早朝だったからか、それともパーティーの影響からか、宮殿に居たのは最低限の当番の兵士のみだったのだろう。
最上階から入り口まで逃走ルートとして確保された道にはあまり兵士の死体は無かった。
そして入り口に待機していた車に総員が乗り込むとそのまま出発、宮殿を後にした。
またこれだけ宮殿にて銃撃をしていたのにも関わらず、聞こえていなかったのか、それとも眠気と戦っていたのか、最初から士気が下がっていたのか明確では無いが、先頭車両に龍と偽装の為にスーツ姿になった隊員を見た兵士は敬礼をしたのみであった。
「……ふう」
ロスタを脱出した龍はひとまず作戦が完了したことに対して、安堵からか大きな溜息をもらす。
後部座席には先ほどまで救出された喜びからか、ミアが他の要救助者と涙を流しながら抱き合い再開を喜んでいたが、誘拐されてから今まで緊張しっぱなしだたのだろうすぐに皆と肩を寄せ合い眠ってしまう。
「……」
龍はその様子を見ると無線機を起動させる。
繋がっているのは今回の作戦の為に用意した特別回線であり、防衛省に繋がってはいるが相手は今回の為に招集された識人と先民の連合チームだ。
「こちら龍……聞こえるか?」
「ああ、聞こえている。状況は?」
「用件だけ述べる……要救助者6名、全員の救出に成功した」
「……よくやってくれ……」
林がお礼を述べようとするが、背後の声にかき消される。
「やったー!」
「よし!よし!」
恐らく外交問題に発展することを何より恐れていた外務省と総理補佐だろう。
安堵で大きな溜息をもらす者や、泣き出す者もいる。
「このままプロソスへ向かい救助者を引き渡す。その後日本に戻る」
「了解した……プロソスには外務省を通じて知らせておこう。ただ、公式的にはお前たちはその場にいないはずの人間だ。今回ばかりはプロソスの者にも見られるな?」
「了解……通信終了」
二台目の車には作戦に参加した自衛官が今だ覆面を被って座っていた。
車の床には拉致したロスタの国王が縛られており、口には布が巻き付けられておりうめき声こそ出せるが言葉を発することが出来ない状態だった。
だがそんな国王の表情はまだ何とかこの状況から打開するために言葉にならない叫びを上げながら拘束を解こうと体を動かしていた。
また作戦に参加した隊員たちの表情は何処かうずうずして言うように見えた。
恐らく作戦が完了して騒ぎたいのだ。
「……いいすか?」
「駄目よ。まだ任務は終わってないわ。お嬢さんたちを無事にお家に帰して私たちが無事に帰国するまでが任務よ」
「了解です……それと女島二尉」
「なに?」
「さっきから何か気になることでも?」
「……」
女島は国王の顔を見た。
恐らく周囲の隊員の言葉遣いで女島が上官、この中で一番階級が高いと察知したんだろう、自分の処分について話されるのではと聞き耳を立てているのだ。
もしくは交渉するには誰が一番いいのか考えているのだろう。
——まあ仮に聞かれてもこいつの未来は死以外ないだろうし……良いか。
「ずっと考えていたのよ。あたしたちが突入するまで何故手を出さなかったのか」
「パーティーの主催ですから準備で忙しかったのでは?」
「でも今日パーティーは終了した、それでも国王が戻ってきたのは朝方よ?」
「パーティーが盛り上がってここまでかかったのでは?」
「いえ、龍さんが言ってたけど龍さんが帰り始めた時点でほとんどの招待客も一緒に帰ったらしいし、それはあり得ない」
「じゃあ……なんででしょうね」
「さっき王女殿下に聞いたんだけど。たった一人国王に対して指しでの飲み直しを希望したものが居たそうよ」
「誰です」
「メノリオの皇太子」
「ああ」
一人の隊員が上を見上げる。
「あの人は酒豪で有名なんですよ。一度自衛隊を視察に来たとき他国の兵士との情報交換だと言って何人かの空挺隊員と飲んだんです。その際、俺含め出席した隊員が全員潰れるまで飲んだらしいんですが、当の皇太子はピンピンしてたとか」
「それでですかね?」
「本当にそう思う?」
「へ?」
