(なんだこの空間)
少し広めの石で作られた部屋……いや部屋とも呼べない、ただただ少し大きめの空間がそこには広がっていた。
だが地面を見るとすぐに気づく、魔法陣が書いてあるのだ。
「……なにこれ?」
「ここは転移室です」
答えたのは冠城だ。
「転移……室……ってことはこれ転移陣?誰か来るんですか?それともこれから行くの?」
「今日は来るんですよ。本来は総理の外遊中や官邸などに居ない場合に緊急的に戻ってこなければならない場合に使われる場所です。広島襲撃時にもここを使いすぐに官邸へ戻っています」
「へー、誰が来るんですか?」
「他にも他国の要人が来日する場合はここを経由してくる場合が多いですね」
「実物見るの始めて見ました……無視してます?誰が来るんですか?」
アリスが転移魔法を知らないのは理由がある。
魔法陣が生成される魔法使うには二通り、呪文を唱え魔法陣を生成させて魔法が発動させる方法、そして書いた魔法陣に魔素を注ぎ魔法を発動させる方法だ。
因みに魔法陣が発生しない基本魔法でも魔法陣自体は存在し、呪文を知らなくても魔素を注ぐだけでお手軽に魔法を発動させる方法がある。
だが、基本的に第二日本の小学校中学校では魔法陣による魔法の発動方法は習うがそもそも私有地以外で魔法陣を書くのは法律で禁じられているので基礎魔法の魔法陣の書き方や性質までは習わないのである。
第二日本の一般的な高校でも習わない。
因みにステアでは二年生で習い始める内容だ。
「でも師匠って魔素無限に使えるのに使わないよね、第一魔法しか使えないのは知ってるけど魔素注げば使えるんだし……なんで使わないの?」
「……」
「それは私が答えましょう。そもそもこの世界の転移魔法はドラクエのように一度行った街に行けるような魔法ではないんですよ。転移陣どうしでしか移動できません、つまり転移陣が無い場所には転移できないんです」
(それって転移っていうか?ただのワープでは?……あ、同じ意味か?てかさっきから何でくる人物に関してだけ答えないの?そういうルールなの?)
「そしてこれが問題なんですが、呪文で発動した魔法陣は転移が終了すると消えますが、書かれた魔法陣は消えません。仮にここに転移する場合、地面に書いて転移した場合、後から誰でも魔素さえあれば使えてします。なので、法律で転移陣を書く場合は許可制なんですよ。因みに、広島襲撃時も首相がここに転移しましたが、用意した転移陣をしまうために現地に何人か残ってます」
「あー、なるほど」
(意外に不便だなこの世界の魔法)
その時だった。
「来たぞ」
「ん?何が?……お?」
突如魔法陣が光り始めた。
「誰かがここに来るために転移魔法を使うと転移先の魔法陣がこのように光ります。分かりやすく言えばお互いの魔法陣が魔素で繋がった状態ですね。そろそろ来ますよ」
「へー、……いやだから誰が?」
魔法陣の中心部が眩い光を放ち、アリスは思わず目を瞑る。
数秒後、光が消えると、数秒まで誰もいなかった魔法陣の中心に数人の人物が立っていた。
(目が……ん?誰か……居るな。そりゃあ転移魔法なんだから発動して誰もいなかったらある意味恐怖現象ですけど)
「龍!一年ぶりの日本だ!長かったぞ!」
転移してきた人物の一人が龍に話しかける。
「お前にとっちゃ一年なんてあっという間だろ?そんなに待てなかったのか」
「当たり前だ!今日の為に仕事していると言っても過言ではない」
「過言だろ」
「ふー、やっと日本に着いたのね!まずは温泉よ温泉!」
「母様ほんとそればっかし!とりあえずご飯よ、今日は朝ご飯抜いてきたんだから」
「姉さま……健康に悪いですよ。それに食べてばかりでは太ります」
「良いの!それにあんたと違って食べた分は胸に行くんだから」
「……ッチ」
(おいおい、マジかよ)
アリスは自分の目を疑った。
転移してきたのは、明らかに日本人ではない。
色の濃さこそ個性があるが全員金髪、そして耳が長く、そして全員長身で美形だ。
「お、お、お、え、え、え」
(……エルフだああああああ!)
アリスはさすがに外交の場だと理解したのだろう表情を崩さず、声も上げずに踏ん張った。
「ふふふ、私も最初は声を上げそうなりましたよ」
(やっべ!エルフ!エルフ!エルフ!?本当に?コスプレじゃなくて?うわー!耳が長い!動いてる!ちょー綺麗!つーかお母さんとお姉さん?……胸でっか!エルフ特有……この世界のエルフの服装知らんけど日本人の服装だ!……一人おかしいけど)
アリスが疑問に思ったのは妹の服装だ。
三人とも海外から日本で遊ぶために日本人の服装を着ているが、妹は違った……袴なのだ。
(妹……だよな?なんで袴着てんの?そういう趣味?)
