順は衣笠や柏木父と談笑していたがそこに柏木が現れる。
「おい順!」
「ん?何さねえさ……ちょっと!」
有無を言わさず順を連れていく。
突然のことに衣笠と柏木父は困惑した表情になり後を追った。
そして小林やアリスの元へ連れていかれると頭をロックされる、
「いった!何すんだ姉さん!お祝いにしちゃあ痛すぎんだけど!」
「すまんが祝福するよりも大事なことが出来た。どいうことか説明してもらおうか!」
「なんのことだよ!」
「恭子何をしているんだ!」
「柏木……君、弟とは言え君の生徒だろう?何のつもりだ」
確かに二人から見れば順を無理やり連れて行ったようにしか見えない。
「こいつ付き合っているとは言え、同級生の女の子を妊娠させたんです。しかも在学中に!」
「……は?」
「……おい順、それは本当か?」
「……夏美?」
「えへへ……ばれちゃった」
先ほどまで柏木に詰め寄っていた柏木父と柏木が今度は順に詰め寄る。
「おい!順、説明しろ!」
「ただし説明によっては今後に響くぞ?場合によってはしばらく勘当するかもしれん」
「分かったよ。親父……8月ズトューパの大会が終わって引退した後……」
「後?」
「夏美とデートしたんだ」
「それで?そのまま連れ込んだのか?」
「いや……そこから先の記憶がないんだ」
「……ん?どういう意味だ?」
「多分立ち寄った喫茶店のコーヒーに薬仕込まれてたんだろうな……気づいたらホテルのベッドにマッパになって全て終わってた……はあ、俺の初体験……眠ってる最中に終わった」
順は何処か遠くを見つめながら話している。
問い詰めていた二人も予想外の展開に驚きを隠せない。
自然と視線が小林の方へ向く。
「えーと……小林さん、順の話は本当かい?」
「はい!最初の一発既成事実残せば後は流れで何とかなるだろうと!」
「待て、順は引退した後自衛隊にインターンに行ったはずだ」
「はい!なので数回で当たったのは良かったです!」
小林は元気にグッドを突き出した。
なお二人の顔は引きつっている。
そして衣笠に至っては小林の行動力に感心していた。
「最近の女子の行動力は凄いな」
「いや……小林先輩だけです」
「小林君……お久しぶりだね。君の両親の事も祖母の事も聞いているよ、だが順はこれから自衛官として一定期間寮に入る。行く当てはあるか」
「いえ、残念ながらありません」
「そうか……ならしばらくは柏木家に居るといい。自衛官は出身や結婚の有無に関わらず入隊したら数か月は寮生活だ。それまで我が家に居なさい。うちは代々自衛官の家系だからね自衛官の妻としての心構えやらを学べるはずだ」
「はい!ありがとうございます!」
今まで一番いい声での感謝だった。
そして柏木父は順の傍に行く。
「順」
「うん?何?」
「いや……まあ……今回お前は何一つ悪くない……というかあの子の行動力は凄まじいな」
「ああ、自慢の彼女で妻だよ」
この後、ズトューパ部員は記念写真を撮るとそのまま卒業式後の定番の一つカラオケに直行した。
アリスはこの時この世界の知ってる曲ほとんど無いと焦っていたが識人たちが輸入した曲がカラオケに入っており、それを歌えるものがほとんどいなかったためアリスはそれで無双した
しかし小林のお腹の子供のこともあり早々に解散した。
アリスと香織、サチとコウがステアに帰る途中。
「いいなあ!私も将来、あんな優しい彼氏作って子供作って家庭作りたいよ」
言ったのはサチだどうやら仲睦まじい二人の様子を見て感化されたのだろう。
「それにはまず相手見つけんとでしょ?」
「ま、そうなんだけどね。アリスは?」
「私もアリスが気になる」
「私も」
二人がアリスを見つめる。この日本の法律的にも同性婚は今の所不可能である故、また二人ともアリスを他人が引くレベルで好きなのだ。もし相手がいるなら知っておきたいのである。
「あたしー?うーん……今の所……ていうか師匠見るに神報者クソ忙しそうだから相手見つけるとかそんな余裕ないって」
「でも龍さんて過去結婚してたって」
「結構前だよ?300年くらい前?今と違ってまだ忙しくなかったんじゃない?」
「ああ、300年前かー、なら違うか。300年前がどんなんか知らないけど」
「……」
「ん?コウ?どした?」」
急に立ち止まり下を向いたコウを心配そうにアリスが尋ねる。
「……っグス、……っグス」
コウは静かに涙を流していた。
「え?泣いてる?どうした?」
「小林……先輩。あたしたちが急に月組から花組なったのに事情も聴かずに真っ先に受け入れてくれて……部活にも入れてくれて……うれじかった!」
「ああ、そうだね」
アリスが優しくコウの頭を撫でる。
(そういえば先輩で初めて会ったのが小林先輩だったな)
「そういえば、名家の事件の時も真っ先に助けてくれたの小林先輩と順先輩だったしなあ」
「そうだな……もう会えなくなると思うとちょっと辛いな」
「連絡すりゃあいいじゃん」
「無理だって」
「なんで?」
「電話するってことはこれから小林先輩が暮らす柏木家に電話かけなきゃいけないんだよ?」
「……ん?……あ」
そうアリスはここで改めて気づいた。
この世界にはまだ携帯電話が無い。
つまり掛けるということは固定電話に掛けると同意なのだ。
ということは今はまだ昭和の携帯があまり普及してなかった時代の彼氏がドキドキしながら電話をかけ彼女は電話がかかってきた瞬間、誰よりも先に受話器を取り通話するというあれをしている時代なのだ。
しかも相手は柏木家代々自衛隊の家系だ、おいそれと後輩が理由も無く電話を掛けるわけにはいかない(まあ柏木家なら許すとは思うが)。
「やっぱ携帯欲しいーーー!」
「携帯ってなんだっけ?離れたところでも通話できるって奴?」
「正確には、電話線が無くても通話できる機械」
「いいよな!旧日本、そんな便利なものがあるんだから」
「まあ旧日本も昔は同じ葛藤を抱えた人居たし……それに」
「それに?」
(卓なら……まだ淡い希望だけど!卓なら携帯電話作れるんじゃね?……とは思ってるのよねコンピューター完成させたし……まああれは最後のピースだったプログラム制作で関わっただけだが)
「いや何でもない」
「とりあえず帰ろうぜ?寮帰ってから二次会じゃあ!」
「オーケー!……つーか箒で帰れば良くね?」
「そうだな!よし行くぞ!」
(で、で、でででん。かーん……あ!結局何か月か聞くの忘れたあ!)
四人は箒に跨ると寮への帰路についたのだった。