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広島襲撃編 調印式 3

 調印式が行われる30分前……アリスに問題が発生した。


(ちょー、トイレイキタイ……水飲みすぎたか?緊張?腹痛い)


 突如訪れた腹痛に姿勢は変わらずともアリスの顔に冷や汗が舌たる。


 だが、調印式開始まで時間も無い、龍に迷惑をかけたくないと思ったアリスは三穂に言い出せなかった。


 しかしそれを三穂は察した。


「……アリスちゃん、トイレ行く?」

「……お願いします」


 大人しくトイレに行くことにしたアリスであった。



「じゃああそこで待ってるから」


 三穂が近くにある喫煙所を指さす。


「了解です」


 数分後。


「ふー、やっぱあたしでも緊張するんだな……でも経験していけば慣れる……か。さあ行こう」


 アリスがトイレから出て何気なく左に見た時だった。


「ん?」


 ホテルの廊下の先に黒いフードを被った何者かが、そこに佇んでいる。


(誰だあれ……、こんな場所で何でフード被ってんだ?ホテルの従業員ってわけでも無いだろうし……)


 顔こそ大きめのフードで確認はできないが、アリスはどうもステアを襲撃したシオティスと重ねてしまう。


 しかも背格好もシオティスに似ているように感じるのだ。


 アリスがその正体を確かめようとそちらに歩き出す時だった、アリスの肩が捕まれる。


「アリス!どうしたの?行くよ!」

「え?あ!はい……あれ?」


 三穂にこれを掛けられたアリス、一瞬だけ視線が外れる。


 しかしもう一度見るとそこには誰もいなかった。


「どうしたの?」

「あそこに誰かいませんでした?」

「へ?知らないけど」

「まさかの幽霊!」

「このホテル……結構新しいから無いと思うよ?ほらもう始まるから行くよ」

「はーい」



 時間通りに始まった調印式はすこぶる順調に進んだ。


 まず総理大臣西宮輝義による演説、そしてサラテボ国王の演説だ。


因みに今度のアリスは緊張により内容をほぼ覚えていない。


 二人の演説が終わると、両者は椅子に座る。


 そして、両者が三枚の書類にサインする。


 そして三枚の紙の内容とサインを確認した龍はその一枚に神報者が神報殿に収めるために必要な印鑑をその場で押すと、お辞儀をしその場を離れた。


 そしてお互いが書いた調印書を交換し固く握手をすると、ひときわ多いカメラのフラッシュが炊かれ会場は拍手に包まれた。


(これでサラテボは日本に……広島県になった?いやー緊張したけど……歴史的な瞬間に立ち会えたから良かったかな)


 ……その時だった。


ドン!


 周りが握手しあう二人に集中していたためか気づく様子はない。


 気づいたのはアリスと三穂だった。


(今の音なんだ?編入決まったから記念の花火?)


「今の音なんですかね?花火かなんかですかね」

「……いや、スケジュールには花火があるなんて聞いてないよ。総員異常が無いか確認と報告」


 三穂は即座に無線機で状況を確認する……が直ぐに顔色が変わった。


 そして龍に対して無線機を付けるようにハンドサインを出す。


 龍が無線機を付けると共に三穂がアリスにイヤホンだけを付ける。


「……?」

「もう一度報告」

「……橋の封鎖が爆破されました」


 それを聞いた龍は即座に総理補佐の政道に事を伝える。


 明らかに動揺した表情になる。


 すぐさま総理に伝える。


 龍と政道、総理と今や元だが国王の四人が何かを話し合っている。


「……どうなるんですかね」

「もう調印は済んでる、だけど問題はタイミング」

「タイミング?」


 三穂は無線機に話しかける。


「四方田ちゃん、爆破のタイミングは?それ次第で日本の動きと我々の動きも変わる」

「……調印の中継も見てましたが、明らかに調印後です。ちょっとなに!今通信中!」

「マジかよ」

「……追加報告です」


 この場でイヤホンを着けているアリス、三穂、天宮、龍が揃ってイヤホンの声に集中する。


「橋の向こう側……向かってくるのは……闇の獣人です!」


 この報告を聞いた途端、龍はすぐさまこの階のテラスへ走った。


「アリスちゃん!行くよ!」

「ういっす!」


 テラスにはすでにホテルに居た関係者が橋の方向を見ていた。


 龍は双眼鏡で橋の状況を観察する、アリスも三穂から双眼鏡を借りて見る。


 橋の両側に設置されていた封鎖が爆発により完全に破壊され、乱暴ながら開通出来ている状況だ。


 そして、橋の向こう側から大量の何かが歩いているのも確認できた。


(あれは……どう見てもゾンビでは?)


「どうすんのこれ?」

「……」

「師匠?」


 龍は黙ったままだったがアリスでも分かる、何を見ているのかまでは分からないが龍の表情が徐々に険しくなっているのだ。


 そして懐から箒を取り出すと跨る。


「師匠!?」

「三穂、アリスを頼む。全員、政府の奴らの安全確保、その後各自の判断で闇の獣人の討伐をしろ」

「了解」


 そういうと龍はすぐさま反乱軍の占領地方面に飛んでいった。


「……」

「それじゃあアリスちゃん、とりあえず転移陣で日本にもど……アリスちゃん!?」


 アリスはテラスの塀に乗っていた。


(こんな面白そうなイベントついて行かないと損じゃん!バッグに箒はある!行くぜ)


「私も行ってきます。じゃ」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」


 三穂が飛び立とうとするアリスを捕まえようとするが、すでにアリスは飛び降りた。


 だがすぐに箒に乗ったアリスが龍を追いかけて飛んでいく。


「……隊長?どうします?」

「……アリスちゃんもアリスちゃんで、自由だなあ、まあ龍さんがいるから問題ない……かな?……さて」


 三穂はちょうど天宮とちょうど合流した冴島の方に顔を向ける。


 その表情はアリスのお姉さんでは無く、天宮の上司としての顔だ。


「とりあえず政府の要人の安全確保が最優先だ。いつも通り行動しろ。その後各人の判断で獣人討伐と情報収集、必要なら普通科の部隊と協力しても構わない。ただし……」

「正体は悟られるな?」

「分かってます」

「分かれ!」


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