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プロソス国王一家来日編 龍の追憶 3

「ふう」


 午前4時、龍が合流場所に指定したのは宿ではなくの傍にあった小さな公園だった。


 そもそも龍に睡眠は必要ない。


 国が用意した宿に身元不明の集団が大勢押しかけても不審がられるだけだということで近くの公園を合流場所に選んだのだ。


 龍が椅子に座り煙草を吸っているとフードを深くかぶった男が一人近づいてくる。


「火ありますか?」

「……ほれ」


 男の加えた煙草に杖で火をつける。


 男は一口吸うとそのまま龍の隣に座った。


「ずいぶん早いな、準備は出来たのか?」

「準備の速さと撤収の速さ、そして正確さが売りですので……他の者も近くで待機しています」

「了解……始めるか」


 龍が煙管の灰を捨てると、立ち上がる。


 男もすぐさま煙草をもみ消すと携帯灰皿に入れた。


 龍と男が数分歩き、とある裏路地に差しかかると同じくフードを被った者たちが待機していた。


「さて……詳細な作戦を聞いてないんだが?」

「今回は時間が無かったので本来やる作戦会議のようにはしてません。ですが追加情報から場所とおおよその見取り図の把握が出来ています。なのでぶっつけ本番ではありますが今回龍さんは目立つことを優先にお願いします。また近くには衛生科の隊員が待機しており、作戦開始後速やかに入り口まで走る手はずです」

「了解した」

「一つ確認何ですが」

「なんだ?」

「もし敵に日本人かと問われた場合です。あなたは良いとして我々は?」

「言葉が通じない人みたいに首傾げとけ。それでも突っかかって来るなら気絶ぐらいなら許す」

「了解」

「では作戦を開始する」



 宿から数分歩いた場所に目的の場所はあった。


 誰が見ても不自然であった……ロスタの正規兵が二名、扉の警護についていたのだ。


 龍は裏路地の角から観察する。


「怪しいねえ……何もない所なのに……ロスタの兵が二名……よほど大事な場所だと見て取れる」

「どうします?さすがに発砲は避けた方が良いかと」

「……問題ない。任せな」


 龍はフードを深くかぶると二人のロスタ兵の元に歩いていく。


「……やあ、お二人さん。精が出るねえ」


 声を少し変え、老人のような声で二人に話しかける。


「おい、爺さんこんな時間に何うろついてるんだ?」

「いやあ、年を取ると早めに目が覚めるもんでね、少し散歩してたんだよ」

「はあ……ならとっとと帰るんだな。要も無いのにうろつくと切っちまうぞ?俺たちは許可が出てるもんでね」

「そうか!それは怖い……話は変わるが……君たちは人を切ったことがあるのか?」

「あ?残念ながらねえよ、だがなこれも仕事だ、いざというときは斬るぜ?」

「ほう?だが……人を切るということはすなわち……殺すということだ。時には何の前触れも無くその瞬間が訪れる……」

「あ?爺さん何言って……」


 龍が腰の刀を抜き、一閃振りぬく。


 並んでいたロスタ兵は脱力したようにその場に崩れると二人の首が胴体と別れた。


「君たちは……動かないものを斬る訓練も対人での訓練もしてるだろうが……殺気を振りまきあるいは一切の殺気を出さずに本気で殺しに来る人を斬ったことはあるのかね?……おっと、もう意味のない質問になってしまったか」


