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ステア魔法学校襲撃編 5

 シオティスは杖を関節があらぬ方向に曲がっている男に向けると魔法を放つ。


「あ、は?うそ!」


 着弾すると男の体を黒炎が包む。すると、少しずつ体の端から黒い魔素となり溶けていく。


 最終的には男のいた場所は燃え痕が残るのみになっていた。


「あんた今味方……」

「いや、彼はもう亡くなっていたものですから、少し早めの火葬と致しました」

「え?あ!」

「ええ、最初は息がありましたがそこの姉妹の戦闘の内に。君たちは制圧の訓練をしているかもしれないですが、それはあくまで訓練です。本番では自分の命も守らねばなりませんからね、力加減を間違えるのも当たり前です。その証拠に先生の戦いは見事でした」


 柏木に向けて拍手をするシオティス、だが柏木の顔は変わらずだ。


「お前に褒められても嬉しくはないな」

「そうですか?であれば、生徒を諭すと良いでしょう。意図せず敵とは言え人を殺したのですから」

「その心配はないな」

「ほう?」

「こいつらは我が花組の中でもいかれた部類でね。見て見ろ」

「あれー?力加減間違えた?さすがに両手両足はやりすぎたかなあ」

「だから言ったんだ、全部折る必要はないって!」

「だって暴れたんだもん!しょうがないじゃん」

「……なるほどこれは頼もしい方々だ。では私も一つ遊んでみましょうか」


 シオティスはサチとコウの方へ歩いていく。


 二人の援護をしようとアリスが駆け寄るが空中で何かに衝突し後ろに転んだ。


「あふん!!え?は?嘘?壁?」


 アリスが触る、完全な透明の壁だ。


「くっそ!」


 アリスは杖を構えて魔法撃つが傷一つつかない。


「残念ですがあなた程度では破れませんよ」

「卑怯者!」

「ははは!ルールなど存在しない戦場に置いて卑怯者という言葉ほど嬉しい言葉は無いですね、良いですか?どのような形であれ生き残れば勝者、死ねば敗者です」


 サチとコウは逃げようとしない。東條が要るからだろう、二人で壁になると杖を構える。


「シオティス!こいつは良いのか!?」


 脅しのつもりだろう、柏木は銃を残って気絶している男に向けた。


「ああ、構いませんよ?そもそも時間稼ぎで来たんです。重要な情報を知っている人間を連れてくると思いますか」

「……くそが!」


 シオティスが杖を構える。


「さて、確か霞家でしたか?日本において最強と名高い魔法戦闘の名家……ですか。良いでしょう、掛かってきなさい。二人同時でも良いですよ?」

「でも後ろに守る人が要る時点でそれは出来ないっしょ?あんたがそっちを狙わない確証もないんだし」

「ああ、ご安心を。そこの男の子はこの結界に入っていませんよ、それでは本気で戦えないでしょう?まあ僕は本気は出しませんが」


 それを聞いた東條は足を引きずりながらアリスの元へ歩いていく。


「あー、後ですね。条件をもう一つ付けましょう。私はここから一歩も動きません」

「は?」

「僕が本気を出したら確実に圧勝ですので」

「戦いなのにハンデつけるって?」

「僕は戦いを少しでも楽しみたいので……攻撃しないんですか」

「……」


 サチとコウは杖こそ構えているが、一歩も歩き出さない。


 今まで霞家で何度も対人魔法戦闘の稽古は受けていたサチだが唯一受けていない稽古がある、対闇の魔法使いとの戦闘方法である。


 情報がほぼないのだ。


 当たり前だ。龍が戦争を終わらせた400年前から日本で闇の魔法使いとの戦闘が起きたという情報はほとんど残されていないのだ。


 つまり闇の魔法の種類、威力、戦うために必要である情報が何一つサチの頭には無い。


 これでは迂闊に突っ込むことは出来ない。


「そうですか……ではこちらから行きましょう。この一発で死なないでくださいね?」


 シオティスの杖の先で魔法が生成される。それと同時に二人が身構える。


「……」


 杖を横に振ると、漆黒の球体は弓なりの形になり二人に飛んでいった。


 二人は同時に魔法をそらせようと杖の角度を変えようとする……が遅かった。


 サチの思い描く通常魔法の速度より早く漆黒の刃の到達が早く逸らすつもりが受け止めてしまったのだ。


「あああ!」

「きゃあ!」


 パリン!


 二人のシールドはいともたやすく割れると刃はギリギリ頭上を通過し結界の壁に衝突、霧散した。


 コウはシールド破壊の反動で膝から崩れ落ちた。


 しかしサチは戦えるのは自分だけという思いか、妹を守るという信念のためか膝に手を付きながらも耐えて立っていた。


 だが、全身が痺れているのには変わりはない、杖を構えようとするが動けない。


「サチ!コウ!」

「アリス退け!」


 バンバン!


