「総理入られます」
首相官邸の総理執務室では国会が閉会したとはいえ、編入という歴史的な出来事の直後に発生した闇の獣人による大規模襲撃によって閣僚全員が集まっていた。
そして編入のため現地で調印式に参加していた総理と外務大臣が執務室に転移陣よって到着するとすぐに総理レクが行われた。
「で?現状は?」
防衛大臣が渡された紙を読む。
「橋の両端部の封鎖が爆破により破壊、向こう岸より多数の闇の獣人が迫っているという状況です」
「……なんてタイミングだ。自衛隊はどうなっている?」
「まだ獣人は渡り切ってない状況であり、サラテボ……いえ、広島側の橋の入り口に自衛隊員を配置、襲撃に備えている状況です」
「総理」
耳元で語り掛けるのは総理補佐の政道だ。
「いざというときの為に非常事態の宣言も視野に入れてください」
「馬鹿なことを言うな!」
西宮が激昂する。
「まだ政権を取って半年もたってないんだぞ!与党になって初めての国会が終わったばかりなのにまた選挙をしろというのか!」
「ですが、もし事態が悪化し広島が蹂躙されますと政府の危機管理に疑問の目が向けられるかと。社会党の二の前になります」
社会党……という言葉に少し眉を引きつらせる西宮。
「分かっている。だが、過去の獣人討伐でも日本は非常事態宣言を発出していない。それにこれはチャンスだ!ここで適切に対処すれば我々民政党の支持率アップにも繋がることになる!いいな?」
———結局はそれか。
「……分かりました」
何かを言いかけた政道だったがぐっとこらえ、その後の総理レクを見守った。
広島に掛かる大きな橋の入り口、そこにはすでに多くの普通科隊員が戦闘準備を整えていた。
だが、どの隊員の顔も緊張に満ちている。
それもそのはずだ、過去何度も獣人討伐の任務をしているがここまで大規模な討伐は例が無い。
「お前ら!そのままでいいから良く聞け!先ほど、調印式が終了した。つまり今現在いる場所は名実ともに日本国となり君たちの守るべき領土となった!だが我々はつい先日ここに到着したばかりで土地勘も無い。だがだ!君たちは自衛官として幾度なく訓練を繰り返してきた!それをここで見せればいいんだ!いいか!君たちの周りには仲間がいるその仲間を信じ!いつもと同じように任務をこなせ!いいか」
「「「はい」」」
指揮官の激により少し落ち着きを取り戻したのだろうか、表情が引き締まる隊員たち。
「接敵までおよそ100メートル!」
「全員構え!発射の号令後各自発射!」
その声と共に橋の入り口にて隊列を組んでいた隊員たちが一斉に小銃を構える。
橋の向こうから目が虚ろなりゆっくりと歩いてくる獣人がが迫る。
そして獣人たちは目が悪いのか、それとも偶々なのか一人の獣人が雄たけびを上げた瞬間、構えている隊員たちに向かって走り出した。
「……総員、撃ち方始め!」