12月、冬休みに突入するとステアでは雪が降ることは無いので雪が降る場所へクリスマスと年越し旅行に言ったアリスたち(旅館は霞家のご厚意により宿泊代は無料)。
霞姉妹と香織はスキー、アリスはスノーボード(何故か体が覚えていた)を楽しんだ。
クリスマスにはプレゼント交換会を実施したり、正月にはテレビで紅白(真面目にアリスは旧日本で紅白を見た記憶が無い)を見たりし、転生して初めての年越しを楽しんだ。
そして一月二月、この時期になるとステアはかなり殺伐とする。
ステアでは進級試験が存在し、この試験に受からなければ進級は不可になり(追試は何回か受けられる)退学しなければならない。
花組の生徒は脳筋(サチ)とただの馬鹿(アリス)を除いて全員合格した。
サチとアリスはもちろんというべきか一回目の試験で脱落、一回目の追試にてギリギリ合格し、見事二年生になる権利を掴んだ。
そして……3月。
旧日本でもこの第二日本でも3月に行われる学校行事と言えば……そう、卒業式だ。
3年生が卒業する……ということはつまり小林や順、峰が卒業するということだ。
アリスはもちろん卒業式は参加したが毎回恒例で内容をほぼ覚えていなかった(ばれないように寝てた)。
「せんぱーい!」
1年や2年の花組生徒が各々お世話になった先輩に抱き着いたり握手しながらお別れの挨拶をしている中、ズトューパ部の面々も小林や順にお別れを言っていた。
「新井……次期主将よろしくな」
「はい……先輩みたいに上手くいかないかもしれませんが」
「気にすんな、何か相談事あったら連絡すりゃあいいさ。まあ仕事柄あんまり連絡取れないかもしれないけどな」
次期主将に選ばれたのは花組二年生を纏めていて、順が入院した時も他の部員が退部する中自分は退部しなかった新井だった。
「順卒業おめでとう」
順を優しく抱きしめる制服姿の男性……見るからに自衛官だ。
「父さん」
「お前を誇りに思う。あいつも向こうで誇らしく思うだろうな」
「そうだと嬉しいかな」
「柏木順君だね」
そこに現れた男性……アリスは面識があったが、他の面々……特に柏木父と順はその姿を見るとすぐに敬礼した。
「これは衣笠将補!」
「順君……卒業おめでとう。自衛隊入隊後はそのまま空挺の試験を受けると聞いてね、どのような顔ブリをしてるのか気になったんだ」
「ありがとうござます」
「君のような隊員は自衛隊の宝だ。このまま自己鍛錬を怠らずにこの国の……いや国民の盾となり矛となってくれ」
「はい」
「それと……」
衣笠はアリスの方に顔を向ける。
「……ん?なんです?」
「……はあ……アリス君聞いたぞ進級試験落ちたと」
「ああ!でも追試でぎりぎり受かりましたので問題ないっす!」
「そういう問題では……まあ龍のことだからな問題視しないかもしれんが」
「結果的に卒業できりゃあ良いんすよ!出来れば!」
「まあいい、私はもう少し用があるから君は先輩にお別れを言って来ると言い」
「あー、はい」
(つってもなあ……何か悲しさないんだよねえ……いつでも会えると思うとさ。こちとら強制的に泣かせた相手がいるかもしれん側だから死ぬ別れよりただの卒業の別れだとさあ……何も感じんのよねえ。確かに寮ではもう会えないかもしれないけどさ……連絡すりゃあいいだけだし……はあ携帯無いから気軽に連絡しにくいなあ。……ていうかさっきからずーと気になってたんだけどなあ)
「アリスちゃーん!」
「うおっ小林先輩!」
小林が後ろから抱き着く。だが、ギューッとした抱きしめでは無く優しく包み込むかのような抱きしめ方だ。
(あー、これは……確定だな)
「悲しいよ!ついにお別れだよう!」
「そうですねでも連絡すればいつでも会えるんじゃ?」
「ま、そうなんだけどね!」
「先輩ずっと気なっていること聞いても良いですか?」
「ん?なに?まさか順君との進捗とか?いやだなー、まだ早いよー」
「何か月目ですか?」
アリスは小林の腹部を見ながら尋ねる。
「……へ?」
「だから何か月目ですか?」
アリスの真顔による質問に最初ぽかんとしていた小林だが、次第に質問の意味が分かると目が泳ぎ始める。
「え?あ、えーと……うーん……どういう意味かな?」
「一から説明しましょうか?つい数か月前からです……まあ本当はもっと前からですけど小林先輩のお腹が大きくなってきました。それでもまあ最初は念願の順先輩との交際が叶ったことによる幸せ太りかなと思ったんですけど数か月前からそれが疑問に変わりました。先輩」
「えーと何?」
「太った女性がそんなにお腹を優しくさすったりします?もし太っただけなら私に思いっきり抱き着くはずです。でも先輩はお腹を労わってかやさしく抱き着きました。まるでお腹の中に新しい命が居るみたいに……どうです?」
「……えーと……」
もう誰が見ても動揺している。
そんな様子を偶々通りかかった事情を知らない峰が話しかける。
「おーい、アリス何喋ってんだ?まさか小林が太った件か?気にしてやんな!本人も多少は気にしてるんだからこれから痩せれば……」
「ごめんなさい!」
突如謝罪をする小林。
事情を何一つ知らない峰からすればただただ疑問が頭を支配するだけだ。
「え、ごめん……何がごめんなさいなの?」
「えーと実は……妊娠……してるの」
「……えーと……ごめん……もう一回言って?」
「妊娠してるの!順君との子供!」
(やっと白状した……)
「おめで……」
「えええええええええ!」
峰が絶叫を上げる。
周囲の人間がアリス達に視線を向けた。
「おい!貴様ら!何を騒いでいる!」
そこにやってきたのは柏木だった。
「喜びの声や泣き叫びならまだ分かるが今のは完全な驚きの声だ!何があった」
「こ、こ、こ、小林が」
「小林がどうしたんだ?」
「じゅ、順の子供妊娠したって」
「……は?……マジで?」
小林は静かに頷く。
「……順!貴様―――!」
柏木が捕まえに行ったのはお相手の順だった。