同じ寮にの同じ部屋に住んでいる以上、部屋着や制服姿は見慣れている。
だが、一度普段とは違う者を着れば印象はがらりと変わる。
サチは動きやすさをメインにしたのだろう、シンプルな赤い水着だがサチの赤い髪と相まってかなり映えている。
だが、問題はコウだった。
恐らく選んだのは小林だ、水着を買いに行った際、小林より『コウちゃんのは当日まで秘密』と言われた少し期待していたのだが。
破壊力が違った。
サチとは違い、薄い赤色のフリルが付いた水着、最近三枝と稽古しだした影響もあり体も引き締まっておりスタイルが良い。
そして……ここまでの破壊力を生み出している要因……それは。
(本当に高校生か?本当に双子か?胸おかしいだろ!)
くびれている腰に比べて暴力的なまでにたわわに育っている胸、これが水着という戦闘服を身に付けいることにより破壊力が爆発的に上昇している。
(服の上からじゃああまり分からなかったけど……いつもお風呂に入る時とはまた違う……なんだこれ……言語化できん)
全員がコウの水着にいい意味で絶句しているとき。
「おおお!二人とも似合ってるねえ!へえ、赤い髪に赤い水着って結構似合うんだ!二人とも凄い似合ってるじゃん!」
やはり先に口を開くのは天宮だ。じっくりと二人の水着を観察する。
「天宮さん……未成年だから手出したら終わりですよ?」
「ああ、安心して。その前にたい……三穂さんに殺されるからやらないよ……それより」
天宮は東條に近寄る。
「なんですか?」
「君、男だろ?この場に居る同年代の男は君だけだ!二人が一生懸命悩んで選んだんだぜ?ちゃんと褒めてあげないと男が廃るって奴じゃん?そうすればこのまま恋まで発展するかもしれないじゃん!」
「あの二人が俺の為に選んだと思ってるんですか?」
「え?違うの?ただ一人男でこの場に居るのに?」
「多分ですけどこの場に呼ばれたのは別の理由です。それに見てくださいよ、どう見ても俺に眼中無いでしょ」
東條が指すのはアリスとサチとコウ、香織の面々。
コウが少し赤面しながらアリスに尋ねる。
「アリス……似合ってるかな?」
「すげー似合ってる」
アリスはお言葉がうまく出てこなかった、何故なら。
(やっべー、破壊力ありすぎ。今すぐこの二つのメロンに抱き着きたい!全身撫でまわしてこの胸に顔をうずめたいー!でも体が!体が拒否してんだよなあ!この場に三枝さん居ないけども!体があの恐怖を覚えているから前に進まねえんだよ!こんなん生殺しじゃねえかよ!)
脳では必死に抱き着きたいという衝動が起きているのにかかわらず、一度味わった恐怖により体が固まっているのだ。
その様子を見て何かを確信する天宮。
「あああ、なるほど。これはそっちのパターンか」
「ほれ!さっさと荷物置いて海で遊んできな!準備体操忘れずにね」
三穂さんの声で我に返った面々。
コウが着替えが入った荷物を置こうとした時だった。
「あっ!」
「は?ちょっ!」
バサン!
慣れない水着の影響か、それとも慣れない砂場によるものかバランスを崩したコウがある人物を押し倒し倒れた。
その人物とは……。
「ちょっ……大丈夫……は?」
東條だった。
「ふごふご!」
「ほう?これは……」
座っていた東條は避けることが出来ずに、そのままコウの下敷きになる形になったが……問題はコウのちょうど胸の部分が、東條の顔に当たっておりしっかりフィットしていた。
何とかコウから離れようと東條はコウの体に触る。
だが、顔面全体が胸にかぶさっている影響で、何も見えななかったからだろううっかりとある部分に触れた。
その部分に触れた瞬間、コウが少しだけ震え声が出る。
「……んっ」
「あれ?何この感触」
「ちょっとー何してんのコウ……」
サチがコウの体を抱え起こす、コウは先程より赤面させながら両腕で胸を押さえている。
「何かあった?」
「おい……東條」
「いや……今のは事故……おごっ!」
アリスが東條の腹部に思いっきり殴る。
「お前がラッキースケベしてどーすんだ!」
「ラッキー?なに?いてえ!お前!俺名家の人間!」
「名家とか知るか!お前を名家の人間として殴ってるんじゃねえ!ラッキースケベは主人公のあたしに訪れるべきイベントだろうが!何モブキャラがイベント消化してんだよゴらあ!」
「何だよ!モブキャラとかイベントとか訳わかんねえこと言ってんじゃねえぞ!事故だ事故!」
「事故だろうが故意だろうがやっていい事と悪いことがあるだろうが!」
「はーい、二人ともそこまでー、海で泳いできなー」
引き離された二人は最終的になんやかんや和解し、五人は海で遊び始めた。
だが、五人が海に入ろうとしたとき。
「あ、忘れてた!あんまり整備されてないから沖まで行くなよ!それと海水は絶対飲むなー!死ぬから」
その言葉を聞いたアリス以外の四人が固まる。
「……どうした四人」
「実は海が初めてで」
「へ?この世界の日本て海ないもんなあ」
