歩き始めて数分後、龍とアリスは森の中の少し開けた場所に出た。
そしてそこにある人物が立っていた。
アリスがホテルで目撃した、フード姿の人物だ。
「やはりお前か」
「やはり来たか龍、君なら来ると思ってたよ」
男はフードを取る。
「あ!あの時の!」
フードを取ると出てくるのはステア襲撃の時の実行犯、シオティスだ。
「あんた!ホテルにいたでしょ!」
「あ?なんでそれを言わないんだよ!」
「だって近くに居た三穂さんが見てないから気のせいだと」
「まあいいとにかく、シオン、目的はなんだ」
「目的か……」
シオティスは刀を抜く。
「君に言うと何故思ったんだい?」
「じゃあお前でも答えられる質問にしてやろう、なぜ刀を抜いた」
龍も刀を抜いた、同時にアリスも刀を抜く。
「……本来の目的はもう完遂した。ここからちょっとした余興だ。俺はこれでも剣士でね強い剣士とあったら刀で語り合ってみたいというのは当然だ。あの時は状況が状況だった、だが今は違う。時間は限られているがそれでも刃を交えるには十分だ。だから……」
シオティスが龍に切りかかる。
「存分に楽しもうぞ!」
「クソたれが!アリス!離れえてろ!お前では足手まといだ!」
ガチン!
シオティスの刀と龍の刀が交わる。
(お、おう!すげえ!)
アリスが距離を取った瞬間、二人の目つきが変わり戦闘態勢に入ったことが分かる。
だが、映画等でよく見る侍同士の斬りあい……つまり殺陣では無い、それどころか二人は適度に距離を取りながら自分の間合いの探り合い、そして時々刀は振るがそれを刀で受けるのではなく避けたりする。
だが、アリスは初めて感じ取った。
これこそ映画では絶対に見ることが出来ない……本物の侍による斬りあいなのだと。
(師匠に聞いたことあったっけな、なんで映画みたいにバチバチに打ち合わないのって。そしたら言ってた、ただでさえ人を切っただけで骨に当たったら欠けるのに刀で打ち合ったらすぐに使い物にならなくなるって。だから必要なのはたった一刀、それに必要な間合い、タイミング、それらは相手の戦い方によってわずかに変わる、だから対峙しながら観察して最後に隙を見つけて最適な一撃を叩き込むのが刀の戦い方だって)
アリスは完全に二人の剣劇に見惚れていた。
映画とは全く違う、いや脚本や演出によって作られた緊張感以上のものがビシバシとアリスに伝わってくる。
だからこそ気圧されることも無く観察する。
龍の足の動かし方、体重移動、構え方、刀を振る時の軌道すべてがアリスの剣術成長に繋がるからだ。
だが、龍が褒めたアリスの刀剣士としての第六感なのかは分からなかったが、直感が危機をアリスの脳に知らせる。
(殺気……後ろ!)
アリスは体制をそのまま刀を逆手で後ろに突き出す。
ブスっ!
「が!……うっそ……だろ」
何かに刺さる感触と共に背後から男のうめき声が聞こえる。
即座に引き抜くと、残心したたまま背後に振り向く。
完全な奇襲で油断したのだろう、絶望の表情で刺された腹部を抑えながらうずくまる男。
「……」
(あっぶね)
アリスが男の横に移動すると、静かに刀を構える。
「くっ……いってえ!……あ、ちょっ……ま」
ヒュン!
