———本当にすごいよアリス。
普通の生徒なら使わない、使っても恐らく先生に怒られる戦法を臆面も無く使って行く姿に笑顔になる。
「いっけえええ!」
アリスが杖を少し円を描くようにサチに突き出す。
すぐさまサチも杖を構えるが異変に気付く……魔法が生成されていない。
「……?……!」
すぐさま何かに気づいたサチ。
…………そして、次の瞬間……飛んだ。
(はああああああ!?)
何とサチは満面の笑顔で杖を地面に向けて風の魔法を使いアリスと同じように、アリスに向けて飛んだのだ。
「……マジか」
この行動にさすがの柏木も呆気にとられた。
コウとの対戦で無駄な行動はしない、最小限の動きだけで戦うのがサチのやり方と思った矢先、アリスの空中戦に空中戦で相手をしたのだ。
ここでアリスはパニックになった。
(待て待て待て!普通避けるかシールド張るかだろ!こっちに突っ込んで来るなんて想定外過ぎるわ)
アリスは迷った。
アリスの杖は魔法生成していないように見えていたがもう魔法は放っていた。
極小の魔素球に線を繋げ遠心力でサチの背後を撃つ予定だった、だがサチが飛んだ影響により本来魔素球が通るはずだった軌道にサチは居ない。
そして杖を地面に向けて落ちていくアリスと入れ替わるようにサチが空中に飛ぶと、アリスの背後を取る。
「うおおおおお!」
一年の戦闘大会にて両者が空中で戦闘する……ましてや一方が完璧に背中を取るなど前代未聞。
会場のボルテージは最高潮になる。
だが、以外にもアリスは冷静だった。
そして寝不足の脳をこれでもかとフル回転させる。
(うるせーな!考えろ!まだ選択肢はあるか?魔法を解除して後ろに杖を向けて凌ぐ……いや駄目だ!サチがどの角度から撃ってくるか分からないから一発でも食らったらアウト、闇雲に杖を向けるのは自殺行為……確実に防ぐなら上に方向転換……出来るか?)
アリスはおおよその目算で残りの地面との距離を測る。
もう2メートルも無いだろう。
(落下防止の魔法……大丈夫だよな?……いや!悩んでもしょうがない!なるようになれだ!)
「うおおおあああ!」
アリスは魔法の線を切る、と同時に杖を横に向けると風の魔法で体を180度方向転換する。
視線が上を向くと同時に杖を向けて魔法に備える。
(……は?)
が、そこにサチは居なかった。
そしてアリスの体が地面と訳30センチになるまで落ちると落下防止の魔法により減速する。
そしてアリスから見て左端の視界にサチのような人物を視認した。
サチは笑顔のまま杖を持ちながら両腕を後ろで組んでいる。
確認するやいなや、アリスが即座に杖を向けようとする……が全て遅かった。
ドン!という音と共にアリスの背中で何かが衝突、鈍い鈍痛がアリスを襲う。
パリン!
「いっ!」
アリスは衝撃と痛みで顔を歪ませるが、最終的に体はゆっくり地面に着地した。
サチは微笑みながらその光景を眺めている。
そして結晶は粉々に割れた。
しーん。
ステアの一学年……それも一番最初の戦闘大会、一年生の戦闘とは思えない内容で観客、柏木、龍、見学に来ていた三枝ですら呆気にとられ誰一人声を出せなかった。
しかし、審判役柏木だけはすぐに我に返ると右手を上げる。
「しょ、勝負あり!勝者花組霞サチ!」
「……お、おおおおおお!」
その声に皆声を出すことを思い出したかのように歓声を上げた。
静かに、サチがアリスに近寄る。
「立てる?」
「……」
(何が……起きた?振り向いたら居なかった……あたしが落ちた場所……でも最後に振り返った時……魔法なんて見えなかった……わけわかんない)
サチの出す手を掴みゆっくりと立ち上がるアリスだが、今だ混乱していた。
そしてアドレナリンが切れ始めたのだろう、体から力抜けていく。
サチがアリスに肩を貸すと二人そろって出口に向かって行く。
二人が退場する間、割れんばかりの歓声と温かい拍手が送られる。
アリスが出口に居る龍の元にたどり着く。
「……大丈夫か?」
「……師匠、なんで負けたんだろう」
「……見えなかったのか……見ようとしなかったのかは知らないが……」
「へ?」
「サチ君がお前の上を取った時小さな魔素球に線を繋がけてお前の落下するだろう位置に置いた。そして……お前が振り向くと信じていたんだろうな、お前が振り向くと同時に線を繋げたまま地面に降りたんだ。お前が地面に降りるまでお前の周りを限りなく細い線が囲っていた」
龍が見た事を伝えたが未だに信じられない様子のアリス。
(つまり……あたしが飛ぶことを予期していた?いや、そんなことは無いはず。もし予期していたならすぐに動いているはずだし、サチの顔も予想が言って顔だった……ならあたしが上に居ることを知ってからあれを思いついた?……ははは!どう勝てっちゅうねん!あたしの知識が足りないだけか?知識どころか技術も何一つ足りねえよ!)
「アリス……」
「素晴らしい戦いでした」
三枝がアリスの頭を撫でる。
「……三枝さん」
「母さん実の娘は?撫でてくれないの?」
サチが頭を突き出す。
「はいはい。あなたもすごかったですよ。ですが……いくらアリス様と言えどこんなところで負けては霞家の名折れです。あなたの場合は勝って当然でしょう?」
「えー」
「ですが何年もあなたを見てきましたがあのような戦い方は始めて見ましたやはり刺激はいるものです……ですが最後だけ手加減しましたね?」
「へ?」
「サチはね?本来罠を張るにしても相手を吹き飛ばすぐらいに魔法を大きくします、コウみたいにね。でもあなたはそこまで衝撃来てないでしょう?」
「……あ」
確かに最後の一撃は体が少し浮き上がる程度だった。
三枝はサチの頭を撫でるが……今度は思いっきり顔面を鷲掴みにする。
「いだ!ちょっ!母さん痛い!痛い痛い痛い!」
「今回は相手がアリス様だったので見逃します……が、次からは分かりますね?」
「分かってるって!いででででで!」
サチは離されると近くに居たコウに抱き着く。
「さて、これでアリス様の今大会も終わりましたし、聞きたいことがあれば何でも……」
サチに完膚なきまでにやられたアリスの心が折れていないか心配になった三枝はアリスのフォローを使用とするが……。
(手加減された……当然か。魔素量も知識も技術も圧倒的に違う……なら?今からでも考えればいい。さすがにもう空中戦は無理かな。正直、箒がない状態であそこまで飛ぶのは結構怖かったし……でも魔素球を小さくして罠にするのは結構面白いな。でもやるなら相手がどういう行動をするのかまで想定しないと魔素を消費するだけだし……いや考えることありすぎるなあ……いいねえ!ゲームを攻略するみたいで楽しいぞ!すぐにクリアできるゲームなんてつまらんし!悩んで考えて、苦労しないと攻略したときの爽快感が無いもんな!まあでもフロムゲーは無しだけど)
色々思考めぐらし笑顔になっていくアリス、その顔を見て三枝は驚き、安心した。
龍は逆にほほ笑んだ。
「この程度でへこたれているようじゃ主人公とは呼べないよな」
「ふへへへ!楽しくなってきたぞ……」
「「あ」」
「あら」
緊張の糸が切れたのだろう、寝不足による圧倒的な睡魔の暴力に抗う力は無くなったアリスは気絶するようにその場で眠った。