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プロソス国王一家来日編 龍の追憶 1

 皇歴542年秋、龍は日本と川を挟んだロスタという国の宿に居た。


 国王主催のパーティーに出席していたのである。


 建国してから訳50年余り、すでに建国記念の式典は終わっていたものの、国王自身がパーティー好きであり、ことあるごとに人を募ってはパーティーを催していた。


 そして今回、その国王が招待した人物が問題であった。


 天皇陛下だったのだ。


 本来天皇陛下が国際式典に参加されることは無い。


 代わりに皇太子が参加されるのが一般的だ。


 だが今回、招待が性急すぎた事により天皇陛下含め皇太子ですら参加が不可能であった。


 しかし、招待を受けられた陛下は人を送らないと失礼に当たると国会対応を終えた龍を送ることに決めたのである。


「まったく、あの人も人使いが荒い」


 国王側が確保した宿に帰ると早々にベッドに座る。


(それにあの国王の反応も予想通りだ)


 パーティー開催時、龍が来た事に対して一瞬驚きはしたものの、それでも笑顔で対応した。


 恐らく国連や世界の中でも一目置かれる日本のそれも象徴とされる天皇陛下を調整もせずに招待出来る国王として拍を付けたかったのであろう。


「……さて」


 外交的な仕事を一通り終えた龍は報告の為に荷物の無線機を起動させる。


「こちら龍、ロスタリオン国王のパーティー終了、明朝日本に戻る」

「……」


 無線機からは何も応答が無い。


「……こちら龍。誰かいないのか?」


 この無線機が普段繋がっているのは、仕事上よく一緒に仕事をする防衛省だ。


 だが今回は外務省の無線通信室とつながっているはずなのだ。


(誰もいない?いや通信室は常にだれかいるはず……何か問題でもあったか?)


「……まあいいか定時連絡で何か分かるか。ていうか、シャワー浴びてえんだよ」


 龍が部屋を後にしようとしたときだった。


「……さん!……龍さん!聞こえますか!応答を!」


 龍の体がぴくっと止まる。ゆっくりと無線機に近づきマイクを取る。


「……こちら龍」

「ああ!良かった!やっと通じた!」

「やっと……こっちはさっきから無線飛ばしてたんだが」

「すみません!ちょっと問題が発生しまして……外務省全体がてんやわんやで」

「全体が?なんだ、誰か緊急来日でもすんのか?」

「……されました」

「あ?なんだって?」

「プロソス国王の王女殿下ミアさまと貴族の令嬢が5人、何者かに誘拐されました」


(……そういうやつかよ)


「で、今わかっている状況は」

「はい、えーと……」


 6人が誘拐されたのは龍がこの国にやってきた前日の夜中だったそうだ。


 ミアが友人である貴族の娘の家でパーティーを開催し、そのまま泊まったがその襲撃、変な物音に気付いた屋敷の侍従が荒らされた部屋に気づいたという。


 その後国の関所にて少々大きめの荷車を兵士が目撃、それが最後なのだという。


「……ずいぶん日本に知らせるのが早いな。もう知れ渡っているのか?」

「いえ、その兵士曰く、荷車に乗っていたのが日本人では無かったこと、そして事情が事情なので国連には知らせずに日本にだけと」


(つまり日本は関与していないことを国王は確信している。そして国連での日本の立ち位置と発言力から先に日本には先に告げた……いや暗に協力しろってことか)


 だが仮に誘拐犯を突き止めたとて日本が大々的に自衛隊を派遣することは出来ない。


 あくまで国連軍を要請し、事件解決の陣頭指揮を執るぐらいだろう。


「それで?俺にどうしろと?あいつの話し相手になって精神的に支えてやれってか?」

「……いえ」

「……何なんだ」

「……周りに誰もいませんよね?」

「……はあ?」


 龍は周りを見渡す。


 外交ではありえないが今回は急すぎることもあり、他の人間の準備が出来なかったこともあり龍一人でやってきたのだ。


 もちろんこの部屋も龍一人だ。


「誰もいない。人の気配も無い……盗聴の心配も無いだろう」

「分かりました……それでこちらでも情報を収集したんです。その結果……」

「結果?」

「荷車が最後の目撃情報が今龍さんが居るロスタなんですよ」

「……あー」


 ここで初めて龍は何故自分に連絡を取りたかったのか理解できた。


(つまり……調べろと)


「調査員を送ろうにも今回は時間との勝負、その国には転移陣があるんですが今日本から申請しても怪しまれるだけです。ですから今ちょうどその国に居る龍さんが頼みなんです」

「なるほど……やれるだけのことはやってみよう」

「頼みます……因みにですがどうするんですか?」

「ん?今も昔もその国の情報が集まる場所は一つだろ?」



 その後龍は予定こそ無かったが、近くにある町酒場に来ていた。


 酒場には色んな人間が一時の憩いの為に、今日のストレスを癒すために訪れる。


 そしてそういう人間が集まる場所には必ず色んな情報を持った人間も集まるというものだ。


(……さて)


 龍は酒を貰うと開いている席にフードを深くかぶって座る。


(来てみたは良いがどうするかな。昨日の今日だ、こんな国のこんな町酒場にすぐに情報が回るかねえ)


 その時、運がいいのか、それとも悪運が強すぎるのか背後に居た男性の声が聞こえてくる。


「あの噂……本当か?耳長の別嬪とヤレルって」


(ん?)


「ああ、6人ほど国から拉致してきたらしい。来週からでも裏ルートで参加できる」

「でもばれたらまずいんじゃね?」

「主催は国王だ、それに隣の領主さまもいざというときの根回しをしてるらしい。今日も各国の国王や日本のお偉いさんを集めてパーティーだ。それだってプロソスに対してこっちの味方はこれだけ居るっていう意思表示だ」


(利用された……か。帝が参加しなくて逆に良かったかな)


「まあもし告発が起きても、パーティーに参加してるのは各国の主賓だ。招待されたプライドもあるだろうしな、公になったら自国で批判にさらされるだろうし、大きな事件にはしたくないはずだ」

「ていうかなんでお前はそこまで知ってるんだよ」

「ああ、今は交代で休憩だけど別嬪さんたちがいる場所の警護してるんだよ。手は出せないけどな、ある程度の情報は手に入るし、もう少ししたらおこぼれがもらえる契約だ」

「……今更だがこんな事ここで話して良いのか?」

「この国はパーティーが行われるとき以外はほとんど他国の人間は来ないからな。大丈夫だろ?」


(ところがどっこい)


「さ、行くかな。明日も朝から警護だからな……また新しい情報が入ったらお前には話すよ」

「ああ、ありがとう」


 時間にして十数分だが、酒を飲んだ男たちは立ちあがると店を出ていった。


「……」


(しばらくは忙しくなりそうだな)


 龍は数分後に店を出ると宿に直行、盗聴を防ぐために部屋全体に防音魔法をかけると無線を起動し、無線越しから識人会議を招集した。


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