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魔法戦闘トーナメント編 アリスVSサチ 2

「おおお!」


 ある意味観戦者からしてみれば予想外だったのかもしれない。


 前回の戦い方から突っ込むと思われたアリスはその場でサチと魔法をつなげた。


 だが、魔法を極限まで縮小しているサチに対して、アリスはそのままの大きさで繋げたので水球に水の線と火の線が繋がっているように見える。


 そして先ほどまでのふらつきは演技だったのかと思われるほどしっかりと踏ん張り真剣な眼差しで火の魔法を維持する。


(知ってたよ!開幕ぶっぱぐらいは!)


 サチは魔法を線で繋ぎ、それを維持しながら縦横無尽に振り回し戦うことが多い、その方が魔法を乱発するよりも魔素の消費を抑えられのだ。


(繋げちゃえば当面の間は問題ないもんね!)


 だが、別の問題も生じる。


 龍が言ったように、魔法を繋げることは一時的に相手との均衡を保つことだ。


 だが、それ以外のメリットが皆無なのだ。


 ただただ魔素を消費していくだけ。


(……よし第一段階完了。繋げたから攻撃自体は封じた……でも長くは持たないから次だ)


 この世界に生まれたコウとついこの間転生したアリス……魔素量の比較などしなくても明らかだ。


「おりゃあああ!」


 だからコウと同じ手段を別のアプローチで行った。


 アリスは魔法を繋げたまま、繋がっている部分を中心に反時計周りで回るようにサチに向かって突進していく。


「……」


 だが、サチの表情は変わらない。


 織り込み済みだろう、他の生徒であれば振り回しても命中精度は低い……それゆえある程度反撃は出来る……が、戦いなれたサチの命中精度で反撃するのは至難の業だ。


 だから超遠距離まで距離と取るか、一気でも少しづつでも近づくしか選択肢が無くなる。


 逆にそういう風に仕向けてるのが狙いでもあるのだ。


 サチは魔法を繋げながら全力で近づくアリスに対して、魔法を断ち、向かってくるアリスの正面から当たるように放つ。


 「……」


 だがアリスにとってはお織り込み済み……目の前に迫る魔法に対して押し返す……ことはさすがに出来ないが、また魔法をぶつけ止め、今度は時計回りに回りながら突進していく。


 この時すでに客席は静かだった……いや逆に皆応援することを忘れて食い入るように観戦していたのだ。


 そして。


 サチとアリスの距離がおおよそ5メートル以内になった瞬間。


 今度はアリスから魔法と断ち切り、サチに向かって少し大きめの火球を飛ばした。


「……ん?」


 この時のサチはデジャブを覚えた。


 戦法がまんまコウと同じだ、であればこれを魔素で防いでもその後に来るのは水の魔法……分かっていればそれをまた魔素で防げばいいだけ……そう思ったサチは杖を構える。


 杖の先が魔法の触れ、魔素で打ち消される……ここまでは想定通りだ。


 だが魔素が霧散し、次の魔法に備えたサチは驚く。


「……え?……は?」

「誰が……一個だけだって言ったよ!」


 サチの目に映ったのは、極限まで縮小化された水球がサチを中心にいろいろな角度から迫って来る光景だ。


(確かに……コウの戦法をパクったよ?でもそのままじゃあ意味が無い、これなら一個ぐらいシールドで弾いてくれるはず)


 サチはこの瞬間、避けるか迷った。


 だが、よく見るとサチが避けると思われる動線にすら魔法が放たれている。


 これでは避けつつ魔素で打ち消さなければならない……それではアリスを視界に入れておけない。


 戦闘において迷いは禁物……サチは即断した。


 魔素で打ち消すことなく前方に構えると全弾シールドで受けたのだ。


 幸いというべきか、はたまた偶々だったのかアリスが放った魔法は10個に満たなく、シールドは多少のひびが入るだけで済んだ。


 代償としてシールドには水が張り、少し視界がぼやける。


 だがサチは冷静だった。


 魔法がシールドにぶつかった瞬間、アリスが動けるとしても1メートル、いや2メートル動けたとしても顔を動かす程度ではない……そう判断したサチは目だけを動かし左右を確認した。


「……ん?……あれ?」


 ……だが、左右どちらにもアリスは居なかった。


 いくら水でぼやけているとしても体が透明になるわけでは無い、存在は確認できるはずだ……だが、いない……。


———ありえない……なんで……。


 ここで初めてサチが焦りだす。


 だがすぐに呼吸を穏やかにし、急速に脳を回転させる。


アリスが消えたのはサチが一瞬水の魔法に注視しシールドで防いだ直後。


 ならどこに行く?左右と下は確認した、見落としは無い。


 今までのアリスの行動……考え方、性格。


 ———あ。


 観客がため息交じりの声を上げると同時に、サチも気づいてすぐさま上に視線を向けた。


 飛んでいた。


 上空およそ2,3メートルだろうか、風の魔法で上に飛んだアリスは上からのぞき込むようにサチを見下ろしていた。


「……あの……ばか」


 柏木が頭を横に振る。


 そう……戦闘指南書に書かれていたタブーの一つは、飛んで空中戦をすること。


 これは一年で学ぶことだ。


 何故なら……姿勢制御が杖でしか出来ないからだ。


 戦闘訓練のレギュレーションによっては箒に跨っての戦闘も存在するが、箒であれば姿勢制御に杖は必要ない。


 つまり箒を使わずに空中に逃げた場合、姿勢制御は防御と攻撃の根幹である杖を使わなければならず愚策中の愚策と言えるだろう。


 ただし、攻撃も防御もせず回避に徹するのであれば有効だ。


 シールドや打ち消しに使う魔素よりは風魔法単体の方が比較的に低コストだからだ。


 だが戦法としてはかなり上級者向けであり、サチですらやらない……ていうかやる必要が無い。


 ……では何故これを選んだか。


(短時間で覚えられてサチの意表を付けるのがこれくらいしかなかったんだよ!)


 というわけである。


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