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広島襲撃編 アリス?の剣術 3

ガチン!


 もう何度目だろうか、シオティスと龍の刃が交錯し固まる。


「はあはあはあ」

「……龍よ」

「あ?」

「俺は気にしないのだが……あの子一人で良いのか?」


 龍はアリスの方をちらっと見る。


「奇襲した一人含め五人とも、刀に関しては素人同然だろ?動きを見れば分かる。それにお前も時間が無いはずだ、時間稼ぎ程度ならやってくれるだろうさ」

「……そうか。それより、お前弱くなったな」

「ああ!?」

「いや剣術は確かに磨かれているさ、だがな……以前と違い気迫が無い。この400年で何か変わったか?」

「侍たちが刀を振るう理由、それは主君の命を守るため……いや自分の命を守り主君に使え続けるために振るうんだ。だが今の俺は不老不死……ならば本気で刀を振る理由も無くなる。だが帝が望まれればその限りでは無いが」

「……そうか……そうだな。だが……俺は一度たりとも手を抜いたことは無いが」

「お前の場合はまだ目的を果たしていないからだろう?俺とは違う……いや少し意識が変わるきっかけはあったがな」

「……あの子か。どうやらさすがに荷が重かったようだが」

「は?」

「うっ!」


 アリスの小さい悲鳴が聞こえる。


 龍が視線を移すと、アリスが吹き飛ばされ木の根元に倒れこんでいる。


「あーらら、残念」

「ったくやっぱり荷が重かったか!」


 龍が直ぐにアリスの元に向かおうとするが……。


「そんなことさせると思うか?」

「あ?……ぐっ!」


 シオティスは柄で龍の腹部を殴ると、そのまま回し蹴りで吹き飛ばす。


「が!」


 木に激突した龍は痛みで顔が歪み、その場に崩れ落ちる。


「くっそが……」


 龍は立ち上がろうとするが……。


 ビュン!ザク!


 シオティスが別の刀を抜き龍に投げる、投げられた刀は龍の腹部に刺さり貫通、背後の木にまで刺さり固定された。


「うっ!意味のないことを!」


 龍は刀を掴み抜こうとするが、ここで異変に気付いた。


「……あ?なっ!あっつ!」


 刀の傷による燃えるような痛みではない、現在進行形で刀自体が触れている部分を焼いているかのような痛みだ。


ここで龍は気づいた。


 刀の刀身が黒く染まっている。


「黒い……刀身?」

「気づいたかい?」


 シオティスが龍に近づく。


「君たちが俺たちに対抗して聖霊刀なるものを作ったからね、俺も作ってみたよ。ただまあ魔鉱石を集めるのも簡単じゃ無かったからまだ数本だけ。まだ名前は決めてないんだけどね。……どうだい?焼けるようだろう?切られたり刺されたりすると闇の魔素が体内に侵入する。闇の紋様が無いともれなく獣人化さ。まあお前の場合はリサ様の恩恵で何ともないが痛みはあるだろう」

「シオティスさーん、この子どうします?」

「殺さなければ好きにしていいですよ」


 それを聞いた男がニヤリと笑うとナイフを持ちながらアリスに近づく。


「……やめ……ろ」


 龍は痛みを必死に耐えながら刀を拭こうとする……が、シオティスが手で柄を抑える。


「残念だが、君は見ることしかできない。本当に弱くなったな……守るものが出来ると人は死ねないという思いから強くなるというがお前は違う、不老不死になったことで無意識に自分の命の価値が低くなったんだろうな。だがあの子を守るために意識を変えようとはしたんだろうが……遅かったな」

「う……るさい!あ……アリス!アリス!」


 男はアリスの服に手を掛けるとナイフを近づけた。


「アリーーース!」


 その時だった。


「ああああああ!」


 ナイフを持っていたはずの男が絶叫し、後ずさる。


 龍とシオティスが同時に注目する。


「……ん?」

「……」

「お、俺の手がああああああ!」


 男の両手が無くなっていた。傷口からは勢いよく血が飛び出すが直ぐに再生していく。


 そして先ほどまで気絶していたはずのアリス?が立っており、右手にはナイフを持っている。


「気絶していたはずだけどねえ。どういうからくり?あの状態からナイフを奪った?」

「……アリス?」


 アリス?が持っていた聖霊刀は未だ、地面に落ちている。


「……なるほど、目の前の男のナイフを奪ったか……でも気絶したはずなんだけどなあ」


 男のナイフを正面から奪い取ったのだ。


 だがそんな事奪うことは出来ても至近距離まで近づいている真正面の男の手首を正確に抵抗なく斬るなど普通は困難に近い。


 アリス?は少し、自分の体を観察する。


「……うむ、体格は少し違うが、問題は無いか。それよりそこの者、確実に両手を切り落としたはずなんだが、どういう妖術だ?」


 龍は驚愕する。


 喋り方も何もかもが今までのアリスとは程遠い、まるで何者かがアリスの憑依し、操っているかのようだ。


「おい!お前の刀よこせ!」

「え?でも」

「お前は杖があるだろ!」

「分かったよ」


 もう一人の男が刀を渡すと構える。


 アリス?はナイフを捨てると近くに落ちていた自分の刀を手に取る。


 ここで龍はアリス?にとりついている何者かに告げる。


「アリス!もう一度言うぞ!聖霊刀を使うなら首を狙え!それが一番手っ取り早い!」

「……なるほど完全な不老不死というわけではないのだな。であれば」


 アリス?は刀を構える。


 ここで龍もシオティスも気づく。


 構えだけで分かる。


 先ほどまで戦っていたアリスの構えとはまた違う、下段の構え……しかも先ほどまでのアリスからにじみ出でていた焦りも殺気すら感じない。


 何回かアリスと稽古した龍だがあそこまでの境地に至ったアリスは見たことは無い。


 まさに明鏡止水、これこそ達人だ。


 どのような刀裁きが見せるのか龍どころかシオティスまで固唾を飲んで見守る。


 龍とシオティスの一線を見ていたアリスのように。


 相対している男もアリス?の一寸の隙も無い様子にある程度戦闘慣れしているせいか無理に突っ込むことは無かったが。


 だが先ほどまで相対していた少女とはまるで別の圧迫されるような気迫に体が硬直するが状況的に逃げることも出来ない。


「おあああああ!」


 完全に取り乱した男は刀を構え振り下ろした。


 だが男が振り下ろした刀がアリスに当たることは無かった。


 寸での所で身をよじりかわすと流れるように左腕を斬る。


 しかも鮮やかすぎる流れからの一閃だ、男は目で追うことしかできなかった。


「がっ!」


 ヒュン!ヒュン!続けて二回の風切り音と共に アリス?は刀の血を振り払い残心する。


「なっ!いっつ!」


 男は左手の痛みと左足の痛みでうずくまる。


 そして、うずくまった瞬間、男の首がぽとりと落ちた。


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