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ステア魔法学校襲撃編 7

 バーン!という衝撃音と共にアリスが落下する。


「おおおおおお!落ちるううう!」


(マジで?やばいやばい!この空間落下防止魔法無いよね?なら確実に死ぬ!誰かあ!飛行石持ってないすか!パズー!助けてえええ!マジで死ぬうううう!)


 グシャ!


 地面……ではなく何か柔らかいものの上に落ちたアリスだったが、無事だった。


「なんで無事なんだ?」

「そりゃあ……そうだろ」

「ほえ?師匠?」

「下だ阿保」


 アリスがその場から退くと無事な理由が判明した。


 結果的に衝撃を緩和するクッションになったんだろう、龍がアリスの下敷きになっていたのだ。


 その代わり、龍の上半身はいたるところがつぶれており地面には見事な血の花が咲いている。


「師匠!なんだ!師匠のおかげかあ!」

「それだけかねえ。とりあえずそこらへんにある俺の下半身拾ってくれ」

「は?下半身?何のはな……うお!」


 龍の体は腰のあたりから無くなっていた。また、腰辺りから背骨のようなものまで見える。


(都市伝説に居なかったっけ?こんなの……てけてけだっけ?ていうか……なんで生きてんの?冗談だと思ってたけど本当に不死身?)


 アリスが周囲を見回すとすぐ近くに下半身見られるものが落ちていた。


 それを引きずりながら龍の元へ持っていく。


(今かなりのスプラッタ見てるはずだけど吐かないな……慣れてんのかな。前世であたし何したんだよ)


 龍の上半身と下半身を近づける、すると上半身と下半身の傷口から黒い触手のような物が出てくるとお互い結びつきあい元に戻って行く。


「……うわあ……キモ」

「うるせえ」


 完全に繋がると、龍は立ち上がり服を整える。


「完全に失敗だ。脱出できれば無駄に戦わずに済んだのに」

「何と?」

「あれと」


 龍が指さす、そこに居たのは全長5,6メートルだろうか、顔面と思われる場所から煙を出している巨大な何かが居た。


(うわー何かでっかいの居るなあ)


「死んでらっしゃる?」

「いや、残念ながら」

「あれはなにさ」

「出来たばっかの闇の獣人」

「闇の……獣人?てかなんで出来たばかりって分かるの」

「適切な手順を踏まずに闇の魔素を取り込んだものの総称だ。本来儀式だかをしなければ魔素を取り込んでも闇の魔法使いにはなれないんだよ。それに出来上がったばかりの獣人はまだ魔素が少ないからシールドが展開できない」

「つまりあれは闇の魔素の暴走による産物?元人間?」

「さあ?元を知らんからな……あ」


 先ほどまでピクリとも動かなかった獣人が少しずつ動き出し、立ち上がる。


「で?どうする?」

「お前今日魔法使った?」

「あんまり」

「ほれ」


 龍から本が渡される。アリスにはその本に見覚えがあった。


 初めて人を助けた時に使った聖霊魔法の教本だ。


「……あいつを直せと?」

「違う。聖霊魔法は二種類ある外傷を直す治癒魔法と闇の魔法使いや獣人専用の魔法、闇滅魔法だ。現状、俺しかいないからな使っても問題ない」

「オッケー!ただちょっち時間ちょうだい。ページ分からんし呪文も分からん」

「それくらいの時間稼ぎは任せろ」

「あ、どれくらいの魔法ったらいいの?」

「どでかいやつ」

「あ、はい」


(適当だな)


 龍が杖を左手に、刀を右手に持ち構える。


 同時にアリスは教本を開く。


(さて闇滅魔法……大体のページは覚えてる……でかい奴かあ……治癒魔法みたく長い詠唱あったらやだなあ)


 目次から場所を探しだし、闇滅魔法の最終のページを発見する。


『聖霊魔法:闇滅術式

 第四:使用する魔素量、術者により魔法の形は様々だが呪文の行使に成功すればほぼ確実に闇の魔素を生成する対象を滅却することが出来る』


(あーやっぱり長い詠唱あるなあ……でも魔法の行使に成功すれば?……ああ、確かこういう魔法って数人が儀式みたいに詠唱するんだったっけ?だから魔法の形もその時のお楽しみってか、面白いじゃん)