「ていうかここに来るのも初めてだから海なんて見た事ない」
「……マジか……てかほんとここどこなん?」
その言葉に驚愕するアリス。
旧日本だったらありえない言葉だ。
旧日本にも海なし県で暮らす人は存在するが、それでも県を越えて海水浴に行く人などいくらでもいるし、日本人で海を見た事が無い人などいないだろう。
「じゃあなんで水着とか売ってるんだよ」
「そりゃあ避暑地の湖とか川遊びで必要だし、プール行く人だっているだろ?」
「ああなるほど」
「でもなんで海の水って飲んじゃいけないんだろう」
アリスは足元の海水を一掬いすると口に含む。
「ちょっアリス!」
四人が驚きの表情を見せる、そのはずだ。三穂が飲むなと言ったその直後に海水を口に含んだのである。
はたから見れば自殺行為だ。
アリスは少し口に含むと納得した表情で吐き出した。
「大丈夫!?」
「うーん、多分旧日本の海水とほぼ同じの濃度かなこれ」
「え?濃度」
「海水ってさ簡単に言えば少し濃いめの塩水なのよ。くそしょっぱい水。だから飲むなって言うのは飲んじゃうと……なんやかんやあって体の水分が抜けちゃって脱水症状なって危険だからってこと」
「なんやかんやってなんだよ」
「細かいことは忘れた。そっか……川と湖……淡水でしか遊ばないからか……口に含む程度なら問題無いかなもし少量飲み込んだとしてもすぐに大量の真水飲めば問題無いよ」
そこから数時間、アリスたちは生まれて初めての海水浴を楽しんだ。
海で驚異的なスピードの泳ぎを見せるサチ、砂場で立派なお城を作り上げるコウと香織、偶々寝っ転がっていた東條を砂で埋め爆笑するアリス。
昼になると三穂が用意したこれもまた海水浴の醍醐味だろう焼きそばを食べ、午後になると天宮も混じり、六人でビーチバレーなどをして海水浴を楽しんだ。
「いやー、高校生凄いわー。遊ぶ時の体力だけは俺たちよりもあるんじゃないすかね」
五人が自分の杖で始めるのを見ながら途中で抜け出してきた天宮が三穂の隣に座る。
「高校生を舐めちゃ駄目さ。時に想像を超えることをするのが高校生の凄さ。お前はギブアップか?」
「いやー、俺は基本、水場でやることはナンパなんで」
「手出したら殺すぞ」
「当たり前じゃないすか……隊長に迷惑はかけないっす」
「あれ?天宮さん休みですか?」
そこにアリスが歩いてくる。
「どうしたの?休憩?」
「ちょっと喉が」
「ああ、ならこの世界には魔法があるじゃん!その場で水分補給できるよ」
「でもスポドリは出ませんよね?」
クーラーボックスからスポドリを取り出すと思いっきり飲み干す。
「三穂さん……一つ聞いても良いですか?」
「ん-、何かな」
「今夏ですよね?」
「そうだね」
「一般的に見れば今の時期は絶賛の海水浴シーズン……でもあたしたち以外に誰もいないのは何故です?」
アリスがここに着いてからずっと疑問に思っていたことだ。
最初、人が居な過ぎて貸し切りかと思ったアリスだが、海水浴場にしては設備が無さ過ぎる点、また海水浴場ならあるはずの海の家や着替える場所すらなく泳ぐ場所を決める浮きすらない点に違和感を覚えていた。
「どうしてだと思う?」
「貸し切り……でも、設備が何一つないので。ここは本来泳ぐ場所じゃない……とか?」
「確かに地元の人間にとってはここは朝にランニングをする程度だから設備が無いのはそれだね、人が居ないのも時間帯的にかな。そしてもう一つがこの時間ここは龍さんが貸切ったから」
「あー、やっぱ貸切ってたのか」
「まあ他にもちょっと理由があるんだけどね」
三穂がぼそっと呟く。
「え?」
「なんでもないよ!さあ高校生遊んで来い!」
太陽が夕日となり海面にかなり近づいた時間、アリスは着替えると三穂と天宮が用意したバーベキューに舌鼓を打った(食材は龍が依頼し三枝が手配した)。
そして香織が遊び疲れてうとうとしだし、全員の帰り支度が整った時、それを待っていたかのように龍が現れる。
「どうだ?楽しかったか?」
「あ、師匠!うん!部活以外で久しぶりに運動したわ!」
「そりゃあ良かった。じゃあ頼む」
「了解っす」
迎えの車に全員が乗り込み始める。
それに続こうとしたアリス。
「アリスお前は良い」
「は?どういうこと?」
バタン!と扉が閉まる。
「え?ちょっと!は?なして?おーい!まだ乗って……」
アリスは焦って車に近づくが車はそのまま発信し、基地に向かって走り出した。
アリスはその場に崩れ落ちた。
「…………は?」
(なんかのどっきりか?置いてかれましたけど!置いてかれましたけど!?)
「アリス」
「何!?事態が呑み込めずに打ちひしがれてるんじゃ!」
アリスは軽く涙目だ。
「お前は今日ここで一泊だ」
「なんで!?」
「理由は後で話す。三穂行くぞ」
「おっけー」
置いてかれ、涙目になりその場に崩れ落ちたアリスを荷物と一緒に三穂が抱えながら歩き出した。