ガシャーン!
着地に失敗した龍は滑りながら、通路の行き止まりに衝突、ぶつかった影響で調度品が崩れ龍の体に落ちた。
「……あらら」
「……マジかい」
次々と到着する隊員たち、ぶつかった龍の姿に苦笑いをするもすぐに部屋に突入、国王を中心に扇形に展開する。
「……貴様ら!日本だな?自衛隊が動いていいのか?神法とやらにに違反するのではないか?」
「……?」
5人の隊員は首をかしげて見合う。
「いっつー!慣れないことするもんじゃないな」
頭から少し血を流しながら龍が歩いてくる。
「龍殿!これはどういうことかな?場合によっては国連に報告することになるぞ!」
「……お前こそ何してんの?誘拐は立派な犯罪だぞ?俺は偶々!散歩してたら人身売買の現場にぶち当たってな!隠し通路みたいな場所、通ってきたらここに着いただけだ!こいつらはそこらへんで拾った!」
隊員が銃を構え、少しづつ近づく。
「近寄るなあ!」
国王は近くにあった銃をミアに向ける。
龍にとってはあまり見た事ない銃だった。
「銃?」
「フリントコックですね……単発で装填には時間を要します」
「ほう?……なら交渉だ。俺と王女様を交換しないか?」
「はあ?」
「他の女性陣も皆保護した。つまりお前の持ってるカードは王女様のみ。プロソスの王女様と日本の神報者、人質にするんだったらどっちの方が得かな?」
「そんなの王女に決まってるだろ!」
「本当にそうか?かたやエルフ族の国の王女、こっちは世界最強の国の帝を唯一動かすことが出来る神報者だぞ?長い目で見ても俺を交渉材料にして日本を脅した方が得だと思うんだがなあ、お前の状況的に」
国王がミアと龍を交互に見る、色々考えているんだろう。
王女を慰み者に出来る状況からいかにこの状況を切り抜けるかの状況に変わったのだ。
つまり使えるカードも変化したと言っても良い。
「分かった……だがだ!そいつらは動かすなよ?」
「もちろんだ。お前らも動くなよ?」
「それとだ!お前が持ってる武器も全部捨てろ!そいつらもだ」
龍は隊員に従うように促す。
龍は持っていた刀と拳銃、杖をその場に置くと遠くへ蹴った。
隊員たちも同じように銃を置き、蹴る。
「ふふふ!これで一時的だが日本と交渉できる」
「そりゃあ良かったな」
国王はゆっくりと龍へ近づく。
龍はゆっくり跪き目線で隊員に『まだ動くなと』サインを送った。
銃口が龍に触れるか触れないかと言った距離なった時龍が口を開く。
「因みに聞いていいか?」
「あ?なんだ?」
「昔聞いたことがあるんだが、人質に適さない人間の条件があってな、それが交渉対象に対して失っても何一つ影響が無いもの……そして」
「そして?」
突然、龍が右手で銃を掴み、左手で国王の銃を持つ手の腕を掴んだ。
そして、銃口を口にくわえる。
「なっ!何して!」
「不老不死で死なない者は人質の価値にはならないそうだ」
カチ!……バン!
明け方、眠気を抑えている国王にとって突然のことすぎて思考が回らなかったのだろう。
咄嗟にトリガーにかけていた指に力が入りひいてしまった。
撃たれた弾はそのまま加えた口から侵入し龍の脳天を貫通、後頭部がはじけ飛び、脳みそが床に散らばる。
だが同時に龍は両足を国王の腕に絡みつかせ十字固めの形をとる。
「がっ!き、貴様!」
「確保!」
すぐさま銃を回収した隊員がそれぞれミアを保護し、国王に飛びつき手錠をかける。
「……ふふふははは!お前ら良いのか!龍は死んだぞ!脳みそまき散らせて死んだ!もうお前たちが従うリーダーはもう居ない!」
「……」
神報者という日本にとって最重要人物を打ち取った事に歓喜する国王。
助けに来た龍が殺されたことに呆然となるミア。
だが隊員の反応は国王の望んでいたものでは無かった。
「あーらら。脳みそ飛び散っちゃってまあ」
「フリントロックの銃弾って結構大きいからなあ、その分命中率低いけど至近距離ならこうなりますよね。痛みあるのかな」
「……お前ら良いのか!神報者が死んだんだぞ!」
「……痛みは無いな。その前に意識飛んでるよ」
「……は?」
国王は唖然としとした、今確かに銃弾は龍の脳を打ち抜いたはずだ。
だがたった数分で、何事も無かったかのように立ち上がる姿に言葉も出ない。
「な、な、何で!」
「言ったろ?不死は人質の価値が無いって。そもそも失うと困るから人質として価値あるんだ死なない人間は人質としてなんの価値も無いだろ」
「噂は本当だったんだな……化け物め」
「化け物で構わんさ。日本と帝の為に必要なら化け物にでもなんでもなろう。さて」
龍は保護されたミアに近づく。
「大丈夫かい?ミア」
「なんで?」
「ん?何が?」
「これでは日本の立場が危うくなるだけよ!確かに助けてもらったのは嬉しいけど!」
「おい」
「なによ」
「考えてみろ……状況が長引いたら……」
「長引いたら?なに?あたしがこいつに変な事されるかもって?大丈夫よ!心までは落ちないわ!」
———同人誌の展開ですそれ。
隊員が総ツッコミ入れそうになった。
「違う!」
「じゃあ何よ!」
「お前の親父のメンタルケアを俺がしなくちゃいけないんだぞ!お前の姉さんに彼氏が出来た時呼びだされて何したと思う!?ひたすら酒に付き合わされたんだ!今回だって呼ばれ時な、ああ、あいつのお世話かって思ったほどだぞ!?」
「……なにそれ……あたしの心配はしてなかったってこと!?」
「心配はしたさ!だが今回助けに来たのは日本とプロソスの関係性を思っての行動だからだ。他の国なら知らぬ存ぜぬで政府や国連に任せて俺は何もしない」
「プロソスだから来たの?」
「当たり前だ」
「……ありがと」
———何この付き合いたてのカップルみたいな会話。
ミアの顔が赤く染まる様子を見てこの場に居た隊員が全員心の中で突っ込んだ。
「あのいいですか?そろそろ行かないと……もう外も明るくなってますし、今無線で車が待機してると」
「そうかなら行こう」
「こいつはどうします?」
隊員が国王を指さす。
「口塞いで連れてくぞ。誘拐事件の首謀者だ、審判はあっちで受けてもらう。命があるかまでは知らんが」
「待て!交渉しよう!なんでもする!引き渡しだけは!なんでもするから」
———ああ、このセリフ……こっちが言うのか。
「……そうかなんでもするか……なら黙って付いて来い」
「そういう意味じゃ……んんん!」
布で口を防がれた国王を隊員が担いで一同その場を後にした。