「アリス!まだか!」

「うん?今や……おおお!?」


 教本を呼んでいたアリスはここで気づく、龍が片手の杖と刀で巨人の攻撃をそらしつつヘイトをアリスから龍に移るように魔法で攻撃している。


 しかし、攻撃をしのぎ切れていないのか、或いはそもそも凌ぐ気がないのか服の破け具合から多少の攻撃は当たっているようだ。


「今!今やりますって!」


 アリスは左手に教本、右手に杖を持つとゆっくり深呼吸をし詠唱を始める。


「イーメイ・アギネーシィ・スコターティロス・イーメイ・プロアギーブマ・イーメイ・スコズビドゥスィーア」


 詠唱が終わると治癒魔法を詠唱した時と同じ、眩く光る魔法陣がアリスを中心に現れる。


 そして杖を巨大な獣人に向ける。


(さあ終わりだ)


「ズビタービィ《闇を滅却せよ》!」


 直後……何も起きなかった。


 アリスの額から冷や汗が出てくる。


(あれー?何も起きない?詠唱失敗した?ちゃんと教本通りに読みましたよ?……あれ?)


 いまだ足元の魔法陣が出現しているだけだ。


「アリス!上!上!」

「上?うお!」


 上を見上げると足元の魔法陣と同じ魔法陣が空中に出現している。



「……えーと失敗?成功?」


 アリスが魔法陣を眺めていると、魔法陣から強大な何かが姿を現す。


 それは真っ白な狐の頭だった。


「……お、お?おう」


(どっかで見たなこんな見た目の狐……あー、あれだ!チェンソーマンだ)


 狐は闇の獣人、龍、そしてアリスを見ると溜息を溢す。


「あ?おいおいおい魔法使ったのあたしなんだが?敵あっちな?やってくれよおい!」


 狐はしょうがないなあというような顔をすると魔法陣と一緒に闇の獣人の前にやって来る。


 闇の獣人も気づいたのか腕を伸ばし、襲い掛かろうとする。


 が狐は大きく口を開けるとバク!と一口で獣人を丸呑みした。


 巨人が悲鳴を上げる暇すらなかった。


(わー、ワイルドー)


 狐がアリスの元へ戻る。


「おー、よくやっ……」


 プイ……狐が顔を背ける。


「……あのなあ!お前を出したのはあたしな!?主人にぐらい可愛い所見せても良いんじゃありません!?」


 不貞腐れた顔の狐は魔法陣の中へ戻って行き、そのまま魔法陣も消えた。


「……マジかよあのバカ狐!」

「……俺はあんまり聖霊魔法とか見る機会がないんだが普通は四人以上の詠唱でやっと撃てる代物らしんだが……お前はおかしいな」

「たった今聖霊魔法の動物にすら不貞腐れた態度とられましたけど!褒めてんのかそれ?まあいいけど……」

「おっと!……お疲れ」


 聖霊魔法行使によって魔素を一気に使い切ったアリスは気絶した。



「ですから!地面に吸い込まれたんです!地面が黒くなって!」

「あのねえ……闇の魔法使いの襲撃にあって混乱してるのは分かるけど、もうちょいましな言い訳出来ない?龍さんとお弟子さん?が消えたのは分かったけどさあ地面に吸い込まれたって」