 焦った柏木は結界の壁に向けて銃弾を発射するが意味は無い。そもそも魔法ですら破れないのだ、物理攻撃などなんの意味もなさない。


 結界の外に居た全員で魔法を撃ちこむがそれでも壁には傷一つ付く気配は無かった。


「残念ですが……これで終わりです。一発耐えたのは見事でしたよ」

「ふーふーふー!」

「破れろよ!このくそ結界!」

「クソ!何か方法無いか!?」

「助けは?応援は!?」


 ここでアリスは一つ気づいた。


(ちょっと待て……さっきの一発……何故当たらなかった?弾いた?でも一瞬で割れたよな?シールドに当たった時に軌道がずれた?でもそもそもの魔法の軌道は微妙にしたから浮き上がるようだった……手加減した?何故?……もしあいつが師匠と同じ400年前の人間なら価値観は侍……なら戦う理由が無くなれば攻撃しない?)


「サチ!コウ!逃げて!逃げて問題ない!あいつは降参した相手を……背中を打つような性格では無いはずだ」


 サチとコウがアリスを見る。


 同時にシオティスが頷きにっこりと笑う。


「……ごめんアリス。逃げる気はないなあ」

「はあ!?」

「やばいってことも、多分死ぬかもしれんてのも分かってる……でも霞家は過去一度も闇の魔法使いと戦闘経験はない……つまりあたしが初めてなんだ!かなり名誉なことじゃん!楽しまなきゃ!」


サチはそういうがシールドが割れた影響がまだ引きずり、杖すら構えられない状況だ。



(サチさん……それジャンプ主人公の思考回路っす!一応この世界はあたしにとっちゃ異世界なんで!主人公あたしなんで!……自信無くなってきたけど多分!)


 シオティスが杖を構える。


(考えろ!直接援護は不可能……なら交渉だ!つっても交渉材料がないんすけどね!師匠も言ってたけど相手と交渉するならまず相手の欲しがるものを提示するか武力で脅せって!でも武力なんて無いもん!ていうかあいつが欲しがるものすら分からん時点で交渉できないけども!でもサチの痺れの回復時間を稼ぐことは出来る!)


「シオティス!サチとコウは……美少女だ!」


 しーん……緊張感が一瞬でゼロになった。


 隣に居た柏木が呆れた顔になる。


「お前は……何を言ってるんだ」


 同時に、サチでは無くコウの顔が真っ赤に染まる。


「こんな美少女を殺して悔いはないのか!人間国宝……にはならんでしょうとも十分その価値はあるであろう美少女だぞ!天然の赤い髪で姫様カットが似合いすぎるこんな美少女を殺して罪悪感は無いのか!」


 シオティスが体を震わせ笑いながらながら杖を下ろす。


「ふふふ!ははは!アリスさん……交渉にしては意味不明すぎますね」


(んな事分かり切っとるわ!)


「確かに二人とも魅力的で美しい女性ではあると思いますよ?ですがね……私には400年前より愛と忠誠を誓ったお方がいるもので。それにあのお方も二人に劣らず美しい方です、髪型もそっくりで」


(あー、こりゃあ駄目だ。一途な人間だった。交渉材料としては一番使えないの引いちゃった)


「では交渉は以上でいいですね?終わりです」


 もう一度シオティスが杖を構え直す。


 サチはコウに何かつぶやくとコウは涙目になりながら頷く。


 シオティスが二発目の刃を放ち、真っすぐ二人に飛んでいく。


 小林、順、峰はさすがに可愛がった後輩の最後は見ることが出来ないようだ目を背けた。


 東條も自分さえ怪我しなければと独り言を呟きながらうなだれている。


 柏木は涙を流しながら一人壁を手を真っ赤にしながら叩いていた。


 コウは恐らく死を悟ったのだろう、涙を流し『ごめんなさい』と何度もつぶやきながらサチの片足にしがみついていた。


 アリスは……シオティスをじっと見ていた。


 理由は簡単だ、怒っているだけだが……その理由がしょうもない。


「……」


(おいおい!本当に終わりか!ここで一人退場!?かなりの美少女だぞ!確かにゲームでもさ!序盤でシステム的に攻略不可能な敵っているよ?でもさ!そういうのってさ!主人公と戦うもんじゃないの!?ここに主人公いますよ?絶賛蚊帳の外っすよ?おいおい!マジで!何か!何か起これよ!起これえええ!)


 バーン!


 という音と共に辺りが静かになる。


 だが数秒後、最初に異常に気づいたのはシオティスを見ていたアリスだけだった。


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