「おお!君がアリスちゃんだね!」
エルフの男性が近づいてくる。
「あ、えーとどうも?あれ?私の名前」
「龍から聞いているさ!弟子が出来たと!私も長生きしてるがついに弟子が出来たと報告を受けてなぜひ会ってみたかったんだ」
「それは……どうも」
「おっと自己紹介がまだだったね私はバリアス、君たちがエルフと呼んでいる種族でエルフの国プロソスで国王をしているものだ」
「あー、よろし……ん?えーと?国王?国王!?」
「ははは!驚くのも無理はない!そして妻のフィア、姉のティア、妹のミアだ」
ミアを除く、二人が軽くお辞儀をした。
「こらミア!お前もお辞儀をしなさい!」
「龍様以外に礼をする気はありません」
そういうとアリスを睨んだ。
(睨まれる理由がないんだよなあ……てか龍様って……ガチ恋勢か?)
「……まったく、すまないねアリスちゃん」
「え?いえ、気にしてないです」
(まあこういうキャラクターなんていくらでもいるし……そういうキャラが攻略後に主人公だけに見せる顔も乙ってものだからいいけど)
「さあ諸君、ここに長居も無用だ!さっさと移動しよう!一年ぶりの日本観光だ!」
バリアスが転移室の出口に向かう、同時にフィアとティアも向かうがミアだけはアリスの前にやって来る。
「あんた」
「はい?」
「姉さまと母様の胸見てたでしょ?」
「え?ああ」
アリスは思わず目を逸らす。
(そりゃあ見るでしょ!あんな素晴らしい胸をお持ち何ですよ!男女問わず見るわ!叶姉妹が道中歩いたら男女問わず見ちゃうでしょうが!)
「それであたしのも見てがっかりしたんでしょ!?同じ娘なのに?なんでここまで違うんだって!」
「……ん?」
(今何と?姉妹で胸の大きさが違うからそれであたしのそれを見た反応を見て睨んだと?マジで言ってるん?こっちは日頃から姉妹どころか双子であそこまで違うサチとコウを見とるんやぞ!今更それでがっかりするかい!)
「いや、違いますけど」
「じゃあどういう理由であんな表情したのよ!」
「なんで……どうして袴着てるのかなって」
「……え?袴?……確かに、プロソスではこういったものを着る文化は無いわ。でも私が着るのは……そう!着やすいからよ!」
(ああ、なるほど。和服とか袴と胸無い方がきれいに見えるもんなあ……言えないけど)
「因みに家での普段着でも着物を着ているわ!」
(聞いてない)
「で?それだけ?」
「ええ、それだけです」
ミアはふとアリスの胸元を見た。
「ふふ、あなたもあなたで苦労してるのね」
(おいおい!それはあたしの胸を見ての言葉か?大きなお世話じゃ!この国での標準サイズだっての!)
因みに標準サイズはもう少しだけ大きい。
「おい二人とも!行くぞ!観光する時間が無くなる。お前もやることあるんじゃろ?」
「はーい、アリスだったかしら?あなたのこと気に入ったらからため口で良いわよ」
「あー、はいはいどうも」
(殴ったら……外交問題になるか)
(さっきの車……このためだったか)
アリスは首相官邸に到着したときに待機していたファミリーカー二台の内一台に乗り込むとプロソス国王一行と共に出発した。
「アリスちゃん」
「はい?」
「先ほどは申し訳なかった。娘のご無礼、替わりに謝罪する」
「いえ……勘違いがあっただけなので。もう仲良くなりました」
「そうか、あの子も本当は優しく活発な子だったんだが、ある一件で人族に対して敵意を向けるようになってしまってな」
「ある一件?もしかして師匠関わってます?」
「龍か?関わってるどころか当事者だ。ミアが龍に心を許してるのも龍が助けたからでね」
「あの……差し支えななければですが……教えていただいても?」
「目的地までまだ時間があるな。龍……構わんな」
「お前が良ければ俺から話そう。事件により直接かかわっていたのは俺だからな」
「頼む」
「事件が起きたのは……」
「待って師匠」
「なんだ?」
「時間かかる?」
「無論だ」
(あ、これ……いわゆる回想入るパターンだ)
その通り次話より回想である。
「じゃあどうぞ」
「事件が起きたのは訳13年前だ……」