 警察に必死に説明しているのは小林だ。


 襲撃後、現場に居た教師は柏木のみで柏木は後から応援に駆け付けた教師陣と闘技場の復旧作業に勤しんでいた。


 本来なら事件発生直後なので現場保全が第一だが、残っていたのは敵一人と杖二本のみで闇の魔素の残滓が少し残っていた程度、調べようがないと判断されたためだ。


 事件当時、戦闘に参加していた柏木含め生徒五人(負傷してその場にいただけの一人を含む)は警察から事情聴取を受けていたのだが、ここで警察は一つの話に顔をしかめる。


 『神法者である龍とその弟子のアリスが黒い地面に吸い込まれた』という話だ。


 警察官が話を聞いて辺り一帯をくまなく探したが何も無かった。


 そこでももう一度詳しく話を聞いている最中だったのだ。


「だーかーら!闇の魔法使いの魔法で地面が黒くなって!二人がその中に吸い込まれただって!」

「先生も同じこと言ってたけどさあ、でも現状どこにも黒い地面何てないんだよ?見間違いじゃないの?」


 基本的に、空間を作る、空間を拡張する魔法は存在するが入り口を持って行かなき限り入り口はその場に存在し続ける。


 しかも情報通りなら石畳にその入り口が作られたことになるがどこにも石がえぐられた痕跡はない。


 しかも魔法を放ったのは闇の魔法使いで警察にすら闇の魔法の情報は皆無に等しい。


 闇の魔法の残滓がある以上、闇の魔法使いが居たのは確定事項であるが、使われた魔法の痕跡が残っているわけでは無い以上、捜査の使用が無いのだ。


「だからね?じっくりでいいんだちゃんと思い出してみよう!もしかしたら連れ去られたのかもしれないし……相手に幻を……」

「幻じゃない!サチが闇の魔法使いを倒した後に消えたんだもん!」

「あのねえ……その闇の魔法使いだって……」

「課長!」


 突然一人の警官が大声を上げてある場所を指さす。


「なんだまったく……は?」


 そこにあったのは小林以下全員が証言した通りの黒い何かだ。


「……おい誰か!さっきからあったか分かる奴は居るか?」

「い、いえ!突然現れました!」

「あれだよ!龍さんとアリスが吸い込まれたの!」

「全員拳銃を構えろ!」


号令と共にその場にいた警官が拳銃を取り出し黒い穴に向けて照準を向ける。


「ちょっ!ちょっと何してるんですか!二人が出てくるかもしれないのに!」

「その可能性も否定はできないが、あれを作ったのは闇の魔法使いだろう?用心に越したことは無い」

「課長!」


 警察官が叫ぶと、穴は少しずつ大きくなっていき、警官含めそこに要る全員が注目する。


そしてそこから勢いよく飛び出たのは……血まみれの龍だった。


箒に跨り血まみれになりながらアリスを抱え、脱出してきたのである。


「何だお前ら……見てねえで助けろよ……警察官じゃねえのか」


「アリス!龍!」


 一番最初に駆け寄った柏木は、近づくと気絶をしているアリスを抱きしめる。


その声にハッとした何人かの警察官がタオルを持って龍に近づく。


「よくアリスを守ってくれた」

「当たり前だこれでも師匠だぞ」

「龍殿、お話を」

「今でなきゃ駄目か?着替えちゃ駄目か!?この格好で警察行くの?」

「……すみません後で大丈夫です」

「ていうかシオンはどうした?」

「サチがギフトを覚醒して倒した」

「倒した?どうやって?聖霊刀を持ってきたやつでも居たのか?」

「いや?サチが火で燃やして倒したが……まあ遺体は燃えて無くなったがな」

「……」


 龍が神妙な顔つきなる。


「本当にただの時間稼ぎだったのか」

「どういう意味だ」

「あいつは闇の魔法使いの中でも400年生きてる化け物だぞ?持ってる魔素量もレベルが違う。普通の魔法食らった程度じゃあ死なない」

「でもあいつは燃えて消えたぞ?」

「自分の魔素で作った分身だったんだろうな。魔素が切れて消えたんだよ。……それでもまあ分身体……使える魔素に最初から制限があるがそれでも勝ったのは見事だよ。褒めていい」

「もし本体だったら?」

「ここに居る全員……俺以外が一瞬で消し炭になるだろうな」

「本当に運が良かっただけなんだな」

「そう思うことが重要だ」

「因みにアリスは何故気絶してるんだ?」

「下でまあドンパチしてな……魔法使いすぎただけだ」

「分かった」


 その後事件は主犯が行方不明、仲間の一人を確保という形で一旦は幕を閉じた。


 しかし、闘技場襲撃とほぼ同時期にステアで発生していた校長室での窃盗事件によりあるものが盗まれたがこれが指し示す意味をこの時誰も知らなかった。


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