「その飲み会と今回のパーティーは毛色が違うでしょ?その飲み会は外交とは言え親睦を深めることが理由、でも今回のパーティーは外交が主文よ?主催の国王だって翌日からは公務があるはず、だったら朝方まで飲ませるなんて外交としてはあり得ないでしょ」
「確かに……」
一同、何の目的で皇太子が飲ませたのか考えた。
「もしかしたら皇太子は知ってたのかもね」
「どういう意味です?」
「メノリオは日本に次いで諜報機関が優秀だと聞いたわ。もしかしたら日本とほぼ同じ時間に誘拐の情報を掴んでいたのかもね」
「もしそうならなんでメノリオは軍を派遣しなかったんです?」
「龍さんと同じ、情報が不確実だったからよ。それに龍さんと違って護衛もいただろうし好き勝手に街を散策するわけにはいかない……そして反対に一人で来た龍さんは目立たずに情報収集が出来た。龍さんが得た情報をどうやって皇太子が掴んだかは知らないけど、皇太子がとった行動は日本に救出作戦を任せて自分は国王が王女殿下に手を出さないように朝方まで酒を飲ませて時間を稼いだ……これなら辻褄が合うわ」
「ある意味影の功労者っすね」
「そうね……皇太子には感謝しないと……それより」
「はい、それより……」
隊員一同、地面に縛られている男に注目する。
「んー!んー!んー!」
「こいつさっきからマジでうるせーな!」
恐らく皇太子に裏切られたことか、もう自分は助かることが無いと思っているのか先ほどよりも暴れ騒ぎ始めたのだ。
女島が国王の頭を掴む。
そして普段の口調からは想像つかないどすの聞いた声色で。
「おい、静かにしねえとお前の息子ちょん切るぞ!」
「……んー!んー!んー!」
一瞬だけひるむが再度騒ぎ出す。
「……ッチ!車止めて頂戴!」
「え?何するんです?」
「緊急的な外科手術よ」
「……えー、先頭車。聞こえますか?送れ」
先頭車の無線機が鳴る。
「こちら先頭車、送れ」
「数分だけ停車する」
「は?」
運転手は助手席の龍に戸惑った顔を見せる。
龍は無線機の受話器を受け取る。
「何するんだ?」
「さあ?女島二尉が停車を求められたので」
「……分かったとりあえず停車して話を聞こう」
二台の車が停車する。
「見張りを頼む」
「了解」
龍が車を降りると二台目の車に近づく……そして車の後部に来たときだった。
「お前ら……何やって……」
二台目に乗っていた隊員は後部のドアを開けるとそこに国王を仰向けに寝かせ、まさにズボンを脱がそうとしている場面だった。
「……マジで何やってんの?……女島、お前がそっちの色があるとは知ってるがこんなところでおっぱじめるなよ」
「いやーねえ、あたしだって相手を選ぶ権利ぐらいはあるわ?こいつがうるさすぎるから今から外科手術で息子を取るのよ」
「んー!んー!んー!」
国王が必死に龍に命乞いの目線と叫びをあげる。
「……」
(まあ、こいつはどっちみちあっちで死ぬだろうし……いいか)
「到着予定時刻まで時間が無いから手早くな。それと間違っても殺すなよ?」
「もちろんよ」
龍が先頭車に戻る、それと入れ替わるようにして手術を手伝うように言われたのだろう、衛生科の隊員が歩いてくる。
「女島二尉……手術の経験がおありで?」
「ええ、一応医師免許は持ってるわ」
「……なんで空挺に入ったんですか?」
「……自衛隊で真っ先に最前線に行くのは空挺じゃない?最前線でしか救えない命もある……でも知識や技術が無いと助けられる命も救えないじゃない?それにあたし聖霊魔導士だからね」
「……姐さん、超尊敬するっす!」
「恋してもいいのよ?……さて、始めましょうか」
「手袋とアルコール使います?」
「あら……ありがとう」
女島が国王の下着を脱がすと、手袋をはめる。
「あらー、かわいらしいジュニアじゃない!最後に男で申し訳ないけど最後に一発抜いて上げましょうか?」
女島が国王の息子を見ながら舌なめずりをする。
「んー!んー!んー!」
この悲鳴は本能からの拒絶を現しているのだろう、今まで一番声量が多い。
「あらそんなに拒絶しなくていいじゃない?残念、じゃあ始めましょうか」
患部にアルコールを塗り、メスを手に取ると外科手術を始めた。
「んんんんんんーーーーー!」
国王渾身の悲鳴が森にこだました。