上空に打ち上がった電撃球を見て柏木は無表情のまま杖を一旦、振り上げ男に向けて振り下ろす。
すると上空にあった電撃球は線に引っ張られるように男向かって急降下していく。
そしてもう一度男がシールドで受けると先ほどまでのひびは無くなっていた。
「まあそううまく言ったら授業もいらん」
「ですよね」
「基本的にシールドを回復する方法は二つ、一番簡単なのは適当な魔法を撃って新しくシールドを再展開することだ。次に数秒待ってシールドの魔素充填を待つこと。まあ個人差があるから中途半端に回復するよりは一回分の魔素を消費しでも再展開した方が良いだろうな」
「へー。でどうするんです?今のままだと同じ事が繰り返しっすよ」
「言われなくても分かってるさ。今までのは基礎だ、これから教えるのはちょっとした応用編だ。まあ一年の間は使えんが」
「意味ないじゃん」
「知っておいて損は無い。それはそれとしてアリス一つ質問だ」
「何さ」
「銃使えるか?」
「……ん?えーと……なんて?」
「銃使ったことは?」
「……さあ?識人なもんで少なくともこの世界で撃ったことは無いっすね」
「そうか……まあ構わん。当たらなくてもいいから撃て」
(教師……いや、元とはいえ自衛官がごく普通の民間人に言ってはいけないだろう言葉のトップに入るだろう言葉を躊躇なく言ったなこの人)
柏木から差し出される銃を受け取るアリス、ここであることに気づいた。
右手でグリップを握ると少し違和感があった。構えてもしっくりこないのだ。
「……」
(衣笠さんにもらった時は気にしなかったけど、この世界に慣れてきた今だと右じゃあ構えにくい?……もしかしてあたしゃあ左利きか?)
銃を左に持ち替え右手でスライドを少し動かし弾がチャンバーに入っているのを確認するとゆっくり構える。
柏木はその過程を呆れた顔で見ていた。
「お前本当に撃った事ないのか?やけに慣れているように見えるんだが」
「さあ?さっきも言ったけど、前の記憶ないんで。まあもしかしたらエアガンとかで使い方知ってたのかもしれないですね」
「あっそ」
「それで撃つタイミングは?」
「次に魔法が打ち上がったらだ」
「了解」
先ほどから三回ほど魔法が打ち上がっているがやはり男には反撃する気が無いのかシールドを再展開したら魔法を受け止めている現状に変わりはなかった。
アリスはゆっくりと銃を構えると深呼吸しながら銃のアイアンサイトで男を捉える。
「撃て!」
四回目、魔法が打ち上がると同時に柏木が大声で射撃の合図を出す。この大声は余裕でアリスに射撃のタイミングを教えるものであったが、同時に男に対して『シールドしまって良いのか?』と暗に伝える意味を持つ声であった。
「……」
アリスが引き金を引く。
バン!
銃声が轟き、ほぼ同時に銃弾は男に当たることは無く、間一髪で上に向けようとした杖を戻し防がれる。
……が、シールドは四回目と同じ消耗率であるとひびの入り方で認識できる。
(おかしいな銃の反動ってこんなもんだっけ?初めてならもっと反動でびっくりするけどなあ。もしかして、あたしって前世で実銃撃った事あるパターン?ハワ親パターンですかね。つーか銃声やべーな)
アリスは続けて数秒の間隔ごとに射撃をする。
柏木はそれを確認すると、もう一度上から、今度は叩きつけるように勢いよく杖を振り下ろす。
「くそっ!」
男は険しい表情でアリスの銃弾を防ぎつつシールドの端っこで電撃を受け止めた。
「ほう?いいねえ!だが終わりだ。アリス!シールドが割れたら射撃を止めろ!」
「は?なんて?」
ハンドガンだろうがアサルトライフルであろうが銃声というものは基本耳栓するのが一般的だ。最悪鼓膜が破れる。
「シールドが割れたら打つのを止めろ!」
「あー、はいはい」
パリン!
