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ステア魔法学校襲撃編 6

「……ん?」


 アリスが気づいたのはシオティスの表情だった。


 目を大きく開きありえないという表情をしている。


「ほう……素晴らしい」


 その言葉を聞いたアリスはゆっくりと視線を二人に向けた。


 魔法を受けたはずの二人は変わらずその場に立っている……無傷で。


 しかも、サチにいたってはシールド破壊の影響を受けたにも関わらずしっかりと立って杖を構えていた。


「……どうやって?は?生きてる!」


 アリスの叫びで目をそらした四人が一斉に二人を凝視する。涙で顔面ぐしゃぐしゃの柏木も涙を拭き取るとサチを観察する。


「やはり死に抗い戦おうとする者は素晴らしいな」


 歓喜の表情を浮かべるシオティス。


 二人はシールド破壊の影響で動けないことは確定していた、だから次の一発で殺せること確信していたのだ。


 しかし現実は違った二人とも生きているし、なおサチにいたっては先程の痺れが無いかのように直立し杖を構えている。


 そして、サチに起こったことをいち早く気づいたのは柏木だった。


「……ギフトか!」

「ギフト?何それ?贈り物?」

「馬鹿者!ギフトを知らんのか!勉強で習ったろ!」


(知らねーよ!あたしゃ識人だ!)


 アドレナリンの過剰分泌が影響だろう、アリスが識人であるということを忘れて喋る柏木。近くに居た小林が代わりに喋る。


「アリスちゃんたち識人は最初から特殊な魔法スキル持ってるよね?最初から持ってこの世界に来るからユニーク。逆に私たちこの世界に生まれた人間にも条件によって魔法スキルが使えらしいんだ……覚醒ってことだね。かなり確率低いし条件も人によって様々だけど、その力のことを私たちは贈り物……『ギフト』って呼ばれてるんだ」

「ギフト……贈り物」


(つまりチートか……サチはそれが覚醒して今の攻撃を防いだ?それって……)


「因みに、識人もあたしたち先民も魔法スキルを使うと一目で分かる特定の特徴があるの」

「特徴?」

「目がね……虹色に輝くんだ」


 アリスはもう一度、サチの目をよく見る。


 横からだから良く見えないが確かにサチの両目が虹色に輝いて見える。


(確かに目が光ってる……あたしも聖霊魔法使ってる時って光ってたのかな。……いやそれよりもさ!この土壇場で覚醒するとか……マジで主人公じゃん!ここに居る主人公差し置いて最も主人公ムーブしてんのサチさんなんですけど!?)


「ギフト……本来ほとんどの人はギフトを得る前に生涯を終えると言いますが……やはり戦いは分からないものです!面白くなってきました」


 シオティスはもう一発漆黒の刃を放つ。


 今度はまずサチだけを確実に殺せるように。


 だが、サチは表情一つ変えずに刃を防ぎきる、しかもシールドの消耗しないように角度を考えて弾いている。


二発、三発、四発と角度と速度を変えて飛ばすが全て弾かれる。


「ギフトはなんだろう?魔法系か身体能力系?」

「どういう意味?」

「識人のユニークと同じだよ、ギフトにも個人差があってね特殊な魔法が使える人もいればギフトを使っている間だけ身体能力が向上する人もいるんだよ。見る限り目に見えて変化があるわけじゃない……シールドに何か秘密?それとも……」


 ここでアリスはあることに気づいた。


 シオティスの顔に焦りを感じ取ったのだ。


(全部の魔法を防がれているから?でもわざわざ自分でハンデつけといてそれ無いでしょ……ならなんだ?時間?確かにもう警察とかの応援が来てもおかしくは無い。でもそれも織り込み済みだろうし闇の魔法使いが警察に囲まれた程度で捕まるような阿保とかでもないでしょ?じゃあなんだ)


 7発目……防がれたところでシオティスの攻撃が止む。


 これ以上撃っても意味が無いと判断したのだろう。


 と同時にサチがコウの顔を見つめ頭を撫でて何かつぶやく。コウはサチの言葉に軽く頷くとしがみ付いていた体を離す。


 そして大きく深呼吸したサチはシオティスに向けて全力ダッシュし始めた。


「っな!」

「無茶だ!まだ防げるようになったばかりなのに!自殺行為だ!」


 シオティスは一瞬しゃがみ込んだコウを狙おうとするがコウが直ぐにサチとシオティスの延長線上に隠れたためサチに杖を向け直す。


「ギフトを覚醒したからって僕に勝つ気ですか?まだまだ分かってませんねえ」


 刃を続けて三発放つが突っ込みながらでもサチは的確に弾いていく……しかも絶対に後ろのコウに当てないように。


「…………なるほど、でもその間合いはこちらに分があるんですよ」


 するとシオティスは攻撃を止めて杖をしまう。そして即座に腰にあった刀に手を掛けると居合の体制を取る。


「刀?まさか……居合?サチ!突っ込んじゃダメ!その間合いは!」


 アリスは気づく、龍と400年前に会って切りあっているのなら相手は少なくとも400年間魔法と一緒に剣術も極めているはず……であれば常人がその刀裁きや抜刀スピードを見極めるなど不可能に近いと。


 だが、サチは臆することも無く突っ込んでいく。


 そして……。


 ビュン!


