卒業式の数日後、春休みに入ったアリスは……首相官邸の会議室にいた。
「……またここかい」
卒業式終了後にすぐ龍から電話があり、何もわからずに車に乗り、何もわからずに会議室に通されたのだ。
しかもこの会議室は以前卓が完成させたコンピューターの試作品のお披露目が行われた場所である。
因みに、コンピューターお披露目から約一年経ったが、まだ民間にパソコンは発表されてはいないが、次々と改良型が開発されているらしく、もう少しで民間が使えるパソコンが生まれるらしい。
(ここってコンピューターがお披露目された場所よな?……なら卓がまたなんか作ったか?)
「おや、アリス君早いね」
「おっはー、アリスちゃん」
そこに衣笠と三穂が入室してくる。
「あ、おはようございます」
「なんでアリス君だけ早いんだ?……あ、そういうことか」
一度盛大な寝坊をやらかした事を龍は根に持っていたらしく、未だ信頼してないのだろう、アリスの送迎だけは早めにされたのだ。
「ま、そういうことっすね。それで?なんで呼ばれたのか分かります?何も聞いてないので」
「残念ながら私たちも何も聞いてない」
「お前ら来たのか」
そこに龍が現れ、続々と識人や現職大臣、総理、そしていつか見た電機会社の社長らが会議室に入って来る。だが今回の場に雪はいなかった。
「まったく……土曜日とはいえ通常国会中に呼び出すなんて」
「いえ、むしろ重大な報告なら国会が無い日がよろしいのでは?」
「その重大な報告なら事前に知らせるのが筋……おや」
入室してきた西宮がアリスに気づく、そして近づくとじっと見つめていた。
「……えーと……何でしょう」
「……さすが龍さんが目を付けた弟子だ。やることはやるようだな。期待しているよ」
「……はあ……どうも?」
そういうと西宮は自分の席に向かって行く。
「何じゃあれ」
「多分だけど、名家会議の北条家の一件じゃない?」
「多分そうだろうな、政府の人間にも龍を説得したのは弟子だと噂が流れたからな」
「わーお」
「気を付けろよアリス。与党野党関わらず国の人間に目を付けられると厄介だ。神報者は本来国とは相対しない存在だからな。でもまあ、神報者をやれば目を付けれらるのは当然だがな」
「……うす」
「皆さまおそろいですね……では始めます」
最後に皆が入って来た扉とは違う扉から入って来た
卓の秘書である橘だ、相変わらず美人でスタイルが良い。
入室したすべての人間が席に座ると(前回同様に龍は話が分からないのでアリスの後ろに座った)、橘が机の端に立つ。
だがアリスは思った。
集められた人間は前回のコンピューターお披露目の時とほぼ同じだが、先民側、一人メンバーに追加されたのだろうアリスの知らない人が居た。
(……あの人誰だ?前回居なかったよな?)
「三穂さん……多分あの人前回居なかったですよね?誰でしょう?」
「ああ、あの人?第二日本電信電話株式会社社長の島田恒って人」
「電信電話?……ああ、旧日本のNTTだっけ」
(てか電話会社の社長……なんで呼ばれた?今だって固定電話あるよな?パソコンのお披露目……昔のパソコンって電話線でネット接続したって聞いたことがあるけど……ついにパソコンお披露目か?)
「それでは皆様、お集まりいただきありがとうござます。本日は卓様が新たな技術を開発しましたので、そのお披露目となります」
「おいおい、その橘君だったかな?そんなすぐに新しいものが作れるのかい?我が国の科学者も技術開発に関しては努力しているだろう」
「西宮様、確かにこの国の科学者も努力を尽くしていることは事実でございます。ですが何も知らない状態で新しいものを生み出すより旧日本で使われている……すでに研究されている知識を伴っていらっしゃった卓様の方がアドバンテージはありますので」
「なるほどな……今日は何を見せてくれるんだ?」
「はい……入れてください」
橘がそういうと扉から布が被されたテーブルが運ばれてきた。
そしてスーツ姿の男性が布を被ったまま識人と先民が座っているテーブルに置く。
だが置かれたものは以前にお披露目されたコンピューターよりずっと小さい。
「何だねこれは?」
「識人の皆さま、この世界に来て不便と思うことは?」
「は?……いや、今の所、無いと思うが」
「衣笠さんはこの世界に慣れすぎて不便が不便だと思わなくなっちゃったんだよ」
「まあそれも否定は出来ないな。昭和なら今が普通だし」
「アリス様、三穂様、何かありますか?」
「スマホ!」
一番に声を上げたのはアリスだった。
そもそも去年に転生してきて一番絶望したのはスマホすらパソコンすらないことだったからだ。
「そうだねー、スマホ……までは行かないけど携帯とは欲しいよねー」
「そのなんだ?スマホやら携帯やらとは」
「固定電話が無くてもその場で任意の相手に連絡が出来る……好きに持ち運びができる固定電話と思っていただければ」
「ほー」
「そうですね、卓様もそれが一番無い事に驚きを隠せない様子でした。なので自分が欲しいという意味合いも含めて……この度開発に成功いたしました」
「え?てことは!つまりこれって!」
「ええ、ではお披露目です。この度開発に成功した……第二日本初の携帯電話です」
アリスが興奮のあまり身を乗り出し、橘が布を取り去る。
が、お披露目されたものはアリスの想像とはまた違った代物だった。