 龍はロスタ兵の服で刀の血を拭う。


 隊員が龍に近づこうとするが、龍は制止した。


「……?」

「おい、なんだ今の音」


 扉の小窓が開くと中から男の声がする。


「おお、あんたちょっと見てくれないかい?兵士さんが二人ほど倒れてるんじゃ、何か病気かのう」

「はあ?マジかよ」


 呆れた声で男は扉の鍵を開け、中から出てくる。


 そして首が無い兵士の姿を確認した瞬間、叫び声を上げようとした。


「なっ!まっ!んんん!」


 背後から男の口を塞いだ龍はそのまま刀で男の首を斬りつける。


「がっ!はっ!んんん!」


 男は悲鳴を上げられずに、首から血を噴き出しながら暴れる……がじきに全身が脱力すると白目を向いて絶命した。


 そして改めて隊員たちに来いと合図を出す。


 隊員たちは龍の元へ集まると、即座にただの肉塊となった兵士たちを扉の中へ運んでいく。


「慣れてるわねえ。お見事」

「何年生きてると思ってるんだ……あ、こいつ鍵持ってるな」


 恐らく中の牢屋の鍵なのだろう、漁っていた龍が鍵を取ると隊員に渡す。


「さ、行くぞ」



 中に侵入し、階段を降りていくと曲がり角に突き当たった。


 角から様子を見るが……拉致されたエルフ族の令嬢たちが居るであろう扉が5つあるだけの通路だ。


 しかし時間の関係もあるだろう、見張りはほとんどいない。


「結果的にこの時間だったけど……正解だったわね」

「ああ、見る限り通路には誰もいないか……鍵渡した奴、とりあえず鍵を全部開けろ。そしたら突入だ、エルフ以外は射殺して構わない」

「それと今回の保護目標はエルフのお嬢さんたちだけど。時間が勝負よ、打合せ通りにスタン使いなさい」

「了解」


 鍵を持った隊員が音を立てずに扉の前に近づくと、次々と扉の錠前を開けていく。


 そして二人一組になった隊員が扉の前に待機すると各一人が扉の前に待機、一人がスタングレネードを持って構えた。


 エルフ族は耳が長く普通の人よりは聴覚に優れている。


 だが、今は緊急事態だ。


 多少、一時的にでも聴力を失っても人質の救出を最優先とするためにスタンが準備されたのだ。


 そして龍が合図する。


 するとやはり訓練された自衛隊員だ、全員がほぼ同時に扉を少し開けるとスタングレネードを投げ入れる。


 数秒後……。


 バン!


すべての部屋からほぼ同時に大きな爆発音が轟くと二人組の隊員が突入した。


そして……。


「なんだ!何も見え……ぎゃあああ!」


いくつかの部屋から男の叫び声と共に銃声が轟く。


「各自報告!」

「クリア!」

「クリア!」

「クリア!」

「クリア!」

「クリ……」

「いやああああ!もうやめてえええ!」


 五つ目の部屋から女性の叫び声が聞こえてくる。


 即座に柏木が部屋に入る。


 中には目隠しをされたエルフの少女が手錠をされて壁に貼り付けられている。


 着てきた服は剣か何かで斬られたのだろうずたずたにされており、ところどころ肌が露出していた。


 よく見ると、顔付近が何かで濡れており、悪臭を放っている。


「…………大丈夫!助けに来たんですよ!」

「誰!?誰!?もうやめて」


 暴れるエルフ族の少女を優しく抱きしめる。


 女性特有の匂いと体温を感じたのだろう暴れていた少女は落ち着きを取り戻し、緊張の糸が切れたのだろうゆっくりと眠り始めた。


「やっぱお前居て正解だったわ」

「ありがとうございます」

「もういいぞ?後は車が来るし、保護したエルフ族の傍に居てやれ」

「了解です」


 柏木が少女を隊員に預け部屋を出た瞬間だった。


「おああああああ!」


 どこかに潜んでいたのだろう、右から兵士が現れると剣を腰に構え柏木に突進した。


 だが運が良かったのかタイミングがずれたのか剣は柏木に刺さることなく兵士と柏木が衝突する。


「がっ!」


 柏木はそのまま仰向けに倒れると、兵士が剣を逆手に持ち替え馬乗りになる。


 そのまま剣を突き刺すが、焦ったのか素人だったのか、柏木の顔のすぐ右の地面に刺さる。


「ひっ!」


 だがすぐに剣を構え直す。


 直感的に死を予感した柏木はホルスターから拳銃を抜くと兵士の胸元に照準を合わせるや否や連射し始めた。


 バン!バン!バン!


 だが、至近距離とはいえ、角度が悪かったのかそれとも恐怖で柏木の照準がぶれまくっているのか弾丸は胸の甲冑を貫通せずに弾かれていく。


「ああああああ!」


 しかし気づかない柏木はなおも銃を連射した。


 だがいくら9ミリとはいえただでさえ無理な体勢からの射撃な上ただ連射しているだけだ、リコイルコントロールなどできるはずもない。


 少しずつ銃口が上を向いていく。


 すると一発が兵士の喉を、もう一発が脳天を打ち抜いた。


 同時に銃声が止む。


 弾が無くなったのだ。


 カチ!カチ!カチ!


 顔面に返り血を浴びた柏木はそんなこと気にすることも無くただ無心でホールドオープンした銃のトリガーを引き続けた。


「おい、大丈夫か」

「……はっ、はっ、はっ」


 過呼吸気味になりながら拳銃を握りしめる柏木、そこに隊員が駆け付ける。


 他の隊員の肩を借り立ち上がる柏木、少しくらいが誰が見ても分かるほど顔面は蒼白だ。


 立ち上がってもなお拳銃を握りしめている。


「……しょうがない、人質は確保した。車まで連れてけ」

「了解」


 その様子を見ていた龍は疑問の表情だった。


(どこから来たんだ?今の)


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