 風切り音と共にシオティスの刀はそのまま横に薙ぎ払うように振りぬかれる……が本来刀が通るはずの場所にサチはもう居なかった。


「っな!」


 龍以外に自分の抜刀速度を超える者に会ったことも無ければ、見極める人間すらいないと思っていたシオティスはこの時初めて動揺し体が固まる。


「遅い」

「っ!」


 その瞬間をサチは見逃さなかった。


 シオティスの目線が下に移動する。


 サチは刀が抜かれ、自分の体を通る瞬間、膝を折り曲げながら上体を後ろに反らせ下に滑り込んだのだ。


 そしてそのままの体制で杖を構えると火球を生成する。


「終わりだクソ野郎!あんたの敗因はただ一つ!あたしを見くびっていたことだ!」


 シオティスは驚いた表情から笑顔になった。そしてサチにだけ聞こえるように喋る。


「そうですね、ですが最初に行ったように見くびったつもりはありませんよ?最初から本気で戦うつもりも勝つつもりも無かっただけです」

「……おああああああ!」


 火球がシオティスの体に当たる、そして同時にシオティスの体が炎に巻かれていく。


 サチはそのままの勢いで、火球を線でつなぎシオティス諸共壁に突き飛ばす。


 そして、サチとシオティスの対決はサチの勝利で幕を閉じた。



「サチいいいいいい!」


 闇の魔法使いとの戦闘で劇的な勝利を収めたサチに一番先に抱き着いたのは妹のコウでも、親友のアリスでもなく……ただただかわいい後輩が生き残ったことでテンションが振り切った小林だった。


 峰と順も近づきはしたが後輩を抱きしめて褒める仕事は小林の仕事だと割り切っているのだろう、安堵したような表情で見つめているだけだ。


「それでサチ……ギフトか?」


 やはり聞きたいことはそれだ。


 いち早く柏木が少し興奮気味で尋ねる。


「……うーん、多分?」

「多分って……」

「でも気づいてるんですよね?目の変化」

「まあそうだな……あれは紛れもないギフトによるものだ」

「マジで死ぬかと思ったけど、魔法が飛んできた瞬間にさ、体が軽くなったっていうか……自分の周りの動きが極端に遅く感じてさー、そんな感じ?てか体すごくだるい」


自分で立ってこそ居るが見るからにけだるそうだ。そんなサチを心配そうに見ていたコウが肩を貸す。


「ユニークもギフトも自分の魔素を常時開放することが基本らしいからな。お前は今回初めての覚醒で使用魔素の調節すらできなかったんだ。無理もないさ……だがよくやったよ」

「……ども」


 気づくと闘技場の両方の通路から大勢の規則正しい足音がこちらに向かっている。


「警察か?遅すぎる」

「しょうがないでしょ。ただの襲撃ならともかく、相手は闇の魔法使い、もしかしたら自衛隊のいるんじゃない?ていうか襲撃から30分の立ってないじゃん……むしろ早い方でしょ」


 その場にいた全員が安堵した。


 だがアリスだけは空を見上げたそがれていた。


(主人公……主人公ってなんだっけ?)


 その時だった。


 ガシッ!


「ん?」


 アリスは右足に変な感触を感じる、下を見るとただの地面だった場所が漆黒に染まりその中から……血まみれの手がアリスの足首を掴んでいた。


「は?……ああああああ!?」


(手?血まみれの手!?幽霊?怨霊?さっき死んだ敵の亡霊出てくるにしても早すぎません!?いや零ならあり得ますけども!)


 悲鳴で全員がアリスに視線を移す。


「……リス!アリス!」


 漆黒の向こう側から聞きなれた声が聞こえる……そう紛れまない龍の声だった。


「し……師匠!?どして!?」

「引っ張り上げ……おまっ!掴むな!クソ野郎!」


 どうやら漆黒の向こう側で龍は何かと戦っているようだ。


 アリスは龍の手を掴み引っ張り上げようとするが、手がアリスの足をがっちりと掴んでいる正で上手く力が入らない。


「早く……おまっ!それ以上引っ張ると……いででで!ばか!くそったれ!」


 何が起きているのかは分からないが、ブチブチという何かが千切れているような音が聞こえる。


(おいおい……地面の中で何起きてんの?)


 アリスが引っ張り上げようとした時だった……。


「ん?あれ?」


 突如、何とも言えない浮遊感がアリスを襲った。


(あたし……飛んでる?でもジャンプした記憶ないが?)


 アリスが下を見ると、漆黒の地面がアリスの体が十分通れるサイズに広がっていた。


 つまり、踏ん張れる場所が無くなったということだ。


 「……うおああああああ!」


 アリスの体が漆黒の地面に吸い込まれていく。


「アリス!」


 たまたま近くに居た柏木は全力でアリスを掴もうとするが、間に合わなかった。


 体が完全に落ちると漆黒の地面はすぐに収縮し閉じた。


「……今度はこっちか!」

「大丈夫かな?アリスちゃん!」

「まああっちは龍さん居るし……大丈夫じゃね?」

「でも血まみれだったぜ?なんか悲鳴上げてたし」

「こちらからではどうすることも出来ない……か、アリスは龍の弟子だ自分の弟子を死なせるようなことはしないだろう……任せるしかない」



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