「ああああああ!」
「うおっ!」
何かが大きく割れる音と共にシールドが魔素となり霧散すると、男が絶叫して膝から崩れ落ちる。
アリスは驚いた。何しろ割れた音と同時に射撃を止めたために男に銃弾は当たっていないと自負しているからだ。
「シールドが割れるとな、電気が流れたように全身が痺れるんだよ。まあ簡単に言えばシールドが破れた合図と言い換えればいいかな。まあ痺れると言っても十数秒だが」
柏木は残った電撃魔法痺れて動けない男に当てる。
「ぎゃあああああ!」
数秒魔法を受けた男は電撃で絶叫し痙攣しながら気絶した。
「オーバーキルでは……」
「シールドが割れた程度では人によちゃあ気絶しない、確実に気絶させるならこの方が良い」
「あ!終わった?ちょうどこっちも終わったよ!」
両手を上げながら近づいてくる小林に対して、アリスは目の前の戦いに集中しすぎて先輩三人の戦いを見ることほとんど出来なかったが、倒れている男の様子を見て何となく察した。
こっちもオーバーキルをしたのだと。
「……生きているのか?それ」
倒れている男の両腕両足の関節が本来曲がってはいけない方向に曲がっていたのだ。
しかも顔がよほどの痛みだったのだろう、顔面蒼白で泡まで吹いている。
「大丈夫です、息はしてるので、警察が来たら何とかなるでしょう」
「そういう問題か?」
「それにしてもアリスちゃん銃撃つの上手いねえ!」
「そうですかねえ!今日初めて撃ったんですけど!前世で撃っててのかもしれないです!」
「……聞いた話じゃ旧日本て銃の規制が凄く厳しいけど、何処で練習たんだろうね」
「それに反動制御もだ。少し練習すれば撃つだけなら小学生でも出来るが、反動を抑えつつ的確に連射するには銃の反動自体を体が覚える必要がある。どこで習った?」
「さあ?あと一つ聞いていいですか?先輩たち……魔法使いました?」
「……ん?使ったよ?まあ最初の陽動だけだけどね。後は近づいて関節技で制圧!基本でしょ!」
「え?」
「ん?」
アリスは戦っている最中、しかしの端に何度か小林たちが動く様子と杖を振っている様子は確認こそ出来たが、肝心の魔法自体は見えていなかった。
「ああ、そうかまだ習ってないもんね」
「本来なら後期辺りだ。アリス魔法戦では今回のように馬鹿正直に魔法を撃ったりはしないよ」
「なして?」
「魔法の種類を気取られるから」
「それが普通では?」
「お前の師匠である魔素量がいかれている龍なら逆にドデカい魔法一発ぶち込めば終わるが私たちはそうはいかない。戦うときの魔素量の把握、敵の動き方、敵が得意とする魔法の見極めこれらを考えながら戦うのがステアの魔法戦闘だ」
「はあ」
「それでね私たちは一年の後半になると魔法の圧縮を教わるの……ほらあれみたいに」
小林が指さしたのは霞姉妹の戦いだった。魔法を撃っているように見えるがアリスの見ている距離からでは魔法が見えずに着弾するとこでしか判別が出来ない。
「さすが霞姉妹!戦い方のセオリーは教わっているよねー……時間が掛かっている点を除けば」
「お前は何を見てるんだ?」
「何って?」
「前の授業で知ったが戦闘慣れしてるのは姉のサチ一人だ。妹のコウは魔法を防げはするだろうが戦い自体が不慣れだからな事実上一対一、しかもサチに関しては守る対象が二人だぞ?お前らより条件きついと思うが」
「……マジで?」
「マジだ」
「……がんばれー!二人とも!」
その時だった、男の攻撃対象が今までサチとコウだったのが埒が明かないと判断したのだろう。
魔法をサチに集中したとたん、何故か男の杖が小規模の爆発をして後方に飛んだ。
驚いたのは男と以外にもサチだった。
そして相手に悟られないようにしゃがみ込んで魔法を撃った張本人であるコウは汗びっしょりの笑顔でサチを見つめる。
『私だって出来るよ』
「ふふ、オッケー!仕上げだコウ」
「うん、サチ」
二人は並んで男に杖を向ける。
「今何したんですか!勝手に杖が吹き飛んだように……」
「魔素球だろ。相手になるべく見えないように呪文を込めてない魔素球をこれまた小さくして相手の視線がサチに集中した瞬間に視線外から回り込むようにするために線でつないで相手目掛けて放ったんだ。杖に当たったのは幸運だったな」
「ほー!かっこいい!……ん?」
アリスは驚愕する。
サチとコウそれぞれの杖先に魔法の球体が二つ、計四つの球体が浮かんでいた。
サチの杖には火と風、コウは水と雷だ。
(あれー?杖を出しているのは二人、でも出ている魔法は四つ……なーにが起きてるんだー?)
