エルフ……背が高く容姿端麗、美男美女、耳が長く、クールで弓矢が得意、森に住み、不老長寿、他種族とは相いれない種族。
皆が思い描くエルフとはこんな感じだろうか。
その起源は北欧神話だという。
エルフというキャラクターが有名になったのは指輪物語……『ロードオブザリング』という映画だろう。
この作品にてエルフのキャラが認知されたといっても過言ではない。
また、神話上の種族であり現実では存在しないことから好きなように設定をいじれることにより世界から変態国家と呼ばれる日本に認知された結果、様々なファンタジー作品に基本クールキャラ(薄い本では年上のお姉さんキャラとして)登場するようになった。
ここまでエルフというキャラクターのファンタジーにおいての便利さを解いてきたが、もはや日本の異世界ファンタジーにおいてエルフを出さないというのは設定にもよるがあり得ないことだと思われる。
さてもちろん、この第二日本が存在するセアにおいてもエルフ族は存在し、エルフの国も存在する。
今回はエルフの国と第二日本……というよりは神報者の龍との関係についての話だ。
夏休みが終了し、いつも通りの学校生活に戻ったアリス。
といってもアリスは転生者の寮に戻る理由が無かったので花組の寮にて部活動や同じく実家に戻らなかった霞姉妹、香織と共に夏休みを満喫しただけにとどまった。
いつも通りに授業を終えた放課後、そのまま部活に行こうとする四人。
「おい、アリス」
呼び止めたのは柏木だ。
「なんですか?」
「次の土曜日、予定は?」
「えーと……あるとすれば部活ぐらい?」
「なら問題ないか……龍から伝言だ、次の土曜日制服で正門前に0730に居ること。因みに一泊するから今度は自分で着替えを用意すること、だそうだ」
(また急だな。てか今回も理由なしか)
「あの……何するかとか聞いてないんですか?」
アリスは海水浴に行った時のことを根に持っていた。
アリス以外のステア組は全員目的を知っていたし、アリスが海水浴後、現地にとどまることすら知らされていたのだから。
だが、アリスは四人に対してそのことを責めるつもりは無かった、普段から時事ニュースを見ていなかったアリスにも責任があると感じたことも一因だが、それ以上にシオティスとの一戦で体力的にも剣術的にも未熟だと思い知らされたのが精神的に大きかったためだ。
「知らん、前回は他にも参加する人間がいたし、月組の東條も参加していたし事が事だからな、私にも事情は伝わったが今回は何も聞いてないよ」
「えー」
「あー、最後に。もし時間に間に合わない場合はお前の部屋に割って入ってでも引きづってでも連れてくと言っていた。以上だ、じゃあな」
そういうと柏木は戻って行く。
「……」
「アリス。今回は私たちも聞かされてないから、アリス単独じゃない?」
「まあそれはそれでいいんだけど」
(0730……この言い方って軍隊っていうか自衛隊独特の言い方……柏木先生って何で自衛官から先生になったんだろう。というか、何であたしは毎回仕事の付き添い方が水曜どうでしょう形式なんだ?)
次の土曜日午前七時半まえ、制服に着替えたアリスは眠い目をこすりながら一泊分の荷物を持って正門に居た。
すると正門前に黒い車が入って来る。
(……前に見た気がすんだけどこの車)
アリスの前に止まると、運転席の扉が開きスーツ姿の男性が下りてくる。
「アリス様、おはようございます」
「あ、おはようございます」
男性はそのまま後部座席のドアを開ける、中に居たのは龍だった。
「師匠」
「乗れ」
アリスが後部座席に座りシートベルトを着けると運転手の男性がすぐに乗り込み車が動き出す。
「よく寝坊しなかったな」
「部活で慣れた」
「そりゃあ。良かった」
「おはようございます。アリスさん」
「え?あ、おはようございます」
声を掛けたのは位置的に顔こそ見えないが助手席に座る男性だ。
「初めましてですね、私、外務省識人補佐の冠城有馬と言います」
「は、はあ……ん?外務省!?」
「ええ、外務省です」
(外務省の人が同席してる?なんで?今から外務省行くの?)
「じゃあ今から向かうのは外務省ですか?」
「いえ、首相官邸です」
(首相官邸……懐かしいな)
アリスが最後に首相官邸に行ったのは試作品のコンピューターのデモプレイに行った日以来だ。
「何しに行くんですか?」
「すみません。事柄の性質上とアリスさんの立場上ここで申し上げるわけにはいかないんですよ。なので着くまで寝てもらって構いませんよ?」
(なんだ立場上って)
「そういうわけだアリス、しばらく寝てていい。着いたら起こすよ」
「……へーい」
そのままアリスは荷物を抱えたまま軽い睡眠に入った。
「アリス……アリス!」
「……ん……ふえ?」
「ったく」
「え?あ、つい……ぶばばばばば!」
アリスの顔面に強烈な風がぶち当たる、龍の杖による風魔法だ。
「……起こすなら肩をゆする程度で良いじゃん!」
「水じゃないことを感謝しろ」
「ちくしょうめ!」
アリスが車を降りる。
(首相官邸……懐かしいな。まあ普段から来る場所じゃないんだけど……ん?)
アリスは気づいた。
アリスが乗ってきた車の他にも大人数が乗るのだろう黒いファミリーカーのようなものが止まっている。
(誰か来てる?……まあ首相官邸なんだから来るのは当たり前か。何かの団体さんか?)
「アリス行くぞ」
「あ、はーい」
そのまま首相官邸に入るアリスだが、前回とは違い会議室には入らずエレベーターで地下に向かいだした。
エレベーターを降りると通路を歩き出す。
(首相官邸で地下……シンゴジラだと大臣たちが集まって話してる幹部会議室?だっけ?あれが思い浮かぶけど)
「アリス」
「ん?」
「お前、エルフって知ってるか?」
「……エルフ?」
(エルフ……車の?それとも異世界ファンタジーでお馴染みの種族のあれ?どっちだ?)
「種族の話?」
「そうだ」
「……日本人でアニメ見てる人なら大抵知ってるでしょ。まあもちろん見た事ないけど」
「そうか」
「それが?」
「いや何でもない」
アリスが到着したのは首相官邸の地下のある一室……というより何もない空間だ。