刀は理想的に振ると綺麗な風切り音がするらしい。
アリスが振り下ろすと、刀身は男の首を捉え、綺麗に……とは行かなかったが切断に成功した。
「意外に行けた」
本来、刀で首を切断するのはかなり難しいとされている。
何故なら首には多数の骨が連続して配置されているからだ。
畳で刀を斬る居合を知っているなら斬る難しさが分かるだろう。
素人なら畳を斬る時に途中で止まることが多いのだ、骨が密集している首を切断するなど普通の人間には難しい所業だといえるだろう。
なお江戸時代には首切り専門の職業が存在するほど刀で斬るというのはかなり技術が必要な物なのだ。
(体が覚えてる?少なくともこの世界で日本刀を振ったこたあねえんだけども……旧世界であたし何したんだよ……ていうか、この刀すげえな)
男の胴体から切り離された首には白い魔素が付着している。
よく見ると、首に闇の紋様が刻まれている。
「いっちょ上がり……て訳では無いのね」
ぞろぞろと刀を構えた男たちが四人現れる。
(こいつは闇の魔法使いだった……普通に考えればこいつらもか)
アリスは刀を構える、同時に男たちも構える。
だが、アリスは気づいた。
(こいつら素人か?刀の持ち方も構え方すらバラバラ……ついさっき渡されたみたいな感じ。それでちゃんと振れるのかねー、刀は持ち主によってどんな名刀もただのなまくらになるって言いますよ?素人が持ったらワンチャン鈍器か?いやまあ鈍器でも十分脅威は脅威だけども)
だがアリスの考えとは裏腹に男たちはある程度陣形を組むと一人が切りかかって来る。
「おっと」
アリスは頭上からの一戦を避けると、男の脇腹を斬る。
「がっ!」
まさか明らかに年下の少女に簡単に避けられ、切られると思ってもみなかったのだろう、少し驚いた表情で陣形に戻る。
(これも師匠が言ってたけど、最後の一撃で決められるのは一流になってから、普通はタイミングや間合いを図るなんて殺し合いの緊張で易々とできるものじゃない、だから相手の攻撃を避けつつ少しづつ切っていって相手が諦めるのを待つ方が得策だって。まあそうだよなあたしゃマジの斬りあいなんてこれが初めてだし、四人と乱戦なんてまだ無理だ。それに……年齢は分からないけど、恐らくあいつらサラテボ……じゃねえや広島に進撃した反乱軍の一派、ならある程度戦い方は知っているはず……でもなあ)
アリスは一度深く深呼吸すると、刀を構えおす。
「こちとら日本刀に関してだけだったらお前らよりは出来る自信あるんじゃい!それになあ主人公がこんなところでやられるわけないだろが!」
四人の男はやはりある程度戦闘に関してノウハウはあるようで四人一斉に切りかかることはしないようだ。
近接……ナイフや刀などの零距離戦闘においては取り押さえを除いて一斉に襲い掛かるなど愚の骨頂、一人当たりの攻撃手段と動ける範囲が減り帰って不利なる。
アリスに向かって行ったのは二人だった。
それもちゃんとアリスの前と背後、対角に位置するでアリスに対峙する。
そして何回もアリスに切りかかるが、ギリギリで避けられ小さく振られたアリスの刀によって傷がつけられる。
「くっそ!」
「いって!」
恐らく戦闘経験はある程度あるだろうが、ここ最近は進軍が無かった影響かそれとも日本刀の扱いに慣れていなかったのか……動きはそこまで良くはない。
同時に切り付けられた影響と動き続けた疲労で男二人はふらつき始めていた。
「うがあああああ!」
突如、一人が雄たけびを上げて刀を大きく振りかぶりが突進してくる。
恐らく最後のあがきなのだろう。
「……」
(駄目だなあ、どんな状況でも冷静に居なきゃ……)
頭上からくる一線をいともたやすく避けると、横に構える。
「……あ」
悲鳴すら上げられずに、振りぬかれた刀によって男の頭は胴体と別れた。
「……くっそ!たれが!」
そういう男ももはや立っているのも刀を構えるのもやっとな様子だ。
「……」
アリスは考えた、先日龍に言われた言葉。
『その技は初見なら効果的かもしれんが、俺には効かん』
(使ってみるか?どうせなら使ってみたいじゃなくて、後二人も相手しないといけないなら一撃で終わらせたいし……さっきから日焼けでピリピリして集中力切れてきたし)
アリスが構えると、男もなんとか体制を取り構える。
そして、アリスは上段に構え走り出した。
振り下ろされると確信した男は構える。
「きぃえええええ!」
雄たけび上げながら飛び、この一刀に全神経を集中させ振り下ろす。
バチン!
という音とおともに男はアリスの一刀を受けた……が勢いまでは殺せずにアリスの刀が男の頭部に食い込む。
「があああああ!」
痛みにより、うずくまる男、アリスは見逃さずに一閃、首をはねた。
「はあはあはあ」
息を整え、残っている二人に刀を向けようとした……その時だった。
ゴリっ!
「うっ!」
腹部に強烈な回し蹴りは吹き飛びそのまま気に激突、刀が手から離れ、気に座り込んでしまうと同時に意識がもうろうとする
「う……あ……」
(こ、呼吸が……出来ない……背中打った?)
「いやー、すげーな嬢ちゃん!あの二人切っちまうなんて」
刀からナイフに切り替えた男が近づいてくる。
「いやー、元々あの二人は気に入らなくてさ!あの人から力はもらったけど、部下にするならどっちか二人って言われてんのよ。でも嬢ちゃんが二人やったおかげでさ、嬢ちゃんの体力削れたからさ!こっちとしてはあの二人に感謝かな!」
(まじ……かよ。戦術で分けたんじゃなくて最初から援護するつもりなかったんかい)
「シオティスさーん!この子どうします?」
「殺さなければ好きにしていいですよ」
「ち、ちょ……と……ま……」
(それあの展開じゃないすか!エロ同人展開にしかならないじゃないですか!まって体動かないよ!こんなことで処女失うのはいやだあ!……あ、やっべ意識途切れる)
意識を完全に失い、体が脱力するアリス。
その様子を見てニヤリと笑った男はナイフでアリスの制服を斬ろうとした。
「アリーーース!」