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プロソス国王一家来日編 龍の追憶 2

 識人会議が招集されたのは11時過ぎであったが、事件が事件なのですぐに人が集まった。


 集まったのは主に総理大臣補佐、防衛省補佐、外務省補佐、統合幕僚長、第一空挺団団長だ。


 会議室に集まった面々は机の中央に置かれた龍に繋がっている無線機の周りに集まると龍の報告を聞いたが、すぐに顔が青ざめる。


「いやはや……陛下が行かなくて良かったというか」

「本当ですね」


 天皇陛下がこの件に巻き込まれなかったのを安心する総理補佐と外務省補佐。


 それよりこの段階でまだ情報が足らない林は龍に話しかける。


「それより龍、お前が聞いたその男たちの会話……お前が居ることを知った上での偽情報という可能性は?」

「もしそうだとして拉致ってくればいいと?そんな事をすればさらに事態がややこしくなる。帝が矢面に立つようなことはしないさ。それに時間も無い……なら現状この情報で動くしかないだろうさ。それで?官邸はどうしてる?国連に報告するのか?」

「……いえ、現状日本が表立って行動することは無いでしょう。プロソスは誘拐事件発生直後から日本に対してのみ情報を提供しました。もし国連に報告するにしてもプロソスが自ら報告するまでは静観すると」

「まあ、それが普通でしょうな、因みにプロソスのその後は?」

「国連に対してプロソス国民以外の入国を禁止、すでに入国している者に対して即時出国命令を出しているという通知を送っています。理由に関しては通知してません。因みに表面上はプロソス国民以外ですが、日本は免除していると」

「日本は信頼されているねえ。それで?プロソスはどうするかね」

「恐らく軍隊を派遣……するには十分すぎる理由にはなりますね」

「いえ、それは不可能でしょう」


 言い切ったのは総理補佐だ。


「何故です?」

「もし仮に軍隊を派遣するとして、大義名分は人質の救出になるでしょうが?軍を動かしたことがばれて人質に被害が及べば意味がありません」

「なるほど」


 プロソスとしてはすぐにでも救助のための軍隊を出したいだろうが、それは不可能だ。


その理由を現状セアにおいて最強の軍隊と言っても良い自衛隊を束ねる統合幕僚長である林がそれに付け加えるようにして説明する。


「救出作戦というのは普通の軍事行動とはわけが違うんだ。特に国内での救出任務ならまだ分かるが国外での作戦は基本少数精鋭での隠密作戦でないと意味が無い、アメリカですらそういう任務は海軍のネイビーシールズや海兵隊の特殊作戦群が担うほどだ。プロソスの兵士にそれが出来るかね?しかも今回は急を要する……即応可能で隠密作戦が出来る兵士が居るとは思えん」

「プロソスの軍事力的にはすぐには兵士を動かせない……なら交渉か……官邸はどうするんだろうな」

「静観……もしくはロスタに対して外交ルートを通じて人質解放の交渉……ぐらでしょうか」

「静観はともかく、交渉は無理でしょう。奴らの目的は身代金要求ではない以上交渉するなら人質を手放さるを得ないような状況に追い込まないと……」

「自衛隊を送り込むとういうのは?レンジャー隊員……いや第一空挺なら隠密作戦の訓練を受けてるだろ?」


 これを言ったのは意外にも現場指揮ではなく主に政府との調整をするのが仕事の統合幕僚長の林だった。


 全員が驚愕の視線を送る。


「おやっさん……宣戦布告されたわけでも領土侵犯されたわけでもないんだ。法的に無理だよ」

「いや?確かに自衛隊員は無理だな……だが一時的にでもただの一般人……いや死者になれば話は違う……龍」

「ん?」

「あちらさんはお前の動きに気づいていると思うか?」

「……基本付けられて居れば俺は気づくさ……現状見張りが居る様子も無い」

「そうか……なら汚名を被る気はあるか?」

「どういう意味……ああ、なるほどな、全部俺がやったことにするってことか」

「意味を分かってくれて助かるよ」

「あの……どういう意味でしょう」


 林は自分が考え付いた作戦を話し始めた。


 すると同時に全員の顔が引きつりはじめ、衣笠に至っては大きな溜息をついて両手で顔を覆う。


 無線機の向こうでは龍が笑っている始末だ。


「どうだ?これなら国際問題にもならないだろう?」

「それは!全て上手くいったらですよ!もし何か一つでも失敗したら政権が吹っ飛ぶどころじゃないです!国の信用問題……天皇陛下が矢面になって謝罪をさせられますよ!」

「だから龍が単独でやったことにするんだろう?日本政府として陛下が謝罪するのではなく、あくまで現地に居た陛下直属部下の龍が偶々人身売買の現場に遭遇、少々暴れて救出に成功……これならロスタも周辺諸国……国連でさえも何も言うまい。空挺隊員も何人か借りることにはなるがな」

「龍は良いのか?」

「ん?まあ400年生きてるが、他の周辺諸国よりはプロソスの方が日本との関係は深いと思ってるし、プロソスが日本にもたらした魔法の知識は計り知れない。国連を敵に回そうがプロソスの味方であるべきと思う。そういう点で言えばプロソスと日本の為に俺が犠牲になるのはやぶさかではないさ」


 龍がプロソスに肩入れするのは理由がある。


 このセアにおいて日本以上に歴史が古く、かつ日本と一番親交が深い国は現状プロソスくらいなのだ。


 そして現状、日本国民にとってもはや生活必需品と言っても過言ではない魔法の呪文を伝授したのは他でもないプロソスなのである。


 つまりプロソスのエルフ族がいなければ日本の魔法技術の発展はかなり遅れていたといっても過言ではない。


 そしてそれゆえにプロソスが困っているのならば日本として他国との関係性を犠牲にしてでも出来る限りの手助けをするべきだと龍は考えているのだ。


「……そうか」

「第一空挺はどうだ?今から動ける隊員はいるかい?」

「おやっさん……例え深夜でも休日祝日でも必要とあらば任務を全うできるように訓練するのが自衛隊でしょ?ご命令とあらばすぐにでも」

「そうか……助かる。官邸と外務省はどうだ?」


 総理補佐と外務省補佐は黙ったままだったが、決意をしたのか重い口を開いた。


「総理には伝えます。ですがあくまでこれは龍さんの独断……とういうことでよろしいですね?官邸としてはあくまで表向きは国連を通じて交渉の準備をします……龍さんの行動に関して政府と陛下は何一つ関与していないというていで良いですね?」

「構わんよ」

「分かりました」

「そういえば龍」

「ん?なんだ?」

「お前使ってる銃は?」

「お前からもらった銃を今でも使ってるよ」


 警察も使っているM360Jつまりリボルバーだ。


「これか……使うのは38だな。あちらさんは微妙な口径の判別は出来んだろうからそのままでいこう。攻撃力的には少し物足りない気がするが……この際仕方ないか。衣笠、即応できる空挺隊員を10名ばかり集めてくれ。ただし戦闘服は着せるな?旅人に変装させるんだ。装備は私が揃えさせよう」

「了解です」

「龍、お前はこのまま宿で待機してくれ。追って隊員が迎えに行く、そしたら即時作戦決行だ」

「了解」


 林が立ち上がる。


「諸君、現状プロソスは表立って行動できないだろうし、軍備的にも即応は出来ないだろう。この件を隠密に解決できるのは我々だけだ。プロソスと日本の友好の為に我々が一肌脱ごうでは無いか……さあ!行動開始だ」


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