目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

魔法戦闘トーナメント編 サチVSコウ 3

 ハリー・ポッターにこんなシーンがある。


 ハリーとヴォルデモートの魔法が繋がるシーン、つまり設定で言えば杖が繋がるアレだ。


 様々な条件が重なり杖が繋がると、杖を持つ者の意思とは関係なく杖自体が相手の杖に呪文を掛けるらしい。


 この世界の魔法でも、魔法が繋がることがある。


 条件としてはハリーポッターの世界より簡単だ。


 魔法が第一魔法であること、魔法と杖を線で結んでいる事だ。


 本来、第一攻撃魔法は撃ちっぱなしの直線軌道を描くが、第一魔法同士だと何故か僅かに引き合うのだ。


 つまり……ハリーポッターのような魔法が繋がるような現象が起きる。


 バチン!


 柏木の試合開始の合図とともに、サチとコウが魔法を撃ちあい二人のちょうど中間の位置でぶつかる。


 しかし、魔法は割れなかった。


 お互いが線でつないでいたためつながったのだ。


 サチが火の魔法、コウが雷の魔法、お互いに放った魔法は火による赤い線、雷による黄色い線に繋がれ中央で繋がり一本の線になった。


 しかもお互いが魔法を極限まで圧縮しているのではたから見れば本当に一本の線で繋がっているように見える。


 魔法が衝突している所ではバチバチという音を鳴らし、周辺には衝突した際に生じた火の魔法と雷の魔法の残滓が飛び散っている。


(ハリーポッターだこれ)


「師匠!あれ何!魔法が繋がってるよ!」

「ああ、あれな第一魔法でかつ線でつなげるとああなるんだよ」

「へえ!かっこいい!」

「だが、お前はあんまりやらない方が良い、戦いにおいては意味ないから」

「なんで!」

「簡単だ、試合とはいえ本来の目的は相手を倒すこと、これじゃあお互いの魔素を消費するだけで勝負手に欠ける。俺みたいに魔素でごり押しするなら有効打だが、二人はそうじゃない。ただの時間稼ぎか……他の狙いがあるなら別だが」

