですかな」


 割って入ったのは斎藤だ。


「龍さん、仮にこれらの者から400年前の北条家の犯罪が露見したとて、今の刑法は400年前の事件を裁くことは出来ません」

「そんなことは知っとる」

「じゃあ何故私たちを集めたんです」

「アリスの件は副産物だ。本題はこっち」


 そこで龍はもう二枚の紙を取り出した。


 全員それを読みだした……すぐに顔色が変わる。絶望の色だ。


「これは……本当か?これが本当なら……国家反逆罪……いや、不敬罪……色々な罪でデコレーション出来る、死刑は免れないだろう」

「龍……一応聞くがこれは何処で?」

「……俺の部下が拾った」

「そうか……」

「どうだ?これが君たちを招集した理由だ。動く理由には十分だと思うが」

「そうですね……しかし、警察としても確実に逮捕から起訴に至るまでにかなりの準備時間が要りますね」

「3週間」

「はい?」

「出来れば3週間で逮捕まで行きたい」


 全員が絶句した。普通の捜査ならいざ知らず、第二日本のかなり高位な立場にいる人間なのだ。ワンチャン、政府からの圧力が加わる可能性もある……気づかれないように静かに行動する必要があるのだ。


「それはまた急な話ですね。何故3週間なんですか」

「この手紙は本来北国の皇帝に届けられるはずのものだ、それが届かなかったと北条大次郎が気づくのが早くて三週間後とういうわけだ」

「つまり早くても3週間後には北条家が異変に気付くということですか……でもそれが何だというんです?じっくり時間を掛ければ確実に北条家を逮捕出来ますよ?」

「それでは意味が無い」

「とういうと?」

「北条大次郎が逮捕されれば一族が皇族守護から解かれる。そうなれば必然的に次の御守護は霞家となるだろう。しかしだ、北条家が霞家を名家から除名するのに秒読みに入った所だ。それにこのまま霞家が皇族守護になっても過去の冤罪を晴らさないと他の名家から信頼も得られない……重要なのは北条家が霞家を除名処分する前に逮捕することだ」

「なるほど、確かに皇族守護は名家の仕事の一つ……北条家が逮捕されても適任であろう霞家が汚名を晴らさずにまた名家に入って守護についてもそれこそ意味が無いと」

「そうだ」

「だが、北条大次郎がそう簡単に罪を自白するか?」

「それは問題ない」


 龍懐から一つの機械を取り出した。龍以外は一瞬で気づく……テープレコーダーだ。


「これは……ウォークマンか?」

「名前などどうでも良い。これがあいつの自白を促す良い道具になるはずだ」

「どうやって?」

「それは後々にな、とにかくだ、君たちにやってもらいたいのは3週間以内に北条大次郎を逮捕するために出来る限りの準備をしてもらうことだ」

「もしそうなら何故首相補佐を招集しなかったのです?」

「今の首相は名家の人間だ、そこから北条家に情報が言っても困る……だから後で個人的に言ってほしい」

「なるほど」


 この場にいるすべてのものが賛同し、この後の行動計画について話し合った後、本来は龍がやるべきだが今回は衣笠が行う。


「さて、今回龍は招集者であることを鑑みて私が状況開始の音頭を取ろう。龍それでいいな?」

「構わん」

「んん。それでは」


 衣笠は深呼吸をする。


「我々はなんだ」

「「「転生者なり」」」

「我々は何故ここに居るか」

「「「旧日本にて命を失ったが、この世界にてまた生きるチャンスをもらったためなり」」」

「ならば我々はどうするべきか」

「「「この国にてまた生きれることに感謝し国に奉仕すべき。しかしこの国に危機が迫る時、無欲にこの国を救うために働くべし」」」

「「「「我ら一度死んだ身、ならば時には無欲に国に奉仕すべきと心に刻む者なり」」」」


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