「えーと先生?一人で二つの魔法って打てるんですかー」
「放つのは無理だが生成は出来る……というか二人がやろうとしてるのは、第二魔法じゃないか?霞家はそんなものまで教えるのか」
「第二?まだ習っていませんけど!」
「そりゃあそうだ!第二魔法は本来二年からだ!」
サチとコウが生み出した魔法はゆらゆらと浮かんでこそ居たが、次の瞬間、火は風と、水は雷と合体した。
すると先ほどまでメラメラと燃えるだけの火の玉は風の力でより強く、水の球体は稲妻を帯びた球体になる。
「二人とも適正魔法が二つだったが……こんな技まで」
「適正魔法とは!?」
「お前もそうだがこの世界の人間は必ず一つ適正魔法がある。火、水、風、雷、土だ。本来個人の攻撃魔法は第三まで存在するが第二以降の魔法は適正が無いと唱えることが出ない。極まれに二つの適性を持つ人間がいると聞いたことがあるが……さすが魔法戦闘特化の家系だ」
「あ!それ違うらしいですよ先生!霞家の当主の過去最高適正数は四つらしいです!でも双子だからなのか分け合うように何故か二つずつになったらしいです」
「……ますます化け物一家だな霞家は」
サチとコウはお互い杖を終わりと言わんばかりに勢いよく突き出した。
打ち出された魔法は螺旋状に回転しながら男に突き進むと驚くべきことが起きる。
なんと、二つの魔法はまたもや合体し、一つの魔法になったのだ。しかも形を変え十字になった魔法は回転しながら敵に突っ込んでいく。
「……何でもありか!?あの姉妹!」
基本的に撃ったら直線軌道で終了か、ある線をつなぎ自由に魔法を操る第一魔法とは違い、第二魔法のほとんどはホーミング……つまり追跡する。
術者が目標とした者に対して、目標が術者の視界から居なくなるか目標が術者の本能的に脅威無しと判断するまで追尾するのが第二魔法の利点だ。
男は足早に杖を回収し、背後に迫る尋常じゃない気配に対して振り向き構えたが……遅かった。
「あ……ぎゃ……」
杖を急いで構えた苦労もむなしく魔法に触れた瞬間にシールドが溶けるように一瞬で割れるとシールド破壊の反動すら男に伝わるより早く魔法が男に当たり悲鳴を上げる暇すらなく塵となった。
目標を滅した瞬間魔法はその後一瞬で消え去りその場に残ったのは、運よく生き残った杖のみ。
(……霞家すげー)
「アリスあれは参考にするな。あの芸当が出来るのは日本中……いや世界中探しても霞家当主と龍ぐらいだ」
「あ、はい」
一瞬だった。
魔法を放たれてから男を倒すまで……いや消し炭にするまでの驚異的な光景を目の当たりにしたほとんどの者が呆然としていた。
感嘆する者、笑うことしかできない者、霞家を再評価する者、だが誰一人恐怖を覚える者はいなかった。
同じ花組としての信頼か、それとも偶然皆ある意味狂っていたのかは定かではない。
たが一人だけは怯えもせず、笑顔を溢し拍手をしながら狂っていることは確実だろう男が下りてくる。
シオティスだ。
「お見事」