「あー、そうなのか」


 ハリーポッターの世界ならつながった瞬間直前呪文が発動相手の杖今まで出した呪文を吐き出させるという意味があるが、この世界では違う。


 相手との均衡を一時的に保っているだけ、つまりお互いが魔法を魔法で防いでいる状態である。


「まあ、魔法を線でつなぐこと自体は有効なんだがな。連続で魔法を撃つより、つなげてそれを使い続ける方が魔素の消費抑えられるし」


 サチからすればいつも使っている魔法の技を使っているだけ、一部予想外だったのはコウが魔法をつなげて応戦したこと、目的までは分からなかった。


 しかし、気づく。


 少しづつではあるがコウが近づいてきている。


 サチは無理やり魔法を外した。


 繋がった魔法は意外にも強くくっ付くが、剥がせない物でもない。


 外した魔法を横から薙ぎ払うようにコウに向けて放つ。


 しかし、寸でのところでコウがしゃがみ回避すると、通り過ぎた魔法に魔法をぶつけつなげる。


 観客席から歓声がこだまする。


 一年の最初の大会からこのような高度な試合が見れることに驚ているのだ。


 しかしこれは試合だ、当然勝ち負けが付くまで続く。


 サチが何度も魔法を引きはがし、攻撃してもコウはギリギリのところで回避しサチに近づく。


 コウの目的は簡単だった。


 本来、サチは魔法を線で結び戦うのを得意とする。


 鞭のように使うことで、相手の意識外から魔法を当てることが出来るためだ。


 つまり中距離から遠距離がサチの得意なレンジ、であれば近づけばよい。


 魔法を振り回すサチに近づく方法……それは簡単だった魔法をつなげ一時的にでも振り回せないようにすればよい。


 だが、一つの懸念があった。


 コウの魔素量だ。


 各個人の魔素量は魔法を使用すればするほど増加していく、基本魔法と攻撃魔法では増加する魔素量に違いがある。


 稽古を怠っていたコウとひたすら鍛錬を続けていたサチ、魔素量の比較などしなくても分かる。


 二人の距離が訳5メートルほどまで縮まる。


 この間以外にも近づくコウに対してサチは一歩も動かなかった。


 まるでどのような距離でも勝つ自信しかないように。


———魔素が切れて……来たかな。


 ここまで長時間、魔法を維持したことが無いコウは脱力具合からかなりの魔素が消費したと感じる。


 そこで動き出した。


 今度は自分から魔法を切る、剥がしたのではなく線を切ったのだ。


 コウの魔法が弾ける。


 同時にコウがサチに向かって走り出し雷の魔法を放つ。


 飛んでいった魔法はサチによって打ち消された。


 コウがサチから見て右側に体重を傾けた、サチは進行方向、コウの移動スピードに合わせ杖を構える。


 がしかし、ここでサチにとって予想外の出来事が起きる。


 何故かシールドが発動したのだ。


「は?なんで……あ、あーそういうことか」


 サチはすぐに理解した。


 シールドが防いだのは水の魔法、それも極限まで小さくしたものだ。


 雷球を防いだ瞬間、コウが右に進路を取ったので視線がそちらに向いてしまい、極小の水球を見逃してしまった。


 しかし所詮は水による目くらましだ、少し見づらくはなるがコウ自体の姿は確認できる……はずだった。


「……あり?」


 サチはもう一度右を見るが居ない。


 だが、サチは視界の端に動くものに即座に反応した。


 すぐに顔を左に向ける。


 シールドが発生した直後、なんとコウはサチの視界に入らないよう地面を這うように移動していたのだ。


 コウは身を低くしながらシールドの内側に入るように移動する。


 そして杖を構え、水球を生成する。


 誰もが息を呑んだ……。


 それに対してサチは半歩だけ左に移動すると杖を逆手に持ち替えてスライドさせるようにコウの前に持っていく。


 しかし呪文は発動させず構えるだけ、そして体を前に傾けコウに覆いかぶさろうとする。


 これで仮に魔法が撃たれても自分に影響はない、相手に触らなければ違反ではないし、シールドで相手を潰せれば一石二鳥だ。


 だがこれもコウは読んでいたのだろう。


 魔法を解除し、杖を持った手を背中に向ける。


「……?」


 サチの脳内に疑問符が浮かぶ。


「おおおあああ!」


 コウは風の魔法を利用し加速、サチを軸に回転しながら背後を取り杖を構えた。


「おおおおおお!」

「……マジか」

「……」


 歓声が一段と大きくなると同時に観客、アリスはコウの勝ちを確信した。


 一般的にある程度の距離で後ろを取られても杖を向けてさえいれば安全であるため問題ない。


 だが、近距離……いやほぼ零距離に近い間合いで後ろを取った場合、仮に初撃を回避または防ぐことが出来ても反撃の体制が取れない時点で負けが確定する。


 しかし、この場で未だコウの勝利を確信できない人物が二人……三枝と龍だ。


 二人はサチが杖を逆手に持ち替えたことに謎に思った。


 そしてその謎はすぐに解明する。


———勝った。


 勝利、その文字がコウの脳内に浮かぶ。


 そして、構えた杖の先に水球を発生させると、放とうとする。


 「ああああああキャッ!」


 今日一番の雄たけびと同時にコウの口から悲鳴がこぼれる。


 ドン!という鈍い何かがコウの右わき腹に衝突したかのような感触を感じた。


 同時に結晶にひびが入る。


 意識がそちらに持っていかれたため魔法が解除される。


「…………なんで?」


 コウは理解できなかった。


 コウの右わき腹に当たった物の正体……それは魔素球だった。


 いったいどこから?


 何もない空間からいきなり魔素球が出現した、コウですら理解不能の現象だ。


 「……あ」


 ここで初めてコウはサチが逆手で杖を持っていた理由を理解した。


 置いていたのだ。


見えないように極限まで小さくした魔素球を空間に漂わせ、線を伸ばす。


杖の先から線が出ているのを見えないように逆手にして線を杖で隠す。


 コウからしたら魔法を防ぐためにしか見えないが、サチは最初から防ぐつもりも攻撃するつもりも無かった。


 コウは正面からは絶対に攻撃しない、最後の一撃は確実に背後を取った後だと読んでいたサチの作った罠だった。


「いやーちょっと焦ったけど……まだまだだ」


 そう言い残すと、サチは少し距離を取り線を切る。


———ああ、また勝てなかった。


 切られた魔素球はコウを巻き込み爆発した。


 同時に結晶も割れた。


 柏木が手を上げる。


「そこまで!勝者花組霞サチ!」



 試合が終わった両者が入って来た入り口に戻る必要はない。


 サチとコウはアリスと龍、母の三枝が居る出口に向かう。


 そして、フラフラのコウをアリスに預ける。


「実にあなたらしい戦い方でした。実に誇りに思いますよ」

「そりゃあどうも!じゃああたしは先に行ってるね!休みたいし!アリス」

「ん?」

「アリスが相手だからって手加減しないよ?」

「もちろん」


 サチが手を振りながら立ち去っていく。


「コウ」

「……はい」

「経験の差がもろに出た試合でしたね」

「……ごめんなさい」

「何故謝るのです。あなたは持ちうる限りの知識、技術を使って戦ったではありませんか。確かに詰めが甘かったのは事実でしょう。ですが」


 三枝はそっとコウの頭に手をやると優しく撫でる。


「サチ相手にかなり善戦したと思いますよ?相手がサチだからって臆面もせずに立ち向かい諦めなかった、それでこそ霞家の人間です。私はあなたのことを誇りに思います、さすが自慢の娘です」

「……う、うわああああ!かあさああああん!」


 よほど悔しかったのだろう大粒の涙を流しながら三枝に抱き着くコウ、それを諭すように微笑みながらやさしく抱きしめる三枝。


 それを見ていたアリスは複雑な気分だった。


(あれと次戦うのがあたしなんだが?それにあれだ……ゲームの序盤のシステム的に攻略不可能の敵……サチだったわ)


「アリス……勝算は?」


 顔を引きつらせたアリスが答える。


「さーどうすっかねえ……まあやるだけやってみる」


(はっきり言って無理ゲーですけどね!)


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?